1 はじめに
東京電機は、茨城県つくば市の筑波大学の隣に立地する非常用電源の製造販売会社である。筆者が主催する「IoT, AIによる中堅中小企業の競争力強化研究会」のモデル企業として2016年の研究会発足当初から参加いただいている。
今般、2024年11月に研究会メンバーで同社を訪問した。訪問の背景は、
1 特にDXらしいことをして、売り上げ増など顕著な成果が出ている。
2 研究会発足当初の2016年4月に研究会は第1回目の訪問を行い、2020年12月に第2回目の訪問を行っており、今回は3回目であり、ちょうど4年ごとの定点観測を可能ならしめる。
との趣旨であった。東京電機におかれては、研究会の訪問を受け入れていただき、大変感謝したい。
同社は、訪問するたびに、新しい試みをされていて、しかも確実に実績に結び付き、とても素晴らしい会社との訪問者全員の評価であった。
訪問メンバーからも以下のような評価が届いている。
「現場視察の中で、茨城県内で紙使用量4位とはとても信じ難い変貌ぶりでした。変わることを経営者が前提とし、その考え方が従業員にも伝わり、文化となっていることに感銘を受けました。ボトムアップで提案があり、守りのITとされるツールに果敢に挑戦されており素晴らしいと感じました。」
「東京電機の取り組みは大変示唆的で、トップは号令はかけるが、実施はあくまでボトムアップで、失敗してもやりなおせばよいという姿勢が成功の秘訣のように思えました。」
「企業活動をその範囲とともに、時間軸(将来)でも広くとらえていらっしゃる活動と感銘を受けました。・・・紙媒体のデジタル化のところだけでも、単純な置き換えだけではなくありたい姿へのそれぞれのプロセスのレベルアップ、さらには、自社内の効果にとどまらず、顧客様への価値向上も実現され、視点の高い取り組みを実現されていると理解しました。ものづくりのコアとなる、製品製作プロセスや、製品サービス機能においても、総合的に幅広くとらえて活動をされ、販売後の顧客様の使用状況や環境も含めビジネスにしっかりとりくんでいらっしゃる様子も理解できました。今後の可能性もとても広がる活動をされていると思います。リーダーのお考え、社風や社内風土なども、垣間見ることができる取り組みをされていると感じました。」
次回もまた4年後に訪問したいと考えている。変貌ぶりが期待される。
以下に東京電機から頂いた説明資料を使いながら、当日の説明内容から要点を記述する。
2 会社概要
当社は、全て受注生産、カスタマイズした商品である。長野地域が弱いので、2024年に長野に営業所を作った。
もともと、南千住でモーターを作っていたが東京大空襲で土浦市に全面移転、1975年に桜村に工場を作った。当時は周囲に何もない時代だった。
2013年に第四工場、2020年に第五工場、つくば事業所、2023年にメンテナンス会社ヨシダテクノを買収、移動電源車を開発した。震災時に使えるよう、ゴムクローラ式とした。普通車はこれまで受注している。
非常用電源は年間約6,000台の市場である。当社は全国で第3位のシェアである。震災時の2010年は35億円だったが、売上高は2020年がピーク、その後、建設需要が冷え込み、コロナで売り上げは下がったが、再び元に戻り、高止まりしている。
3 ペーパーレス化
帳票のデータは全て手で書いていた。それをパソコンに手で入力していた。それを電子化し、ポータルで作業するようになった。
顧客が来て立ち合い会での試験データは、25分を要していたのが10分で可能になった。すぐにデータを取り出して持ち帰ってもらう。「当日、もらえると思っていなかった」と言ってもらえる。さらに電子化を進め、電子媒体で保存するようになり、紙がなくなった。今は、立ち合いテストのリモート対応もできている。
4 通信機能の装備
発電装置に通信機能を装備したが、常時監視のニーズがない。現場では電気主任技術者が全てを一括で見ていて、個別のものを見ていない。非常用電源は、ついでに見ているという状態。バッテリーは常にON状態だが、他は休んでいる。
5 QRコード
HPに動画を載せている。YouTubeに飛んで、エア抜きの方法を動画で説明している。多い動画で再生2,700回くらい。
6 出張連絡業務
4年前に訪問されたとき、この業務を始めたと説明したが、結局、うまくいかなかった。出張情報の管理が難しいことに加え、アクセスも煩雑になっていった。
また小さい会社は、ネットを使えないから電話で対応していた。
7 在庫の見える化
重さで管理する。4年前訪問時にはまだスタートしていなかった最近始めた新しい取り組みである。
従来の習慣や信頼関係をもとに自由に部品が持ち出されている。大きいモノはアナログでも管理できるが、小さいモノの管理ができない。必要だから持っていくのだが、それを重さで管理するようにした。まだまだ部品はあるのに、多めに買い増しし、在庫が膨らんでいたが、重さで管理するようにすると、在庫の量がわかる。本当に在庫が減ってから、買い増しするようになったので、500万円の在庫が100万円減った。今年からスタートし、6カ月たった結果である。今後は200万円の削減を目指したい。200種類の部品を管理するため、200台の計測器を置いたので400万円の投資、作業効率が2割アップしたので。1年で回収できる。
8 メンテナンスのリモート支援
今後予定している業務である。遠隔支援導入を予定している。若い人が熟練者になるまで、新人を熟練者がリモートで支援する。メンテナンスは年1回あるが、古い製品もあり、さばききれない。現場で新人がカメラを付けて作業、その画像を本社にいる熟練者が見ながら、指示を出す。いまは熟練者がとても少ない。
非常用電源は、震災時でもどうしても止められない事業所に入る。例えば、冷蔵庫を持っている倉庫、どうしても止められない工場など。非常用電源は消防法にのっとっている。スプリンクラーなど防災設備があるところには必ず入る。一定規模の建物があるところにも必ず入る、タワマンは地下水が入らないよう発電装置は上層階にある傾向である。
9 当社のDXに対する取り組み
このような次から次への発想は、全てボトムアップである。最初は「参加すれば、何か得る物があるだろう。うちでもやってみよう。」という指示から始まった。失敗してもやりなおせばいいじゃないか。とにかく、やってみよう。
DXを社内で統括している部門はいないが各部署がおのおの検討して、発案している。それが結果的にうまく回っている。カイゼン運動は月1回やっているが、特にDX化できることはやっていこうという意識。