エビデンスに基づく医療(EBM)探訪

第6回「脳卒中を防ぐために」

関沢 洋一 上席研究員

(ポイント)

  • 健康寿命を延ばすという日本政府の目標を達成する上で脳卒中予防への取り組みは重要な課題。
  • 日本は欧米諸国と違って心筋梗塞よりも脳卒中による死亡率が高いので、日本独自の対策が必要かもしれない。
  • 脳卒中の予防につながる可能性があって自分で行える数々の取り組みについて調べてみた。主な結果は以下の通り。
  • ありきたりな話としては、脳卒中を防ぐには、酒を飲み過ぎないようにし、たばこを吸わず、適度に体を動かし、朝食を取り、眠り過ぎることなく適度な睡眠を取り、座り過ぎは避け、働き過ぎないようにし、心の健康を保つようにし、血圧が高ければ降圧剤を服用することが良さそう。
  • ありきたりでない話がいくつかあり、①酒は適量の摂取よりもほとんど飲まない方が脳卒中の発症リスクは減るかもしれない、②日本人として平均的な塩分摂取量を取る人々が塩分の摂取量を減らしても、循環器疾患の発症リスクは変わらないか、減らし過ぎるとリスクが高まるかもしれない、③野菜や果物の摂取量を増やしても脳卒中の発症リスクは変わらないかもしれない、④脂質(飽和脂肪酸かオリーブ油か)の摂取量を増やすと脳卒中の発症リスクは減るかもしれない。「かもしれない」が連発されたのは、これらについては簡単に決着の付きそうのない論争があるため。
  • 脂質異常症の薬であるスタチンは、コレステロール値や循環器疾患リスクの高低にかかわらず、脳卒中を防ぐことが示されている(ただし、脳梗塞を減らす代わりに脳出血を増やす可能性がある)。ただ、これに従うとスタチンの服用が必要な人数が膨大になり、医療費の適正化という目標との衝突が予想される。

1.はじめに

脳卒中は多くの人々を死に至らしめるだけでなく、生き残った場合でも体の麻痺が残ったり寝たきりや認知症につながったりする病気で、本人のみならず家族に負担がかかることが多く、何とか避けたい病気である。健康寿命を延ばすことは日本政府にとっても1つの目標となっているが、脳卒中を予防することはその達成に向けた重大な課題である。

戦後のデータを見ると、日本における脳卒中による死亡は著しく減少している。しかし、OECD諸国の中で心筋梗塞と脳卒中の死亡率を見ると、心筋梗塞は日本が41カ国中で1番少ないものの、脳卒中は少ない順から見て16番目で、アメリカやフランスよりも多い[1]。日本は、心筋梗塞よりも脳卒中の発症率が大きく(男性では脳卒中の発症頻度は心筋梗塞の3.7倍、女性では9.6倍)[2]、欧米諸国の多くと異なって心筋梗塞よりも脳卒中の死亡率が高いので[1]、循環器疾患の予防については、心筋梗塞に重点が置かれた欧米諸国の例が参考にならず、脳卒中の予防に重点を置いた日本独自の対策を進めないといけないのかもしれない。

本稿では、直接的にコントロールできる要因と間接的にしかコントロールできない要因に分けて、脳卒中を防ぐためにどうしたらいいかを調べて報告することにした。

なお、観察研究、RCT(ランダム化比較試験)、システマティックレビュー、メタ解析という言葉が出てくるが、これは別のレポートやそこに引用された文献を参照していただきたい。一般的には、RCTの方が観察研究よりも信頼度が高く、観察研究のシステマティックレビューは個々のRCT(特に大規模なもの)やRCTのシステマティックレビューよりも信頼されない(エビデンスのレベルが高くない)。本稿で取り上げる研究は、ほとんどが観察研究か複数の観察研究を束ねたシステマティックレビューなので、エビデンスのレベルは高くなく、本稿で取り上げた運動や食事関連の取り組みが脳卒中の予防に効果があるという因果関係を厳密に明らかにしたわけではない。

2.直接的にコントロールできる要因

(1)飲酒

飲酒については、多くの研究では、少し飲む人が脳卒中の発症率が最も少なく、飲酒量の多い人々は最も大きい。例えば、イギリスの観察研究によると、ほどほどに飲む人(同国のガイドラインの範囲内で飲む人)を基準として、飲まない人は脳梗塞の発症率が12%増(HR 1.12, 95%CI 1.01〜1.24)(注1)、飲酒量の多い人々(ガイドラインを超える人々)は33%増(HR 1.33, 95%CI 1.09〜1.63)となっている[3]。

この数字の読み方を説明しておくと、HRはハザード比と呼ばれ、(HR 1.33, 95%CI 1.09〜1.63)と書かれた場合には、1.33-1=0.33なので、基準内で飲酒する人々に対して、飲酒量の多い人々は脳卒中の発生確率が33%増加することを示す。ただしこの1.33は神様しか知らない真の値を観測されたデータで計算した推定値である。そのため、不確実性を考慮してCI(信頼区間)が同時に求められる(区間推定と呼ばれる)。今回の飲酒のケースでは、真の値が95%の確率で1.09と1.63の間に収まることを示している。この結果より、95%以上の確率でハザード比は1を超えていることが分かる。このことから、酒を飲むと脳梗塞の発症率が増えることが95%以上の確率でいえることになる(但し観察研究なので因果関係でないことに注意が必要)。95%CIが1を含まない場合(例えば、95%CI 0.91〜0.97または95%CI 1.10〜1.32)には、統計学的に見てグループ間に違いがあると評価されて有意差があるといわれる。95%CIが1を含む場合(例えば、95%CI 0.85〜1.25)にはグループ間には違いがあると断定できず、有意差がないと呼ばれる。RR(相対リスク)やOR(オッズ比)もほとんど同じものと考えても本稿との関係では大きな問題はない。もう少し詳しい話は別のレポートでも触れたが、理想的には新谷歩氏や千葉康敬氏の著作を読んでいただくのがいいと思う[4, 5]。

