中国経済新論:実事求是

なぜ米国が中国に貿易戦争を仕掛けたか
― 避けられない対立の長期化 ―

関志雄
経済産業研究所

2018年3月に米国の通商法301条に基づく対中制裁措置の発動が発表されたことをきっかけに、米中貿易摩擦はエスカレートし、その後に起こった双方の間の関税引き上げ合戦に象徴されるように、貿易戦争の域に達している。これまでの米中関係は、いろいろな問題を抱えながらも、特定の分野における摩擦にとどまり、今回のような貿易戦争に発展することがなかった。貿易戦争は、相手だけでなく、自国にも大きなダメージを与える。米国がなぜ大きな代償を覚悟しながら、貿易戦争を仕掛けたのかを巡って、「中国異質論」を展開する米国側と、米国における「中国脅威論」を批判する中国側の主張が対立しているように見えるが、どちらも一面で真実を捉えているように思われる。

中国が欧米と異なる政治経済体制(いわゆる「中国モデル」)を維持しながら、経済大国として台頭してきたことを背景に、米国は、対中政策を「関与」から「抑止」に転換した。中国に対する自国の優位性を維持するために、中国への市場開放圧力を強め、中国を対象とする技術移転への制限を強化し、WTOをはじめとする国際貿易体制の再構築を目指している。

中国では、米国が仕掛けた貿易戦争に対してどう対応すべきかを巡って、徹底抗戦を主張する「タカ派」と、できるだけ米国の要求を受け入れ、問題の早期解決を望む「ハト派」の間で意見が分かれている。前者は、中国、中でも中国経済の実力に強い自信を持っており、貿易戦争において米国に勝てると確信している。これに対して、後者は、中国経済の実力がまだ米国に遠く及んでいないという認識に立ち、米国の要求を受け入れることをテコに、改革開放を加速させるべきだと主張している。

米中貿易戦争が勃発し、着地点が見えてこない中で、中国政府は、9月24日に問題の解決に向けて、知的財産権と外資企業の中国での合法的権益の保護の強化や、改革開放の深化など、米国側の要求が多く含まれている方針を発表した。これらの方針を貫くことは、「中国異質論」を和らげる一定の効果があるだろうが、「中国脅威論」が払拭されていない以上、米中摩擦は、貿易の枠を超えて、技術の分野に広がりながら、長期化する可能性が高い。

「中国モデル」への批判を中心とする「中国異質論」

米国は、米中貿易摩擦、ひいては米中貿易戦争の原因を中国が開放性と市場主導というWTOの原則を順守していないことに求め、一種の「中国異質論」を展開している(注1)。このような認識に立って、米国のシェイWTO担当大使は、WTO一般理事会において、「中国モデル」を中心に、次のように中国を批判し、改善を求めている(Shea, Dennis, "Ambassador Shea: China's Trade-Disruptive Economic Model and Implications for the WTO," WTO General Council, Geneva, July 26, 2018)。

それによると、中国は自由貿易、世界貿易体制を守る旗手であると標榜しているが、中国こそ世界で最も保護主義的、重商主義的経済体である。加盟国の期待とは裏腹に、中国は2001年のWTO加盟以来、市場主導の政策と運営を展開しておらず、中国政府が経済で果たす役割はむしろますます高まっている。

中国の憲法は、中国政府と中国共産党に「社会主義市場経済」の発展という任務を与えた。この任務は、中国のあらゆる分野の法制度で現れている。そのため、政府と中国共産党は、重要な経済主体の所有とコントロールや、政府指令などを通じて、引き続き資源の配分を直接・間接的に支配している。その結果、生産資源は市場原理に基づいて効率的に配分・価格付けされていない。さらに、政府と中国共産党は土地、労働力、エネルギーや資本といった重要生産要素の価格をコントロールし続けている。

中国では、2001年のWTO加盟時と同様に、現在も国有企業が経済活動において大きな役割を果たしている。また、政府と中国共産党は数十年来、最高責任者の任命や土地、エネルギー、資本といった重要な生産要素の優先的な提供を通じて、それらの企業をコントロールしてきた。最近になって、中国共産党は、あらゆる企業における党組織の強化に取り組んでいる。

