IoT, AI等デジタル化の経済学

第52回「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会(NO.7)」

岩本 晃一
上席研究員

先日、平成29年度の第1回目の研究会が開かれた。

昨今、新聞には毎日のようにIoTに関する記事が載るほど、日本はIoTブームといえるが、残念ながら、それはほとんど大企業である。日本の中堅・中小企業の現場に新たに本格的なIoTを全面的に導入し、かつ実績が出た、という事例はほとんど聞かない。中堅・中小企業にIoT導入が進まない理由は、「よくわからない」の一言に尽きる。「よくわからない」には2通りの意味があり、1つ目は「技術が難しくてよくわからない」2つ目は、「自分の会社にどのようなメリットがあるのかよくわからない」という意味である。

その壁を乗り越えるため、経済産業研究所において、「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会」を平成28年4月から開催してきた。研究会は、当面の目標である初年度の検討を終え、現在、初年度の成果を本として日刊工業新聞社から近々出版予定である。

当研究会で採用した手法は、「モデル企業のケーススタディの積み上げ方式」である。研究会では、モデル企業を取り上げ、議論を最初から開始し、さまざまな検討経過を経て、最終的に、IoT投資、効果測定へと進む。

研究会は、その試行錯誤のノウハウを公開することで、全国の中堅・中小企業の社長に、自社の現実の問題として実感して頂くことを目的とする「公益目的の研究会」である。そのため、前年度と同様、平成29年度の1年間で得られた成果を、公開する予定である。

<公開媒体>
・経済産業研究所のホームページ
・依頼講演会での講演
・依頼執筆でのメディアへの掲載
・本として出版
・当研究所の論文 など

1 研究会の参加者

今年度は、新たにモデル企業3社を加え、また有識者委員の増強を図った。 昨年度は、中小企業の基本形ともいえる「機械系製造業の工場のなか」(BtoB, BtoC)を取り上げたが、今年度はそれ以外の形態も取り上げ、検討対象を初年度よりも若干幅を広げ、ケーススタディを積み重ねる。また、昨年度のモデル企業である東京電機、正田製作所、日東電機の3社には、年度の途中で、進捗報告を願う。

<モデル中小企業>
川瀬泰人 日本リファイン株式会社代表取締役
平山修一 金属技研株式会社情報企画室課長
篠原正幸 しのはらプレスサービス株式会社代表取締役社長
金森良充 株式会社ダイイチ・ファブ・テック代表取締役

<IoTシステム提供企業>
高鹿初子 富士通株式会社ものづくりビジネスセンターものづくりプロモーション企画部
吉本康浩 三菱電機株式会社FAシステム事業本部FAソリューション事業推進部FAソリューションシステム部技術企画グループ主席技師長
角本喜紀 日立製作所産業・流通ビジネスユニット企画本部研究開発技術部長

<識者>
澤谷由里子 東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科教授
澤田浩之 国立研究開発法人産業技術総合研究所製造技術研究部門 総括研究主幹
宮澤以鋼 地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所海老名本所事業化支援部デジタルものづくり担当部長
木本裕司 トーヨーカネツソリューションズ株式会社エグゼクテイブ・フェロー(前ジェトロ・ベルリン所長)
久保智彰 ロボット革命イニシアティブ協議会事務局長

<オブザーバー>
川井徹郎 日本商工会議所/東京商工会議所企画調査部主任調査役
青木和延 株式会社日東電機製作所取締役会長
元木常雄 株式会社正田製作所技術担当
早野健治 株式会社東京電機取締役技術品証担当
鈴木清生 株式会社東京電機技術グループ新エネ開発チーム課長
麦倉智史 群馬県産業経済部工業振興課係長
尾上正幸 広島県庁商工労働局イノベーション推進チーム主任
野代豊 株式会社日刊工業新聞社東京支社総務部
木村文香 日刊工業新聞社出版局書籍編集部