話を元に戻すが、上記のイギリスの研究によると、脳内出血については、飲まない人はほどほどに飲む人に比べて有意差はなく(HR 1.03, 95%CI 0.85〜1.25)、飲酒量の多い人々は発症率が37%増(HR 1.37, 95%CI 1.16〜1.62)となっている[3]。

ただし、まったく飲まない人々に比べて少し飲む人が本当にリスクが小さいかどうかについては論争があって決着していない。まったく飲んでいない人々は、例えば体が弱いために飲んでおらず、また体質も関係しているかもしれず、そうした要因があるために脳卒中の発生リスクが高い(酒を飲まないから脳卒中の発生リスクが高いのではなく、脳卒中の発生リスクが高いから酒を飲まない)可能性があるためである。この点を観察研究で判別することは難しく[6]、酒を飲むか飲まないかをランダムに振り分ける大規模なRCTが必要になるが、現実にはなかなか行えない。

この問題意識に向き合った観察研究が2018年になってLANCETという有名な医学雑誌に掲載された[6]。83の観察研究の個人データを使ったこの研究では、まったく酒を飲まない人をデータから外して、飲む人について、飲む量に応じて重大疾患のリスクがどの程度違うかを検証している。それによると、脳卒中については、飲酒量が最も少ないグループ(週に0〜25g)が脳卒中の発症率が最も少なく、週に100g増えるごとに発症率が14%増えるという結果になった(HR 1.14, 95%CI 1.10〜1.17)。興味深いことに、心筋梗塞についてはある程度の量までは飲酒量が多いほど減少する傾向がある(HR 0.94, 95%CI 0.91〜0.97)。日本人の場合は心筋梗塞よりも脳卒中の方が発症率が大きいので、循環器疾患全体を減らすためには酒は極力飲まない方がいいという結論になりそうである。

(2)喫煙

2015年に出された観察研究のメタ解析によれば、たばこを元から吸わない人々に比べて、喫煙者の脳卒中の発症率は58%増(HR 1.58, 95%CI 1.40〜1.78)、かつて吸っていた人々は17%増(HR 1.17, 95%CI 1.07〜1.26)となっている[7]。1日10本吸うごとに発症率は25%増加する(HR 1.25, 95%CI 1.19〜1.31)。喫煙していた人々が禁煙した場合にはすぐに効果が出るわけではないようで、10年以上禁煙して初めて有意な減少が見られている。

(3)食事関連

①塩分
塩分の摂取量を減らすことが血圧を下げることはRCTも含めた多くの研究があり確定的だが[8]、塩分の摂取量を減らすことが総死亡率や循環器疾患(脳卒中を含む)を減らすかどうかを直接的に検証したRCTは限られており、断定的なことはいえない[9]。誇張していうと、塩分を減らす→血圧が下がる、血圧が下がる→循環器疾患が減るという、2つの因果関係から三段論法的に証明しているところがある。

観察研究をまとめたシステマティックレビューによると、ナトリウム1g(食塩で約2.5g)増えるごとに脳卒中の発症率は6%増えると試算されている(RR 1.06, 95%CI 1.02〜1.10)[10]。

しかし、食塩摂取量が少な過ぎても循環器疾患が増えるという指摘もある[11]。代表的なものとして、観察研究やRCTのデータを統合したMenteらの大規模研究が2016年にLANCETに掲載されており、尿からのナトリウム排出量が多くても少なくても循環器疾患の発症率が上がるという結果が出ている[12]。朝の尿から1日あたりに換算したナトリウム排出量によって、1日あたり4〜5g未満(食塩でおおむね10〜12.5g未満)を基準にしたときに、3g未満(食塩でおおむね7.5g未満)だと34%増(HR 1.34, 95%CI 1.23〜1.47)、3〜4グラム未満(食塩でおおむね7.5〜10g未満)だと有意差なしで6%増(HR 1.06, 95%CI 0.98〜1.15)、5〜6g未満(食塩でおおむね12.5〜15g未満)だと有意差なしで4%減(HR 0.96, 95%CI 0.88〜1.04)、6〜7g未満(食塩でおおむね15g〜17.5g)だと有意差なしで3%増(HR 1.03, 95%CI 0.94〜1.13)、7g以上(食塩でおおむね17.5g以上)だと21%増(HR 1.21, 95%CI 1.10〜1.34)となっている(脳卒中だけのデータは本文中に記載されていない)。さらに、高血圧か高血圧でないかで区分した分析も行われており、高血圧の人々については、上記のようなU字型のカーブが見られるものの、高血圧でない人々については、ナトリウム排出量が少ないと循環器疾患が増えるものの、多くても循環器疾患が増える傾向がみられない(カーブがJ字型)。

