中国では、2015年6月中旬以降の株価の急落を受けて、消費と投資が落ち込み、景気がさらに悪化していくのではないかという懸念が高まっている。しかし、その一方で、住宅市場が回復の兆しを見せており、このことは、成長率の下支えになると期待されている。株式市場から引き揚げられた資金が住宅市場に流れることになれば、このような可能性がさらに高まるだろう。
消費と投資への影響は限定的
中国における株価が急落したとはいえ、2015年7月現在、1年前の水準と比べてまだ8割ほど高い。このことは、大半の投資家がすでに利益を実現し、または含み益を維持していることを意味する。したがって、今回の株価の急落により、消費を左右しかねない資産効果は、プラス幅が縮小しただけで、マイナスに転じているわけではない(図1)。
また、株価対策の一環として実施されたIPO停止などにより、投資が抑えられると懸念されている。しかし、企業の株式による資金調達が「社会融資総量」(残高ベース)の3.1%(2014年末現在)しかないことを考えれば、影響は限定的であろう(図2)。企業にとって、銀行からの融資は依然として最大の資金源(同66.3%)となっており、相次ぐ利下げの実施により、全体的に見て、資金調達コストはむしろ低下している。
注目すべき住宅市場への波及
一方、諸外国とは対照的に、中国の場合、株価と住宅価格の間には、プラスの相関関係よりも、マイナスの相関関係が見られる(図3)。これは、投資対象が「株式か、住宅か」に限られている中で、両部門間の大規模な資金移動が、価格の逆相関をもたらたしていることを反映していると思われる。
実際2013年から2014年にかけて、住宅価格が急騰した頃には、株価が低迷しており、逆に2014年後半に住宅価格が調整局面に入ると、株価が急騰しはじめた。そして、2015年半ば頃に、住宅価格が再び上昇に転じた段階で、株価が急落したのである。
マクロ経済への影響を考える際、株価よりも住宅価格の変動の方が重要である。特に、住宅価格と株価との逆相関が今後も続くかどうかは、今後の景気を占う時の重要なポイントである。
昨年後半以来、株価の高騰にもかかわらず、中国経済は減速してきおり、実質GDP成長率は2014年上半期の前年比7.4%から、今年の上半期には同7.0%に低下している。それは住宅市場が調整局面に入ったことによるところが大きいと見られる。2014年に、不動産開発投資額(名目)はGDPの14.9%に当たる9.5兆元に上っている(その内、住宅開発投資額は6.4兆元、GDPの10.1%)。住宅価格の低迷を背景に、不動産開発投資額の前年比の伸びは、2014年上半期の14.1%から、2015年上半期には4.6%まで低下している。これだけで、GDP成長率が約1.4%ポイント引き下げられる計算となる(14.9%×[14.1%-4.6%]=1.42%)。
これまで、住宅価格(前年比)は、住宅販売面積(同)より6ヵ月から1年ほど遅れて動くという傾向が見られ、住宅販売面積は住宅価格の有効な先行指標であると言える(図4)。実際、2015年4月以降、住宅販売面積の前年比の伸びがすでにプラスに転じてきており、住宅価格もやがて回復に向かうことを示唆している。今後、資金が株式市場から住宅市場に流れることになれば、住宅価格、ひいては不動産開発投資も持ち直すと予想される。その場合、中国は、2015年に続き、2016年にも7.0%前後の経済成長率が維持されるだろう。
2015年8月4日掲載