| 開催日 | 2026年2月12日 |
|---|---|
| スピーカー | 西本 敬一(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 事務総長補佐) |
| スピーカー | 西村 宣浩(2025大阪・関西万博マスターライセンスオフィス 代表業務執行者) |
| コメンテータ | 奥田 修司(経済産業省商務情報政策局 商務・サービスグループ 博覧会推進室長) |
| モデレータ | 堺井 啓公(RIETI国際・広報ディレクター) |
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| 開催案内/講演概要 | 2025年大阪・関西万博は、開幕前の逆風を乗り越え、2902万人の来場者数を記録した。本セミナーでは、2025年日本国際博覧会協会の西本敬一事務総長補佐を迎え、万博の何が人々を魅了したのか、山積する課題をどう乗り越えてきたのか、万博がもたらすレガシーは何なのかという観点で、四半世紀にわたり万博に携わってきた知見を基に万博を振り返った。また、2025大阪・関西万博マスターライセンスオフィスの西村宣浩代表業務執行者からは、ロゴマークや公式キャラクターのミャクミャクなど万博の知的財産(IP)の活用について、当初の戦略立案から運用開始後の認知向上、さらには拡大期に至るまでの各プロセスを解説していただいた。 |
議事録
万博成功のための3つの必要条件をクリア
西本:
大阪・関西万博が閉幕して4カ月がたちました。本日は万博を振り返り、そのレガシーについても触れたく思います。
当協会の石毛事務総長は、万博がイベントとして成功するための必要条件として、「大きな事故を起こさないこと」「赤字を出さないこと」「できるだけ多くの方に来て頂くこと」の3点を準備段階から挙げていました。
できるだけ多くの方に来て頂くことについては、最終的な入場者数が2902万人、チケットの販売枚数が2225万枚に達しました。また、運営収支も約320億~370億円の黒字見込みと赤字を出さない点についてもクリアしました。
大きな事故を起こさないことについても概ね達成しましたが、8月13日に会場で大混乱が生じてしまいました。停電によって地下鉄が運行を停止したため、来場者1万人が会場内で夜を明かしたのです。翌朝、地下鉄が運転を再開して、開場も30分遅れで済みましたが、この事態で協会内の安全意識はより一層高まりました。
以上から、万博成功の3つの必要条件は概ねクリアできたと考えています。
万博の8つの魅力
大阪・関西万博がなぜこれほど多くの人々を惹きつけたかといえば、以下8つの魅力が大きかったと考えています。
1つ目は「大屋根リング」です。当初は344億円の日傘とも揶揄(やゆ)されましたが、リングがなければ、昨年の猛暑は到底乗り切れなかったでしょう。人々はリングの内側に世界のパビリオンが集まる様を見て、「世界は多様でありながら、ひとつ」ということを実感したと思います。
2つ目は「世界のパビリオン」です。その象徴が、各国が自ら設計・建築した独立のパビリオンです。いずれもその国のお国柄が反映されたデザインで人々を魅了しました。もう1つ特徴的だったのは、過去の万博と比べて自然素材が多く使われた点です。
3つ目は「本物の展示の数々」です。万博の展示は、ややもすれば映像一辺倒になりがちですが、今回の万博では実物展示や実演が多く充実していました。例えばハンガリー館では、歌い手によるライブでの独唱が毎日40回以上行われた他、ヨルダン館では本物の砂漠の砂をパビリオン内に敷き詰めて、裸足で体験できる展示が人気を博しました。
4つ目は「対話と交流」です。その象徴がコモンズ館という5つの集合館で、全て回ると94カ国を知ることができました。これまでの万博では地域別の集合館が多かったところ、今回は敢えて各国をランダムに配置したことで、知らない国に出会うワクワク感が醸成されたと思います。
5つ目は、この万博のテーマである「いのち」に関わる取り組みです。博覧会協会では8つのシグネチャーパビリオンを出展しました。8人のプロデューサーがそれぞれ「いのち」に真正面から取り組み、8つの切り口で「いのち」の多様性を示したことが多くの話題を集めました。民間企業や団体のパビリオンでも、いのちにフォーカスした様々な展示が行われました。
6つ目は「ライブイベント」です。ほぼ毎日行われたナショナルデーでは一般開放も行い、歌や踊りなど様々な国の文化に触れることができました。後半は立ち見が出るほどの大人気プログラムとなりました。
