アジア開発銀行 アジア経済統合報告書 2019/2020年版-高齢化の進展と生産性の変化、テクノロジーの役割

開催日 2019年11月13日
スピーカー 澤田 康幸(アジア開発銀行チーフエコノミスト兼経済調査・地域協力局長)
スピーカー 吉川 愛子(アジア開発銀行経済調査・地域協力局エコノミスト)
コメンテータ 大野 泉(JICA研究所研究所長)/川口 大司(東京大学大学院経済学研究科教授)
モデレータ 藤澤 秀昭(経済産業省通商政策局アジア太洋州課課長)
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開催案内/講演概要

アジア開発銀行(ADB)の「アジア経済統合報告書(AEIR)」のグローバル発表を機に開催された本セミナーでは、近年のアジアにおける地域統合の進展、そして特別テーマである「高齢化の進展と生産性の変化、テクノロジーの役割」について、高齢化パターンと人的資源の教育レベルの関連に焦点を当てながら、高齢化が進む中でさらなる生産性向上へ向けたテクノロジーの果たす役割、期待されるアジア地域における地域協力の形、そして求められる国レベルの政策や戦略について議論した。アジア地域の生産性促進には、海外直接投資(FDI)、国際的な労働の移動、そして資本と人の移動に伴う技術移転の3点が鍵となるが、国ごとに抱える課題は異なる。高齢化社会において経済成長を実現するためには、各国の労働需要の状態やテクノロジーの普及状況に応じたテクノロジーの採用、そして培ってきた経験や能力を十分に発揮できるような仕組みやインセンティブの構築が不可欠である。

議事録

アジア地域経済の動向

澤田康幸写真澤田氏:
貿易摩擦の長期化により世界的な貿易が鈍化しているなか、アジア地域では全体的な貿易は伸び悩んでいるものの、域内の貿易は非常に深化しており、対外的な逆風を和らげている傾向にあります。

世界的に海外直接投資(FDI)は下向きですが、アジアへのFDIは引き続き増加傾向が見込まれます。また、アジア域内、域外への証券投資の流れは緩やかに伸びており、特に間接投資の中でも銀行貸付が非常に高まっている状況です。他方、ポートフォリオ投資は縮小に転じています。

グローバル化に伴い、アジア太平洋地域の人の移動による海外労働者の送金、また観光収入は非常に堅調な伸びが続いています。経済統合については全体的に緩やかに進展しており、アジア地域における貿易面での統合を通じて、世界的な逆風に対して緩やかな発展が見てとれます。

米中貿易摩擦に伴うアジアサプライチェーンへの影響

アジアの貿易の伸びはここ1年ほど縮小の方向にあります。この背景には、世界経済の成長低迷、特にアジア地域では主力の電子・電機、半導体の生産出荷サイクルが下向きになりつつあり、貿易量が減少していること、それに加えて、米中の貿易摩擦の影響があります。

中国からアメリカへの輸出では3,740億ドル、アメリカから中国に対しては1,178億ドルの貿易に関税が課せられており、双方向で金属、ミネラル、化学製品をはじめとする多くの産品に15%から25%の関税率が課されています。中国からアメリカへの輸出では繊維製品や縫製製品、アメリカから中国への輸出では機械、電子・電機製品が特に強い影響を受けています。

台湾、日本、韓国、ASEANの国々は部品輸出で中国と強く繋がっています。それらの部品を中国が加工し、アメリカに川下の製品を輸出するというサプライチェーンネットワークがあるため、中国からアメリカへの貿易輸出が関税負荷によって先細ると、後方連関効果を通じてアジアの国々が大きく影響を受けることになります。逆に、中国からアメリカに輸出された部品が、他の地域の生産に投入されるという前方連関効果は少ないといえます。

貿易、投資、人の移動により活性化する経済統合

まず貿易では、世界、アジアともに世界経済の成長低迷による負の影響を受けてはいるものの、域内貿易の比重は非常に高まっており、アジア域内での結束がそうした悪影響を若干和らげている動向が見てとれます。サプライチェーンネットワークについては、アジアの域内、域外の双方向で関係が深まっていますが、特に域内のネットワークについては、より速いスピードで深まっていることがデータにも表れています。

次に投資ですが、世界全体としてFDIが先細るなか、アジア地域に流入してくるFDIとアジア地域から輸出していくFDIの双方向にポジティブなトレンドが続いています。アジア地域では特に製造業がグリーンフィールド(新規)のFDI増加に非常に大きく貢献しており、ブラウンフィールドと言われるM&Aを通じたFDIではサービスセクターが非常に伸びており、その増加を支えています。

