ノンテクニカルサマリー

通勤と居住地の選択における在日外国人と日本人の比較分析

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「人手不足社会における外国人雇用と技術革新に関する課題の実証研究」プロジェクト

はじめに

人口減少と少子高齢化に直面する日本において、将来的な労働力不足が懸念されている。近年、外国人労働者の受け入れの議論が進んでいる一方で、十分なエビデンスがなく、外国人との共生を目指す政策立案が困難な状況も多く残されている。本研究では、特に労働市場における外国人の状況をより深く理解するため、労働経済学と都市経済学の研究に基づき、在日外国人と日本人の通勤と居住地選択の決定要因の比較分析を行った。

分析手法

本研究では、通勤距離および居住地選択に関する誘導形モデルを導出し、回帰分析を行った。回帰分析から得られるパラメータ推定値について、日本人と外国人を比較することで、通勤行動や居住地選択にどのような違いが存在するのかを議論する。

外国人との共生社会の実現に向けた政策を考えるうえで、来日初期の外国人と長期的に居住する外国人を区別することは重要である。そこで、在日外国人については、来日後5年未満と5年以上の個人を区別した分析を行うことで、外国人が日本の経済・社会に同化するにつれ、どのように通勤行動や居住地選択が変化するのかを明らかにしようとした。

さらに日本人と外国人の比較において、男女間格差についても理解を深める。日本の労働市場における男女間格差は世界的にみて大きいと言われているが、日本の労働市場における経済・社会要因に起因するのか、日本人固有の男女役割分担意識によるものなのかを区別することが難しい。そこで、日本の経済・社会に同化している外国人と比較することで、日本人にも外国人にも共通する日本の労働市場の要因なのか、もしくは個人の男女役割分担意識が与える要因なのかを区別できるように試みた。

データ

統計法に基づき「国勢調査」(総務省)の調査票情報の二次的利用申請を行い、日本人と外国人に関するデータセットを構築した。外国人は国勢調査に含まれる全データ、日本人は全体の10%無作為抽出データを利用した。国勢調査では国籍を調査項目に含めており、外国人の定義は国籍に基づく。

分析対象となる属性は、一般世帯における15–64歳の男女である。なお在学中である日本人と外国人、調査日から5年以内に海外から帰国した日本人、在留資格「技能実習」の可能性のある外国人労働者は分析対象から除外した。

通勤距離および居住地人口密度の計算は、e-Stat(総務省統計局)で公開されている国勢調査の小地域データより計算した。通勤距離は市区町村間の中心部(ここでは、町丁・大字単位の最も人口の多い区域)を基準とした直線距離(km)として計算した。また居住地人口密度は、居住先の町丁・大字ポリゴンの重心の緯度・経度を基準に半径10km以内に含まれる人口と居住地面積(km²)より計算をした。

分析結果

通勤の実証分析より明らかになった点を以下にまとめる。

  • 外国人は日本に長期間住むことで、日本人と同様の通勤や居住地選択を示す傾向があり、徐々に経済・社会に同化していく様子が見られる。
  • 一般的に高学歴ほどより長距離通勤をしていることが観測されるが、来日後5年未満の外国人については、その関係がより小さく、居住年数が増えるにつれ、高学歴ほどより長距離を通勤する傾向が強くなる。
  • 通勤距離における男女間格差は、来日5年未満の外国人では小さい一方で、居住年数が増えるにつれ、男女間格差が拡大している。ただし、日本人の男女間格差と比較すると、その差は半分弱となるため、日本人の男女間格差がより大きいことがわかる。
  • 来日5年未満の外国人の場合は、パートと正社員の通勤距離の平均的な差は統計的に有意ではあるものの実質的には大きな差ではない。ただし在日外国人の居住年数が増えるにつれパートと正社員の通勤距離の差は広がり、日本人の通勤行動と同様の傾向に近づく。
  • 個人属性、家庭環境、雇用形態、職種、産業、地域の要因をコントロールした後でも、説明できない要因として日本人と外国人の間で通勤距離の差が生じている。ただし、英国、米国籍の外国人は居住年数が増えると日本人との差が消えていく傾向にある。ブラジル、ペルー国籍については居住年数が5年以上であっても日本人よりも通勤距離が短いままで維持されている。

