DXシリーズ(経済産業省デジタル高度化推進室(DX推進室)連携企画)

スマートシティ推進による新たな地方創生戦略-デジタル田園都市国家構想が目指す未来-

開催日 2022年2月2日
スピーカー 東 博暢(株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門プリンシパル)
コメンテータ 松本 理恵(RIETIコンサルティングフェロー / 経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長補佐(総括)(併)デジタル高度化推進室)
モデレータ 木戸 冬子(RIETIコンサルティングフェロー / 東京大学大学院経済学研究科 特任研究員 / 国立情報学研究所研究戦略室 特任助教 / 日本経済研究センター 特任研究員 / 法政大学イノベーションマネジメントセンター 客員研究員)
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開催案内/講演概要

政府は昨年11月に内閣官房に「デジタル田園都市構想実現会議」を創設し、スマートシティに向けた取り組みを加速させている。スマートシティとは、ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場と定義されている。本セミナーでは、全国各地のスマートシティ推進・デジタル田園都市構想に携わる東博暢氏(日本総合研究所)が、地方自治体の実例を紹介しつつ、スマートシティやデジタル田園都市国家構想によるわが国の新たな地方創生戦略について議論した。

議事録

スマートシティ推進への期待

日本では従来、まちづくりや地域づくりは半世紀単位で考えられてきました。しかし、日本の人口が減少する中でインフラをどうアップデートすればいいのか、また高齢者が増える中でまちづくりをどうすればよいのかといった、さまざまな問題が生じています。

中でも、2045年には社会保障費が現在より50兆円ほど増えると予測されており、さらにインフラを維持するコストも増大しています。このようにヒトもまちも老いてきているのが現状です。加えて、大災害が頻発し、パンデミックも発生しています。

そうした痛点や悩みの種、ペインポイントのソリューションとなることがスマートシティのそもそもの出発点だと私は考えます。デジタル技術の活用が加わり、ルーティンワークや不要な作業を削りながら、付加価値の向上を目指しているわけです。

日本は先進国の中でも国家経営危機に直面していると感じます。そこからどうはい上がるのかが1つのポイントだと思っています。そのためにはチーム総力戦で取り組むしかなく、スマートシティを含めてオープンイノベーション的なアプローチが求められます。

わが国のスマートシティ政策

政府が策定した「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」では、地方創生の視点としてヒューマン、デジタル、グリーンを掲げ、Society5.0に加えてデジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)によって地方を復活させるとうたっています。

2021年9月にはデジタル庁が発足しました。これは必然的に設立しなければならない組織でした。日本はDX化を進めていかないと国家経営は厳しいですが、伸びしろは十分ありますので、かなり面白いことができると思っています。デジタル庁はその司令塔として取り組みをけん引することが期待されます。

一方で、本質的なポイントは、スマートシティを推進して皆が幸せになれるのか、“ワクワクする未来”が描けるのかということなのですが、日本の場合、かなりネガティブな話が多く、課題は山積しています。ペインキラー(痛み止め)のソリューションをスマートシティのアプリケーションで作れていないし、若い人たちが希望を持てるようなムーンショット的なプロジェクトも求められます。日本は幸福度や人生の選択自由度が常に低いので、スマートシティ政策によってそれらの向上にどれだけ寄与できるかが1つのポイントになるでしょう。

特に、子どもの発達障害の増加が大きな問題となっています。デジタル庁では「こども」に関するアーキテクチャの検討を開始しており、行政的な手当てが早急に求められるいじめや虐待、貧困、ひとり親世帯の問題などを突貫的にまとめているところです。スマートシティ政策は都市計画や土木、情報、産業の人たちが中心になりがちですが、教育・福祉連携も重要なテーマだと思います。

政府が提唱する「新しい資本主義」に関しては、「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けて、実現会議やデジタル臨時行政調査会を立ち上げて議論が進められています。岸田首相は所信表明演説で、地方活性化に向けて地方からデジタル実装を進める方針を打ち出しました。そのためには地方のペインポイントを探し、ペインキラーたる技術を導入しないといけないでしょうし、情報技術の安全保障の観点からも半導体戦略が重要になるでしょう。