この結果は衝撃的だが、批判もある。主なものとして、重大疾患の発生リスクが高い人々は健康のために塩分摂取量を減らしており、塩分を減らしたから重大疾患が発生しやすいわけではない(因果関係が逆)という主張がある(先程の酒を飲まない人の話と似ている)[13]。また、朝の尿から食塩摂取量を正確に推定するのは無理があるという指摘がなされている[13, 14]。

Menteらも彼らの研究が観察研究であるために因果関係を厳密に明らかにできないことは認めており、理想的には大規模で長期的なRCTが行われることが必要不可欠としている[12]。

②栄養素
2017年にLANCETに掲載されて論議を呼んだ18カ国のデータを使った観察研究(PURE Study)によると、バターなどに多く含まれる飽和脂肪酸の摂取量が最も少ないグループに比べて最も多いグループは脳卒中の発症率が21%少ない(HR 0.79, 95%CI 0.64〜0.98)[15]。この研究によると、エネルギー摂取量の5%を炭水化物から飽和脂肪酸に置き換えると、脳卒中の発症率が20%減少するとされており(HR 0.80, 95%CI 0.69〜0.93)、一価不飽和脂肪酸や多価不飽和脂肪酸やタンパク質への置き換えでは脳卒中の発症率の有意な変化は見られない。

栄養素については国ごとの差異が多いかもしれないので、以下では日本の研究を挙げる。

飽和脂肪酸についての日本の観察研究(JPHC)によると、飽和脂肪酸の摂取量が多い人々は脳卒中の発症率は低く、一番少ないグループ(11.7g未満)に比べて最も多いグループ(21.6g以上)だと23%少ない(HR 0.77, 95%CI 0.65〜0.93)[16]。ちなみに、心筋梗塞の発症率は有意差はないが逆に増えている(HR 1.39, 95%CI 0.93〜2.08)。飽和脂肪酸の摂取量が一番多いグループで脳卒中の発症者は546名で、心筋梗塞は124名となっており、日本全体としては循環器疾患の予防のためには心筋梗塞よりも脳卒中に重点を置くべきことを示唆している。

タンパク質摂取についての観察研究(久山研究)によると、植物性タンパク質の摂取量が多い人々は脳卒中の発症率が低く、最も少ないグループ(1日30g未満)に比べて最も多いグループ(1日39g以上)では40%低い(HR 0.60, 95%CI 0.41〜0.88)[17]。動物性タンパク質では、最も少ないグループ(1日16.1g未満)に比べて最も多いグループ(1日25g以上)では脳梗塞は減っておらず、脳内出血だけが56%減っていて(HR 0.44, 95%CI 0.22〜0.90)、脳卒中全体では有意差がない[17]。タンパク質全体で見ると、摂取量が多い方が脳卒中が少ない傾向があるが、最も少ない群と多い群の差はギリギリで有意差がない(HR 0.72, 95%CI 0.50〜1.02)。

以上の研究を踏まえると、主要な炭水化物である白米の消費を減らすと脳卒中は減りそうな気がするが、実際の観察研究(JPHC)ではそうなっておらず、白米の摂取量と脳卒中の間に明確な関係は見いだされなかった[18]。

③食べ物(野菜・果物・豆類・卵)
野菜と果物については、2017年に出された観察研究のシステマティックレビューでは野菜と果物の摂取量が多いと脳卒中の発症率が減っていて、1日200g増えるごとに、脳卒中の発症率が16%少ない(HR 0.84, 95%CI 0.76〜0.92)[19]。ところが、このレビュー後にLANCETに掲載された観察研究(PURE Study)では、さまざまな条件をコントロールすると、野菜と果物と豆の摂取量の多寡は脳卒中の発症率とは関係が見いだせず、野菜と果物は個別にもやはり関係が見出せず、野菜等の摂取による脳卒中の予防効果が小さいことが示唆されている[20]。豆類だけは、PURE Studyでも、ほとんど食べないグループに比べて少し食べるグループでは脳卒中の発症率が有意に減っている。ただし、一番食べるグループとほとんど食べないグループでは有意差がなく、多く食べるほど発症率が減る傾向はみられない。日本の観察研究(高山研究)では、納豆を食べる人々は脳卒中の発症率が低く、最も摂取量の少ない群に比べて最も多い群は32%低い(HR 0.68, 95%CI 0.52〜0.88)[21]。

卵については、2016年に出された観察研究のシステマティックレビューによれば、おおむね1日1個までであれば卵を摂取する方が脳卒中の発症率は低いかもしれないとしている[22]。1週間におよそ2個未満の人々に比べて1日1個食べる人々では、発症率が12%少ない(RR 0.88, 95%CI 0.81〜0.97)[22]。2018年の中国の大規模な観察研究(ベースラインでがんや循環器疾患や糖尿病の人を除いている)においても、似たような結果になっており、まったく卵を食べない人々に比べて、1日1個食べる人々は、脳出血の発症率が26%少なく(HR 0.74, 95%CI 0.67〜0.82)、脳梗塞が10%少ない(HR 0.90, 95%CI 0.85〜0.95)[23]。ただし、糖尿病の人が卵を食べると循環器疾患のリスクが高まるという研究もあり[24, 25]、糖尿病の人とそうでない人で分ける必要があることが示唆される。