中国は法律を、政府の産業政策目標の実現や、個別の経済成果を挙げるための手段として利用している。また、裁判所などの重要な司法機関も党の指導下にある。このような体制では、企業が産業政策からかけ離れた独自の事業を展開することは極めて困難である。

中国が実施している五ヵ年計画はまさに計画経済の象徴である。立法や監督管理の権限を持っている中央政府機関、千以上もの地方政府機関、中国共産党の各種機関と中国企業が産業政策の作成や実施に参加している。

中国の産業政策の重点の一つは技術開発である。技術は経済発展における不可欠で重要な要素だと認識されている。ハイテク分野における国内外市場を支配するという目標を実現するために、中国は多くの産業政策を打ち出しており、その代表は「中国製造2025」である。

中国は産業政策を通じて、多くの補助金を、国内の特定産業に提供している。これは市場を歪め深刻な生産過剰を引き起こすことがある。鉄鋼、アルミ、太陽光発電といった分野で見られるように、生産過剰は中国からの輸出を通じて世界経済にダメージを与えただけではなく、世界的価格低下と供給過剰を引き起こし、競争の相手を経営困難に追い込んでしまう。その上、中国は非合理的な政策とやり方を利用して、米国の知的財産権、イノベーションや技術開発に損害を与えている。

その一方で、中国はWTOに加盟することを通じて巨額な利益を得ている。現在、中国は世界で最大の自動車市場を擁し、最大の石油輸入国、最大の鉄鋼生産国、最大の肉類消費国になっており、スーパーコンピュータの保有台数も世界一である。中国は、一部の経済分野で依然として貧困と闘っていることを理由に、ほかの発展途上国と同じように、世界貿易の自由化に貢献しなくてよいと主張しているが、これは明らかに、自身の急速な発展や富の蓄積を示す統計指標と矛盾している。

WTOに加盟して以来、中国は経済改革を推進しているとずっと訴えてきたが、残念なことに、中国がここで使う「改革」という言葉は、市場経済国が行う改革とは異なる。中国にとっての経済改革は政府や中国共産党の経済管理の整備であり、国有部門、特に国有企業の強化を意味している。中国がこのやり方を続けるならば、WTOに与える影響はマイナスに違いない。

中国は常に「ウィン・ウィン」関係を目指していると主張しているが、事実はそうではない。中国が提唱している産業政策は、国内産業を指導・支援する従来のやり方を遥かに超えて、海外の競争相手を排除しようとしている。言い換えれば、中国のやり方は、「ゼロサムゲーム」であり、自由、公平、互惠互利ではない、という。

このような認識を踏まえて、シェイ大使は、中国に対して、全面かつ効果的に開放を実施し、市場指向の政策を取り入れることを求めている。

中国の台頭を危惧する「中国脅威論」

これに対して、中国は、米国が貿易戦争を仕掛けた本当の目的が、自らの覇権の地位に挑戦する中国を抑えることであり、「中国異質論」が根拠のないもので、言い訳に過ぎないと反論している(「米国が貿易戦争を引き起こした本質的理由」『人民日報』、2018年8月9日)。

それによると、かつて米国は、強大でイデオロギーが全く異なるソ連に対し、「冷戦」を発動し、あらゆる面を抑え込み、攻撃を仕掛けた。その結果、ソ連は崩壊し、米国は「歴史の終わり」を勝ち取ったと自画自賛した(注2)。1980年代、急速に台頭する日本に対して、米国は「自主輸出規制」や「プラザ合意」とそれに伴う円高を受け入れさせ、日本を「失われた20年」に陥れた。

したがって、米国の対中貿易戦争は、決して中国の「目立ちすぎ」や「イデオロギー」が引き起こした「米中関係の緊張」で解釈できるものではない。ライバルを作ることは、米国が1894年にGDP規模が世界第一位になって以来、一貫した戦略である。米国は、常に世界第二の実力を持ち、自分の世界一という地位を脅かそうとする国をライバルと見做し、総力を挙げてその国を抑え込む。

米国の外交政策には、「60%ルール」が存在しているといわれている。ある国の経済規模が米国の60%に達し、しかも勢いよく成長し続け、米国を追い越そうとする可能性が現れた場合、米国は必ずその国をライバルと見做し、あらゆる手段を使って潰すのだ。昔の日本と同じように、現在の中国も、そのターゲットとなっている(図)。