私が非常に危惧しているのは、壮大な「ばらまき」で終わってしまって日本が立ち直れなくなるのではないかという点です。集中的な予算が付くことは望ましいのですが、それは地方をデジタル田園都市にアップデートするための初期投資と考え、レバレッジを利かせる観点で政策を組まないと、曖昧模糊としたものができて終わってしまいます。

私が地方によく提案しているのは、各地域が注力しているところから構想を広げていくことです。例えば、栃木県宇都宮市であれば次世代型路面電車システム(LRT)を作るところから始めて今ではスーパースマートシティ構想に広がっていますし、長野市であればサーキュラーエコノミーから構想が広がっています。各地域を特徴付けている政策から拡張させることが非常に重要になるでしょう。

スマートシティの何が難しいのか

スマートシティを推進する上で何が難しいかというと、ただのまちづくり政策ではなく、市民中心であることを考えたときに、非常に分野横断的なイシューを取り扱う必要がある点です。例えるならば総合計画をDX推進によって加速させるイメージです。

もう1つは、技術革新の加速に対応しなければならない点です。これまで技術革新がおよそ5年ごとに起こっており、それに伴って情報通信速度もだんだんと上がり、当然ながらテクノロジーの調達コストも変わっています。テクノロジーガバナンスを社会実装につなげるタイミングなどの見極めが非常に重要であり、これは行政だけでは無理だと思います。

一方で、民間だけが技術介在しても従来の研究開発型モデルの視点から抜けられないので、官民が連携してオープンイノベーションで、周囲の環境変化を踏まえてゴールやシステムをアップデートしていくアジャイルガバナンスで進めることになります。人間も5年たてばテクノロジーに慣れてくるので、このあたりのテクノロジーの変化を理解する必要があるでしょう。

それから、従来の都市計画ではフィジカルな空間で静的なエリアマネジメントを何十年もかけて行っていたわけですが、スマートシティではフィジカルな世界にいきなりデジタルが入ってきますし、データも動的ですし、データのマネジメントも従来の方法では対応できません。加えて、コロナ禍でライフスタイルも変化しているので、統合的に設計していかなければなりません。

その点ではイノベーション的なパラダイムシフトが起こっており、その中で新しいイシューも出てきています。プライバシーの問題やサイバーセキュリティ、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)といった市民感情的な新たな課題に対して政策がどう向き合うかが重要になるでしょう。

世代間のギャップへの配慮も求められます。これまで政策をつくってきたのはX世代(40代以上)ですが、これからは生まれながらにテクノロジーに順応している人たち(Z世代:1995年以降生まれ)が社会に出てきます。そういう人たちが、やはりこの国は面白いと思えるかどうかが非常に重要な観点です。その点で、彼らを主役にしていくことも政策的には非常に重要ですし、彼らに思い切って意思決定と予算を与える取り組みも必要ではないでしょうか。

持続可能な社会モデルの構築

スマートシティには、持続可能な社会モデルなのか、ビジネスとして持続するのかという視点も求められます。持続可能にするには、財源を効率的に組み合わせることも重要ですし、ソーシャルインパクトも重要です。どの種類のお金を使って、インプットとして何を突っ込んで、どんな政策事業を行って、アウトプット・アウトカムは何なのかというのを整理していかなければなりません。

そういう意味では、スマートシティ政策は総花的な評価をしないといけないので、非常に難しい領域です。このとき最も大事なのは、誰が投資して、直接的な受益者が誰で、間接的に受益を得る人は誰か、できる限りバイネーム(個人名)で特定することなのですが、その点で日本はまだ曖昧です。共助の領域だから官民でインパクトを出すというふうにファイナンススキームを考えないといけないのですが、なかなか難しいのが現状です。ただ、これができてしまえば持続的かどうかという判断が付いてくると思っています。

