変わる霞が関 ~中央省庁が経験者(中途)採用を本格化~

開催日 2023年2月9日
スピーカー 川本 裕子(人事院 総裁)
スピーカー 藤木 俊光(経済産業省 大臣官房 官房長)
スピーカー 佐藤 一絵(農林水産省 農村振興局 農村政策部長)
モデレータ 中舘 尚人(RIETIコンサルティングフェロー / 経済産業省 資源エネルギー庁 電力・ガス事業部 電力産業・市場室 課長補佐 / 内閣官房 ワクチン接種推進担当 参事官補佐)
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開催案内/講演概要

霞が関の中央省庁では、行政課題の高度化・複雑化に伴い、経験者(中途)採用を増やす動きが広がっている。本セミナーでは、霞が関のソトから霞が関のナカに来たメンバーによる「ソトナカプロジェクト」のメンバーである経済産業省の中舘尚人氏が、プロジェクトの提言内容などを解説し、経験者採用第一号として農林水産省に入省した佐藤一絵農村政策部長が自身の経験を語った。さらに、人事院の川本裕子総裁、経済産業省の藤木俊光官房長が、それぞれの組織における経験者採用の取り組みを紹介し、続くパネルディスカッションでは各氏が経験者採用の重要性と今後の展望について意見を交わした。

議事録

ソトナカプロジェクトとは

中舘:
本セミナーの趣旨は、経験者採用の本格化による霞が関のポジティブな変化を発信することにあります。私は、4年間の民間企業での経験を経て経済産業省に2017年に入省したのですが、霞が関に転職して感じるのは働く魅力、とてもエキサイティングな仕事だということです。働き方も、私が採用されてからの6年で大幅に改善されていますが、この霞が関の変化をけん引しているエンジンの1つが経験者採用の本格化だと思っています。

「ソトナカプロジェクト」とは、民間企業、すなわち霞が関の「ソト」で経験を積み、その後公務を志して霞が関の「ナカ」の人となったメンバーで立ち上げた有志のプロジェクトです。詳しくはソトナカプロジェクトのnoteで資料を公開していますので、ぜひご覧ください。

われわれのミッションは、「経験者採用をきっかけに、多様な人材が新しい社会を創り出す霞が関へ」です。行政課題が複雑化・高度化していく中で、さまざまな視点を持つ多様な人材と協業し、新しい価値を生み出していくことが霞が関にも求められています。

しかし、霞が関での経験者採用はまだ歴史が浅く、まだ試行錯誤の状態です。採用後の定着・戦力化(オンボーディング)支援のノウハウも足りず、将来のキャリアに関しても、まだ事例がたまっていないのが現状です。そこで、ソトの視点とナカの視点の両方を兼ね備えているわれわれが、経験者採用者約100名のアンケートを通じて課題を洗い出し、2022年に各府省に提言を行いました。これらの提言実現のため、内閣人事局・人事院や各省庁の人事課・秘書課と連携するとともに、経験者採用者のコミュニティーを作ってお互いに助け合っていきたいと考えています。

組織文化にポジティブなチャレンジを

佐藤:
私は地方の新聞社の記者として12年半、出版社の編集者を2年半、合計15年間の民間企業勤務を経て農林水産省に入省し、今年2023年の春で霞が関での勤務も丸15年になります。霞が関は想像していた以上に異文化で、今まで知らなかったような経験もたくさんしました。そこで、経験者採用の仲間たちの心のよりどころとなる場を提供するため、「シュガーソウルの会」という会を組織し、現在60名が在籍しています。

採用時の研修は、基本的にオン・ザ・ジョブ・トレーニングで、習うより慣れろという感じでした。振り返ると、分からないことだらけの異文化に飛び込んで、法律や予算を作るという特殊な業務を行うのに役立ったのは、何といっても「人脈」でした。省内のさまざまな方々に質問できる人間関係が存在したことが一番大きかったと思います。特に、私が社会人になったのが1993年(平成5年)なのですが、平成5年入省の農水省の方々とも同期として当初から交流していただき、困ったときに相談できたことは、今日スムーズに仕事ができている一番の理由になっていると思います。