④食事法
地中海ダイエットという食事法があり、その特徴は、オリーブ油や果物やナッツや野菜やシリアルを多く摂取し、魚と鶏肉を適度に摂取し、乳製品やレッドミートや加工肉やスイーツはあまり食べないようにするものである[26]。地中海ダイエットについては、PREDIMEDという7447名が参加したRCTがあって、エクストラバージンオイルを提供された群(1日あたり大さじ4杯以上の摂取が推奨された)、ミックスナッツを提供された群(1日あたり30g)、統制群(脂肪を減らすアドバイスを受けたものの食品の提供はなし)に分けて、検証が行われた[26]。脳卒中の発症が、統制群に比べて、オリーブオイル群が35%の減少(RR 0.65, 95%CI 0.44〜0.95)、ミックスナッツ群が46%の減少(RR 0.54, 95%CI 0.35〜0.82)と、驚異的な数字になっている[26, 27]。この結果に対しては、別のレポートで紹介したスタンフォード大学のヨアニディス教授が、当初の予定より早く研究を中断したことなどにより、効果が「おそらく相当誇張されている「(probably greatly exaggerated)」と指摘している[28]。

観察研究も含めた2018年のレビューでは、ナッツの摂取については、PREDIMEDと異なる結果の観察研究もあるために、本当に脳卒中の予防に資するかどうかはやや不明瞭だとしている[29]。これに対して、オリーブ油については観察研究の結果も考慮した上で、脳卒中の予防に資するとしている[29]。

⑤朝食
最近の日本の観察研究(JPHC)で朝食を抜く人は脳卒中の発症率が高いことが示されている[30]。毎日食べる人に比べて、週に0〜2回の人々は発症率が18%高く(HR 1.18, 95%CI 1.04〜1.34)、週に3〜4回の人々は有意差なしで14%高く (HR 1.14, 95%CI 0.93〜1.39)、週に5〜6回の人々は差がない(HR 1.00, 95%CI 0.82〜1.22)。脳卒中の種類ごとに見ると、毎日食べる人に比べて、週に0〜2回の人々は、脳出血では有意に発症率が多いが(HR 1.36, 95%CI 1.10〜1.70)、脳梗塞では有意差はない(HR 1.10, 95%CI 0.92〜1.30)。

(4)運動などの身体活動・睡眠・労働時間

最近日本で出された観察研究では、身体活動を行うレベルに応じて4つのグループに分けて、脳卒中の発症率を比較している[31]。これによると、脳卒中全体で見ると、おおむねL字型になっていて、最も活動しないグループを基準として、2番目に活動しないグループは17%減(HR 0.83, 95%CI 0.75〜0.93)、上から2番目に活動するグループは同じく17%減(HR 0.83, 95%CI 0.75〜0.92)、1番活動するグループは13%減(HR 0.87, 95%CI 0.78〜0.96)となっていて、上の3つのグループの間にはあまり違いがない[31]。脳梗塞についてもおおむねL字型になっていて、最も活動しないグループを基準として、2番目に活動しないグループは14%減(HR 0.86, 95%CI 0.75〜0.98)、上から2番目に活動するグループは21%減(HR 0.79, 95%CI 0.69〜0.90)、1番活動するグループは19%減(HR 0.81, 95%CI 0.71〜0.92)となっていて、これも上の3つのグループの間にはあまり違いがない。脳出血については、最も活動しないグループを基準として、2番目に活動しないグループは21%減(HR 0.79, 95%CI 0.66〜0.94)、上から2番目に活動するグループは有意差なしの10%減(HR 0.90, 95%CI 0.76〜1.07)、1番活動するグループは有意差なしの2%減(HR 0.98, 95%CI 0.82〜1.17)となっていて、身体活動量が激しいグループは活動しないグループとほとんど変わらない結果になっている。この研究からは、適度な身体活動は脳卒中の防止につながるが、あまり激しいとかえって良くないということになりそうだ。

座っている時間について、女性に限定したアメリカの観察研究によると、1日に座っている時間が5時間未満の人々に比べて10時間以上の人々は脳卒中の発症率が18%高いが(HR 1.18, 95%CI 1.04〜1.34)、5〜10時間だと有意差はない(HR 1.03, 95%CI 0.94〜1.14)[32]。

睡眠時間と脳卒中の関係については、観察研究のメタ解析によれば、7時間を基準として、睡眠時間が短過ぎても長過ぎても脳卒中の発症率は増えるが、長い方が発症率の増え幅が大きくなっている(7時間に比べて、1時間増えるごとに発症率が13%増で(RR 1.13, 95%CI 1.07〜1.20)、1時間減るごとに有意差なしの7%増(RR 1.07, 95% CI 1.00〜1.14))[33]。

労働時間と脳卒中の関係については、観察研究のシステマティックレビューによると、標準的な労働時間に比べて労働時間が多いと脳卒中の発症率が多い。週に36〜40時間を基準としたときに、35時間未満では有意差なしで20%増(RR 1.20, 95%CI 0.98〜1.46)、41〜48時間では有意差なしで10%増(RR 1.10, 95%CI 0.94〜1.28)、49〜54時間では27%増(RR 1.27, 95%CI 1.03〜1.56)、55時間以上で33%増(HR 1.33, 95%CI 1.11〜1.61)と、労働時間が増大するにつれて発症率が大きくなっている[34]。

3.間接的にしかコントロールできない要因

(1)高血圧

血圧が高い人々は脳卒中になりやすいことは多くのデータから示されている。このことは必ずしも血圧→脳卒中という因果関係を意味するものではないが、降圧剤による血圧の低下により脳卒中が減ることは最もエビデンスのレベルが高いRCTのシステマティックレビューによって示されている[35]。多くの研究では脳卒中を脳梗塞と脳出血に分類していないので、どちらも同じように減るのかどうかはよく分からない。

