ノンテクニカルサマリー

研究論文と特許情報のテキストマイニングによる科学とイノベーションの関係性の測定

執筆者 元橋 一之(ファカルティフェロー)/小柴 等(NISTEP)/池内 健太(上席研究員(政策エコノミスト))
研究プロジェクト イノベーションエコシステムの生成プロセスに関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「イノベーションエコシステムの生成プロセスに関する研究」プロジェクト

本稿においては、 1990年以降に出版された日本の著者による学術論文(約170万件)と日本特許庁に対する出願特許(約1230万件)のタイトル・要旨のテキストデータを用いて、科学(論文)と技術(特許)の相互連関関係について分析を行った。具体的には、自然言語処理における分散表現技術を用いて、各文書の内容を数値化して、それぞれの特許(論文)において内容的に近い論文(特許)の近傍200文書に対する割合を科学と技術の連関度とした。

その結果、特許についての近傍論文数は期間を通して上昇していることが分かった。その背景としては、2001年の国立試験研究所、2004年の国立大学の法人化によって、これらの公的研究機関における科学的知見の商業化(サイエンススベースイノベーション)が影響していると考えられる。一方で、論文の近傍特許数は減少していることが分かった。例えばサイエンスベースのイノベーションが進むバイオテクノロジーの分野では、特許の近傍論文数でみたサイエンスリンケージが大きい。しかし、その一方でバイオテクノロジー関係の論文を見ると平均的な近傍特許数は他の分野と比べても大きくない。つまり、サイエンスベースのイノベーションが起きている。

下図は技術分野別の技術内容の変化(技術のダイナミクス)と近傍論文数でみたサイエンスリンケージ度の関係をみたものである。それぞれ1990年代から2010年代の変化を見ているが、医薬品(Pharmaceuticals)、有機化学(Organic Chemistry)、バイオテクノロジー(Biotechnology)といたサイエンスリンケージが高い技術を中心に両者に正の関係が見られ、科学の広がりが技術ダイナミクスに影響を与えていると考えられる。一方で、デジタル通信(Digital Communication)や家具・ゲーム(Furniture, Game)といった分野は技術的な変化が大きいが、それはサイエンスの進展によってもたらされたものではなく、通信の高速化やゲーム多様性といった市場変化への対応によるものである。

図:技術のダイナミクスとサイエンスリンケージの関係
図:技術のダイナミクスとサイエンスリンケージの関係

また、論文の近傍特許については全体的な傾向としては減少しているが、ヘルスケア分野など一部の学術領域においては上昇しており、科学→技術というサイエンスベースで技術の進展が見られるのではなく、両者がより共進的に変化している分野も存在する。従って、産学連携政策のツールとしては、TLOによる大学知財のライセンシング振興などのサイエンスベースを前提とするものや、産学共同研究や大学発ベンチャー等の産学の相互関係を重視したものが存在するが、その有効性は分野によっても異なり、対象とすべき科学・技術領域において使い分けることが効果的であると言える。