止まる地価高騰、試される都市の真価

開催日 2025年10月31日
スピーカー 森 知也(RIETIファカルティフェロー / 京都大学経済研究所教授 / 東京大学空間情報科学研究センター客員教授)
コメンテータ 山岸 圭輔(国土交通省 国土政策局 計画官)
モデレータ 堺井 啓公(RIETI国際・広報ディレクター)
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開催案内/講演概要

2025年9月に発表された基準地価は都心部を中心に地価高騰を示す形となった。その主要因は金融緩和、円安、海外資本の流入、インバウンド需要にあるが、今後の地価動向を左右するのは不可逆な人口減少である。東京も例外ではなく、交通・通信の利便性が高まる中、超高層化してまで都市に集積するメリットは薄れつつある。むしろ自然な交流が生まれやすい、緩やかな集積を志向する都市こそが魅力を持つだろう。地価高騰に変化が見え始める中、都市の真価が試されている。本セミナーでは京都大学経済研究所の森知也教授(RIETIファカルティフェロー)を迎え、地価の趨勢が変わりつつある中で問われる都市の真価について話を伺った。

議事録

地価高騰の報道を理解する上で注意すべき点

9月に2025年の全国の基準地価が発表され、メディアでは一斉に継続的な地価高騰が報じられました。地価高騰の報道を理解する上で注意すべき点は、まず現在は、地価に決定的な影響を与える構造変化として人口減少の加速局面にあるということです。そして、基準地価や路線価は鑑定評価に基づく地価であり、私たちが現在経験している急速な人口減少の影響はこの鑑定の範疇を超えているので、人口の動向を見通すためには先端的な経済学の知識が必要になります。

さらに鑑定評価は現在の価格動向ではなく、約半年前の価格動向を反映します。けれども、現在は急速な人口減少に直面しているので、最新の取引価格の動向に注目すべきでしょう。また現在は不動産価値が短期的に上昇しているので、投機性の高いマンションと、実需を反映した戸建ての売買価格は分けて観察すべきであり、本来の不動産価値はむしろ戸建ての売買価格に反映されると考えられます。

東京圏と大阪圏の家族向けマンションの売買価格は、2020年から2023年ごろまで全地域で急速に上がっていますが、2023年以降は上昇が鈍化しています。しかし直近1年では東京23区や大阪市は再び急速に上昇し、他の地域は比較的緩やかに上昇しているところが多く、マンション価格は今後も地価とともに上がっていく印象を受けます。

一方、東京圏と大阪圏の戸建ての売買価格も同様に2020年から2023年にかけて急激に上がっていますが、2023年以降は傾向が異なり、東京23区は直近1年でものすごく上がりましたが、その他の地域は基本的に上げ止まっています。このように、最新の価格動向に注目して、かつ戸建ての価格までを見ると随分違った景色が見えてきます。

日本が直面する急速な人口減少

国立社会保障・人口問題研究所が2023年に発表した日本の人口の将来推計では、出生率や死亡率の設定によって、楽観的な高位推計、悲観的な低位推計、そして中位推計というシナリオを提示しています。中位推計(出生率中位・死亡率中位)では2020年時点の出生率1.33、低位推計(出生率低位・死亡率高位)では1.13が設定されていますが、2024年の出生率は1.15まで下がっており、すでに低位推計の水準なのです。ですから、低位推計すら今や楽観的といわざるを得ない状況です。

低位推計では、50年後の2070年には人口が6割程度まで減って8000万人を切り、2100年には5000万人を切ります。しかし、楽観的な推計でもこの程度なので、実際はもっと減る可能性が高いです。

実際、2024年から2025年の1年間で、日本に住む日本人は90万人減っており、このままでは150年後には日本に住む日本人がいなくなるペースで日本は縮小しているのです。

人口の地理的分布に影響を与える変化

人口の地理的分布は地価を左右する非常に重要な視点であり、大きく人口減少と輸送・通信技術の進歩によって影響を受けます。

輸送・通信技術の進歩は、大都市では輸送・通信費用を減少させますが、地方間では物流・通信費用を減少させるものの、人流費用を増加させると考えられます。地方間や地方・東京間はマス輸送(新幹線や飛行機)であり、需要のマスが必要ですが、人口が減っていくので、例えば新幹線の運行頻度は減ることはあっても増えることはないでしょう。要するに、今まで便利だった手段がどんどん便利でなくなっていくのです。