図 中国と日本の米国に対するGDPの相対的規模の推移
図 中国と日本の米国に対するGDPの相対的規模の推移
(出所)IMF, World Economic Outlook Database, April 2018より筆者作成

米国にとって、今の中国はまさに「米国第一主義」の脅威になっている。世界第二の経済体となった中国のGDP規模は、すでに米国の60%を超え、日本、ドイツ、イギリスの合計に相当する。また、中国は財貿易規模と外貨準備高がともに世界一である。中国は、世界の四分の一の工業生産能力を有し、テクノロジーのイノベーション能力も急速に米国に近づいている。世界各国との経済貿易関係も一層緊密になり、ほかの国にとっては魅力溢れる国になっている。アヘン戦争から100年以上努力した結果、中国はようやく世界の舞台の中央に戻ってきた。巨人である中国は控えめな姿勢をとっても、巨体を隠すことはできない。

中国はかつてのソ連や日本よりも経済成長が速く、潜在力が大きく、米国にとって、今まで経験したことのないライバルである。それに対応するために、米国が取った方法は二つあり、一つは「米国を再び偉大にする」と呼びかけ、民衆からの政治的支持を得ることであり、もう一つはあらゆる面で中国を抑えることである。このように、米国が貿易戦争を仕掛けた本当の狙いは、貿易赤字の縮小に留まらず、より広い範囲で中国の発展を抑え、阻止することだ、という。

実際、ホワイトハウスの首席戦略官兼上級顧問(当時)のスティーブン・バノン氏は、米ニュースサイトThe American Prospectのインタビューで、「(米国か中国の)どちらかが25〜30年の間に覇権を握る。このままではそれは中国になる」と発言し、「われわれが負け続ければ、5〜10年の間に回復不可能な地点に達するだろう」と述べた(Robert Kuttner, "Steve Bannon, Unrepentant," The American Prospect, August 16, 2017)。このような「中国脅威論」は、バノン氏個人の見解というよりも、トランプ政権の中国認識を端的に示しているように思われる。

大国の興亡において、新興の大国は必ず既存の大国へ挑戦し、既存の大国がそれに応じた結果、戦争がしばしば起こってしまうことは、「トゥキディデスの罠」としてよく知られている。1990年代初に鄧小平が決めた「韜光養晦([とうこうようかい]目立たずに力を蓄える)」政策を大きく転換し、「中華民族の偉大なる復興」という「中国の夢」の実現を目指すようになった習近平政権下の中国と、「米国第一主義」を掲げ「米国を再び偉大にする」と訴えているトランプ政権下の米国が衝突することは当然であろう。

「関与」から「抑止」へと転換した米国の対中政策

実際、中国が欧米と異なる政治経済体制を維持しながら、経済大国として台頭してきたことを背景に、米国は、対中政策を「関与」から「抑止」に転換した。米国は、中国を、クリントン政権の時には「戦略的パートナーシップ」、ブッシュ(子)政権の時には「責任のある利害関係国」、オバマ政権の時は、「相互尊重と互恵とウィン・ウィンの協力パートナーシップ」と位置付けた。しかし、トランプ政権は、2017年12月に発表した『国家安全保障戦略報告』(以下、『報告』)において、経済の安全は国家安全の基礎であると強調した上、中国をロシアとともに「戦略的な競争相手」と位置付けるようになった。『報告』は、「(米国は)世界規模で増えている政治、経済、軍事面の競争に対応しなければならない」、「中国とロシアは米国の安全と繁栄を侵食することで、我々のパワー、影響力、利益に挑戦している」、「中国とロシアは経済の自由と公平を弱め、軍隊の拡張や情報・データのコントロールを通じて、社会統治の強化と影響力の拡大を企んでいる」という認識を示している。

これを踏まえて、トランプ政権は、対中政策を「関与」から「抑止」に切り替えた。従来の「関与政策」の中心は中国を本格的に国際社会の一員として受け入れ、中国に米国が担う国際責任の一部を担う「利害関係国」になってもらうことであった。これに対して、「抑止政策」の中心は、中国の行動と経済成長を抑え、米国が持つ世界における主導権に脅威を与えないようにすることである。

