農業・食料問題を考える

農業のGDPに占める比重は経済発展に伴い著しく低下しました。今では1%程度となっています。これはアメリカなど他の先進国でも同様です。

しかし、国民の関心が少なくなっているかというとそうではありません。
食料は人間生活に欠かせない基礎的な物資です。日本人の生活から飢餓の経験はなくなり、いまや飽食の時代といわれています。しかし、世界では依然貧困で食料を買えない人達が多くいますし、過去100年の間に16億人が61億人に増加した世界人口の伸びや所得の増加による畜産物消費の拡大が今後も継続するとすれば、食料が不足する時も来るかもしれません。また、農業や食料生産技術が発展した結果、遺伝子組替え食品などの新しい食品やBSEなどの新しい病気が出現し、安全な食料の供給に対する消費者の関心も高まっています。

農業についても、都市的な生活になじめない人達が会社を辞めて農業をはじめようとしたり、子供を農村に短期間留学させたり、週末に家族そろって棚田の農作業を体験したりする動きが出てきました。水田や森林が、洪水を防止したり、水資源を涵養したりする"緑のダム"としての機能、大気の浄化や美しい景観を作る機能を持つことにも、関心が高まってきています。逆に、国内の農業保護により、WTO(世界貿易機関)やFTA(自由貿易協定)による貿易自由化交渉が進まないという批判も農業には向けられています。
私は、農林水産省を離れて2年間RIETIから、食料、農業、農村やそれについての政策、WTOやFTAの交渉を眺めてきました。この間、農業についての学者、研究者の方々だけではなく、他の分野の研究者、経済界やマスメディアの方々、政治家、海外の研究者の人達とも意見交換を行う機会に恵まれました。この意見交換を通じて私の気付かなかったような指摘もいただきました。他方、残念なことに、農業の専門家といわれる人達に、WTO農業協定の基礎的知識がなかったり、経済の他の流れに無関心だったりする人が多いことに驚いたりしました。経済学を学ぶ目的は経済学者にだまされないようにすることだと述べた高名な経済学者がいます。それほどのことではありませんが、皆さんと一緒に農業・食料問題を考えてみたいと思います。

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