中国経済新論:中国の経済改革

中国における証券市場の課題
― 求められる国有株の放出による「一股独大」の是正 ―

はじめに

中国では、経済の高度成長が続いているにもかかわらず、株価が低迷している。これは一部の上場企業による不祥事が相次ぐ中で、投資家が証券市場に対する信頼を失っているためである。中国の証券市場がこのような異常な状態に陥った背景には、上場企業の大半を国が絶対支配株主となっている国有企業が占めるという「中国的特色」がある。

中国の株式は国有株、法人株と流通株の三種類で構成されている。国有株とは、国家が保有している株式のことで、いわゆる日本の政府保有株である。法人株とは、国有企業をはじめとする法人もしくは法人資格を有する社会団体などが保有している株式である。流通株とは、市場に流通している株式で、一般投資家でも取引のできる株式を指す。現状では、流通株の全株式に対する割合は三分の一程度に留まっており、残りの三分の二を非流通株(国有株、法人株)が占める。実際、2004年10月現在で、上海、深センの両市場に上場している企業の時価総額は3.87兆元にのぼるが、そのうち、流通株の価値に相当する分は1.22兆元(31.5%)にとどまっている。このように流通株が不足していることもあって、各上場企業は収益性が低い割に、株価が高くなっている。こうした状況の下では、上場の権利を獲得できるものは、簡単に暴利を手にすることができる。しかしながら、あまりにも高いPER(株価収益率)に対して利潤成長率が低い現状では、大多数の株の投資価値が失われ、大株主や経営者たちはもはや投資よりもインサイダー・コントロールを悪用した株価の上昇によってリターンを求めるようになっている。

これらの問題を根本的に解決する方法は、国有株の全てを市場で流通させることに尽きる。それにより、政府の持分が民間資本に取って代わられることになり、国有企業の民営化も加速することになる。

非流通株問題

上場企業の株式の三分の二も流通できないことが、中国の証券市場が抱える問題の根本である。それによって、次の四つの問題がもたらされている。

第一の問題点は、国有株と法人株の株価に基づく収益が実現できないことである。株式投資の収益は、上場企業の配当、株式価値の上昇(含み益)、株式売買による価格差収入の三つによる。会社配当と株式価値の上昇分が同じ場合に、投資者が有限責任会社への出資ではなく上場企業への株式投資を好むのは、株式売買による収益が考慮されるためである。しかし、国有株、法人株は流通させることができないため、株主は株価の上昇による収益を具現化することができない。これは、事実上、国有株主と法人株主から、株価による収益を受ける権利を剥奪したのと同じである。

第二の問題点は、国有株と法人株が譲渡困難であるため、上場企業のコーポレート・ガバナンスの改善と資金運用が制約されていることである。国有株と法人株は市場で売買できず、譲渡を行う場合は基本的に相対取引を行わなければならないため、需給に関する情報の非対称性が大きい。このため、譲渡したい側が買い手を見つけられず、譲渡を受けたい側が売り手を見つけられない事態が起こりやすい。この結果、上場企業の株主構成があまりにも安定的な状態となってしまう。これによって上場企業のコーポレート・ガバナンスが硬直化し、また、上場企業では経営者を交代させることもできないため、株主構成の調整を通じた資産の再編や合併・買収を実施できない。

第三の問題点は、非流通株の譲渡価格と流通株の市場価格が大きく乖離し、二重価格が形成されていることである。国有株と法人株は市場で流通させられないが、1株当り純資産価格に基づいて相対で取引され、その譲渡価格は低い。

第四の問題点は、国有株と法人株の存在が上場企業の資金調達を制約していることである。国有株と法人株は譲渡が難しく、譲渡価格も低いため、これまで中国の上場企業が新株発行を実施する際、国有株と法人株の株主は基本的に株式割当権を放棄してきた。したがって、上場企業の資金調達の主要な対象は、割合が比較的小さい流通株主となっている。この結果、上場企業の資金調達、資本拡大と発展が制約されている。

