8 情報化投資の遅れ
8-1 はじめに
これまでのあらゆるアンケート調査により、日本企業における情報化投資の傾向はほぼ正確に把握されている。それは、投資分野は、コスト削減・人員削減を指向する「守りの投資」の方向に向かい、新しいビジネスモデルを開発して売上げ増を指向する 「攻めの投資」には向かっていない、ということである。
「守りの投資」で得られる利益は微々たるものなので、経営者は、情報化投資をしてもさほど儲からない、そのため益々情報化投資に消極的になるという負のスパイラルに陥っている。従業員側としても自分たちのリストラにつながる可能性がある投資にはやる気がでない。
日本企業は、情報化投資に対する期待の低さから、情報分野の研究開発投資も低調である。
ドイツ、米国、日本の合計300人の専門家にアンケート調査したMckinset&Company, "Industry 4.0 Global Expert Survey", January 2016によれば、日本企業の経営者は、早い技術革新のスピードに強い脅威を感じているにもかかわらず、デジタル技術に関する社員の能力を強化しなければならないとは考えていない。
日本企業の経営者は、不確実な将来や急激な技術変革を目の前にして、自社を成長に導く自信がなく、立ちすくんでいる。そして、日本の経営者だけが、自社の成長見通しについて、自信を持っていない。
8-2 国際IT財団による調査
2015年5月、国際IT財団は、日本企業のIT投資に関する調査結果を発表した。調査時点は少し古いが、これ以降、同種の調査が存在しないことや、その後大きく変化していないことから、同調査を用いる。
目的;IT投資の現状及びIT活用の実態と効果、人材投資の実態把握
方法;郵送及びWebによるアンケート調査
期間;2014年11月13日~2015年1月19日
対象;日経リサーチ社保有の企業データベース 3,536社
有効回答数;615社(回収率17.4%)
調査実行委員会;主査 宮川努 経済産業研究所ファカルティフェロー/学習院大学経済学部教授
ITを導入した業務分野として、上位は「経理会計」「人事給与」「文書管理」など管理分野であり、コスト削減・人員削減を指向する「守りのIT投資」と呼ばれている分野である。投資の下位は、「経営戦略」「市場分析、顧客開発」「商品サービスの企画開発」など新しいビジネスモデルを開発し、売上げ増を指向する 「攻めのIT投資」と呼ばれている分野である。

IT導入を阻む障壁としては、上位に位置するのが「人材が不足している」「コストの割には適切な投資効果が得られない」「戦略立案が出来ない」である。すなわち、コスト削減・人員削減を指向する「守りのIT投資」で得られる利益は微々たるものなので、経営者は、情報化投資をしてもさほど儲からないと考え、IT投資によるメリットが見えにくいため、経営者は、IT投資に慎重になっている。

8-3 一般社団法人 電子情報技術産業協会による調査
平成25年10月9日、一般社団法人 電子情報技術産業協会は、「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」調査結果を公表した。それは、JEITAが日米企業の「非IT部門」を対象にIT投資の意識調査を実施したものである。
調査概要:日米の民間企業に、ITに対する意識調査を実施 時期:2013年6月~7月
企業規模:グローバルで従業員数が300人以上
産業分野:医療、教育、政府/地方自治体、情報サービスを除く全業種
(1)アンケート調査
回答者:経営者、およびIT部門以外(事業部、営業、マーケティング、経営企画)のマネージャー職以上。
形式:Webアンケート 回 答 数:日本/216社、米国/194社
(2)ヒヤリング調査
取材対象:アンケート調査に協力を頂いた方を対象 形式:直接取材 取材数:日本/5社、米国/2社
IT投資の重要性の認識について日米比較をすると、日本の経営者はIT投資が重要と考えている割合がとても低い。

また下図は日米間のIT投資の向かう方向が決定的に異なることを示している。すなわち、日本は、コスト削減・人員削減を指向する「守りのIT投資」と呼ばれている分野に向かい、米国は、新しいビジネスモデルを開発し、売上げ増を指向する 「攻めのIT投資」と呼ばれている分野に向かっている。

8-4 マッキンゼー&Coによる調査結果
マッキンゼー&Coは、 2016年1月でアンケート調査した「日米独3ヶ国におけるインダストリー4.0/IoTの実態調査」を発表した。調査結果を一言でいえば、3カ国を比較することで、日本がインダストリー4.0/IoT分野に大きく遅れていることが浮き彫りになった。
< 調査の概要>
調査名;Mckinset&Company "Industry 4.0 Global Expert Survey"
公表;2015年1月と2016年1月
調査対象;ドイツ、米国、日本の合計300人の産業専門家にアンケート調査
1年前と比べてインダストリー4.0/IoTが企業競争力に与える影響の可能性についてどのように認識が変化したか、との質問に対し、米国では、「より楽観的になった」が44%となったが日本では8%しかない。日本では、「悲観的になった」が3カ国中最も大きく18%もあり、「変化なし」も74%と最も多い。日本ではIoTに対する期待がとても低い。

貴社はインダストリー4.0?/IoTに対する備えは出来ていますか、との問いに対して、米国は71%、ドイツは68%であるが、日本は36%と極めて低い。ここからも日本の産業界では、IoTに対する期待がとても低いことが分かる。

貴社は、研究開発費のうち何%をインダストリー4.0分野に投資していますか、との問いに対して、米国、ドイツとも10-19%が最も多いが、日本は0-4%が最も多い。日本の産業界は、IoTに対する期待の低さから、研究開発投資も低調である。

8-5 情報通信白書2017による調査
日本企業は、第4次産業革命に対する期待が低いこともあり、「取り組んでいる」企業が少ない。

そうはいっても、日本企業が予想する顕在化の時期は、ドイツ・米国企業とほとんど変わらない。にもかかわらず、日本企業は10年先を見据えて、今から対策を講じていない。

8-6 PwCによる調査
調査概要;

日本の経営者は、不確実な将来や急激な技術変革を目の前にして、自社を成長に導く自信がなく、立ちすくんでいる様子が窺える。

日本の経営者は、早い技術革新のスピードに強い脅威を感じている。それでは、そのための手を打っているだろうか?

早い技術革新のスピードに強い脅威を感じているにもかかわらず、日本の経営者だけが、「デジタル及びテクノロジーに関する能力」を強化しなければならないとは考えていない。

そして、日本の経営者だけが、自社の成長見通しについて、自信を持っていない。

8-7 OCEDによる調査
日米独のIT投資を比較すると、 日本のGDP・人口は、ドイツの約1.5倍なので、GDP原単位当たり・人口1人当たりのIT投資はドイツの約2/3と考えられる。米国には圧倒的に及ばない。