人口減少はどのような影響を与えるかというと、大都市への集中が起こります。総人口が減ると、都市は比例的に縮小するわけではありません。そもそも日本人の8割以上が都市に集積して暮らしていますが、集まることにメリットがあるからそうしているわけで、ある段階まで縮小が進めば、集まるメリットがなくなってしまいます。そうすると、大都市に向かって集中が起こり、小さい都市がなくなっていくのです。

次に、輸送・通信費用の減少は都市間の人口分布にどんな影響を与えるかというと、こちらも大都市への集中が起こります。小都市は市場規模が小さいが故に需要が小さいというデメリットはありますが、競争が緩やかというメリットもあります。ですから、競争が激しい東京から地方に逸脱し、緩やかな競争のところに移るインセンティブが企業にはあるのですが、輸送・通信費用が減少して交通・通信が良くなれば企業は広範囲に供給できるようになります。これは良いことでもあるのですが、競争相手も増え、競争が緩やかという小都市のメリットはなくなります。

そうすると、小都市に立地していた企業は市場から退出したり、大都市に移転し、人口も大都市に吸い取られます。これをストロー効果といいます。こうして輸送・通信費用が減ることによって大都市に集中が起こるのです。さらに人口減少が加わると、先ほどのロジックで地方間のアクセスが悪くなります。すると、対面で簡単にコミュニケーションが取れる東京に立地して、そこから全国に輸送するようになります。対面コミュニケーションの必要のないやりとりは通信を使って行うようになり、東京一極集中がより激しくなるでしょう。

次に、輸送・通信費用の減少で都市内部の人口分布はどう変化するかというと、都心の人口密度が下がって郊外に流れ、人口分布が平坦になります。

都心は多くの人が集まるのでコミュニケーション費用が少なく、通勤費用も抑えられます。一方で地代が高いのがデメリットです。しかし交通・通信アクセスが良くなると、コミュニケーション費用や通勤費用が安いというメリットは小さくなります。例えば通信アクセスの向上でリモートワークがしやすくなると、郊外で広い家を借りたり買ったりする動機が生まれるでしょう。企業も同じで、対面による取引の必要性が下がれば都心のメリットは小さくなり、地代の安い郊外へ流れます。

都市を通して地域をとらえる

私は以前から、地域経済の動向を見通すために人口集積体としての都市に注目しています。国勢調査の地域メッシュ統計を使い、人口密度が1m2あたり1000人以上かつ総人口が1万人以上の、連続した1kmメッシュの束を都市と定義すると、2020年時点で全国431個の集積が見つかりました。

人口集積体としての都市に注目して分かるのは、1点目に人口の8割が都市に住み、そのシェアはどんどん上がっているということです。100年後には9割に達するでしょう。

2点目に、人口と地理的配置に明確な秩序が表れます。これを使うことで過去の変化を理解できますし、将来を見通すためのよりどころが生まれます。いろいろな変化のパターンにある種の秩序が保たれていれば、その秩序が成り立つ範囲で変化を見ればいいのです。

3点目に、過去に起こった変化と経済理論が非常によく整合するようになります。経済現象は繰り返しデータが少なく、機械学習で予測することはできません。そうした状況でも秩序と理論とデータを組み合わせることで鋭く将来を見通せるようになります。

こうしたデータから、地域経済においてはまず個々の都市の人口は減っていきます。東京も例外なく減っていくでしょう。それから、各地方で大都市への人口集中が起こり、全国的には東京一極集中が進みます。そして、生き残っていく都市の内部では人口分布が平たくなります。

つまり、人口が減って交通が良くなると、地方から大都市に向かって人口が集中し、大都市は人口が増える傾向にあるのですが、大都市の内部の人口分布は平坦化するので、都心は人口密度がさらに低くなるでしょう。

集約・縮小に向けてのソフトランディングを

にもかかわらず、とりわけ大都市の都心は非常に地価高騰しています。その1つの大きなファクターとして、今は官民こぞって高層化を伴う都心再開発をしていると思うのですが、人口減少下において都心を高層化することは合理性に欠けていると思います。