最後に人の移動についてです。アジアへの資金流入をタイプ別に見てみると、FDIは引き続きアジアに流入しており、観光収入や海外労働者の送金収入も非常に堅調に増えていることがわかります。また、ODA等の開発資金と比べても、こうした人の動きに伴う資金流入がアジアでは大きな割合を占めており、増加傾向にあります。

さまざまな形での経済統合が、貿易、金融、人の移動等で見られます。域内の経済統合は若干下向きになりつつも、非常に安定しています。この中でもインフラ投資や、国境を超えたコネクティビティを増加させるような域内統合は非常に増えています。特に東アジアは、金融面、地域のバリューチェーン、インフラを通じたコネクティビティ、社会的な、また制度的なものも含めて統合が進んでおり、東南アジアは貿易・投資、人の移動における統合が活性化しています。

高齢化がもたらす生産性へのインパクト

吉川愛子写真吉川氏:
本レポートでは特別テーマとして、生産人口が減少し、高齢化していくなかで、人口動態の変化が生産性や経済全体の成長率に与える影響について考察しています。持続的な経済発展に向けたテクノロジーの活用や有益な政策的含意を提示することが目的です。

アジア太平洋地域の人口動態は非常に速いペースで変化しています。未来の高齢者はこれまでよりも健康的で、かつ高い教育水準を有するため、異なるインパクトを経済に及ぼす可能性があります。また、アジアの人口動態の変化には多様性があり、各労働市場の課題やオポチュニティは、各国の高齢化のスピードや教育水準のレベルによって多く異なります。

テクノロジーは、それぞれの国のレベルに応じた形で、さまざまに活用することができます。各国が直面している課題の解決に適したテクノロジーを採用することで、技術革新による恩恵を十分に生かすことが可能であるということを本レポートは示しています。アジア地域の特徴である多様性を大きく利用するには、FDI、国際的な労働の移動、そして資本と人の移動に伴う技術移転の3点が非常に重要な役割を果たしていきます。

就業者年齢と生産性の推移

まず、ミクロの視点で見てみましょう。加齢によって年代ごとに体力の衰えが進むことは明白ですが、日本の例では、時代を追うごとに高齢者の身体能力は上がっています。歩行速度については10年若返っているというデータも出ています。つまり、高齢者が経済成長に与えるインパクトというのは時代ごとに大きく異なるのではないかと考えられるのです。

また、認知能力についてですが、直感的な知能は20代後半から低下していくものの、より大きな知識を利用する知能は高齢者といわれる50代後半から80代でも著しい低下は見られません。よって、高齢者の生産性が落ちるという議論は妥当でないでしょう。

よりマクロな視点から年代別の人口構成が生産性に与えるインパクトを見てみると、働き盛りの年代が増えることで国内総生産(GDP)成長率を押し上げる効果が見られます。一方で、従属人口はそれを押し下げます。ここの限界年齢が世界の推計では概ね50代前半とされています。

それでは、平均寿命や健康寿命の上昇はGDP成長率にどのようなインパクトを与えるのでしょうか。平均寿命の上昇によって、生産人口の限界年齢も50代後半から60代後半へと上昇しています。さらにテクノロジーの導入によって年代別のGDPへの貢献がどう変化するかについても見てみると、テクノロジーが導入されていない(=全要素生産性(TFP)が低い)状態では生産年齢人口の限界年齢が50代後半だったのに対し、テクノロジーを導入した後(=TFPが高い状態)ではそれが65歳に上昇しています。更に、TFPが高くなることで、働き盛りから高齢に当たる世代については、年代によってGDP成長率に十数倍から数十倍のインパクトを与えるという推計も示されています。

類型別にみるテクノロジー活用の効果

では、テクノロジーはどのように活用したらよいのでしょうか。アジア各国の教育年齢を軸として、過去50年、そして今後30年の生産人口の分布を示した中国の例を見てみましょう。1980年の時点では、約半数の若年労働者が初等教育に分布しています。これが2015年には半数ほどが中等教育を受け、2050年の推計では高等教育を受けた若い世代が増加していくことが見てとれます。ここで注目すべきは、人口シェアの一番大きいグループは若年層から高齢層へと移り、今後は中学歴のグループが増えていくということです。