今までまちづくりや地域開発はかなり上流工程から下流工程へ順次移行していくウォーターフォールでやってきました。しかし計画を作成しまちが開くまでに4~5年かかるので、その間に技術革新が起こりますし、生活態度も変わります。ですから、いかにウォーターフォールの部分は残しつつ、より開発期間が短くなるアジャイル的な開発をしていくかが重要だと思っています。

それから、ユーザーたる市民がユーザーインターフェース、ユーザーエクスペリエンスを良くしていくことに力と知恵を使わないといけません。この辺はデザイン思考であり、プライバシーやセキュリティなどをバイデザイン(企画設計段階から検討すること)の思想を持って検証することが重要です。

このように地域で課題や未来のビジョンを提示し、産官学民金が連携しながら、地域でヒト・モノ・カネ・情報・フィールド、場合によっては制度を整えて地域資源のフル活用に取り組んでいる自治体が増えてきています。

スマートシティ/DX政策の取り組み事例

コロナショックになって以降、意欲のある首長から「これはいいチャンスだ」として連絡がかなりあり、地方創生やスマート化・DX、場合によっては統治機構の変化が起こるぐらいの勢いで首長自ら陣頭指揮をとっている地域も出てくるようになりました。

特にこのコロナ禍で有事・平時の垣根がほぼなくなり、常に何かが起こるという状況において、社会システムにリダンダンシー(冗長さ)やアジリティ(機敏さ)をどう持たせるのか、リアルでセーフモード・ビジネスモードをどうやってすぐに切り替えるのかということを考えていく必要があります。

例えば、私がベンチャー支援とデジタル・スマートシティのアドバイザーを務めている静岡県浜松市では、鈴木康友市長が「デジタルファースト宣言」をし、市庁舎内にデジタル・スマートシティ推進事業本部を設置して、政府に先行して取り組んでいます。データマネジメントをどう行うかという話をしながら、オープンイノベーション、市民起点、アジャイル型まちづくりという視点を大切にして合意形成を進めています。

しかし、役所の体制を変えるだけでは動きません。そこで、地域に官民連携のプラットフォームを構築しました。今では東京などからも多くの参加があり、一般会員は152団体に上ります。地方では各分野で協議会を作りがちですが、これからは分野横断が大事ですので、取りあえず協議会を集めて分野横断のプラットフォームで情報共有を始め、各分野の力を組み合わせながらプロジェクトを作っています。

データの活用に関してはこれまでベンダーやコンサルティング頼りの部分が多かったので、Code for Japanの関治之代表理事にも協力していただきながらデータ連携基盤を構築し、多岐にわたる実証実験をしています。

また、スマートシティの課題をオープンにするために原課から産業部に課題を集約することにしました。原課もどんどん横断的に動いてくれるようになって、課題を解決できるスタートアップがいれば伴走支援しながら、市が抱える課題にスタートアップをあてがっています。

ベンチャーを集積させるため、イスラエルのヨズマのようなファンドサポート事業も始めました。浜松市には認定ベンチャーキャピタル(VC)が41社あるのですが、そうした浜松市のためにがんばってくれるスタートアップを連れてきて、そこに対して投資するのであれば2分の1(上限7000万円)の交付金を入れます。その結果、かなりスタートアップが集積しました。

私は山梨県のアドバイザーもしているのですが、山梨県でも「TRY! YAMANASHI! 実証実験サポート事業」を始めており、地域の課題解決を図っています。そこで、広域連携をしようという話になり、山梨県と浜松市が「幸福循環地域連携(Well-being Area Alliance)」を共同宣言しました。浜松でうまくいったスタートアップを山梨で優先調達をかけたり、その逆もしかりという形で、連携体制がスタートしています。

スマートシティを現場で進めるためには、1つ目に「Citizen First, Citizen-Driven Society」、すなわちシビックプライドを持ってもらうこと、2つ目に「Multi-Stakeholder Process(MSP)」、すなわち官民組織全体でルールを決めること、そして3つ目に「Agile Governance」、すなわち走りながら進化する体制の構築が基本原則として求められると考えます。