2 今年度の研究会の進め方

(1) おおまかな年間スケジュール

平成28年度の研究会は4月に第1回目を開催し年間計5回、研究会委員によるモデル企業視察1回。平成29年度も、ほぼ同様になるものと想定。

第1回研究会; 研究会の進め方の確認、モデル企業からの会社概要紹介、モデル企業視察の日時等の確認
(モデル企業現地視察)
第2〜5回研究会
① モデル企業が抱える「課題」を全てテーブルに出す
 ・IoTシステム提供企業の3委員及び有識者委員が「課題」と考えるもの
 ・モデル企業が「課題」と考えるもの
② モデル企業が、テーブル上の「課題」の中から実行するものを選択
③ 「課題」をIoTを用いて「解決」する方法の検討と決定
④ 投資金額の想定、投資対リターンの試算
⑤ 投資の是非の決定
⑥ ITベンダー/システムインテグレーター企業の選定
⑦ IoTシステム導入、効果の計測

(2) 検討内容

昨年度に引き続き、更にケーススタディを積み重ねる。

また、中堅・中小企業向けIoT導入を支援する専門家について当研究会における1年間の活動経験を通じてわかったことは、
① 企業が抱える「課題」を見いだすこと。
② 「課題」の「解決策」を見いだすこと。
以上、2点が、中堅・中小企業向けIoT導入の最も重要なポイントである。しかも、1社ずつ全て「課題」「解決策」が違うというケースバイケースに対応しなければならない。その業務を担う専門家は、「デザイナー」「データサイエンティスト/データエンジニア」と呼ばれている。
日本で中堅・中小企業向けIoT導入を支援する専門家をどうすればいいか、については、まだどこでも議論がなされていない。そこで、当研究会で検討する。
IoTシステム提供企業委員および有識者委員は、モデル企業を対象に、自ら当該専門家になろうと努めて頂き、その体験に基づき、議論する。

*デザイナー;IoTを導入するためには、作業工程の変更のみならず、企業の組織体制の変更など、関連する制度を再設計する必要がある場合がある。その再設計の役割を担う専門家をデザイナーと呼ぶ。

3 モデル企業3社の研究会参加の動機およびIoTに期待するもの

研究会では、モデル3社からプレゼンが行われた。そのなかでも、研究会への参加動機、IoT導入に期待するもの、に関する説明内容は以下の通りであった。

3-1 日本リファイン

会社ホームページ;http://www.n-refine.co.jp/

<参加動機>
① 弊社工場では少量多品種生産が中心で、多くの人、手間をかけ操業しております。この負荷をなんとか削減、効率化できないか?
② 販売設備において IT、IoT技術により付加価値をアップさせ、顧客、当社ともに運転管理負荷をさげるようなことができないか?
と考え応募させていただきました。

<IoT導入に期待するもの>
① 自社工場における蒸留設備の運転管理、保守管理の改善、省力化
② 販売設備の遠隔管理、トラブル予知、継続保守などにより装置の付加価値アップすることができないか検討をすすめたく考えております。

3-2 金属技研

会社ホームページ;http://www.kinzoku.co.jp/

<参加動機>
IoT導入を進めていきたいが、「何を」「どこから」始めていけばよいのか?
またメリット(費用対効果)があるのか? などの問題があり、進められていない。
この研究会をきっかけにして導入を進めていきたい。

<IoT導入に期待するもの>
① 社内の「見える化」:PDCAによる現場力向上
② ロボットなどの導入による省人化・自動化
③ 設備予兆管理
④ 生産管理システムなどの導入
上記のものを取り入れて、工場の生産性を向上させる。

3-3 しのはらプレスサービス

会社ホームページ;http://www.shinohara-press.co.jp/

<参加動機、IoT導入に期待するもの>
各種データを採取し、さまざまなサービスを顧客に提供する。なかでも、「見える化」を超えて、現在、人間が行っている「どうすればいいか」まで提供できないか。

2017年8月2日掲載

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