米国の対中「抑止政策」は、「中国における市場開放」、「対中技術移転の抑制」、「国際貿易体制改革」という三つの柱からなる(張宇燕、馮維江「『関与』から『抑止』:米国の対中戦略の意図と中米駆け引きの四つのシナリオ」『清華金融評論』2018年第7期)。

  1. 中国における市場開放
    米国は貿易不均衡を理由に、いわゆる「公平な貿易」を提起し、中国に対して米国製品の更なる輸入拡大と市場開放を迫っている。もっとも、米国は貿易赤字問題が決して米中経済関係の中心的問題ではないことを分かっているはずである。それは過剰消費という米国自身の構造問題とドル基軸通貨体制などと深く関連しているからだ。対中貿易赤字を強制的に縮小させたとしても、ほかの貿易相手国に対する赤字がむしろ増え、全体の貿易赤字は減らないだろう。しかし、貿易問題は大衆の関心が高く、ポピュリズム及び極端な民族主義を煽る有効な手段であるため、これを口実にすれば、選挙などにおいても、国民の支持を集めることができる。その上、市場参入を含めた貿易問題を取り上げることは、中国からの競争圧力に晒されているほかの国々からの支持も得やすい。
  2. 対中技術移転の抑制
    グローバル・バリューチェーンにおける中国企業の地位は高まり、技術分野や技術集約型産業では中国と米国などの先進工業国家との競争が激しくなる中で、中国に対する「強制的な技術移転」、「技術の窃盗」、「知的財産権の侵害」といった批判の声も大きくなってきた。米国は中国における技術力の向上を警戒し、対中技術移転の抑制を通じて、自国技術の独占性と競争優位性を保とうとしている。まず、米国通商代表部(USTR)は2018年4月3日に対中追加関税の対象リストを発表した際の声明において、「中国製造2025」を含む製造業振興策の恩恵を受けている製品を標的にしたと明言している。また、米国はビザの発給制限や移民制度改革などの方法で、科学技術の分野における中国からの学生や研究者に規制をかけようとしている。
  3. 国際貿易体制改革
    米国は国際貿易体制の再構築を通じて中国に規制をかけようとしている。米国は、中国がWTOを中心とする多国間貿易体制をうまく利用することによって、自国が「大きな不利益」を被ったと訴えており、WTOが中国にとって有利である途上国への優遇措置を改めるべきだと主張している。現に、2018年9月25日に、ニューヨークで開かれた日米欧の通商閣僚会合において、11月にWTO改革の共同提案を行うことが合意された。中国を念頭に、自国の特定産業を優遇する制度を導入した国への罰則などを盛り込む見通しである。

こうした対中「抑止政策」の中で、技術移転の抑制の重要性は増している。現に2018年8月13日、トランプ大統領が署名した「2019会計年度の国防権限法」の中には、外国企業の対米投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する「2018年外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)」と米国の重要技術の海外流出への対策を盛り込んだ「2018年輸出管理改革法」が含まれている。特定の国が明示されていないものの、いずれの法律も中国への技術移転を制限することを主な目的としていると見られる。

特にFIRRMAの実施により、現行の米国企業を「支配する」外国企業の投資に加え、以下の事業活動も審査対象になる。

  • 米軍施設・空港・港などに隣接する土地の購入・賃貸・譲渡
  • 重要技術・重要インフラ・機密性の高いデータを持つ米国企業に対する非受動的投資
  • 外国企業が投資する米国企業において、その支配権が外国企業に渡るまたは機密性の高い重要技術・重要インフラ・データなどへの外国企業のアクセスが可能になる権利変更
  • CFIUS審査の迂回を目的とした取引・譲渡・契約