入省時には、当時の上司から「新しい風を吹かせてほしい。」「絶対に官僚には染まるな」と言われていました。最近は「ちょっと官僚になりすぎたんじゃない?」と言われることもありますが(笑)、組織文化へのポジティブなチャレンジを心がけてきたつもりです。それが意味のあるものになっているという自信はないのですが、新しい風を吹かせたいという思いで今も仕事をしています。

経験者採用で新しい風を入れる

藤木:
VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代に、われわれ経済産業省が扱っている経済や産業はまさに日々変化する「生もの」であり、世の中の最先端に食らいついていかなければなりません。そのためには、その時々のベストメンバーをそろえることが必要です。従って、これからは経験者採用が必須となり、多様な経験や能力を持った人たちがどんどん入ってくる役所にしていかなければなりません。

そこでわれわれは「METIトランスフォーメーション」を2017年にスタートし、採用や働き方などを変革する取り組みを進めています。2022年には「経済産業省人材戦略」を策定し、その柱の1つとして経験者採用を増やすことで組織の活力にすることを明確に位置付けました。2030年までに年間採用者のうち経験者採用を3割程度にすることを目指しており、ここ3年の平均では10人程度の経験者を採用していますが、年間の採用が100人ぐらいなので、その3倍を目指すことになります。

この経験者3割という目標はなかなか高いハードルです。公募をしても「自分の知識が生かせるのでしょうか」「何をやらされるのでしょうか」といった質問があり、待遇面でも「公務員は給料が安いと聞くが、どのくらい下がってしまうでしょうか」といった心配の声も聞きますので、経験者に手を挙げてもらうための十分な情報を提供することが課題となっています。また、役所というのは、マニュアルになっていない「暗黙知」で動いていることも多いので、研修の部分はもう少し「形式知」化を図るとともに、新しい仲間が組織に早期になじめるよう、これを最初に読んでおけば大丈夫という「オンボーディング(乗船)キット」も開発中です。

人事管理の在り方も大きく変えていかなければなりません。経産省で人事を担当する秘書課に人材戦略担当として民間のプロフェッショナルを採用予定です。霞が関では、人事を担当する秘書課や人事課は閉ざされたイメージがありますが、そこにも外の風を入れなければならないと思っています。

人事院の取り組み

川本:
国家公務員の採用試験の申込者がいま非常に減ってきてしまっています。一般職試験ですと、8万人ぐらいいた申込者が、今は3万人を切っています。離職者も増えていて、5年以内に新卒採用者の10%ぐらいが辞めてしまっています。

その一方で、行政ニーズの高度化・多様化に伴い、デジタル人材を含めて政策の優先順位に合った人材が必要とされており、経験者採用を増やしています。官民を問わず、組織を変えるためにはクリティカルマス(集団の中で存在を無視できなくなる数)まで増えることが重要なので、経験者採用は3割ぐらいに増やす必要があると思っています。

人材獲得競争が厳しさを増すなかで、経験者を採用するためには、入省年次(役所で働いた期間の長さ)ではなく、専門性や実績をきちんと評価するシステムが霞が関にも求められます。また、若手や中堅に成長実感を持ってもらうために、評価のフィードバックをどれだけきちんとできるかも重要なポイントになると思います。

公務が特殊な職業だとあまり思い過ぎると、問題解決の妨げになってしまうと思います。どんな仕事にも社会的な価値があり、業務改善はあらゆる業態・業界において共通です。一方で、どの業界や業態にも特殊性はあるわけです。人間の集団・組織というものは、人々がやりがいを持ってパフォーマンスを出すことが理想であることは変わらないわけですから、あまり公務が特殊と思い過ぎない方がいいというのが私の実感です。

人事院としては、2021年の人事院勧告時報告の際に「官民の垣根を越えて時代環境に適応できる能力を有する人材を誘致することが不可欠である」と、2022年報告では「各府省における民間人材の円滑な採用を積極的に後押しします」としたところです。岸田総理も、2022年6月には「民間人材の採用円滑化は各府省が専門人材を確保する上で非常に重要です」、同年10月には「各府省は民間人材の採用円滑化策を積極的に活用し、官民のリボルビングドアの実現などさらなる改革も進めてください」と述べておられます。

