IT@RIETI

no.22: 電子政府の進め方はこれでいいのか:費用対効果を考えた電子政府の推進を

元橋 一之
RIETI上席研究員/一橋大学イノベーション研究センター助教授

2001年1月のe-Japan重点計画において、「電子政府計画」の目玉として2003年度末までにすべての行政手続のオンライン化が打ち上げられた。各省庁においてすべての行政手続を洗い出し、オンライン化への移行スケジュールをアクションプラン化してその着実な実行が求められている。また、この7月には各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議において、「電子政府構築計画」が策定された。ここでも行政手続のオンライン化とそれに併せた手続きの簡素化・合理化が重要な項目となっている。これらの計画の基本方針にはまず「国民に対する行政サービスの向上」が挙げられている。電子政府の推進は、国民にとってメリットの大きなものにしていくことは然るべきである。だた、その一方でこれらの計画の遂行にあたっては巨大なITシステムに対するコストが発生すると聞いている。行政手続のオンライン化という新たなサービスの提供は、その価格(税金としての国民負担)も含めて国民に対して納得いくプロセスで進められているであろうか?

オンライン化アクションプログラム決定のメカニズム

「パスポートのオンライン申請」とか「特許の出願申請」などの個別手続きのオンライン化については、それぞれを所管する府省がアクションプログラムを定めている。ちなみに、昨年7月に改定された経済産業省のアクションプログラムによるとオンライン化がされる予定の行政手続は約7300件となっており、各府省において膨大な行政手続の洗い出しが行われた。すべての手続きをオンライン化するという方針はトップダウンで決まったが、具体的な対応については各府省の各行政手続を所管する末端セクションで対応が行われていることから、コストを無視した過剰サービスとなっている可能性が高い。例えば、工業統計や商業統計といった統計調査も統計法に基づいて行われているため、行政手続の1つとしてカウントされオンライン化に向けた対応がされることとなっている。これらの大規模なセンサス統計は数十万、数百万の対象事業所に対して行われるものであり、その規模に対応するシステムは膨大なものになりうる。実際はオンライン調査に対応する事業所数はごく少数であると考えられるのでシステムはフルキャパシティにする必要はないが、1年または数年に1回しか行われない調査のオンライン化に対して費用対効果があるとは到底思われない。統計調査は1例としてあげたが、オンライン化が検討されている数万というオーダーの行政手続きのうち、費用対効果がある程度あると考えられるものはごくわずかなのではないだろうか?

費用対効果を含めて国民が選択するプロセスが必要

費用対効果の「効果」の部分については、オンライン化が可能になることによる行政サービスの高度化を国民がどう評価するかにかかっており、上記の統計調査の例で述べたような印象論で判断すべきではない。そうであれば、オンライン化のアクションプログラムの公表と同時にそのコストを試算し、その上で国民の判断を仰ぐことが必要である。数万件あるすべての手続きに対して費用対効果を国民に問うことは現実問題として難しいにしろ、少なくとも総額でどの程度の額になるのかは明らかにすべきである。ちなみにウッドランド(株)の安延申社長のコラムによると、平成14年度の電子政府関係予算は国・地方自治体合計で2兆円以上とされているが、これを国民一人あたりにすると約2万円の負担である。「電子政府構築計画」に対するパブリックコメントを見ると「すべての行政手続きをオンライン化するのは税金の無駄遣い。費用対効果を考えたオンライン化を進めるべき。」という意見が寄せられていた。これに対して政府サイドは「複数の行政手続の受付ができる汎用システムを整備しコストダウンを図り、実績の乏しい行政手続は廃止する」と回答している。すべての行政手続のオンライン化という方針を金科玉条のごとく大前提として、国民を行政サービスの顧客として考える本来の趣旨を逸脱した回答だと思う。行政手続のオンライン化については、このような国民の声に真摯に向き合い、費用対効果を考えた大胆な絞込みを行うべきではないか?

2003年7月23日

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2003年7月23日掲載

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