中国では、2015年年央以来の株価の急落をきっかけに、資金が株式市場から住宅市場に流れており、一線都市を中心に住宅価格は高騰している。これを受けて、住宅投資も上向き始めている。住宅市場の回復は、短期的には中国における経済成長と国際商品価格を下支える要因となる。しかし、住宅価格はすでにバブルの域に達しており、中長期的には、バブルの崩壊に伴って中国経済が大きな打撃を受けるというリスクはむしろ高まっている。
景気と一次産品価格の下支えに
中国では、2015年年央以来、株価の急落とは対照的に、住宅価格は堅調に推移している。特に、一線都市において、上昇のペースは極めて速い。例えば、今年の2月に、深圳では前年比57.8%、上海では同25.1%、北京では同14.2%に達している(図1)。また、住宅価格が上昇する都市が一線都市から他の都市にも広がっている。これを反映して、住宅価格が前月と比べて上昇する都市の数は月を追って増えており、2016年2月には調査対象となる70都市の内、47に上っている(図2)。
諸外国とは対照的に、中国の場合、株価と住宅価格の間には、プラスの相関関係よりも、マイナスの相関関係が見られる。これは、投資対象が「株式か、住宅か」に限られている中で、両部門間の大規模な資金移動を反映していると思われる。実際2013年から2014年前半にかけて、住宅価格が急騰した頃には、株価が低迷しており、逆に2014年後半に住宅価格が調整局面に入ると、株価が急騰しはじめた。そして、2015年6月以降、株価の急落を受けて、資金が住宅市場に流れるようになり、住宅価格が回復に向かったのである(図3)。株式市場からの資金流入に加え、頭金の最低比率の引き下げなど、住宅ローンに対する規制が段階的に緩和されてきたことも、住宅価格の上昇に拍車をかけている。
これを背景に、2015年8月から12月まで前年の水準を下回っていた住宅開発投資は、今年に入ってからプラスに転じている(1-2月の累計では、前年比1.8%)。住宅開発投資はGDPの約10%に相当し、その回復は景気を支える要因となろう。
住宅開発投資が持ち直しつつあることを背景に、鉄鋼への需要が増え、鋼材価格も上昇に転じている(図4)。産業連関を通じた需要の拡大、ひいては価格の上昇は、鉄鉱石、石炭といった一次産品にも広がっていこう。このことは、資源輸出国にとって朗報である。実際、オーストラリア準備銀行が発表するRBA商品価格指数は、中国における住宅開発投資との連動性が高く、足元では持ち直す気配を見せている(図5)。
警戒すべきバブルの膨張
しかし、その一方で、現在の中国における住宅価格は、一線都市を中心に、すでに均衡水準を大きく上回っていると見られる。
まず、(統計の制約で直近となる)2014年の住宅価格/世帯所得比(世帯所得は年間値)は、深圳が21.7倍、北京が20.1倍、上海が19.7倍をはじめ、主要都市では高くなっている(図6)。これらは、1980年代後半のバブル期の東京を上回る水準に達している。
一方、2016年2月の家賃/住宅購入価格比(家賃は年換算)は、深圳が1.6%、北京が2.0%、上海が2.1%など、銀行の貸出金利(1年物の基準金利は4.35%)を大幅に下回っている(表1)。このことは、投資家にとって、住宅価格の上昇によるキャピタル・ゲインが期待できなければ、家賃収入だけでは、採算性が極めて悪いことを意味する。
(a)家賃 (年換算、元/㎡) |
(b)住宅購入価格 (元/㎡) |
家賃/住宅購入価格比 ((a)/(b)、%) |
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深圳 | 815.6 | 50,074 | 1.6 |
北京 | 831.2 | 40,829 | 2.0 |
上海 | 811.3 | 38,789 | 2.1 |
厦門 | 462.2 | 25,474 | 1.8 |
広州 | 522.6 | 19,887 | 2.6 |
南京 | 416.3 | 18,535 | 2.2 |
杭州 | 494.4 | 18,390 | 2.7 |
三亜 | 572.6 | 18,234 | 3.1 |
温州 | 376.0 | 17,573 | 2.1 |
天津 | 360.0 | 15,857 | 2.3 |
(出所)中国不動産協会データ(http://www.creprice.cn/)より作成 |
このように、中国における住宅価格は、すでにバブルの域に達していると言える。日本は、1990年以降、バブルの崩壊を機に長期低迷に陥ってしまったが、中国は日本の轍を踏まないために、一刻も早く住宅価格の抑制に乗り出すべきである。