ノンテクニカルサマリー

過剰債務による生産性の長期低迷

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

国際マクロプロジェクト (第三期:2011~2015年度)
「財政再建などを中心としたマクロ経済政策に関する研究」プロジェクト

ラインハートとロゴフが「国家は破綻する」で論じたように、金融危機の後には経済成長が低迷する時期が数年ないしは10年程度続く傾向がみられる。1930年代の世界恐慌の時期を含め、10年単位で経済低迷が続く現象は世界各地で頻繁に観察されていて、2000年代の初頭に一般均衡モデルを使った「大恐慌」の研究が数多く実施された。これらの研究によると、経済の長期低迷の主な要因は、全要素生産性(TFP)の低下であるとされる。しかしTFPが金融危機などを契機に低下する理由を包括的に説明する理論モデルはまだ知られていない。また、Business Cycle Accountingの手法で長期経済低迷を分析すると、労働投入の歪みを表すLabor Wedgeが悪化する傾向があることも知られるようになったが、このことを理論的に説明することも課題である。

本論文は、企業の過剰債務が生産性の低下やLabor wedgeの悪化を引き起こすという仮説を理論化するものである。資産バブルの発生と崩壊によって、企業が過剰債務を背負った状況を考察する。企業は生産をするために運転資本を調達する必要があるが、過剰債務を負った企業は十分な運転資本を調達することができなくなり、結果的に観測されるTFPが悪化する。さらに、運転資本の借り入れが困難になると賃金支払いが十分にできなくなり、雇用をへらさざるを得なくなる。これがLabor wedgeの悪化をもたらす。過剰債務が、運転資本の借り入れを困難化させるという仮説は、金融危機後の長期低迷を説明する理論として有望である。

過剰債務が企業の運転資本借り入れを困難化させる原因は、過剰債務の削減に貸し手(銀行)がコミットする制度的な枠組みがないことである。政策的なインプリケーションとして、信頼できる債務削減の枠組みを政府が構築することが、経済の長期低迷を避ける重要な方策であると分かる。特に、借り手企業の過剰債務の負担を、明確に(法的に疑問の余地無く)削減できる手続きを整備することは重要であり、倒産法制やADRによる債務削減方法などの優劣が、金融危機後に経済低迷が長引くか否かを決める重要な要素だと考えられる。

グラフ