7つ目は「デジタル万博」です。その代表例が万博史上初めて導入した来場予約システムです。人工島の夢洲には不可欠のシステムで、予約状況を注視しながらゲートの安全管理に努めました。その結果、終盤1カ月間は上限ぎりぎりまで来場者を入れることができました。来場予約システムが無ければ、大変なことになっていたと思います。また、お客さまへのアンケートを電子的に収集し、約120万人の生の声をAI(人工知能)で分析して、毎日の改善活動につなげました。
8つ目は「グルメと買い物」です。世界中のグルメを1カ所で体験できるのも万博の大きな魅力の一つです。ミャクミャクなどのグッズ販売も好調で、閉幕後もその人気は一向に衰えません。運営収支を考える上でも、物販飲食とライセンスビジネスは極めて大事な要素です。
万博が遺(のこ)したソフトレガシー
今後は、会場跡地を更地にして大阪市に返還することになりますが、過去の博覧会を見ても、万博のハードレガシーを残すことはなかなか難しいのが実態です。一方で、1970年万博のことを今でも語り継ぐ人がいるように、人々の記憶は無形のソフトレガシーとして生き続けます。今回の大阪・関西万博でも、「世界」「いのち」「未来」という3つの分野でソフトレガシーの種が生まれたと考えています。
「世界」に関しては、万博によって日本の国際的信用が向上したこと、世界は多様でありながら、ひとつであると体感できたこと、世界と共に創る経験ができたことが挙げられます。各国代表から成る運営委員会においても、当初は主催者と各国間での考え方の違いが目立ち、相互理解に時間を要しましたが、コミュニケーションを重ねるごとに理解と協力が進みました。世界中が1つのゴールに向かう経験は、他では得がたい貴重な経験です。
「いのち」に関しては、日本が世界に向けて「いのち」を万博のテーマとして掲げ、世界と共に考える姿勢を鮮明にしたことが大変意義深かったと思います。来場者が世界中の多様な「いのち」の解釈に触れ、リアルの力を実感すると共にセレンディピティ(偶然の出会い)を体感しました。
「未来」に関しては、史上初の全面キャッシュレス決済の導入を始めとして、様々な未来社会の実験が行われ、実に多くの方々が参加しました。これら実験を通じて実験的思考が養われ、子供や若者を含めた万博経験人材の今後の飛躍が大いに期待されます。
これらソフトレガシーの種が多くの人々の記憶に刻まれ、人類の「より良い明日」につながれば、それこそが万博の成果であると考えます。こうしたレガシーを自国の武器として活用する上でも、万博先進国「日本」として、これまで培った知見や人材をしっかりと蓄積し、今後の国力向上と世界への貢献に活かしていく視点が重要だと思います。
イベントライセンシングの要諦
西村:
私どもマスターライセンスオフィス(MLO)は、4社による共同事業体です。博覧会協会からIPの管理全般を委託されており、ロイヤルティー収入は協会と一定の料率で分配する形を取っています。
博覧会協会の収益にはチケット販売収益、ライセンス収益、協賛収益の3つがあり、これらは密接に連動しています。例えばチケットを過度に配布すると、チケットが売れなくなるだけでなく、協賛企業としても協賛特典としてのチケット活用のメリットが感じられません。また、IPの無償許諾や使用用途を拡大しすぎるとIPの乱用を招き、価値が低下し、その結果ライセンスのロイヤルティー収益も下がり、かつ、一部のIP利用を協賛特典として活用出来る協賛企業からもクレームが寄せられます。
したがって、IPを育成して価値を高め、有償でもIPを活用したいと思ってもらうことが求められます。認知拡大と価値を上げることはバランスが難しいところですが、これがわれわれの知見の1つだと思っています。
イベントライセンシングは、IPの無償開放で焦って稼ぐのではなく、徹底したIP管理と事前の投資によって価値を高めることが大事だとわれわれは考え、三位一体戦略を展開することにしました。
三位一体戦略によるライセンスビジネス
収益の最大化には、先行投資(販促)と製造戦略、販売戦略が三位一体となった戦略が重要です。これがなければ先行投資も広告宣伝も行われませんし、われわれも将来的な収益がないので新たな投資活動ができず、ECサイトなどの会場外販売もできないため、IP商品の機運醸成もはかどりません。
そこでわれわれは先行投資として、ミャクミャクの3Dデータ開発やストーリーの制作、多彩なグラフィックの開発などを行い、さらにはデジタルコンテンツの制作やメディアへの露出の強化、SNSの積極活用にも取り組みました。
ミャクミャクの着ぐるみも万博の非常に重要なブランドです。過去のイベントでは、着ぐるみの管理が不徹底だったためにマスコットの価値を下げる事例も見られたため、われわれは非常に細かい基準を設けて一元管理を徹底しました。
