IoT, AI等デジタル化の経済学

第137回「テレワークを浸透させ、個人・企業のパフォーマンスを向上させるにはどうすればいいか(3)」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/日本生産性本部

3 テレワークが生産性を下げるという主張を1点ずつ議論する

本章では、テレワークはやはりうまくいかないという人々の論拠となっている点を1つずつ吟味する。その主張は本当に根拠のあることなのか。

(1)
テレワークで生産性の高い仕事をするには、テレワークで働くための周到な事前準備が必要である。その準備なくして、コロナになったからといって、いきなり従業員を在宅で働かせても、うまくいくはずがない。先述したアンケート調査でも、生産性が下がったという回答が、1/3になっている理由もうなずける。

事前準備とは、大きく分けて、情報通信環境、執務環境、業務の内容である。

・情報通信環境:
パソコンを持っていない人、Wi-Fiを持っていない人、自宅に光回線が引き込まれていない人は一体どうするのか、ということを考えないで、いきなりテレワークしろと言っても不可能である。もし仮に、自前のパソコンやWi-Fiを持っていたとして、それを会社の仕事用に使用し、パソコンが壊れた、通信料金が跳ね上がったとなるとそれを会社は負担してくれるのだろうか。

自前のパソコンを使って、または会社のパソコンを自宅に持ち帰って、会社にいるときと同等の業務環境は確保できるのだろうか。例えば、メールが通常どおりに使えるのだろうか、社内のサーバー内にある業務用のファイルにアクセスできるのだろうか、もしできたとして情報漏洩の心配はないのだろうか。

・執務環境:
日本の家庭では、夫の書斎部屋が存在している家はまれだろう。夫は、夜、寝るために帰宅するだけなので、家庭の中では、妻と子供のスペースが優先する。夫がいきなりテレワークとなっても、食卓テーブルくらいしか執務場所がない。妻が家事をする隣で仕事をしたり、学校から帰ってきた子供が遊び回る中で仕事をする。たまりかねて家の外に出て、コーヒーショップに入ると、コーヒー代がかかる。それは自前で負担である。

・仕事の内容:
日本人の業務は、業務範囲が明確に区分され、定義されている「ジョブ型」でない。例えば、病気で1人休んでも、仕事は滞りなく流れる。その理由は、休んだ人の仕事を、周囲の人が、少しずつ引き受けて、結局、休んだ人の仕事をすべて周囲の人がカバーして、やってしまうからである。人と人との業務の境界線が、まるでアメーバのように、ケースバイケースで時々刻々動いている。こうした業務形態では、人と人が、隣同士で座っているからこそうまく機能するのであり、もし、人と人が遠くに離れしまうと、機能しない。すなわち、テレワークが機能するためには、1人1人の業務を切り分けて、各人に割り振らないといけないが、かつてそのような形態で仕事をしたことがない日本企業では、何をどうすればいいか分からない。すなわち、もともと、全員が会社の中で、隣同士で座っていなくても、会社の外にいても業務が回っていく仕組みが作り出されていないと、テレワークできない。

(2)
管理職が部下を管理できないと不安になる現象が発生している。これまで日本企業では管理職は部下の何を管理していたのだろうか、という原点が問われている。おそらく、気付いていないかもしれないが、日本企業の中の管理職は、目の前に部下がいることをもって管理していると思い込み、ほっとしていたのではないだろうか。

本来、管理職が管理すべきは、人間ではない、業務内容である。すなわち、目の前に部下がいようがいまいが関係ない。部下に業務を指示し、その進捗を報告させ、そして助言を与え、期日までに仕事を完成させることであるはずだ。仕事の内容がしっかりと管理されていれば、目の前に部下がいようといまいと関係がない。テレワークをうまく機能させるためには、管理職が意識を変えないといけない。

(3)
Web会議では、相手の細かい表情や感情の起伏が把握できないため、相手の表情を見ながら話を進めるような打ち合わせにはWeb会議は使えないということを聞く。

だが、これこそ技術が解決できる問題である。4K画像を立体的にディスプレーに表現すれば、またVRを用いれば、かなり現実に近い繊細な画像を見ることができる。もしかして、対面で会うときよりも、細かい顔のしわなども見えるかもしれない。

(4)
会社で人々が行っていたような「雑談」が、テレワークではできない、ということを聞く。「雑談」の中から仕事のことで新しい発想が生まれることがあるという。私は、その真偽については、いささか疑問だが、日本人にとって、会社で「雑談」し合うことは、とても重要なことのようだ。私自身は雑談をほとんどしないで、業務時間中は仕事に没頭する方なのだが、私はこれまで「雑談」をするために出勤しているような人も見てきた。

仕事をするよりも会社でおしゃべりするために出勤するような人にとっては、テレワークは精神的に耐えがたいだろう。そうでなくても多くの日本人にとっては、仕事の手を止めてでも「雑談」したいという人が多いのは確かである。それでは、Web会議で、「雑談タイム」という具合に時間を決めて、雑談をすればいいのではないだろうか。確かに、会社で対面で雑談することと比べると精神的な満足度は落ちるかもしれないが、まあまあの雑談は確保されるだろう。まして、4Kが導入されれば、ぐっと現実に近づくだろう。

4 どんなに手を尽くしても最後に残る問題

以上のように、お金と時間をかけて手を尽くして準備をしたとしても、最後に残る問題は何か? 筆者は、下記の論点がどうしても最後に残る問題だと思っている。

新入社員が会社に入ると、先輩が、会社の中で生きていく知恵をいろいろと教えてくれる。例えば、あの人には気をつけろ、社内の派閥や力学はこうなっている、などなどである。新入社員は、そうした情報を持ち寄り、終業後に飲みながら情報交換をする。そうすることで、次第に会社の色に染まり、自分は会社の一員であるという帰属意識が高まり、この会社で働き続けようという意識が強くなってくる。

ところが入社して一度も出社せず、24時間365日、ずっとテレワークが続くと、こうした会社のなかで生き抜く知恵は身に付かず、会社への帰属意識も高まらない。

また、通常、ある大きな仕事が終わると、チームの人々は、「やったー!」と大声を上げ、その夜はみんなで飲みに行って打ち上げをする。そうすることで、中間同士の連帯意識が高まる。「同じ釜の飯を食った仲間」になる。だがテレワークでは、こうした連帯意識は養われない。

以上の点が、どんなに手を尽くしても、テレワークでは実現できない最後の問題であろうと筆者は考える。

この点は会社が、意識的に補完しなければならない。すなわち、24時間365日テレワークをするのではなく、定期的に、会社に出勤してもらうことで、この問題を解決することができる。

テレワークは、対面方式を組み合わせることで、生産性を上げることが可能になるのである。

5 最後に

テレワークは以上に述べたように、とても面倒くさい。コロナが収束しつつあるように見える今、テレワークをやめて通常の勤務形態に戻そうという動きが出ていることもこうした事情が背景にある。

だが筆者は、世界的に見て生産性が低いと言われている日本のオフィスワークにおいて、生産性を高め、より快適な労働環境を確保するため、テレワークは日本に残された「最後の切り札」と考える。せっかく、コロナでテレワークを体験したのだから、今後は、テレワークの欠点を補いながら、時間をかけて丁寧に、テレワークで働く環境を作り上げていくことが、これからの日本にとって重要だと思っている。

2021年11月10日掲載