その理由としてまず、近い将来土地が余るのになぜ縦に積むのかという疑問があります。高層集積は人の往来や自然な交流が生まれにくく、集積の経済が十分に発揮されません。それから、住居を高く積むほど1戸あたりの面積が小さくなる傾向にあり、少子化や人口減少を加速させます。また、これから人口が減っていくと空き室が老朽化したまま残り、それを維持・処分するコストは次世代が負担しなければなりません。そして、高く積めば積むほど災害に対して脆弱になります。

今まさに都市の真価が問われており、現在の政策が50年後、100年後に都市の明暗を分けると考えられます。ポイントは3つあって、1点目に高層集積ではなく低層集積を志向すべきだと思います。これから交通と通信がどんどん良くなっていくと、今までよりも密に集積する必要がなくなります。緩やかに集積しつつも、自然な交流が生まれるようなゆとりある居住空間にすることで、地域コミュニティー再生への期待が持てます。

2点目に、災害に対して頑健な都市に変えていくことです。今までは人口の増加局面で危ない場所に人が多く住んでいました。今後は人口減少が進み、安全な地域を選んで住むことが原理的には可能になるわけで、それを明確に志向していくことが重要だと思います。

3点目に、交通網の延伸・拡張から集約・高度化を基本路線とすることです。特に鉄道のような固定的なインフラは人口減少で1人あたりのコストがどんどん大きくなるので、どの路線・区間が必要かというトリアージを明示的に行う必要があります。さらに集約の過程で自動運転の導入も視野に入れたネットワークの構造を模索することが重要になるでしょう。

高層化を伴う都心再開発を早い段階で方向転換したのは神戸市が好例で、勇気のある決断だったと思います。行政が考えなければならないのは、今ある地域を維持することではなく、集約・縮小に向けてソフトランディングを模索することだと思います。

コメント

山岸:
東京都区部のマンション価格は2010年代後半から徐々に上がり、現在は高止まりの状況にあります。その要因として建設コストの高騰もありますが、需要の面で共働き世帯の増加もあると思うのです。共働き子育て世帯は、世帯年収が1000万円を超える世帯がどんどん増えており、住宅を選ぶポイントとして通勤時間を考慮する人の割合が高いため、マンションの需要はそれなりにあると考えられます。そのあたりについて先生はどう思われますか。

森:
共働き世帯の増加は都心の地価高騰に効いていると思います。私が持っているデータでは、2020年から2023年ぐらいまではかなり急激に上昇していて、その間に共働き世帯が一気に増えたのだとしたら、一部はそういうふうに説明できるでしょう。しかし、共働きのシェアはそれで固定化されて、以後は人口減少とともに減っていくので、そこから鈍化していくと考えると、整合した動きなのではないかと思いました。

Q&A

Q:
地価を決める要因には、人口以外に経済成長もあると思いますが、経済成長のファクターについてはどのように考えればいいのでしょうか。

森:
そもそも人口が減ると土地が余るので、経済成長をしようがしまいが地価は当然下がります。そのため、仮に経済成長をしたとしても地価が上がっていくとは考えにくいと思います。

Q:
通信アクセスの向上が郊外化につながるロジックがいまひとつふに落ちなかったので、詳しくお聞かせください。

森:
今はまだ東京は人口が増えているので混雑はあまり変わらないと感じるかもしれませんが、リモートワークの増加によって都心に通わなくなった人は確実に増えているはずで、都心の人口増加局面は早晩終わると思います。

Q:
人口減少に伴い経済成長も伸び悩む可能性のある日本に、今後も投資していくメリットはあるのでしょうか。

森:
官民こぞって都心再開発をすると、皆さん何かあるのではないかと期待を抱くと思うのです。その期待が外れるとバブルになってしまうということを今は懸念しています。

総括すると、高層ではなく低層集積というインセンティブを働かせるためには、人口減少が起こったら何が起こるのかというところから、都市の分野だけでなくいろいろな方面で、実際に理論とデータに基づいて試算してみることが必要だと思うのです。それを一つ一つ整理していくと、何をすべきかが分かってくると思います。そうしたインセンティブは、やはり知識がないと生まれてこないと思うので、それを造成することを始めなければならないでしょう。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。