こうした先行投資をしながら実際の商品の製造・販売に結び付けていったのですが、中でもオリジナルマーチャンダイズ(OMD)の商品群を先行開発することで話題性を生み出していきました。例えばカウントダウン企画や、ブランドやアートとのコラボなどでアプローチし、その後で一般のライセンス商品を展開していったわけです。
ブランドマネジメントの観点では、公平公正性を担保する管理体制の構築や、偽造品対策として証紙による管理や海外団体との連携、税関への差止申立制度の活用などを講じてきました。
このように、製造・販売・販促の三位一体で、時系列に沿っていろいろな取り組みを行った結果、IPの価値を上げ、機運醸成と商品化に寄与できたと思っています。
コメント
奥田:
万博が成功だったかは、10年後、20年後に振り返ってみて何が残っているのかが重要だと思いますし、そのためにさまざまな取り組みを継続していくことが大切だと思っています。
万博はコンテンツが非常に面白く、テーマパークと違って現実社会と結び付いて、自分の未来につながっているという感覚になれたことは非常に良かったと思いますし、それがわれわれが残すべきものの根源だと思います。
その中で今回の万博が過去の万博と異なるのは、この万博自体が共創の場だったという点です。いろいろな人が万博を盛り上げようとし、自分たちで創ってきたのは非常に良かったと思いますし、それをうまく使って、何十年後かにあの万博をやってよかったと思えるような取り組みをこれからも進めたいと思っています。
ミャクミャクについては、過度な露出はブランド価値を損なう可能性もあるため、適切なバランスを見極めながら進めたことが、人気の拡大にもつながったと思います。もちろん広く愛されたこと自体が最大の要因ですが、裏側ではさまざまな工夫や議論があったことを今回共有いただき、その点も含めて示唆に富むお話だったのではないかと思います。
Q&A
Q:
今回の万博は必要条件の観点からは大成功だったと思いますが、十分条件についてはどうだったでしょうか。国や経済界が投入した膨大なリソースを考えると真の成功といえるか、総合的なインパクトを冷静に検証する必要があると思います。
西本:
主催者が自ら成功したと申し上げる立場にはない中で、主催者としては万博を成功に導くための必要条件を満たすことに全力を注ぎました。多くのご指摘と共に称賛の声も頂いたことから、ある程度は十分条件も満たす可能性はあると思いますが、最終的に万博が成功したかどうかは人々がどう考えるかだと思います。
一方で反省点もありました。特に予約制度に関しては、会場の入場予約とパビリオンの入館予約の2つがあり、前者は我々の予約システムである程度コントロールできた一方、後者は各パビリオンの判断に委ねられたため、予約システムを使わないパビリオンでは、長い待ち列が発生したところもありました。パビリオン予約制度をより使ってもらうための工夫が必要だったとの反省点があります。
Q:
動線管理のプロを入れるべき場所が多かったのではないでしょうか。
西本:
ご指摘の点はあると思います。特に、鉄道で直接アクセスできる東ゲートは人気が高く、終盤には長い列ができて、人流にも影響を与えました。事前に動線管理のプロの意見を聞いたり、コンピューターによるシミュレーションも随分行いましたが、現場では想定外の事態が頻繁に起きたことから、事前シミュレーションは行いつつも、常に目の前の改善を図るために粘り強く交渉・調整に努めたつもりです。ご指摘は真摯(しんし)に受け止めたく思います。
Q:
ミャクミャクは今後もライセンスビジネスとして活用継続を検討されているのでしょうか。今後もIPとして生かしていくことはあり得るのでしょうか。
西村:
われわれMLOと協会で今後の延長についてもいろいろ話をしています。今のところライセンス契約は26年3月末まで延長されており、26年3月末プラス6カ月延長使用することも可能ですが、現時点では未定です。
Q:
ミャクミャクのデザインについて、コラボ商品では別の色を使うなどしてとても魅力的だと思いますが、デザイナーとの関係でこうしたカスタマイズも許容されていたのでしょうか。
西村:
もともとIP自体は協会の持ち物ですが、協会と連携し、タイミングを見計らってIPの活用を開放していこうという話をしていました。しかし、原型が知られていない初期段階で様々な形や色(黒色だったり白色だったり)のミャクミャク展開をすると、本来のミャクミャクの形や色は何だったかという話になるので、当初はオリジナルの形や色で展開し、ある程度認知が広まったら、商品化においていろいろなバリエーションを戦略的に増やしていく形を取りました。
この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。