コメント

コメンテータ:
浜松市のように、デジタル技術を活用して地域課題を解決する事例が出てきていることは大変うれしく思います。成功パターンとうまくいかないパターンの違いはどこにあるのでしょうか。

デジタル田園都市国家構想実現会議の政策の柱の1つにデジタル人材育成を掲げており、経済産業省でもこの目標に貢献するために検討を進めているところです。しかし地域においてがんばって育成した結果、育った人材がみんな東京に行ってしまうという話もよく聞きます。地域でデジタル人材が根付くには何が必要でしょうか。

A:
私が地域支援をする際にはフェローという立場で個人として動いていて、スポットで首長に少しアドバイスし、まずは幹部に意識合わせをしてもらいます。彼らが腹落ちすれば次に原課に落ちるので、そこから庁内体制を整えていくのです。役所がある程度納得したら、次に地域のキーマンを集めてトップセミナーを開き、みんなが納得したタイミングで現場も巻き込むようにしています。

デジタルの人材育成は、完全にOJT(現場での訓練)でやっていく必要があるでしょう。しかし、経験値を増やすためには、その地域に閉じ込めるのは無理だと思っていて、都市部ではいろいろ働いているけれども、地域へ行けば「私が社長です」という感じで、地域のために決裁権や意思決定権を持って地域の課題解決ができるような環境をつくるといいのではないでしょうか。

質疑応答

Q:

誰も取り残さないことと、効率性・デジタルのメリットの最大化は二律背反的なところがあるようにも思えますが、いかがでしょうか。

A:

そう思います。アジリティを高くするところと一人も取り残さないところは制度設計をきちんと分ける必要があるでしょう。スピードについてこられない地域も当然出てくるので、最低限ケアすべきエリアはどこかを考えていかないといけません。

Q:

自治体が計画を策定する際には、あらゆる業界の意見を取り入れてしまい、曖昧なものになることが危惧されます。全ての自治体が確実にデジタル化を進めるためには何が必要ですか。

A:

まさに総花的が一番駄目なのです。意思決定が半ば独裁的でないと、みんなでコンソーシアムをつくって、「みんなで仲良くやりましょう」と言っていたら永遠に事業化しません。事業化したら遅い人には離脱してもらうケースもありますから、首長やアドバイザーに権限を寄せながらも各チームに納得してもらうやり方をしないといけません。

Q:

どういったデータの可視化が有用でしょうか。

A:

観光情報や防災情報など地域によってさまざまなので、地域ごとにこれが分かっていたらとても便利だろうというものを探していく必要があると思います。

Q:

ITの知識を持つ人材とそうでない人材の「通訳」的なポジションが必要ではないかと考えますが、どのように育成すればよいでしょうか。

A:

私は別にIT人材ではないのですが、コミュニケーションの通訳はできます。それはできる限りお互いの話をよく聞いているからであって、技術革新のスピードであるとか、どのタイミングで何が変わっているかというのは常にウオッチしておかなければなりません。一方で、市民の感覚もある程度把握しているので、その両方をある程度早い段階から意識しています。ですので、ITの知識を持った人たちと、逆にITがまったく分からない人たちを早期に話をさせておくことが大事だと思っています。そういうところから始めると一気にコミュニケーションがうまくいって、人も育つかもしれません。

Q:

デジタル庁以外の省庁には何が求められますか。

A:

お互いにどういう政策連携をすればいいのかというコンテクストを作っていくことに力を入れるといいと思います。

Q:

デジタル田園都市構想の国際的展開に向けて、他国との協力の余地はありますか。

A:

あると思います。地区開発だけでなく、健康医療や福祉、教育の問題などたくさんあります。海外の都市開発にコミットしているケースもあり、そこに対して日本のスタートアップのサービスを入れるなど、いろいろな市場拡大の余地はあります。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。