その結果、中国の企業や投資ファンドによる米国企業、中でもハイテク企業の買収・出資がますます難しくなる。

米国が中国と対立しているのは経済の分野にとどまらない。ペンス米副大統領は、2018年10月4日にワシントンのハドソン研究所での演説で、中国の経済政策・制度だけでなく、政治体制、宗教政策、台湾政策、外交政策(一帯一路など)、海洋進出、米国への内政干渉(中でも選挙への介入)についても厳しく批判している("Remarks by Vice President Pence on the Administration's Policy Toward China," The Hudson Institute, Washington, D.C., October 4, 2018)。その上、米国の対抗策として、経済の面における関税の引き上げや対米投資規制の強化に加え、軍事力の増強や、インド太平洋の価値を共有する諸国との連携強化を進めるなど、中国と「全面対決」の姿勢を明確に打ち出している。多くのメディアは、この演説を米中冷戦の兆候として捉えている(例えば、Jane Perlez, "Pence's China Speech Seen as Portent of 'New Cold War'," The New York Times, October 5, 2018)。

中国における「タカ派」の主張

中国では、米国が仕掛けた貿易戦争に対して中国はどう対応すべきかを巡って、「タカ派」と「ハト派」の間で見解が分かれている。タカ派は、中国、中でも中国経済の実力を高く評価し、貿易戦争において米国に勝てると確信している。中国人民大学国際関係学院の金燦栄副院長の主張が典型的である(「“政治委員”金燦栄:貿易戦争における中国の五つの優位性、トランプが誤算の可能性」『環球網』、2018年7月7日)。

金氏によると、中国は、米国に対して、次の面において優位性を持っている。まず、中国には、中国共産党の高い指導力と民衆の強い愛国主義精神及び高い社会組織力がある。また、中国は米国よりも、ほとんどの製品を自力で生産できるフルセット型の産業構造を持っている。さらに、中国は国土面積(960万平方キロ)や人口(約14億人)だけでなく、GDP規模(購買力平価ベースでは2014年に米国を超え、2017年には米国の120%)からみても巨大な国である。そして、安全保障においても、経済発展においても、中国はしっかりとした戦略を持っており、他国の意図を伺う必要はない。

これに対して、トランプ政権は多くの敵を作ってしまった。今後、国際社会の支持を得ることは難しいだろう。もし米国がその盟友らと共に中国に対して貿易戦争を発動するならば、中国は苦戦を強いられることになるだろう。しかし、トランプ大統領が中国だけではなく、同盟国や隣国に対してさえ貿易戦争を引き起こしているため、米国の勝算はそれほど高くない、という。

貿易戦争の勝利に向けて、中国は次の戦略を使うことができると、もう一人のタカ派である商務部国際経済合作研究院の梅新育研究員が次のように主張している(Mei Xinyu, “Trump Action Demands Strong Response,” China Daily, March 23, 2018)。

まず、報復措置を実施する際に、ポイントを絞って攻撃するという原則を守るべきである。この貿易戦争は中国と米国人民との戦争ではなく、トランプ大統領やその保護主義支持者への自衛的反撃戦である。トランプ大統領が最も大事にしているのは選挙のことなので、2016年の選挙で勝利した州と、今年の中間選挙でトランプ大統領を支持していると思われる州の主力産業を狙って攻撃すべきである。

次に、中国は一部の新興産業市場の対外開放を進めているが、貿易戦争の間、協議が終了するまでしばらくこれを中止すべきだ。

さらに、中国はWTOの生かし方について、その紛争解決制度に頼るのではなく、米国をWTOから追い出す方法を探るべきである。

最後に、中国の反撃は、経済分野だけではなく、政治分野でも行うべきだ。これは、朝鮮半島の核問題の解決をはじめ、国際政治の分野において、米国が中国の支援や協力を必要としているからである、という。

タカ派は、対中貿易戦争において、米国にとっての不利な要因として、①EU諸国と日本が連携してトランプ大統領の貿易政策に抵抗する、②米国の消費者、農場主たち、産業界がトランプ大統領の対中貿易政策を阻止する、③米国の有権者の不満が高まって、中間選挙に影響を与え、トランプ大統領に手を引かせる、というトランプ政権の対中強硬政策の軟化につながることを挙げている(程暁農「米中貿易戦争 なぜ中国は突っ張るのか?」『清漣居』ウェブサイト、2018年7月27日)。

その上、タカ派は、貿易戦争が内需拡大や、産業の高度化、自主開発能力の向上を促すことを通じて、中国の経済構造の改善につながるだけでなく、米国が実施する中国による対米投資の規制や中国人へのビザ発給制限の強化も、却って中国の資本流失、人材流出を防ぐ効果をもたらすと期待している。