別のレポートで紹介したが、観察研究によって降圧剤を服用している人々と服用していない人々で比較すると、降圧剤を服用している方が循環器疾患の発症率が高い結果になることがある。また、降圧剤によって例えば最高血圧を130に下げた場合に、もともと130の人々と比べると、前者の方が循環器疾患の発症率が高い。これらのことは、降圧剤が万能ではなく、降圧剤を使って血圧を下げれば健康な人と同じ水準まで循環器疾患のリスクが減るわけではないことを示している[36]。

高血圧の有無と関係なく降圧薬を投与した最近の大規模研究であるHOPE-3というランダム化比較試験による研究によると(ベースラインの最高血圧は平均で138)、降圧剤の投与による脳卒中の予防は20%減少ではあるものの、有意差はなかった(HR 0.80, 95%CI 0.59〜1.08)[37]。ただし、ベースラインの最高血圧が143.5mmHg超(平均値=154.1mmHg)のグループだけを見ると効果が見られるので(HR 0.58, 95%CI 0.37〜0.90)、ベースラインの最高血圧がある程度高い場合のみ、降圧剤の服用が脳卒中のリスクを下げることになるかもしれない。この点は最近のRCTのシステマティックレビューでも示唆されており、ベースラインの最高血圧が160mmHg以上の研究だとリスクが31%減少(RR 0.69, 95%CI 0.60〜0.80)、140〜159mmHgだとギリギリ有意差のない14%減少(RR 0.86, 95%CI 0.72〜1.01)、140mmHg未満だと有意差のない15%減少(RR 0.85, 95%CI 0.68〜1.06)となっている[38]。ただし、ベースラインの最高血圧が160mmHg以上の研究については、古い研究で効果が見られなかったものが公表されていない可能性が示唆されており、もしかしたら効果が誇張されているかもしれない[38]。

(2)脂質異常症

①脂質の水準と脳卒中の関係
脂質と脳卒中の関係については、脳梗塞と脳出血でかなり結果が異なるようなので、別々に報告する。なお、脂質の各指標の関係は以下の通りである。

総コレステロール=LDL-C(いわゆる悪玉コレステロール)+HDL-C(いわゆる善玉コレステロール)+中性脂肪×0.2
non-HDL-C=総コレステロール-LDL-C

日本で行われた久山研究によると、non-HDL-Cについて、1標準偏差の増加による発症率の増減を見ると、脳梗塞全体は有意差なし、ラクナ梗塞は有意でないが増加傾向(HR1.10, 95%CI 0.90〜1.34)、アテローム血栓性脳梗塞は有意に増加(HR 1.39, 95%CI 1.09〜1.79)、心原性脳塞栓は有意に減少(HR 0.64, 95%CI 0.47〜0.85)という結果になっている[39]。LDL-Cについても久山研究で検証しているが、1標準偏差の増加による発症率の増減を見ると、脳梗塞全体は有意差なし、ラクナ梗塞は有意でないが増加傾向(HR 1.13, 95%CI 0.90〜1.43)、アテローム血栓性脳梗塞は有意に増加(HR 1.60, 95%CI 1.19〜2.16)、心原性脳塞栓は有意に減少(HR 0.64, 95%CI 0.44〜0.94)という結果になっている[40]。メンデルランダム化法という遺伝子情報を使った操作変数法による2018年の分析によると、遺伝に起因する1標準偏差のLDL-Cの増加によって1割程度脳梗塞が増えるという結果になっている(OR 1.12, 95%CI 1.04〜1.20)[41]。

脳出血とコレステロール値の関係は、2013年のシステマティックレビューによれば、最も高い群と低い群の比較で、総コレステロール値が高いと脳出血の発症率が低く(RR 0.69, 95%CI 0.59〜0.81)、HDL-Cは無関係で(RR 0.98, 95%CI 0.80〜1.19)、LDL-Cの数値が高いと脳出血の発症率が低い(RR 0.62, 95%CI 0.41〜0.92)という結果になっている[42]。ただし、上記の久山研究では、LDL-Cとnon-HDL-Cについて、脳出血の発症との有意な関係はなかった[39, 40]。

全体として見ると、総コレステロール値と脳卒中の関係はほとんどないとされている[43]。HDL-Cについては少々違う可能性があって、観察研究のシステマティックレビューによれば、HDL-Cの数値が高いほど脳卒中は減る傾向があるものの、断定はしておらず、更なるデータが必要とされている[44]。

以上のとおり通常の健康診断に掲載された脂質についての指標と脳卒中の関係は弱いが、アポリポプロテインB(ApoB)とアポリポプロテインA1(ApoA1)というタンパク質物質が血液中にあって、ApoB/ApoA1比は脳卒中の発症率を予想する要因の1つとなっており、この数値が高いと脳卒中の発症率が高く、最も高い群は最も低い群に比べて8割ぐらいの増加になっている(OR 1.84, 95%CI 1.65〜2.06)[45]。