同様のデータ分析をアジア42カ国について行い、高齢化の加速度と人的資源の教育レベルに基づいて4つに類型化しました。タイプ1:高齢化の進展が早く、教育水準が基準値を上回る国々(日本、中国、韓国等)。タイプ2:高齢化の進展が早く、教育水準が基準値を下回る国々(バングラディッシュ、ベトナム等)。タイプ3:緩やかに高齢化が進展し、教育水準が基準値を下回る国々(インド、パキスタン等)。タイプ4:緩やかに高齢化が進展し、教育水準が基準値を上回る国々(フィリピン、ラオス、モンゴル等)。

さらに、テクノロジーも5つのカテゴリーに分類しました。①労働やスキルを代替するテクノロジー(自動化、ロボット等)。②現存する労働力を補完または拡張するテクノロジー(ロボットスーツ、リモートオフィス等)。③教育や技術習得を補助するテクノロジー(オンライン学習等)。④求職者のマッチングや効率的な情報提供を促すテクノロジー。⑤健康や長寿を促進するテクノロジー。

タイプ1には5つのテクノロジーすべてが有効ですが、タイプ2やタイプ3の教育水準が基準値を下回る国々では、特に③の教育に関するテクノロジーの導入が必要であり、タイプ4の国々では、②の労働力やリソースを生かしつつ、さらに生産力を高めるためのテクノロジーを優先的に応用すべきです。このように、各国の労働需要の状態やテクノロジーの普及状況に応じたテクノロジーを活用することで生産性向上を促し、経済発展につなげることが可能となります。

経済成長実現に向けて期待される政策

経済成長実現に向けて期待される政策の一つに、テクノロジーの普及や応用を助成金や政府の税控除によってサポートする取り組みが挙げられます。諸外国では産業とアカデミアの協業により、テクノロジーと高齢者を結びつける仕組みを構築している国々が増えています。

テクノロジーの一つの大きな恩恵であるフレキシブルなワークスタイルを可能にするためには、新しいライフスタイルに合った労働基準の見直しに加え、労働者が十分に保護される制度の改革を進めるべきだと考えます。また、社会保障制度においても、高齢者の労働意欲を削がないような年金の改革が必要でしょう。

最後に、高齢化するアジアにおいてどのような新しい地域協力が求められていくのか、ということについて考えていきます。生産拠点の移動に伴うFDIはアジアでは堅調に伸びており、新規のFDIだけでも年間で概ね90万人の雇用を創出しているという結果が出ています。これを地域の協力によってさらに推し進めることが人口動態に沿った解決法と考えます。また、既に高いテクノロジーの普及やイノベーションが行われている国々から発展途上の国々への技術移転も今後不可欠となるでしょう。

このように地域の状況を鑑みると、アジアにおいてこれから促進していける3つの生産要素が挙げられます。1つ目は投資であり、これは例えばタイプ1からタイプ2、3、4へ生産拠点を移動することによって、減少する労働力を補います。2つ目は、人口動態や労働需給に合った国際的な労働の移動です。3つ目は、投資・労働力移動による技術移転の活性化です。こうした生産要素の流れが地域の中で活性化され、さらに促進されることで、域内の人的資源の有効かつ効率的な利用が発展途上国と先進国間の協調によって、持続的な経済発展をもたらすと考えます。

コメント・大野氏

アジア諸国の人口動態の変化について多角的に詳しい分析をし、高齢化の加速、労働人口減少の対策にテクノロジーが果たし得る役割について、5つに類型化して分析したのは素晴らしいと感じました。また、高齢化パターンと人的資本の蓄積の度合いによって各国を4つに分類し、政策的な示唆や地域協力のあり方についても考察されたことは非常に有用でタイムリーな研究であります。

コメントを4点述べたいと思います。1点目は、アジアとアフリカの違いです。アジアでは高齢層の割合が高いですが、アフリカでは逆に若年層が大幅に増加しています。雇用を創出する必要があるため、テクノロジーの活用やスキルデベロップメントはアジアと同様に重要です。一方で、アフリカでは、工業化が起こる前にテクノロジーが産業を淘汰するのではないか、また、高スキル産業が先進国のみに集中するのではないかということが懸念されており、アジアの状況との違いも感じました。

2点目に、アジアの途上国の多くは産業高度化と高齢化への対応の同時達成が迫られており、産業構造と人的資本のスキルアップを検討する必要があると痛感しました。3点目には、だからこそ産業政策が大事になるわけで、FDI、技術移転、労働政策は国ごとに状況を鑑みて具体的な検討をしていくことが重要だと思いました。