大株主による中小株主に対する権利の侵害

中国の証券市場に信認危機をもたらしたのは大株主による少数株主への権利侵害である。大株主は多数の議決権をもっており、実質的に株主総会をコントロールしている。上場企業の取締役、監査役、経営陣の人選も、大株主がコントロールしている。多くの上場企業の大株主は、少数株主より遥かに大きな権利を享受し、株主の権利だけでなく、本来取締役や監査役、経営者がもつべき権限まで持っている。

大株主による中小株主に対する権利の合法的、また非合法的侵害は、次のような形で広く行われている。

まず、多くの中国の上場企業は、市場に参加している少数株主から簡単に巨額の現金を集めることができる。そのとき、高いプレミアムをつけて発行された流通株の資産価値は目減りしている(希薄化)が、一株当り純資産価格を反映した非流通株の価値は上昇する。その結果、非流通株主は新株発行には熱心だが、上場後の企業の発展を軽視しがちである。実際、増資によって得られた資金も投資という本来の目的のために使われているとは限らない。これを反映して、中国の上場企業には、上場後の業績が大幅に悪化する、あるいは赤字に転じる会社が多く、このことは証券市場の発展に悪影響を与えている。

また、大株主は、上場企業に対する絶対的なコントロール権を利用して、関連取引を通じて、会計操作を行う。通常、大株主は傘下に多くの会社を持っており、その操作の下で、自分だけの利益のために、これら会社の間で関連取引が行われる。関連取引には、受け取り型と支払い型の2種類がある。受け取り型は、大株主が関連取引を通じて上場企業の資源を自分のものにすることである。支払い型は、大株主は上場企業の業績が短期的に上がったように見せかけるため、関連会社の利益をいったん上場企業に移し、目的が達成されれば、上場企業から資源を取り出し、ほかの会社に移す方式である。

さらに、大株主は、この立場を悪用して会社情報を操作したり、虚偽情報を発表したりすることができる。一部の上場企業にいたっては粉飾されてから上場するなど、最初からこのような筋書きを立てているのである。大株主が自社の株価をつり上げ、少数株主の投資を呼び込んでから、ひそかに売却して暴利を獲得するという違法行為も跡を絶たない。

近年、中国証券監督管理委員会と深セン・上海取引所は、上場企業に対する監督・管理を強化しているが、国有株のシェアが高いという株式構造に変化がないため、大株主が上場企業を操作する状況が続いており、中小株主の権益は制度的に保護されていない。

国有株放出への模索

このように、国有株と法人株といった非流通株のシェアが高く、流通株の割合が小さいことが、証券市場の成長を妨げている。証券市場を健全に成長させるためには、国有株の放出や全株式の流通株化が要請されている。これにより、国有企業の「民営化」が進み、政府が企業の経営から完全に撤退することができる。

民営化に向けて、1997年9月に行われた中国共産党第15回代表大会では、「国有経済の戦略的再編」という方針が打ち出された。この方針の重要なポイントは、国有資本がコントロールすべき部分を、国家安全に関わる産業、自然独占の産業、重要な公共財・サービス、基幹産業とハイテク産業の中の重要な中核企業に限定する点にある。すなわち、競争産業においては国有資本を縮小・撤退させる方向性が示されている。1999年9月、第15期中央委員会第4回全体会議(四中全会)においても、この方針は再確認され、その一環として、国有株の放出という方針が公式に発表された。

これを受けて、当局は1999年と2001年の二回にわたり国有株の放出を試みたが、いずれも失敗に終わった。特に、2001年6月、国務院は、「国有株放出による社会保障資金調達の管理に関する暫定規則」を通達・施行した。この規則では、国家は国有株の売却で得た資金で社会保障資金の不足分を穴埋めするために、国有企業が株式を公開したり増資したりする場合には、資金調達総額の10%分の国有株を放出することが義務づけられている。しかし、国有株の放出が供給過剰につながるという懸念から株価が急落した。このため、2001年10月に当局は放出を中止せざるを得なくなった。

しかし、国有株の放出は、証券市場の改革と国有企業の民営化のために避けて通れないことである。そのとき、これまでの失敗の経験を繰り返さないように、国有株の株主と流通株の株主の利益をいかにバランスさせるかの見極め、また株価が乱高下しないように市場の安定を保つことは必須である。そのためには、放出価格や、数量、タイミングなどの面において、整合性の取れた計画が求められている。

2004年12月22日掲載

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