②脂質異常症の薬(スタチン)の効果
興味深いことに、コレステロール値と脳卒中の間の関係が弱いにもかかわらず、LDL-Cを減らすスタチンという薬は脳卒中のリスクを下げることが多くの研究で示されている[46]。最近行われたHOPE-3という研究では、降圧剤とスタチンの両方について、脳卒中のリスクを減らすかどうかを見ているが、スタチンでは有意な減少が見られたのに対して(HR 0.70, 95%CI 0.52〜0.95)[47]、降圧剤では有意な効果は見られず(HR 0.80, 95%CI 0.59〜1.08)[37]、両者を併用した時が1番効果が大きいという結果になった(HR 0.56, 95%CI 0.36〜0.87)[48]。ただし、スタチンの服用によって脳出血のリスクが高まる可能性があり、脳梗塞の減少の便益がそれを上回っているとみられている[49]。

いくつかの研究を見ると、スタチンはApoB/ApoA1を減少させているので[50-52]、スタチンが脳卒中のリスクを減らしているのはApoB/ApoA1の減少と関係しているかもしれないが、今回調べた範囲では関係する研究を見つけられなかった。ただ、脂質異常症のスタチン以外の薬であるEvacetrapibを投与したRCTでは、ApoB/ApoA1の減少は見られたものの、脳卒中の発生リスクは有意に減らなかった(HR 0.96, 95%CI 0.72〜1.27)[53]。ApoB/ApoA1を減少させればいいと一概にはいえないのかもしれない。

(3)体重

女性に限定した2016年のイギリスの観察研究によると、BMI(体重を身長の2乗で割ったもの)が5ポイント(kg/m²)増えるごとに脳梗塞の発症率は21%増えるが(RR 1.21, 95%CI 1.18〜1.23)、脳出血の発症率は11%減る(RR 0.89, 95%CI 0.86–0.92)[54]。ただし、脳梗塞についてはBMIが22.5 kg/m²未満のグループと22.5〜25未満のグループではほとんど変わらず、それ以上のグループで増え始める。脳出血についてはおおむねBMIに比例して減少している。

2016年に出された観察研究のメタ解析では、脳卒中全体についてのみだが、22.5〜25.0 kg/m²のグループが発症率が1番小さくて、それよりも小さくても大きくても脳卒中が増えている[55]。22.5〜25.0 kg/m²のグループを基準として、15〜18.5 kg/m²だと38%増(HR 1.38, 95%CI 1.16〜1.65)、18.5〜20 kg/m²だと15%増(HR1.15, 95%CI 1.04〜1.27)、20〜22.5 kg/m²だと違いはほとんどなく(HR 1.01, 95%CI 0.96〜1.07)、25〜27.5 kg/m²だと5%増(HR 1.05, 95%CI 1.00〜1.10)、27.5 〜30 kg/m²だと23%増(HR 1.23, 95%CI 1.15〜1.32)となっている。

以上のことを踏まえると、肥満の人々はある程度体重を減らした方が脳卒中が減ることが示唆されるが、RCTの結果は必ずしもこのことを支持していない。肥満と糖尿病を抱えた人々を対象として身体活動の活性化とカロリー制限によって体重減少を目指したアメリカの大規模なRCTでは、介入群の方が減量には成功したにもかかわらず、統計的に有意ではなかったが、脳卒中の発生件数が多かった(HR 1.05, 95%CI 0.77〜1.42)[56]。観察研究だけで因果関係を明らかにしようとすることの限界が示唆されている[57]。

(4)ストレス

ストレスと脳卒中のリスクは常識的には明らかで、総括的なレビューはあるものの[58]、ストレスという言葉で調べても研究がなかなか見つからない。数値としてストレスを計測することが難しいためかもしれない。ただ、うつのようなストレスと関係の強い疾患や、ストレスを引き起こしそうなライフイベントが、脳卒中の発症と関係しているかについては多くの研究がある。

うつと脳卒中の発症率の関係を調べた観察研究のシステマティックレビューでは、うつの人々はうつでない人々に比べて脳卒中の発症率が45%増(HR1.45, 95%CI 1.29〜1.63)、致死的な脳卒中は55%増(HR 1.55, 95%CI 1.25〜1.93)、脳梗塞が25%増(HR 1.25, 95%CI 1.11〜1.40)となっている[59]。

失業について、40〜59才までを対象にした日本の観察研究(JPHC)によると、男性については、継続的に雇用されている人々に比べて失業している人々の方が脳卒中の発症率が58%高く(HR 1.58, 95%CI 1.18〜2.13)、女性では51%高い(HR 1.51, 95%CI 1.08〜2.29)[60]。いったん仕事を失って復職した人々は、継続的に雇用されている人々に比べて、男性の場合には脳卒中の発症率が2.96倍となっており(HR 2.96, 95%CI 1.89〜4.62)、女性の場合は有意差なしの30%増となっている(HR 1.30, 95%CI 0.98〜1.69)[60]。

配偶者の喪失については、日本の観察研究(JPHC)によると、家族構成に変化がない場合に比べて、男性の場合には脳卒中全体の発症率が12%多く(HR 1.12, 95%CI 1.02〜1.35)、脳梗塞はギリギリ有意でないが24%多い(HR 1.24, 95%CI 0.99〜1.54)。脳出血は有意差はない[61]。女性の場合には脳卒中全体の発症率が有意ではないものの10%多く(HR 1.10, 95%CI 0.98〜1.32)、脳出血はギリギリ有意でないものの20%多い(HR 1.20, 95%CI 0.99〜1.57)。脳梗塞は有意差はない。

親と同居することになった場合、女性のみ、脳卒中全体の発症率が42%多く(HR 1.42, 95%CI 1.07〜2.14)、脳出血が86%多くなっている(HR 1.86, 95%CI 1.12〜2.22)[61]。脳梗塞は有意差はない。

