IoT, AI等デジタル化の経済学

第90回「広島県による中小企業へのIoT導入支援事業」

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

広島県では、県内の中小企業へのIoT導入を支援する事業を行っている。その取り組みについて紹介したい。

1 イノベーションインストラクター育成塾について

広島県では、平成27年4月から県の産業支援機関である公益財団法人ひろしま産業振興機構)に「ひろしまものづくり人材育成センター」を開設し、経済産業省「スマートものづくり応援隊事業(旧:カイゼン指導者育成事業)」の補助事業も活用しつつ「指導者育成(スクール)事業」と「現場派遣事業」に取組んでいる。すでに開校から4年が経過し、スクールの卒業生90名、派遣企業も17社に及び、参加企業のなかにはリピーターも多く、企業内の人材育成の一環として、スクールに参加させる経営者も多い。


[ 図を拡大 ]

平成29年度からは、「スマートものづくり応援隊事業」として、IoTやロボット導入支援領域(現場改善指導者に加え、IoT・ロボット導入支援指導者の育成事業を追加)についての取り組みを開始している。

具体的には、地域のITコーディネータをはじめとしたITおよびIoTやAI等に知見を有する人材で、受講終了後にインストラクターとして現場改善活動に従事できる方を受講対象者に加え、ものづくり現場に密着した改善手法・その実行プロセスを学んでいただき、将来のITカイゼン・IoT利活用の指導人材の育成に注力している。

また、製造現場で経験豊富な人材に対し、IoT・ロボット導入ノウハウ等の汎用的なスキルを習得していただく、その前段階として、IoTへの理解・関心を促すため、「IoT実践セミナー」をIVI(インダストリアルバリューチェーンイニシアティブ)様のご支援のもと、県西部(広島)と県東部(福山)の2会場で開催している。


[ 図を拡大 ]

2 ひろしまIoT実践道場について

広島県では、平成29年度からIoT関連の人材育成事業への取り組みを始めているが、参加した企業のアンケート結果から、「何から手を付けてよいかわからない」「投資判断ができる人材が社内にいない」といった声が多かった。また、セミナーに参加した担当者が学んだことを持ち帰り、いざ企業の中で実践しようとする際に、経営者自身のIoT活用に対する理解度が低いことに加えて、現場への導入をリードしていく組織や人材の不足などの理由から、導入に向けた具体的な活動につながりにくいという声も多かった。

『平成29年度 広島県IoT人材育成セミナーⅠ』アンケート結果より
『平成29年度 広島県IoT人材育成セミナーⅠ』アンケート結果より

そこで、平成29年度6月から経済産業研究所(以下「RIETI」という。)主催の「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化研究会(以下「RIETI研究会」という。)」にオブザーバーとして参加させていただき、どのようにして企業のIoT活用を支援していけばよいのかを学ぶこととした。当研究会の特徴的な点は、経営者を研究会に参加させることと、中小企業でのIoT活用に精通した大手ベンダーや有識者を交えていることである。これにより、経営者自らIoT活用に対しての理解が進むとともに、自社の体力に見合った最適なアプローチを選択できるというメリットがあると認識している。

広島県では、これらのメリットを生かすべく、上記研究会の地方展開として、平成30年9月「ひろしまIoT実践道場(以下「IoT道場」という。)」を立ち上げた。県内中小製造企業を対象として、①モデル企業を選定のうえ、IoTの導入・実践を支援し、中小企業のIoT導入に対する経済性を明確にすること、②活動を通じて得た成果や導入までのプロセスをモデルケースとして、地域に広くアピールすることで、地域展開を加速していきたいと考えている。

今年度の参加メンバーは、モデル企業である株式会社オーザック様と広機工株式会社様をはじめ、地域有識者6名、首都圏でRIETI研究会にも参加されているIoTベンダー様4名を迎えてスタートした。このメンバー全員でモデル企業の現場・経営課題に対して、コンサルティング的にアドバイスを行うことで、IoTによる課題解決を支援していくことがねらいである。


[ 図を拡大 ]

3 立ち上げから第1~3回の開催を終えて

(1)モデル企業の選定について
まず、このようなIoTに関する実践の場を地方で設けるうえで「参加企業が集まりにくい」という課題がある。特に、製造業の場合、自社の製造ノウハウや現場の知恵といった競争力の源泉になるナレッジを、IoT活用の公開を通じて流出することに対する懸念から、参加を敬遠される経営者も多かった。今年度のモデル企業は、2社ともイノベーションインストラクター育成塾およびIoT実践セミナーに参加実績のある企業であり、現場改善より段階を踏んでいる。経営者もIT・IoT投資に関しては意欲的であり、最終的に経営者ご自身の判断でIoT道場への参加を決定頂いた。

(2)地域の支援体制について
次に、地方には中小企業に寄り添って支援をできるITベンダーが少ないことである。地方では、大手ベンダーの営業拠点はあるものの、IoT投資に、ある程度の規模感や投資見通しがないと導入につながりにくいこと、一方、地域の中小ITベンダーの体力では、活用体験の支援やPoC(実証実験)への積極的な協力が得にくいといった声が聞かれる。これは、現場の課題に立脚し、ボトムアップでIoT活用進めていく実践の場を提供するうえで、大きなボトルネックとなる。今回は、RIETI研究会に参加されているIoTベンダー様のご支援を仰ぐことができたが、将来的には地域の中小ITベンダーやITコーディネータの方々に参加をお願いしたいと考えている。

4 最後に

広島県においては、イノベーションインストラクター育成塾やIoT実践セミナーを通じたモデル企業の探索、IVI様やRIETI主催研究会の参画ベンダー様などとの連携を通じたIoT支援の在り方などを参考にすることで、何とかIoT道場の立ち上げまでこぎつけることができた。この間、多大なご支援を頂いた関係者の皆様に感謝を申し上げる。

2019年2月18日掲載