2005年の春から始まった非流通株改革では、90%以上の上場企業が実施を開始したなど、成功を収めつつある。その間、2005年6月6日に一時1000ポイントを割った上海総合指数は、2007年1月下旬現在では3000ポイントのレベルに近づいている。2006年6月以降のIPO再開も加わり、上海と深センの時価総額の合計は、改革前の3倍ほどに膨らみ、1兆ドルを上回るようになった。非流通株改革は、中国の株式市場に量的拡大をもたらすだけでなく、「質」の変化にもつながることが期待され、中国の資本市場は新たな成長期を迎えている。
強化された資金の配分・調達・運用の場としての機能
資本市場には、資金調達、投資、資源の有効な配分という三つの基本的な機能がある。非流通株改革前の三分の二の株が流通できない規制の下では、流通株主が株価の上昇によるキャピタルゲインを狙ったのに対して、非流通株主は純資産の拡大に熱心であった。また、流通株主は少数株主の立場に甘んじざるを得ないため、大株主によって指名される経営陣を監督し、彼らの経営行動を律することが出来なかった。その結果、中国の株式市場は一部の経済学者に「カジノ」とまで批判されていたほど投機色が強く、本来の機能を十分に果たすことが出来なかった。
このような状況は非流通株改革を経て、変化が見られはじめ、市場の需要と供給を反映した価格メカニズムが働くようになりつつある。成熟した資本市場では、市場のシグナルとしての株価に導かれ、投資が優良企業に流れる一方、業績の悪い企業は市場に見放され、ひいては退場を余儀なくされてしまう。このような「良貨が悪貨を駆逐する」ともいうべきメカニズムを通じて、資金が有効に利用される。中国においても、生まれ変わった資本市場は投資効率を高めることを通じて、投資側と融資を受ける側の双方に利益をもたらすだろう。
資源配分の効率化を促すコーポレートガバナンスの向上
非流通株改革に伴う資源配分の効率改善は、コーポレートガバナンスの向上によって達成される。まず、非流通株問題が解決されることによって、大株主に株式が集中する局面が改められ、企業は買収されるという圧力にさらされることなりつつある。経営を怠れば、業績が悪化し、株価が下落した企業は、買収され、現経営陣が解任される可能性もある。脅威を感じる経営陣は保身のためにも企業価値の最大化を追求し、経営に懸命になるだろう。買収と合併(M&A)が円滑に行われるように、2006年9月1日より「上場企業の買収に関する管理弁法」、同9月8日に「外国投資者の国内企業の買収・合併に関する規定」が相次いで実施され、今後、公開買付を通じたM&Aが盛んになると予想される。
また、改革を経て、国有企業は経営陣にストックオプションを付与することを通じて、彼らのインセンティブを高めることができるようになった。さらに、大株主も少数株主と同様に、株価の上昇に強い関心を持つようになるため、経営陣の選抜や彼らへの監督にも努めるようになる。
その上、非流通株改革が成功したことにより、国有株を株式市場に放出する形で、大型国有企業を民営化する道が開かれるようになった。民営化は、M&A圧力など、上述の要因とともに、企業コーポレートガバナンスの改善を通じて企業価値、ひいては株価の上昇につながるはずである。最近の中国における株価の上昇は、まさにこのような期待を反映している。
広がる内外の投資家の層
改革を経て、株式の投資対象としての魅力が高まる一方で、「会社法」と「証券法」に加え、証券発行や取引、企業の退場、情報開示、M&Aなどにかかわる一連のルールが整備される見込みである。これを背景に、外資を含めて、機関投資家が積極的に市場に参入する動きは活発化している。機関投資家が主導する成熟した市場では、投資が合理的に行われ、過度な投機は抑制されることが期待される。
一方、中国の株式市場は半閉鎖状態から開かれた市場への転換を進めている。法整備と監督の強化などを通じて資本市場の健全性が確保できるようになれば、資本移動の自由化を意味する投資対象としての国内証券の対外開放も加速するだろう。実際、適格海外機関投資家(QFII)に与えられる投資枠はすでに段階的に広げられている。外国の投資家にとっても、中国への証券投資を通じて、中国の経済発展の果実を共有できるようになる。
強化される資金調達の場としての役割
改革の前に、株価が長期にわたって低迷する中で、株式市場は、資金調達の場としての機能をほとんど果たしていなかったが、改革を経て状況が一転した。非流通株改革の開始に合わせて一時的に中止されたIPOが2006年6月に再開され、中国工商銀行をはじめ、大型案件が相次いでいる。その規模は最初の6ヵ月だけで1000億元を超え、2007年には香港を上回る2000億元に達すると見込まれる。
IPOや増資は、市場における需給関係の悪化を通じて株価を下げる要因となると思われていたが、調達された資金が有効に利用されることを前提にすれば、株価は逆に上昇することもあり得ることを今回の改革の経験が示している。今後、国有株が漸次に放出されるが、これは、コーポレートガバナンスの改善を目指した民営化の一環である以上、株価の下落要因にはならない。
2007年1月29日掲載