2002年秋に行われた中国共産党第16回党大会で党の指導部の交代が行われ、それに続いて、中央と地方政府の人事も刷新された。新たに経済発展の目標となった全面的小康社会の建設に向けて、各地に投資ブームが起こり、2003年後半には景気過熱が顕著になるに至った。当局は景気のソフトランディングを目指すべく、すばやく引き締め政策を打ち出し、これを受けて、中国経済は調整局面に入りつつある。このように、中国経済のこの動きは中国の政治体制による要因、つまり経済学や政治学の分野で「政治的景気循環」と呼ばれる循環的要因が大きく影響していると考えられる。
政治的景気循環とは、もともとアメリカの大統領選挙と景気循環の関係について経済学者のノードハウスによって明示的に提唱された概念である。循環が起こる原因は、政権与党が選挙対策のためにマクロ経済政策を拡張的に変化させて景気を刺激することにある。その結果、選挙の年には景気が頂点に達するが、これらのマクロ経済政策は基本的に持続不可能なものであるため、選挙後には引き締め政策に転じざるを得ない。したがって、選挙後に景気は悪くなるが、次の選挙が近づいてくると再び拡張政策を採って、景気を上向けようとする。実際、1976年から2003年までのアメリカの経済成長率を見ると、選挙の年は平均的に最も高く、選挙から二年後が一番低いという四年周期が見られる(図1)。
中国の現在の政治体制では、政権を担う階層が国民による選挙で選ばれるわけではない。しかし、過去30年間のデータを振り返ってみると、景気循環が中国における政治日程のサイクルと連動している、つまり経済成長の動きが共産党大会と同じく五年周期で動いている様子が見られる(図2)。1976年から2003年までの中国の年平均成長率は9.0%だが、これと比べて、共産党大会が開催される年とその翌年は経済成長率がそれぞれ平均9.9%、10.7%とさらに高くなり、逆にその後三年間(次の党大会までの三年間)で、それぞれ9.3%、8.7%および6.5%と低下する。つまり、中国経済は党大会の翌年に経済成長率がピークを迎え、党大会の前年にボトムに直面するという顕著な傾向を持っている。この傾向は近年になってさらに強まりを見せている。
中国経済における景気循環が一種の政治的景気循環の体をなし、さらにそれが強まってきた理由には中国の政治体制自体の変化が挙げられる。すなわち、革命世代が政治の表舞台から去るなど、隠然たる権力を持った指導者がいなくなったことによって政治家自身のカリスマ性が政治体制に与える影響が弱くなったため、政権を担うに当たって国民の支持の重要性が相対的に増し、政権交代初期には拡大的な経済政策が採られやすくなった。また、中央のみならず、地方のレベルにおいても、幹部の評価と選抜の指標として所管地域の経済成長率が重要視されていることも、このような傾向に拍車をかけている。しかし、財政の拡大と金融緩和によってもたらされる好景気はやがてインフレの上昇など景気の過熱を招き、当局は引き締め政策に転換せざるを得ないのである。このことが政権中期から後期にかけて経済成長が縮小する原因となり、中国でもアメリカと同じようなサイクルが見られる原因となっている。
1976年から数えて、今回は六回目のサイクルに当たる。これに沿って言えば、今後の経済成長は減速に向かい、第17回共産党大会が開催される2007年に上向き、オリンピックの年である2008年に再びブームを迎えることになろう。このように、「政治的景気循環」という考え方は、これまでのパターンを説明するために有効であるだけでなく、今後の景気動向を予測するためにも役に立つような道具をわれわれに提供している。
2004年7月14日掲載