4.考察

(1)ここまでのまとめ

今回調べたことで分かったことをまとめておく。

ありきたりな話としては、脳卒中を防ぐには、酒を飲み過ぎないようにし、たばこを吸わず、適度に体を動かし、朝食を取り、眠り過ぎることなく適度な睡眠を取り、座り過ぎは避け、働き過ぎないようにし、心の健康を保つようにし、血圧が高ければ降圧剤を服用することが良さそうである。

ありきたりでない話がいくつかあり、①酒は適量の摂取よりもほとんど飲まない方が脳卒中の発症リスクは減るかもしれない、②日本人として平均的な塩分摂取量を取る人々が塩分の摂取量を減らしても、循環器疾患の発症リスクは変わらないか、減らしすぎるとリスクが高まるかもしれない、③野菜や果物の摂取量を増やしても脳卒中の発症リスクは変わらないかもしれない、④脂質(飽和脂肪酸かオリーブ油か)の摂取量を増やすと脳卒中の発症リスクは減るかもしれない。「かもしれない」が連発されたのは、これらについては簡単に決着の付きそうのない論争があるためだ。もう1つ、かなりはっきりしている話として、コレステロール値や循環器リスクの高低に関わらずスタチンを服用すると脳卒中を防ぐことが示されている(ただし、脳梗塞を減らす代わりに脳出血を増やす可能性がある)。

以下では、ありきたりでない話について考察する。

(2)各項目ごとの考察

①飲酒について
厚生労働省のHPによれば、「通常のアルコール代謝能を有する日本人においては『節度ある適度な飲酒』として、1日平均純アルコールで約20g程度である旨の知識を普及する」となっている。これは大体ビールのロング缶(500ml)1本に含まれるアルコール量とされる。

今回調べた結果によれば、脳卒中を防ぎたいと考えている人々にとっては目指すべき数値はこれよりもはるかに小さい(週に0〜25g)。アルコール摂取量が週に100g増えるごとに発症率が14%増えるというイギリスの研究が因果関係を意味するものであれば、厚生労働省のガイドライン通りに週に140g摂取した場合でも、週に25g未満しか飲まない人に比べればリスクが14%以上増えるので、最高血圧が150mmHgの人が降圧剤を服用することによって得られる脳卒中予防のメリット(RR 0.86, 95%CI 0.72〜1.01)がほとんど帳消しされるという計算になる[38]。

②塩分摂取量
上記のMenteらの研究が仮に正しいとすれば(朝の尿に含まれたナトリウム排出量からの推測が仮に信頼でき、また、相関関係から因果関係を推測できるとすれば)、食塩の摂取量は1日あたり10g〜12.5gであれば循環器疾患との関係では問題はなく、それ以上減らす必要はない(逆に減らし過ぎるとリスクがある)ということになる[12]。平成28年「国民健康・栄養調査」によれば、1日あたりの日本人の塩分摂取量は男性の平均が10.8g、女性の平均が9.2gとなっている。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、成人男性で1日あたり8g未満、成人女性で1日あたり7g未満が目標値になっているが、Menteらの研究が正しいとすれば、この目標値は低過ぎることになる。また、塩分摂取量を国民全体として今の水準以上に減らす必要はなく、減らす必要があるのは、血圧が高くて塩分摂取量も多い人々に限定されることになる[12]。イギリスで国を挙げて塩分摂取量を減らす運動があったが、このように全体的に塩分摂取量を減らす取り組みは問題があることになる[12]。

Menteらの研究では因果関係まで証明されたわけではないし、このことは著者も認めているが[12]、仮に証明されていないとしても、そのことは、食塩摂取量は減らせば減らすほど良い、あるいは少なくともWHOが主張している1日あたり5gまで減らす方が良いことを証明したことにはならない。どちらが正しいか分からないというのが正確なように思う。

③脂質の摂取
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」によれば、飽和脂肪酸の摂取量には目標量が設定されており、総エネルギー摂取量に占める割合が7%以下となっている(7%Eと呼ばれる)。上述のJPHC研究[16]では脳卒中の発症率が最も少なかったグループ(=飽和脂肪酸の摂取量が最も多かったグループ)は10.9%Eであり、上限である目標値を超えた方が脳卒中の発生がむしろ減る可能性がある。PURE Studyも似たような結果になっている[15]。

「日本人の食事摂取基準」は、JPHC研究[16]を引用しつつも、「動物実験で飽和脂肪酸摂取量を増加させると脳出血が予防できることは示されていない」ため、「飽和脂肪酸摂取量の減少が原因で脳出血が増加するかは不明である」としている(P115)。また、日本人の飽和脂肪酸摂取量の推定値として算出された7.3%Eという数値に言及して、「この値よりも飽和脂肪酸を多く摂取することによる健康利益は、脳卒中のリスク低減の可能性を除けば考えにくい」(P116)としている。

現行版の「日本人の食事摂取基準」は2014年3月に公表されているので、2017年に出されたPURE Studyは反映されていない。飽和脂肪酸の摂取量の増加による脳卒中のリスク低減の可能性は認識されているが、目標値の算出に当たっては最終的に考慮されなかったことになる。