中国における「ハト派」の主張

これに対して、ハト派は、中国が現在の実力では、貿易戦争において、米国に勝てないと判断しており、米国の要求を受け入れることをテコに、改革開放を加速させるべきだと主張している。上海財経大学の余智教授の見解が代表的である(余智「中国は貿易戦争の拡大を防ぐべき」『聯合早報』、2018年7月26日)。

それによると、貿易戦争による中国経済へのインパクトは、米国経済へのインパクトより遥かに大きい。なぜならば、中国の米国への輸出依存度は、米国による中国への輸出依存度より高いからである。その上、米国はより多くの中国製品を対象に関税率を上げ、それによって得られた関税の一部を、損失を被った企業に補償金として支払うことができる。また、中国企業は、米国企業より収益率が低く、貿易戦争のインパクトに耐える力が弱い。

中国政府は、米中間における摩擦の原因となる問題の解決に努め、貿易戦争の拡大を防ぐために最善を尽くすべきである。中国政府系のメディアは、貿易戦争の全責任を米国に押し付け、中国側がすでに貿易戦争の回避に最大の努力をしたと主張する一方、米国側が貪欲的に調子に乗ったことこそ貿易戦争勃発の根本原因だと批判しているが、このような姿勢はあまりにも感情的で、冷静・客観的ではない。

実際、中国が努力する余地はまだまだある。まず、米国側が指摘しているように、中国政府による輸出と戦略的産業への支援(直接・間接的な各種補助金の交付)は、米中貿易不均衡の原因である。その上、各種の補助金に頼った対外貿易と産業発展戦略は、輸出価格の低下による交易条件の悪化、補助金を受けている業界と企業の効率低下、不正会計、生産過剰、ダンピング、賄賂など多くの問題を招いている。特に太陽光発電、新エネルギー車、ロボット産業では大きな問題になっている。また、対外経済貿易戦略と産業発展戦略は、決して一国の「内政」問題ではなく、その策定と実施に当たり、WTOの「補助金及び相殺措置に関する協定」などの国際ルールとの整合性や、他国へのマイナス影響についても考慮しなければならない。

したがって、米中で協議を行う際、中国は対外経済貿易戦略と産業発展戦略を「絶対譲れない核心的利益」としてはならない。発展戦略の目標は国家の核心的利益だが、発展戦略の具体的な手段と方法はそれに当たらない。確かに中国がすでに公表している「中国製造2025」のような国家戦略を止めることはできないが、調整は不可能ではない。国際ルールに合わない部分や、ほかの国へのインパクトが大きすぎた部分などを修正することはできる。戦略的産業の発展を促すための手法を、特定産業への補助金の交付からすべての企業を対象とする減税や、産業の基礎研究への支援に切り替えるべきである。

次に、中国は知的財産権の保護を強化すべきである。これは世界的な流れであるだけではなく、中国自身のイノベーション環境の改善にも役立ち、ハイテク産業発展の鍵でもある。中国は、コピー商品の撲滅など、短所の改善に努めると同時に、WTOで明確なルールのない「強制的な技術移転」問題に関しては、両国間の協議を通じて解決を目指すべきである。

中国は、貿易戦争がもたらすインパクトを過小評価してはならず、米国への報復措置効果を過大評価してはならない。さもなければ、大きな戦略的ミスを犯してしまう。「戦を以て戦を制す」と主張する人もいるが、これは却って貿易戦争を拡大させてしまう、という。

中国政府の立場

貿易戦争が勃発し、着地点が見えない中で、国務院が2018年9月24日に『「中米経済貿易摩擦に関する事実と中国の立場」白書』(以下、『白書』)を発表した。その中で、米国との貿易摩擦に関する中国側の次の8つの方針が示されている。

