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no.1: RIETI政策シンポジウム「誰のための電子政府?」を振り返る

安延 申
RIETIコンサルティングフェロー/スタンフォード日本センター理事(兼)リサーチフェロー/ウッドランド株式会社取締役

そもそも、驚いた。経済産業研究所(RIETI)のBBL(ブラウンバッグランチ)と言えば、今や「知る人ぞ知るセミナー・シリーズ」として、結構、世界中で有名になっていると聞いた。 確かに、ノーベル賞級の研究者から、吉本興業社長や元ラグビー全日本監督まで、そのスピーカーの幅は広く、質も高い。

ワシントンDCあたりでは、東京を訪れた政策研究者の中で、このセミナーに招かれない人は、「?」という眼で見られるという説もあるそうである(これは、関係者の自画自賛コメントという説もあるが)。

ことほど左様に、評価の高いセミナー・シリーズであっても、事務局の努力は毎回大変なものである。いくらスピーカーが著名でも、通訳が付かないと、聴衆もあまり集まらないし・・・・。

というところで、今回の電子政府シンポジウムである。確かに、スピーカーに関しては、相当クォリティの高い人々が集まってくれたと自負している。幸いに、視聴率を気にしなくて良い組織ゆえ、無理して、「人寄せパンダ」に出てもらうこともない。しかし、逆に、「内容重視にしたから、そんなに人は集まらないだろう」と思っていた。どう考えても、今のご時世、不良債権問題や中国・北朝鮮情勢の方が関心は高いだろう。ところが・・・・・、なんと多めの椅子のセッティング(約150)にしたにもかかわらず、受付開始から、わずか10日で満員御礼。遅れてやってくる申し込みを断るのに結構苦労した人もいたようである。基本的に、ウェブかメールマガジンでしか広報をしないシンポジウムの類としては、異例である。なぜ、このように関心が高いのだろうか?

どうも、一つには、スピーカーであった池田、岸本両氏の「池田節」、「岸本節」に期待して集まった人がかなりおられたようである。この御両名は、知る人ぞ知る「過激な論客」である。池田さんは、過激すぎて、古巣の筈の既存メディアを相当敵に回しておられるし、岸本さんは、現役の大蔵省(当時)アジア通貨室長の立場にあって、歴代の大蔵省の対アジア国際金融政策を批判し、誌上論争を繰り広げたほどの人である。ただ、こうしたお二人の議論が「過激」であるにも関わらず、多くの固定ファンを持つ大きな理由は、彼らの主張に相当程度の「正論」が含まれているからだと考えている。いくら、過激なことを言い回っても、論理的、客観的な正当性のない議論でいつまでも人の関心を呼び集めることはできない。 むしろ、お二人のような、「正論」を、既成の媒体が、妙な前提や先入観、身内のルールや配慮に縛られて、十分に伝達されていない、そして、それに気づいている人がいるからこそ、今回のようなシンポジウムが多くの関心を呼ぶのであろう。これが第二点である。

UCバークレイのハル・バリアン教授によれば、すでに、現存する情報データ量は、デジタル媒体によるものがアナログ媒体によるものを凌ぎ、今後、この差は開く一方だろうということである。もちろん、「情報の質」という点においては、依然として差があるとは思う。しかし、一定の水準を超えれば、量は質に転化するという説もある。なんとなく、昨年あたりから、こうした「地位の逆転」現象が生じているような気がするのは私だけだろうか。

最後に、現役の首長や官僚で、色々答えにくいこと、通常であれば批判の矢面に立ってもおかしくないような場面であるにも関わらず、積極的に参加し、発言を頂いた山田杉並区長、江崎情報政策課長補佐、名井欧州中東アフリカ課長の姿勢には感銘を受けられた方も多かったのではないだろうか。山田区長と江崎補佐の立場は、既存メディア的に言えば、「相対峙」ということなのだろうが、実際は、相当程度深く現状の問題点を認識し、かなりの共通の問題意識を持っておられるということがよく分かった。また、フューチャーシステムコンサルティングの金丸社長、ストックリサーチの大和田社長の「現場の知識」を踏まえた議論、慶応大学の東先生の牛若丸のような自由自在なご意見が、議論に幅を持たしてくれた。深く感謝したい。

今回のシンポジウムの基本的な資料などは、ITプロジェクトのページに掲げてあるので、是非ご参照いただきたい。また、何らかの形で、できるだけ早く、議論の概要をまとめたいと考えているので、その概要がかたまった時には、また、この場でご報告したい。

2003年2月19日

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2003年2月19日掲載

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