人事院としては、能力のある方々が意欲とやりがいを持って生き生きと働ける職場になることで、公務全体のパフォーマンスを上げ、公務の魅力を向上し、より多くの人材を引きつけるという好循環を目指しています。このため、任期付き職員を各府省で採用できるようにしたり、経験や専門性や業績を踏まえて給与を設定できるように支援したりしています。「民間人材採用サポートデスク」も設けました。また、管理職員の評価や育成能力の向上、経験者採用者を対象にしたオンボーディング研修も始めています。2022年に「勤務時間調査・指導室」を設置して長時間労働の是正を図っているほか、魅力的な職場にするため、フレックスタイム制の柔軟化、健康増進なども各府省にお願いしています。

パネルディスカッション

中舘:
どのような方に経験者採用の門戸をたたいてほしいですか。

藤木:
やはり時代の最先端に食らいついていく覚悟と、新しいことに好奇心を持って臨むことが重要だと思います。そして役人である以上、デスクで考えるだけではなく、行動に移せることが共通した価値だと思っています。まさに組織全体がアグレッシブに動いていくように、かき乱していただけるような方が望ましいですね。

佐藤:
霞が関の仕事は本当に幅が広いので、公務に魅力を感じる方であればどなたでもぜひ門戸をたたいてほしいと思いますし、やりがいのある仕事が見つけられると思います。農水省の経験者採用の60名も、事務系ではメディアの他にもメーカーの営業職だった方や地方公務員から来た方、銀行員だった方など、民間での経験年数も職種も本当に多様な方々が来ていますが、それぞれの経験が必ずどこかで役に立つと思います。

それから、ワーク・ライフ・バランスという点では霞が関は非常に進んでいると思います。育児・介護休業の導入や残業時間の削減といった動きが加速しており、特に女性の皆さんには非常に働きやすい環境が整いつつあると思います。

川本:
日本のため、世界のため、熱意を持って働いていきたいと思ってくださる方に来ていただきたいですが、問題はそうした方々に来てもらえるかどうかです。私はそこに危機感があって、きちんと実績を評価する仕組みや柔軟な働き方を取り入れ、暗黙知をきちんと言語化することに霞が関全体が取り組んでいかないと、なかなか好循環にならないでしょう。

中舘:
経験者採用者が霞が関で活躍するために、本人の心がけとしては何が大切でしょうか。

佐藤:
とにかく分からないことはちゅうちょせずに徹底的に聞くことだと思います。社会人としてのプライドから、こんなことを聞くのは恥ずかしいと感じてしまいがちなのですが、法令という社会のルールを作る重要な仕事を担う霞が関では、疑問を残したまま仕事に向き合うのが一番危険だと思うので、質問力を持っておくことは最も重要だと思います。

川本:
本人の心がけという意味では、転職をしていらっしゃるわけだから、覚悟を持って来ておられるわけですよね。ですので、やはりポイントは職場の環境整備に霞が関がもっともっと心がけてほしいと思うのです。日本の組織は一般に、官に限らず非常に同質性が強く、他者を同化させようとする。今の仕組みやシステムに合わせるような形でないと入れないような組織が多いと思うのですが、来た人たちと一緒になって変えていく、来てくださる方も霞が関の変なことは変だとちゃんと言っていただいて、新たに入ってきた人たちと一緒に変えていくことが大事だと思います。

藤木:
やはり経験者を歓迎する姿勢がもっと必要でしょう。そのために、オンボーディングキットのような仕組み上の手当てから始まって、キャリアパスとしてその人の専門性をどう伸ばしていけるのかが重要だと思います。霞が関はどうしてもジェネラリストを評価しがちですが、せっかく得意技を持って入ってきた方々にキャリアパスをどう作ってあげられるかが課題だと思います。

それから、役所は割と同期でくくってしまうところがあるので、ややもすると閉鎖的な集団になってしまいます。同期は同期でいいのですが、経験者として入ってきた方々をコミュニティーの中に入れていくことを心がけなければならないと思っています。

中舘:
既存のシステム自体をいろいろ見直していくことにも言及されていたのは心強いと感じました。経験者採用をきっかけに霞が関にどのような変化があると思いますか。

川本:
やはり多様性はイノベーションの基なので、イノベーションが起きるといいと思いますし、考え方や動き方が異なる人が来ることで幅が広がり、より国民目線になっていくと思います。現状では、国家公務員制度や霞が関は持続可能ではなく、経験者採用をしないと立ち行かないと思いますし、新卒一括採用モデルからどれだけ早く内外無差別のモデルにシフトできるのかが非常に重要だと思います。

