IT@RIETI

no.48: インターネットはビジネスインフラとしてどこまで成熟したのか

安延 申
ウッドランド株式会社代表取締役社長/スタンフォード日本センター理事・リサーチフェロー

今回のコラムは、極めて私的な話題でスタートすることをお許し頂きたい。また、内容も、いつもの格調高くアカデミックなコラムを期待されている方には、飛ばして読んでいただいた方が良いかもしれない。

小生、自分の会社経営のことで、大体、四苦八苦している。また、本社が大阪にあるということもあって、出張も多く、色んなところを飛び回ってもいる(数えてみたら、今年に入ってからだけで、国内9回、海外1回出張している)。本来であれば、社業だけで手一杯なのだが、元役人という前歴ゆえか、様々な自治体・政府関係の仕事や、原稿などを依頼される機会も少なくない。心理的にはかなりの負担である。しかし、考え方を変えれば、無料で宣伝して頂いているようものでもあるし、こういう話を頂けるだけでも有り難いことであるので、出来る範囲でお受けすることにしている。ただ、できるだけ、こうした仕事は、会社の時間外にやることにして、作業場のような安アパートを借りている。

仕事で使うため、当然であるが重い添付ファイル付きのメールなどもバンバン送られてくる。もう少し手慣れてくれば、コンテンツをWebにアップしてurlだけを送付すると言ったこともやってくれるのであろうが、残念ながら、そこまで情報リテラシーの高い人は多くない。つい先日、某自治体から送付されてきたメールなど、10メガバイトのファイルが添付されていた。こうなると、ブロードバンドでなければ仕事に差し障りが出る。このため、当然回線はADSLである。サービスが提供されてすぐに8メガのADSLサービスに加入した。その約2年強、我が作業場のネットワーク環境は快適で、むしろ会社のネットワークよりも早いくらいのネットワークアクセスが可能であった。

ところが、今年のお正月過ぎに異変が起きた。何故か、ISPのサーバに接続が出来ない。「サーバが見つかりません」と言ったメッセージがディスプレイに表示される。何か、誤った操作でもしたかと思って、ブラウザの設定をサイドやり直したり、ADSLモデムのスイッチを入れたり切ったり、LANケーブルの方向を入れ変えて接続してみたり、思いつく方法は全部やってみたが、なお、接続不能である。しかも、完全に接続不能であるなら、どこかの故障かなとも思うが、時々接続できるから始末が悪い。

最初のうちは、二日に一度ほど、気まぐれにネットワークが接続されていた。しかし、これでは仕事にならないので、ISPのサポートデスクに電話する。「○○と△△と××と色々試してみましたが、直りません。」と説明しても、先方は、「一応手順ですので、こちらのご説明する操作を順番にやってみて下さい。」と言われ、最初から、また、モデムのスイッチを入れたり、ソフトの再設定をしてみたりの繰り返し。一通り終わるのに最低でも1時間、酷いときには1時間半くらいかかる。それでも事態は改善しない。結局、この2ケ月の間に4度ほどサポートデスクに電話するのだが、むしろ、症状は悪くなる一方で、ここ1ケ月、一度接続に成功しただけである。まぁ、一生懸命対応してくれるだけ、一時期話題になったADSL放置事件よりもマシだとは思うのだが、こちらのフラストは溜まる一方である。

結局、推測されるのは、どこかで回線が相互干渉を起こしていて(隣で、今、新築マンションが工事中であり、これが犯人ではないかなと睨んでいるのだが・・・)ADSLが機能しない状態になっているのではないかということなのだが、こうなると甚だ悲惨な状況となる。つまり、

  1. 古いアパート(マンション?)なので、光ファイバーなど敷設されていないし、これを引き込もうにも大家さんの同意が得られるとは考え難い。
  2. 無線LANのスポットは近くにない。
  3. ISDNに戻すかとも考えたのだが、前述したような大きな添付ファイルなどが送られてくるし、フラストが増すばかりではないかと危惧される。 ということで、うまい打開策がないのである。最近では、真面目に回線環境だけを理由に、作業場の引っ越しを考えている。

ここまで書けば、まぁ、笑い話なのだが、よく考えてみると、世の中では、インターネット・ソリューションの名の下に、ブロードバンド接続を前提とした、色んなWebサービス、ASPサービスが続々と登場している。インターネットゲーム程度であれば、被害も小生程度で留まるのかもしれないが、これが、例えばインターネットPOSであるとか、ASP会計サービスであるとかになると笑い話ではすまされない。最近ではインターネット監視サービス付き金庫リース業などというものまである。

インターネットはベストエフォート、自己責任を前提に発達してきた。特に、日本の場合は、生来の真面目な気質もあって、ブロードバンドもモバイルも、かつての「電話」のように、「つながるのが当然」というような状況にまでサービスの質が改善されてきた。このため、「当然つながるインターネット」を前提に色々なビジネスが検討され、提供され始めており、間もなく「公的サービス」までこの仲間に入ってくる。しかし、よく考えてみれば、ビジネスをベストエフォート、自己責任のインフラの上に構築するというのは、かなり恐ろしいことである。

しかし、インターネット、ブロードバンドが、自己責任、ベストエフォートの原則があればこそ、ここまで急速に発展してきたのも紛れもない事実である。これを妙な規制や基準で過剰な負担をかけたり、押さえ込むべきでないことは明らかだろう。だとすれば、次に必要になってくるのは、事業者、利用者がこのインフラを利用する知恵を育てていくことだと思われる。企業の経営者として言えば、まず、自分の提供するサービスが、(ネットワークに関して)誰にも責めを帰すことのできない理由によって被害を受けたときを想定した契約形態なりサービス形態を考えることが重要になろう。

また、私に関して言えば・・・・・とりあえず、今の状況で我慢するか、引っ越すか・・・・それともプロバイダとNTTに怒鳴り込むか・・・・ハムレット並みの悩みである。

2004年3月12日

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2004年3月12日掲載

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