④野菜・果物・豆類の摂取
野菜・果物・豆類の摂取が脳卒中の発症率を減らすかどうかはよく分からなかった。ただし、これは脳卒中に限った話で、分からないことの最大の根拠になったPURE Studyでも、果実や野菜や豆類の摂取量が多いと、循環器疾患以外の原因による死亡やあらゆる原因による死亡が減少していることは指摘しており、寿命を延ばす上では野菜等の摂取は意味がありそうということになる。それによると、最大のメリットを得られる量は1日あたり375〜500gとされている[20]。

(3)スタチンの服用について

ここまで述べた飲酒や塩分や脂質や野菜の話は観察研究による検証なので、因果関係までは証明されておらず、結局はよく分からないということになる。これに対して、LDL-Cを減らすスタチンが全体として脳卒中を減らすことについては、RCTのシステマティックレビューによって検証済みなので、疑問の余地が少ない。

すでに述べたとおり、全体としての脳卒中と体内における悪玉コレステロール(LDL-C)との間の関係はないか、あるとしても弱いにもかかわらず、LDL-Cを減らすスタチンには脳卒中を減らす効果がある。しかも、ベースラインのLDL-Cが高くても低くてもスタチンは脳卒中の予防に効果があり[47]、また、循環器疾患のリスクの低い人々がスタチンを服用しても効果がある[62]。これは脳卒中の予防という観点からは望ましいが、スタチンの服用が必要な人数が膨大になり、大部分の国民がスタチンを服用した方が望ましいという話にもなりかねず、医療費を適正化するという目標との衝突が予想される。

1つの案としては、一定の年齢を超えた人々全てに、医師の処方なしに、薬局でジェネリックのスタチンを無料でもらえるようにすることが考えられる。55才以上の全ての人々に降圧剤とスタチンを混ぜた薬(ポリピル(polypill)と呼ばれる)を処方するというアイディアがすでに出ている[63]。スタチンの副作用としては、筋肉のトラブル(ミオパチー)、糖尿病、(たぶん)脳内出血などが知られているが、重大な副作用の発生頻度は少なく、スタチンのメリットに比べればたいしたことはないようだ[49]。

イギリスではすでに一部のスタチンについて処方箋無しで薬局で購入できるようにしており、そのことがスタチンの服用の増加と費用の減少につながったとするという研究がある[64]。また、効率的に循環器疾患を減らす観点からアメリカでも処方箋無しで薬局でスタチンを購入できるようにすべきという医療経済学の研究が出されている[65]。

医師の処方箋無しで薬を出すことが心配であれば、きちんとした説明書を作って読んでもらうようにしてはどうだろうか。日本人は識字率が高いので、それでも十分に対応できるのではないだろうか。また、副作用があった場合などに問い合わせをするコールセンターを作ってもいいかもしれない。 ここに書いたことを行ったときに実際にどうなるかは分からないところがあるので、どこかの地域で実験(理想的には大規模なランダム化比較試験)を行うなどして、効果や費用を検証せざるを得ないかもしれない。

5.おわりに

自分自身が脳卒中にならないようにするためにはどうしたらいいかという問題意識で調査を始めたが、結局は答えが分からないところがいくつも残ってしまった。ただ、分からないと分かって解放感みたいなものが生まれたところもあった。塩分の摂取量を減らさなければならない、パンにバターを塗ってはならない、頑張ってたくさん運動しなければならない、野菜を頑張って食べなければならないといったことが必ずしも強いエビデンスに支えられているわけではないことが分かると、少し自由が増えた気がする。

おそらく、私と反対に、分からないことが増えると不快に感じる人も多いかもしれない。「分からないとは何事だ」とばかりに分からないことに対する不快感が国民に広く広がるあまり、科学的根拠の弱いガイドラインが作られてしまって、それに多くの人々が縛られることを懸念している。別のところでも触れたが、分からないことに耐えられるメンタリティの醸成も必要ではないだろうか。

脚注
  1. ^ 観察研究の場合、RCTと異なって、比較する複数のグループ(例えば、酒を最も飲まないグループと酒を最も飲むグループ)の間で、酒を飲むか否か以外でさまざまな違いがあって、それらが脳卒中の発症率に影響を及ぼすことが知られている。例えば、酒を飲む人がたばこも吸う傾向があれば、酒を最も飲むグループと最も飲まないグループで単純に比べた結果として飲むグループが脳卒中の発症率が多くても、実は酒を飲む飲まないのみが違いの原因ではなく、たばこを吸う吸わないも原因である場合がある。そこで、通常は飲酒以外に結果に影響を及ぼしそうな変数をできるだけ入れて重回帰分析を行うことによって飲酒による真の効果を推定しようとする。このように研究の関心が高い変数以外の変数も加えることを、コントロールすると呼ぶ。どこまでコントロールするかによって、HRなどの数値も変わることになるため、変数の選択に当たっては先行研究や自分自身の仮説などさまざまな要素を考慮する必要があるが、通常はできるだけ多くの関連する変数を用いる。しかし、時には血圧やBMI(体重を身長の2乗で割ったもの)など、食事法や運動などの結果として決まってくる数字までコントロールされていることがあり(これだと血圧やBMIが下がったことによって効果が生じていることを評価できない)、過大にコントロールしたり重複があることにより、効果が見いだされなかったりバイアスを持たせてしまうこともある。そのため、特にさまざまな要因が複雑に絡み合った事象の観察の場合は、変数選択は非常に難しい。本稿ではこの種の問題があることを認識しつつ、各論文の要旨に掲載された数値か、可能な限り多くの変数によりコントロールした結果を選ぶことにした。
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2018年7月23日掲載

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