4点目に、社会保障政策や制度年金の問題、介護の問題、医療の問題、国際労働移動の問題も解決すべき重要な課題であると感じました。また、中所得国ではミドルインカムトラップの克服、低所得国では労働人口が先進国へ流出することによって加速する高齢化など、途上国特有の課題についても議論していくべきでしょう。

タイプ1の国々ではイノベーションが進み、高スキル労働者が比較的多いため、そうした人材を確保しつつ、テクノロジーを活用しながら社会や産業を創出していくことが求められます。タイプ2ではミドルインカムトラップを克服しながら、どのように低付加価値産業からアップグレードしていくかを検討する必要があります。産業人材の育成が課題となりますが、高スキル人材だけに焦点を当ててしまうと中間層の人材が生まれづらくなり、分業化してしまうため、裾野の広い形で人材や産業を育成していくことを考えなければなりません。産業の問題とスキルの問題の両方の視点から、国ごとに必要な政策を検討していくべきです。

JICAの中小企業の海外展開支援や技術協力では、介護福祉関係あるいは高齢者向けの機会や仕組みづくりをタイ、フィリピン、マレーシア、ベトナムで行っています。産業自動化を担う現地人材育成の試みとしては、日本の現地密着型の生産工程に寄り添う形で、現地に合った自動化のローカルシステムの構築をAOTS、JETRO、デンソーなどがタイで、そしてJICAもベトナムでパイロット事業ができないか模索しているところです。

コメント・川口氏

日本の今後を考えていく上で「高齢化」「テクノロジー」「生産性」の3つがキーワードになりますが、私たちの調査の結果、高齢化が進んだ産業は生産性の伸びが弱く、高齢化と生産性の低下には相関関係があることがわかりました。これは高齢化そのものが成長に対して負の影響を持つという話と整合します。こうした影響を和らげるという観点から、ロボット投資について調べてみたところ、高齢化が進んでも必ずしもロボット投資は増えないということがわかりました。つまりロボット投資は、高齢化が経済成長に与える負の影響を和らげるわけではないということです。

一方で、日本のロボット産業は世界的にも競争力が高いことで知られており、ロボットの輸出も非常に伸びています。では、なぜテクノロジーを使って高齢化による負の影響を和らげることが日本で実現しないのでしょうか。この経済統合報告書では、テクノロジーの活用による負の影響へのインパクトは、政策や人々の行動に依るところが大きいとあります。

さらに、報告書では政策的含意における重要な点として3つ指摘されています。そのうちの2つは、労働市場に密接に関わる話です。1つ目は、長く働くことを年金制度等で不利にしないこと。2つ目は、フレキシブルな働き方を実現できるような働き方改革を行うこと。まさにこの点は同意するところでありますが、なぜならば、高齢の人材は非常に多様であり、経験を積み重ねることによってますます生産性が高まっていく人もいるからです。またこの点は、3つ目のポイントである、インセンティブを与えることとも関わってきます。長く働くようになると、新しいテクノロジーにも適応していこうというインセンティブが出てきます。このインセンティブが人々の行動を促すきっかけとなっているわけです。パドヴァ大学のジョルジオ・ブルネオ氏は、イタリアの年金支給開始年齢の引き上げが高齢者の職業訓練への参加を増加させる効果を生むことを発見しています。また、バーナード・カレッジのダニエル・ハマネッシュという労働経済学者は、アメリカのトップジャーナルに掲載されている論文の著者のバックグラウンドについて歴史的変遷を調べ、著者の高齢化が進んでいることを発見しました。定年制度が廃止され、高齢でも転職の機会や転職に伴う昇給というインセンティブがあるから論文を書き続けるのだといいます。

制度やインセンティブをうまく設計しながら、様々な経験を積んだ高齢者が本当に能力を発揮できるような仕組みを構築していくことが重要であり、そういった制度と技術進歩が共に進んでいくことで、高齢化に伴い経済成長が低下していく中でも負のインパクトを防いでいくことができるのではないかと考えます。

質疑応答

モデレータ:

先進国である日本の高齢化とアジアの発展途上国で進む高齢化はタイプに違いがありますが、日本とは違う形で高齢化に直面しているアジアにとって、産業高度化と高齢化への対応とを同時に達成する上で一番ポイントになるのは何でしょうか。

大野氏:

それは国によって全く異なると思います。自分たちが産業構造の高度化を進めているそばから高齢化への対策を迫られており、かつ与えられている時間が短いわけですから、一つは裾野の広い産業を育成するための政策を作っていくこと、そして、ベトナムなどは社会的に皆が調和して助け合っていくソサエティが未だありますが、そういった既存のシステムを生かしつつ、新しいテクノロジーを導入していくことが大事です。