  1. 中国は国家の尊厳と核心的利益を断固として守る
    貿易戦争について、中国はしたくないが、恐れることもなく、必要に応じて対抗策を取る。中国は協議の扉をいつも開いているが、その前提は相互尊重、相互平等、有言実行、言行一致であり、関税という恐喝のもとで、中国の発展権を犠牲にしてはならない。
  2. 中国は米中貿易関係の健全な発展を断固として推進する
    中国は米国と同じ方向に向けて、相互尊重、協力共栄の精神に基づき、貿易協力に焦点を当て、経済貿易の対立を抑える。平等、互利を前提に、改めて米国と二国間投資協定の協議、適時に二国間自由貿易協定の協議を行う。
  3. 中国は多国間貿易体制を断固として守り、その改革と改善を促す
    中国はWTOのルールを断固として守り、開放的、透明性の高い、包容的、無差別な多国間貿易体制を支持する。必要に応じてWTOの改革を支持し、一国主義と保護主義に断固として反対する。G20、APECなど多国間協力の強化を支持し、経済のグローバル化をより開放的、包容的、包括的、均衡的で、共栄できる方向に発展させる。
  4. 中国は知的財産権を断固として守る
    中国は知的財産権保護に関する法制度を整備し、知的財産権審査の質と効率を絶えず向上させる。法を以て外資企業の合法的知的財産権を守り、権利侵害に関するあらゆる案件をしっかりと調査し、厳粛に処理する。世界各国と知的財産権保護の提携を行う。
  5. 中国は外資企業の中国での合法的権益を断固として守る
    中国は国内で登録している企業を平等に扱い、外資企業の合法的権益を断固として守る。それを侵害する行為に対し、法に基づき処罰する。
  6. 中国は改革を断固として深化させ、開放を拡大していく
    中国の改革は後退することなく、常に深化していく。中国の開放の扉は閉じることなく、より開かれる。中国は市場の資源配分における決定的役割を堅持し、政府の役割をよりよく発揮させる。競争を奨励し、独占に反対する。中国は自国のことを確実に行い、よりハイレベルの開放型経済を発展させる。
  7. 中国は先進国と発展途上国の互恵共栄や協力を断固として促す
    中国はEUとの投資協定と、日中韓自由貿易協定の協議を加速させ、「一帯一路」の国際協力を強化する。
  8. 中国は人類運命共同体の構築に断固として取り組む
    中国は引き続き責任のある大国としての役割を果たし、他国と共に栄える世界を構築していく。

これらの方針の中に米国側の要求が多く含まれているように、中国は『白書』において、貿易摩擦の解消、ひいては貿易戦争の終結に向けて一定の譲歩を示している。これらの方針を貫くことは、「中国異質論」を和らげる一定の効果があるだろうが、その一方で、それに伴う改革開放の深化が中国経済に新たな活力をもたらし、中国の米国への追い上げを加速させる力となるため、今後、米中間の競争がますます激しくなると予想される。米中のGDP逆転が視野に入りつつあることも加わり、米国における「中国脅威論」は収まることがないだろう。その結果、仮に近い将来、双方の間で妥協が成立し、貿易戦争が一旦終結しても、その再燃を含めて、貿易摩擦は長期化する可能性が高い。

脚注
  1. ^ 1980年代に、日米貿易摩擦が盛んだった頃、リビジョニストと呼ばれる米国の論者たちは、日本が、特に通商問題について欧米の先進国と異なるゆえに、異なる対応が必要であると主張した。その代表的文献として、チャーマーズ・ジョンソンの『通産省と日本の奇跡』(TBSブリタニカ、1982年)、クライド・V・プレストウィッツの『日米逆転:成功と衰退の軌跡』(ダイヤモンド社、1988年)、カレル・ヴァン・ウォルフレンの『日本/権力構造の謎』(早川書房、1990年)、ジェームズ・ファローズの『日本封じ込め』(TBSブリタニカ、1989年)が挙げられる。
  2. ^ 米国の政治学者のフランシス・フクヤマ氏は、著書『歴史の終わり』(The End of History and the Last Man, Free Press, 1992、邦訳、渡部昇一訳『歴史の終わり』、三笠書房、1992年)において、「人間の政府の最終形態としての自由民主主義」、「自由主義国家」、「政治的自由主義」、「経済的自由主義」が最終的な勝利を収めることで社会制度の発展が終わり、人類発展としての歴史が「終わる」という仮説を提示した。ソ連の崩壊と冷戦の終焉は、フクヤマ氏が言う「歴史の終わり」を意味するものだと広く受け止められていた。
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2018年10月19日掲載