居住地選択の実証分析より明らかになった点を以下にまとめる。

  • 国籍別に多様な居住地が選択されているものの、ブラジルとペルー国籍を除き、ほとんどの国籍の外国人に共通する結果として、日本に長期的に住むにつれ、より大規模の都市へ居住する傾向がある。
  • 英国、米国籍の外国人は、来日5年未満から日本人よりも平均的に大規模な都市に居住する傾向がある。ブラジル、ペルー国籍の外国人は、来日5年未満から日本人よりも平均的に小規模の都市に居住する傾向がある。中国、フィリピン、インドネシア国籍の外国人は、来日5年未満では日本人よりも平均的に小規模な都市に居住する傾向にあるが、来日5年以上になるとより大規模な都市に居住している(表1)。
  • 在日5年未満の外国人では、独身者と比較して、既婚者や小中高の子ども世帯がより大規模な都市に居住する傾向にある。一方で、在日5年以上の外国人は、独身者と比較して、既婚者や小中高の子ども世帯がより小規模な都市に居住しており、居住期間が増えると日本人と同様の居住地選択に近づいている。
  • 日本人は、他の要因をコントロールすると、高学歴層、低学歴層、中間学歴層の順で人口密度の高い地域を居住地として選択する傾向にあり、概ね、外国人も似たような傾向が見られる。ただし、在日5年未満の高学歴の外国人は、低学歴の外国人よりも人口密度の高い都市を居住地として選択しているものの、在日5年以上の高学歴の外国人には、そのような傾向はみられない。
  • 個人属性、家庭環境、雇用形態、職種、産業、地域の要因をコントロールした後も、日本人と外国人の間で説明できない居住地選択の差が生じており、この差は居住期間が増えても依然として残っている。

政策的含意

本研究結果は、以下の3点について、外国人との共生に関するエビデンスを提供する。

  1. 外国人の通勤行動や居住地選択について、国籍に応じて異なる面はあるものの、日本での居住年数が経つにつれ日本人の行動に近づく傾向が見られた(同化)。日本の労働市場への適応として、賃金や生計費に応じて、最適な通勤行動や居住地選択に関する意思決定を行っていると思われる。ただし、個人属性、家庭環境、雇用形態、職種、産業、地域の要因をコントロールした後も、日本人と外国人の間で説明できない差も一部で残っており、引き続き詳細な分析は必要とされる。
  2. 外国人は日本人と同じ経済・社会に居住しているものの、日本人と比較して、外国人の通勤距離における男女間格差は小さくなっている。同じ日本に居住しているにもかかわらず外国人の男女間格差の方が小さくなる理由として、日本人と外国人の間の男女役割分担の意識が異なることが示唆される。今後の日本の男女間格差を縮小するためには、経済・社会環境の改善や制度を充実するだけでは不十分であり、日本人の男女役割分担意識までを変えていくことが必要である。
  3. 人手不足対策として、特に人口減少が進む地方へ外国人労働力を呼び込むことを期待した政策議論も多いが、本研究結果からそのような政策を維持することの難しさが示唆される。来日初期においては人口規模の小さな都市への居住も見られるが、日本人と同様に、居住年数を経るにつれ、より人口規模の大きな都市への居住地選択を行っていることが示唆される。地方の人手不足対策としては、外国人労働者に過度に期待しすぎず、労働節約型技術や自動化技術の導入も同時に進めていくことが必要である。
表1 居住地の人口密度について日本人と比較した結果
表1 居住地の人口密度について日本人と比較した結果
注:論文のFigure 4における国籍別ダミー変数の結果をもとに作成。学歴、年齢、雇用形態、職種、業種、家族構成、居住地の都道府県等をコントロールしたもので、“+”は日本人の平均的な居住地より人口密度が高い地域に居住、“-”は日本人の平均的な居住地より人口密度が低い地域に居住を表す。