中国経済新論:実事求是

景気循環から見る中国経済の行方
― 2011年に底を打ち2012年に本格的回復へ ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国はインフレ対策として引き締め政策を採っており、これを受けて景気が減速している。しかし、来年になると、インフレの低下傾向も鮮明になり、金融緩和の余地が次第に広がるだろう。2012年には、中国共産党全国代表大会(党大会)が5年ぶりに開催されることも相まって、景気が本格的に回復に向かうと予想される。

過熱から調整局面へ

中国経済は、2008年9月のリーマン・ショックを受けて、輸出が大幅に落ち込み、景気減速を余儀なくされたが、政府が素早く実施した拡張的財政・金融政策が功を奏し、2009年のGDP成長率(実質、以下同じ)は、当初の目標である8%を上回る9.1%に達した。2010年に入ってから、輸出の回復も加わり、上半期のGDP成長率は前年比11.1%と二桁台に乗った。しかし、景気回復とともに、インフレが加速しており、2010年9月の消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年比3.6%と2008年10月以来の高水準になった。

これに対して、当局は、マクロ経済政策の重点を成長から安定に移した。まず、リーマン・ショックの後に大幅に緩められた銀行融資に対する総量規制が2009年の春以降再び厳しくなった。それに続いて、2010年に入ってから銀行を対象とする預金準備率が4回にわたり引き上げられた。そして、10月に当局はついに利上げに踏み切った()。

これらの政策の実施を受けて、景気過熱が解消されつつある。まず、GDP成長率は今年の第1四半期の前年比11.9%をピークに、第2四半期には同10.3%、第3四半期には同9.6%と緩やかに減速している。CPIの伸びはGDPの伸びより3四半期ほど遅れて同じ方向で動くという強い相関関係が観測されており、景気の減速を受けて、これまで上昇してきたインフレ率はそろそろ転換点を迎えると予想される。現に、CPIの先行指標となる生産者物価指数(PPI)の前年比上昇率は、2010年5月にピークを打ち、低下傾向に転じている。

党大会に向けて本格的回復へ

中国経済の今後の行方を予測する際、これまでの景気循環のパターンが一つの参考になる。

まず、中国における景気循環は、GDP成長率とインフレ率の値が対象期間におけるそれぞれの平均値より高いか低いかを基準に、①「低成長・高インフレ」、②「低成長・低インフレ」、③「高成長・低インフレ」、④「高成長・高インフレ」という四つの段階に分けることができる(図1)。2008年9月のリーマン・ショック以降に限って見ると、中国経済は、「低成長・高インフレ」の段階(2008年第3四半期から第4四半期)から、「低成長・低インフレ」の段階(2009年第1四半期から第2四半期)、「高成長・低インフレ」の段階(2009年第3四半期から第4四半期)を経て、「高成長・高インフレ」(2010年第1四半期から第3四半期)に入っている。これから、「低成長・高インフレ」の段階に入り、来年にはインフレも沈静化するという形で「低成長・低インフレ」の段階に移行すると予想される。これを受けて、金融政策のスタンスは引き締めから緩和に転換されるだろう。

図1 リーマン・ショック以降の中国における景気循環
a) GDP成長率とインフレ率の推移

図1 リーマン・ショック以降の中国における景気循環:a) GDP成長率とインフレ率の推移
b) GDP成長率とインフレ率の相対関係の変化
図1 リーマン・ショック以降の中国における景気循環:b) GDP成長率とインフレ率の相対関係の変化
(注)①は低成長・高インフレ、②は低成長・低インフレ、③は高成長・低インフレ、④は高成長・高インフレ
(出所)CEICデータベースより作成

一方、中国では、党大会が開催される年に成長率がピークに達するという景気の5年サイクルが見られる(図2)。1981年から2009年まで、中国の平均GDP成長率は10.1%だが、これと比べて、党大会が開催される年の平均はそれを上回る11.3%となっており、前回の2007年に至っては14.2%に達した。次回の第18回党大会は2012年秋に開催される予定だが、それに合わせて、中国経済は2011年の調整期を経て、再び景気が上向くと予想される。

図2 共産党大会と連動する中国の景気循環
図2 共産党大会と連動する中国の景気循環
(注)太線は1981年~2009年を対象とする平均実質GDP成長率。例えば、党大会の年は、1982年、1987年、1992年、1997年、2002年、2007年の平均。細線は2006年以降の各年の値、2010年は筆者の予測。なお、党大会は5年毎に開催され、前回(第17回)は2007年10月に行われた。
(出所)中国国家統計局より作成

2012年に世界同時好況になるか

中国だけでなく、米国においても、4年毎に行われる大統領選挙に合わせて、好景気を迎える傾向が見られている。実際、1976年から2009年までのアメリカの平均GDP成長率は2.9%であるのに対して、選挙の年の平均は3.5%と最も高くなっている(図3)。

図3 大統領選挙と連動する米国の景気循環
図3 大統領選挙と連動する米国の景気循環
(注)平均実質GDP成長率。対象期間は1976~2009年。
(出所)US Bureau of Economic Analysisより作成

米国と中国におけるこのような「政治的景気循環」は、2012年に20年ぶりに同時にピークに達することになる。前回の1992年は、中国がまだ「経済小国」だったが、今回は全く違う。米中という世界第一位と第二位の経済大国が同時に好景気を迎えることになれば、他の国もその恩恵を大きく受けるに違いない。

2010年10月29日掲載

脚注
  • ^ 金融引き締めは、インフレを沈静化させるだけでなく、不動産価格の高騰を抑える狙いもある。2010年4月以降に採られてきた住宅ローン規制を中心とする一連の不動産バブル対策の効果も加わり、4月に前年比12.8%に達した70大中都市住宅価格の上昇率は、9月には9.1%に低下している。
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2010年10月29日掲載