執筆者 | 向山 敏彦(ジョージタウン大学)/中国 奏人(東京大学)/楡井 誠(ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | イノベーション、知識創造とマクロ経済 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
イノベーションプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「イノベーション、知識創造とマクロ経済」プロジェクト
本論文では、大不況期(2007年から2009年)の日本経済を分析した。日本は米国住宅市場への金融投資が少なかったにもかかわらず、大不況期にGDPは大幅に減少した。この間、日本からの輸出は大幅な減少が観察された。本論文は、多部門・多地域の開放経済モデルを構築し、輸出ショックの各地域・各部門への伝播を分析した。モデルにおいて各地域は代表的消費者を持ち、各地域と各部門は産業連関と消費者の最終需要を通じて結びついている。各地域の輸出ショックは貿易統計を用いて測定した。
まず、モデルを用いて、輸出需要の減少がどのように国全体に伝播したかを定量的に評価した。図1に見られるように、中部・中国・東北・沖縄など多くの地域において、輸出ショックの伝播が地域内GDP減少のかなりの部分を説明できることが分かった。一方、四国や近畿など、輸出需要伝播がそれほど多くを説明しない地域もあり、地域・産業連関の異質性がショック伝播に与える影響が浮き彫りとなった。伝播のメカニズムを検証するため、GDPの変化を地域内、地域間、部門内、部門間で分解する反実仮想分析を行った。
方法論的には本研究は、従来型の産業連関分析を改良しようとするものである。本論文の手法の特徴は、各産業部門財の価格や賃金をモデル内で決定する(動学)一般均衡理論を採用したことである。それにより、賃金・価格の変化による副次的影響に加え、各地域の家計の所得が変化することによって、最終消費需要の変化による影響も分析に包摂することができた。反実仮想分析による分解では、価格の変化や所得の変化による間接的影響は、輸出需要減少の産業連関伝播による直接的影響と同じくらい重要であることが示唆された。