以前、経産省主催のビジネスコンペティションで、日本の老人ホームにいる高齢者の方々とアジアの若い世代とがテレビ会議を通じて日本語で会話するというプランを提案した企業がありましたが、互いに切磋琢磨し、良い循環ができる大変興味深い提案だと思いました。

日本の経験やテクノロジーも活用しつつ、現地の産業関係者や研究者、政策立案者が一緒になって、諸外国のテクノロジーをどのように現地の仕組みに利用できるか、あるいは現地から支援国へ何を取り入れられるかをお互いに学び合っていく交流が必要だと考えます。

モデレータ:

リカレント教育や再トレーニングはどのように進めていったらよいのでしょうか。高齢者が雇用を続けていく上で障害になっているのはどのようなことでしょうか。

川口氏:

既存の職業訓練校やリカレント教育で訓練された方が、技術取得後にその力を十分に発揮する機会がなければ、スキルを蓄積するインセンティブがありません。技能蓄積をしてもらうのも大切ですが、その培った技能をどのように使うのかという仕組みも考えていくことがさらなる技能蓄積を促すためには必要です。具体的には、高齢者の技術活用の際に、一度定年退職した方を再雇用で雇い直すという仕組みを採用している大企業も多いと思いますが、定年を境に技能が十分に活用できていないケースも散見されます。生産性の高い人には長く働き続けてもらい、合わない人は違う職場で働いてもらう、というような、スムーズな労働市場の移動を可能にする仕組みも考えていくべきです。

Q:

川口先生に質問です。高齢化とロボットについての研究は何年ぐらいまでのデータを使った研究なのか教えてください。なぜかと言えば、日本銀行の短観を見ますと、近年ソフトウェアへの投資が急速に増加しており、その一方で高齢化に伴う人手不足が深刻になっており、パラダイムシフトが起こりつつあるように感じているからです。

川口氏:

2015年の国勢調査までを使った研究です。ただ、分析が開始されている30年ぐらいの期間を使った分析になっているので、新しいところは分析しきれていない部分もあります。また、我々の技術投資の指標として使っているのは主にはロボットを使った電子機器への投資という形です。かなり限定的なところで捉えた技術進歩の指標だという点については、留保をつけさせていただければと思います。

Q:

2点伺います。まず吉川先生に、高齢化パターンと人的資本の蓄積度を基に類型化したタイプ1に属する韓国とタイプ3のパキスタンへの導入という視点で、一番効果的なテクノロジーを教えてください。大野先生からは、アフリカにおいて一番効果的な産業政策について私見をお聞かせください。

吉川氏:

韓国では介護における労働生産性が非常に低く、今後一番深刻な問題の一つであります。人材の担保、そして労働者の生産性能力を拡張するようなテクノロジーは日本の見地が有効活用できるのではないかと考えます。一方、パキスタンは人口がさらに増えており、教育水準はタイプ3の中でも遅れている国であります。今、政府は教育水準の向上を図るため、新しいテクノロジーを利用した国内の教育機関のモニタリングを進めているところでありますので、こうした教育に関するテクノロジーが大切になっています。

大野氏:

アフリカ自体の市場はまだ小さく、コネクティビティやインフラも整っていないなど各国で事情が異なり、企業進出は非常に難しいところがあります。そういった意味でインフラを含めた地域の統合、あるいはアフリカの中で地域ごとの連携を進めていくことが市場を大きくする一つのステップになると思います。

同時に、アフリカは国ごとに状況が異なります。ナイジェリアやモザンピークなどの資源国では資源価格の低迷が続いていて難しい状況ですが、かたやルワンダやエチオピアは資源は無く内陸国ではあるけれども、8%から10%といった形で成長率を持続しています。それはやはりその国ごとの強みを生かした政策を作っているからです。

ルワンダは内陸で人口規模も小さく、重厚長大的な産業はできないものの、ICT、金融、観光を誘致して他国とつながっているわけです。また、エチオピアは他のアフリカの国に比べて比較的まだ人件費が安いので、欧州市場あるいはアメリカ市場向けのアパレル産業を誘致しています。したがいまして、その国の人たちがどういう産業を活かしていくのかについて真剣に考え、それに対してドナーの立場で支援すること、さらに関心ある日本企業があれば、国の機関としてもそれを後押ししながら協業していくことが重要だと考えます。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。