去る3月に開催された全国人民代表大会(全人代)の「政府活動報告」において、今年の主要経済目標が明らかになった(表1)。中でも国内総生産(GDP)の成長率の目標が去年と同じ7.5%前後に設定されたことが注目を集めている。しかし、中国では、労働力不足に制約されて、中長期の潜在成長率が大幅に低下している上、拡張的マクロ経済政策を採る余地も限られていることから判断して、目標の達成は困難であると思われる。
重視された経済成長による雇用創出効果
今回の成長目標が7.5%に設定された背景について、李克強首相は、次のように説明している。
「経済成長率の所期目標を7.5%前後に設定したのは、……雇用を確保するためであり、都市部の新規雇用創出の需要を満たすだけでなく、農村から都市に来る出稼ぎ労働者にもチャンスを与えるためであり、根本から言えば、都市・農村住民の所得・収入を増やし、人々の生活を改善するためである。今年度の経済成長率の目標の実現には、プラスとなる要素が少なくないものの、多大な努力を払わなければならない。」
全人代閉幕後に開かれた記者会見において、李首相は、政府の成長目標について、「GDP成長率目標は7.5%で前後、『前後』とはつまり、ある程度の柔軟性があり、少し高くても、少し低くても容認する」と述べた。許容できる下限に関しては、具体の数字を明言していないが、「中国では毎年、都市部の雇用者数を1,000万人以上増やしながら、600万~700万の農村部労働力に対し、都市部に移る余地を与えなければならない」ことを踏まえて、「十分な雇用を保障し、国民の収入を増加させる水準」でなければならないという認識を示している(注1)。また、李首相は、2013年10月21日に中華全国総工会の経済形勢報告で、年間1,000万人の雇用を創出するために年率7.2%の経済成長が必要であると指摘した。これらの発言を合わせて判断すると、成長目標の下限は7.2%であると見られる(注2)。
注目すべき成長の制約となる労働力不足
このように、中国政府が経済成長の目標を設定する際、雇用確保を最大限に配慮している。しかし、2012年以降、生産年齢人口(15-59歳)が低下傾向に転換しており、農村部における余剰労働力も、大規模な労働力の移動を背景にほぼ解消されている(いわゆるルイス転換点の到来)結果、労働力不足は顕著になっており、成長の制約になってきている。
実際、足元の2013年第4四半期には、成長率が7.7%にとどまっているにもかかわらず、都市部の求人倍率は1.1倍と史上最高の水準に達している(図1)。労働力需要を示す求人数が同供給を示す求職数を10%も上回っているという状況から判断して、中国の現在の潜在成長率はすでに実際の成長率である7.7%を下回っており、7%程度まで低下していると見られる。
――潜在成長率の大幅な低下を示唆
1980年代後半の日本におけるバブル期の経験が示しているように、無理して拡張的マクロ政策を通じて潜在成長率を超える高成長を目指そうとすると、経済が不安定化する恐れがある。中国において、すでに不動産価格が高騰し、地方政府債務とシャドーバンキングの規模が急拡大するなど、バブルの兆候が顕著になってきている。危機を回避するために、政府は、景気対策よりも、バブルの退治を優先せざるを得ないだろう。これが制約となり、2014年の成長率は政府の目標に届かず、7%程度にとどまると見られる。
2014年4月4日掲載