企業再生 競争力のある経営者養成を

細川 昌彦
RIETIコンサルティングフェロー

いま企業経営者の国際競争力が問われている。日本経済を引っ張ってきた「現場の力」から、環境の変化に素早く対応する戦略的な「経営者の力」へ。それが再生の鍵だという問題意識から、企業も取り組みを始めた。次代の経営者養成を目指す「企業内大学」の設立だ。これを真に機能させるための視点を考えたい。

まず、経営者自らが人材の開発に直接かつ継続的に取り組むことである。

ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ前会長兼最高経営責任者(CEO)は経営者養成プログラムを自身の直轄とし、年間20回近くも自分で講義をしていたという。参加者に「もしあなたが明日からGEのCEOになったら、最初の30日で何をするか」などの課題を与え、一緒に討議する。最初と最後の挨拶でお茶を濁す多くの日本企業の社長とは大違いである。

GE、IBMなどでは、将来幹部になる可能性の高い者を「ハイポテンシャル」として若いうちから選び計画的に育成していく。この「早期選抜制」も、人事部門だけでなく、トップ自身が参画する全社的な経営委員会で運営している。

日本企業はこれまで、選ばれない者モラル低下を警戒して、早期選抜に躊躇してきた。「エリート育成」という、日本的風土とは相いれない課題への挑戦に日本企業は直面している。最近、早期選抜制度の導入をうたう日本企業も徐々にではあるがでてきた。しかし忘れてはいけないのは、これは意識の変革であり、それだけに経営者自らが求める経営者像をこれまでになく明確に打ち出すことが必要になってくる。

次に自前主義からの脱却である。同質社会の甘えの中で鍛えても、国際舞台で通用する人材は育たない。グローバルな事業展開や企業文化の異なる企業同士の合併、連携は、今日では珍しくない。そこでは「多様性」の中でどうマネジメントするかが問われる。人種、職種、業種など参加者の「多様性」を重視している外部機関の活用を考えてみる価値がある。

欧米ビジネススクールのエグゼクティブコースは、実務経験を20年も積んで勝ち残った企業戦士の集まりである。参加者は自分の会社をグローバルな視点から相対化し、多様性の中での経営を体得していく。同時にそれはグローバルな人脈を形成する機会でもある。筆者が参加したハーバード大のAMP(高等経営プログラム)は欧米企業も貴重なネットワークの場として活用している。

企業内大学という仕組みで自社の価値観や企業文化を継承させることと併せ、ベストミックスを模索することが大切である。

さらに人材は座学だけでは育成できない。経営者は仕事を通じて自ら育つ。必要なのは神戸大学の金井壽宏教授の言う「一皮むける」経験である。抜擢した若手幹部候補を修羅場に放り込み、覚悟を植え付けるのである。ローソンの社長人事に見られるように、子会社人事を見直し、経営経験を積む実践の場として活用するのも有効だ。カンパニー制や分社化の動きも若手に経営経験を提供する好機としたい。教育は実践を伴って初めて効果を発揮する。

最近の経営者養成の動きを形だけで終わらせてはならない。そのためには以上のような人材開発戦略を担う経営責任者が必要になってこよう。従来型の人事部発想では対応できない。

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2003年5月26日 朝日新聞「私の視点」に掲載

2003年6月13日掲載

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