藤木:
まさに大きな変化を期待して経験者採用を増やしていきたいと考えていますし、バックグラウンドを異にする多様な人たちが1つのチームとして働いて結果を出すことがこれからますます必要になるでしょう。従って、職員間や外部とのコラボレーションで政策を生み出していくことにどんどんチャレンジしていかなければなりません。そのコアに新卒採用や経験者採用の職員が入っているような形にならないと経済産業省は時代に取り残されてしまうと思います。

佐藤:
社会が流動化し、伝えるツールも受け手も多様化する中で、省庁の側が、せっかくいい政策を作っても十分に伝わっていないことに意外と気付いておらず、これまでのツールを使えば自分たちがやっていることをみんな分かってくれるはずだという思い込みを強く持っているように思います。

ですので、世の中にいかに政策を正しく伝えていくか、より開かれた霞が関になるために何をすべきかということを考えながら仕事をしてきたつもりです。外から来た人間は受け手側の経験も長かったので、中の人が気が付かないことをまだ他にも指摘できるのではないかと思います。その点でも多様な人材が活躍することが組織の変化につながっていくと思っています。

質疑応答

Q:

行政機関における経験者採用と新卒採用の今後の役割分担の方向性はどのようになるのでしょうか。

川本:

新卒採用でもいい人に来てほしいと思いますし、そのために試験方法の見直しや公務員試験の有効期間の延長などを行い、なるべく多くの方々に応募してもらう努力を続けています。

藤木:

経験者採用は、ジェネラリストとして入る場合もあれば、その分野のスペシャリストとして入る場合もあり、われわれは2021年度から経験者に期待するものを分けて考えるようにしています。また、新卒採用は組織のベースとなる人材ですので、引き続き良い人材を採っていきたいと思っています。

中舘:

現在の仕事のやりがいや魅力について教えてください。

佐藤:

一番やりがいを感じたのは、自分が企画立案して実現した政策を実際に使っていただいて感謝していただいたことです。東日本大震災のとき、私は水産の担当として水産業の復興支援事業に携わり、批判や叱責もいただきましたが、最後は現場の被災事業者の方々から感謝の言葉をいただいたことが今も施策づくりの原点になっています。

中舘:

私は前職がIT業界なのですが、ITのコンサルティングをする中で、社会の仕組みがテクノロジーにフィットしないとなかなか社会実装は進まないという問題意識を持って転職しました。ですので、前職の問題意識を解決するために入省するパターンも結構あると思います。

Q:

政策に明るい外部人材をトップダウンかつ要職に登用することは有効だと思います。そのような動きは見られますか。

川本:

異なる経験や専門性を持った人が一定数組織に加わるのは有効だと思います。経済産業省のように、秘書課に民間の人事プロフェッショナルを採用するのも1つの手だと思います。

Q:

最後に、霞が関への転職を考えている方々にメッセージをお願いします。

佐藤:

リボルビングドア(官⇒民⇒官、民⇒官⇒民など)のような動きもこれから広がると思いますし、公務の世界のやりがいは無限大に広がっていると感じます。私自身も官の世界で成長を実感できていますので、年齢や過去の経験を問わず、いろいろな方にチャレンジしてほしいと思います。

藤木:

経験者採用は、われわれが変わっていくためには不可欠であり、そのためには働きやすさと働きがいを両立した職場を作る必要があります。われわれもこれまでの仕組みを組み立て直すぐらいの気持ちで取り組まなければならないと思っています。

川本:

国家公務員の仕事は本当にやりがいのある仕事だと思います。人事院も働きやすい環境に向けて全員で一生懸命努力しておりますので、ますます霞が関は変わっていくでしょう。どうぞ飛び込んできてください。待っています。

中舘:

本日の皆様からのお話をお聞きして、霞が関の変化を改めて肌で感じることができました。やはり国家の屋台骨を作る仕事に関われることは国家公務員の最大の魅力です。霞が関の仕事に関心のある方、転職をご検討されている方は、今日のウェビナーをきっかけにぜひ一歩踏み出してほしいと思います。本日はありがとうございました。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。