中国経済新論:実事求是

日本を抜いて第二の経済大国となる中国
― 米中GDP逆転も視野に ―

関志雄
経済産業研究所

改革開放以来の30年にわたった高成長を経て、中国はグローバル経済大国として浮上している。中国のGDP規模は2010年にも日本を上回ると予想され、米国を抜いて世界一になる日も近づいている。

グローバル経済大国となった中国

改革開放以来の中国のGDP成長率は年平均9.8%(1979年から2008年まで)に達した。中国は13億人という人口を擁する。それだけ大きな国が、それだけ長い期間にわたって、これほど高い成長率を維持したことは、人類の歴史には類を見ない。実際、これまでの30年間の中国の成長率は、同じ時期の日本の2.4%を大幅に上回っているだけでなく、「奇跡」と呼ばれる高度成長期当時の日本(1956年から1973年までの18年間、年平均9.3%)よりも高く、期間も長くなっている(図1)。

図1 中国と日本の高度成長期の比較
図1 中国と日本の高度成長期の比較
(出所)中国の統計データは、1978年までは中国国家統計局『新中国五十年匯編』、78年以降は『中国統計摘要』各年版による。日本の統計データは内閣府統計<http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html>による

今回の世界的金融危機において、震源地の米国にとどまらず、EUや日本といった先進地域も大きな打撃を受けている中で、中国経済は一人勝ちの様相を呈している。2009年10月に発表されたIMFの世界経済見通し(改訂版)によると、2009年の中国の成長率はG20という主要国・地域の中で最も高い8.5%と見込まれる(図2)。中国が世界的金融危機を乗り越え、高成長の持続に成功したことにより、そのグローバル経済大国としての地位は不動のものとなった。

図2 2009年のG20の経済成長率(予測)
図2 2009年のG20の経済成長率(予測)
(出所)IMF, World Economic Outlook Database, October 2009

2010年にも日本を上回る中国のGDP規模

それを象徴するかのように、中国のGDP規模が日本を上回る時期が迫ってきている。世界GDPランキングにおいて、中国は、1978年の第10位から2007年にはドイツを抜いて、米国と日本に次ぐ世界第三位となった。2008年の中国のGDP規模は4.327兆ドルと世界の7.1%を占め、日本(4.911兆ドル、世界の8.1%)の88.1%に相当している(図3 a)。2009年入ってから中国の成長率が日本を大幅に上回っていることから、最近の円の対人民元上昇を考慮しても、2010年に日中のGDPが逆転する可能性は極めて高い。これは、日本にとって、1968年に西ドイツを抜いてから守ってきた「世界第二の経済大国」の座を中国に明け渡すことを意味する。

もっとも、ドル換算に基づくGDP規模は、為替レートの変動に大きく左右される上、途上国の物価水準が先進国より低いことを考慮していないため、経済規模の国際比較の基準として信憑性は必ずしも高くない。実際、中国の場合、改革開放当初から10%近い成長を遂げていたにもかかわらず、為替レートの下落を反映して、1980年から1990年にかけてGDP規模は日本の28.9%から12.8%(世界全体の2.6%から1.7%)に低下してしまった。

このようなバイアスを修正するために、IMFが同じ財・サービスを同じ価格で評価する「購買力平価」(PPP)を基準に世界各国のGDPを発表している。それによると、中国のGDP規模は、改革開放以来一貫して日本との差が縮まっており、世界に占めるシェアも高まっている。PPPベースで見た中国のGDP規模は2001年に初めて日本を上回るようになり、2008年には7.9兆ドル(世界の11.4%)と、日本(4.4兆ドル、世界の6.3%)の1.8倍に達している(図3 b)。

図3 日米中のGDP規模の比較
a) ドル換算ベース

図3 日米中のGDP規模の比較 a) ドル換算ベース
b) 購買力平価(PPP)ベース
図3 日米中のGDP規模の比較 b) 購買力平価(PPP)ベース
(出所)IMF, World Economic Outlook Database, October 2009(予測を含む)

とはいえ、中国は人口が日本の10倍に上ることを考えれば、GDP規模で日本を超えても、一人当たりGDPではまだ日本の一割(PPP基準では2割)程度にとどまっており、世界平均にも遠く及ばない(2010年にはドル換算では45%、PPPベースでは68%)。このことは、中国の国民の生活水準は依然として低い反面、後発性の優位を活かせば、これからも長期にわたって、先進国を上回る高成長が期待できることを意味する。

2008年の中国のGDP規模は、ドル換算では米国の3割程度(PPPベースでは55%)に当たるが、今後も中国が米国より高い成長率を保っている上、人民元がドルに対して上昇し続けることが予想されることから、2030年までに中国が米国を抜いて世界一のGDP大国になる可能性が高い(BOX参照)。

BOX 「中華復興」に向けて

4000年の歴史を誇る中国は、近世までの長い間、世界一の経済大国であった。経済史を専門とするオランダフローニンゲン大学のアンガス・マディソン(Angus Maddison)教授によると、中国のGDP(1990年国際ドルベース、購買力平価という概念に近い)規模はピーク時の1820年には世界の32.9%に達した。しかし、アヘン戦争以降、低下の一途を辿り、中華人民共和国の建国当初の1950年には4.6%、大躍進を受けた1962年には4.0%となった。その後、幾分持ち直したものの、本格的回復は改革開放を受けた1980年代まで待たなければならなかった(表)。このように、中国にとって、近年の目覚しい経済発展は、グローバル大国化の過程であると同時に、「中華復興」の過程でもある。

表 中国おける人口・GDP・一人当たりGDPの長期的推移
表 中国おける人口・GDP・一人当たりGDPの長期的推移
(注)GDPは購買力平価を考慮した1990年国際ドル
(出所)Angus Maddison, "Statistics on World Population, GDP and Per Capita GDP, 1-2006 AD" (March 2009), http://www.ggdc.net/maddison/

2009年12月25日掲載

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2009年12月25日掲載