ノンテクニカルサマリー

世襲政治に対する日本人有権者の認識と評価

執筆者 三輪 洋文(学習院大学)/粕谷 祐子(慶応義塾大学)/尾野 嘉邦(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 先端技術と民主主義:技術の進展と人間社会の共生を目指して
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「先端技術と民主主義:技術の進展と人間社会の共生を目指して」プロジェクト

日本は民主主義国家の中で、タイ、フィリピン、アイスランドに次いで4番目に世襲政治家が多い国であると言われており、多くの世襲政治家が国政の場で活躍している。こうした世襲政治家がどのように誕生し、受け継がれているかについて、質的な分析を行った研究は多数あるものの、日本の世襲政治を有権者がどのように見ているかに焦点を当てた量的研究はほとんど存在していない。本研究では、それを解明するために、実験も含む全国規模のサーベイを実施し、その結果を実証的に分析した。

まず、有権者は世襲政治家に対してどのようなイメージを抱いているのだろうか。世襲政治家の性格的特徴や得意とする政策領域について、国勢調査に基づく人口構成比に合わせてオンラインサーベイ会社の登録パネルから抽出された全国3000人余りの日本人有権者を対象に、その印象を質問した結果が図1と図2である。

図1. 世襲政治家に対するステレオタイプ(性格的特徴)
図1. 世襲政治家に対するステレオタイプ(性格的特徴)
図2. 世襲政治家に対するステレオタイプ(政策領域)
図2. 世襲政治家に対するステレオタイプ(政策領域)

上記の結果からは、世襲政治家に対してポジティブな側面とネガティブな側面の両方が有権者の間で抱かれていることが伺える。有権者は、非世襲政治家に比べて世襲政治家の方が高学歴・裕福で、政治経験が豊富であり、政財界に幅広い人的ネットワークを持ち、選挙区に利益をもたらしてくれると考える傾向にある。その一方で、世襲政治家の方が、誠実さ、能力、信頼感、決断力といった性格特性のスコアが低く、それらの面ではネガティブに捉えられている。政策領域については、世襲政治家の方が外交や安全保障、産業政策や公共事業といった領域で、非世襲政治家よりも優れていると捉えられている傾向が見られた。

こうした世襲政治家が、選挙において有権者らにどう評価さられるのかを検証するために、続いてコンジョイント実験を行った。この実験では、架空の政治家のプロフィールを有権者に提示し、衆議院議員としてどの程度望ましいかを8段階で評価してもらった。プロフィールの内容は、性別、年齢、学歴、前職、出身地(地元かどうか)、政治経験年数、所属政党、そして親の政治経験の8つの要素からなり、それぞれ無作為に作成した。この実験を、国勢調査に基づく人口構成比に合わせてオンラインサーベイ会社の登録パネルから抽出された全国1126人の日本人有権者を対象に実施した結果を簡単にまとめて示したのが、図3である。上記のプロフィールのうち、親の政治経験がそれぞれ元大臣、元国会議員、元地方政治家であった場合に、親の政治経験が何もなかった場合と比べて、8段階の好感度評価にどう影響したのかを示したものである。いずれも、親に何らかの政治経験があると、衆議院議員としての望ましさのスコアが下がる傾向が示され、特に親が元大臣であった場合に、ネガティブな評価が下される傾向が強かった。

図3. 親の政治経験の有無が政治家に対する評価に与える影響
図3. 親の政治経験の有無が政治家に対する評価に与える影響

以上の結果をまとめると、有権者は世襲政治家に対してネガティブな印象だけではなく、ポジティブな印象も抱いていることが見られたものの、それが必ずしも世襲政治家に対する好感度にはつながっておらず、むしろ世襲であることは、その政治家に対する好感度を下げる結果につながっていることが明らかになった。これらの結果は、なぜ有権者が実際の選挙で世襲政治家に投票し続けるのか、という不可解な問題を我々に提起するものである。世襲である方が候補者として指名されやすいからかもしれない。あるいは、政治資金を先代から有利に受け継ぐことが出来るからかもしれない。また、候補者が世襲であるかどうかを多くの有権者が実際に知らないからなのかもしれない。この謎を解明するためには、今後もさらなる仮説の検証が必要である。