中国における民営化のプロセスは、中小型企業から始まって、1997年に第15回共産党大会で決めた「国有経済の戦略的再編」という方針を受けて、大型国有企業にも及ぶようになった。すでに多くの中小型の国有企業がMBOなどを通じて民間企業に転換されているが、大型国有企業の場合、上場企業となっても発行済株数の三分の二を占める国有株と法人株は市中での流通が認められていないことがネックとなって、民営化が遅れている。進行中の証券市場改革により、この問題は解決に向けて大きく前進すると予想され、これをきっかけに大型国有企業の民営化が加速するだろう。
資本主義の国において、民営化を進める際、国有企業を株式会社に転換した上で、その株を上場させ、国有の持分を段階的に減らしていく手法が一般的にとられている。日本におけるNTTやJR各社の上場はその好例である。中国においても、1990年に上海、1991年に深センで株式市場が設立されてから、10年以上の歳月が経っている。しかし、国が保有する上場企業の大半の株は流通できないゆえに、国有大株主による中小の流通株主の権利への侵害やそれにともなう株価の低迷など、証券市場の発展に多くの弊害をもたらした。このままでは、証券市場は期待された民営化の受け皿としての役割を十分に果たすことができない。
これを背景に、当局は1999年と2001年の二回にわたり国有株の放出を試みたが、これにより需給関係が悪化するのではないかという懸念から株価が急落し、当局は放出を中止せざるを得なくなった。こうした教訓を踏まえて、2004年2月に発表され、今後の資本市場改革の青写真となる「資本市場の改革開放と安定発展を促進することに関する国務院の意見」では、非流通株改革の重要性を強調した上で、それに際した非流通株主による流通株主への対価の支払いと義務付けるという方針を盛り込んでいる。
この方針に沿って、2005年4月29日に「上場会社の株式分断の改革実験に関する問題の通達」が発表され、新たな国有株の売却に向けた実験が始まった。これまでの二回と違って、今回は、「選定された実験の対象となる企業は、自ら非流通株を売却する方法を決める」ことや、「売却案は臨時株主総会で決議されなければならない上、決議に参加する流通株主の決議権の三分の二の賛成が必要である」と規定されるなど、流通株主と非流通株主双方の利益が同時に配慮されている。また、市場の需給関係を配慮して、国有・法人株が流通株に転換されてからも、実際の市場への放出は、最初の1年間は一切認められず、2年目も発行済株数の5%以内に制限されている。
実験は、5月9日に公告を行った第1ラウンドの4社から始まり、6月19日には第2ラウンドの42社が加わった。8月19日に最後の一社の改革案が臨時株式総会で可決され、市場全体で見ても株価が安定的に推移したことで、今回の実験は成功したと言えよう。これを受けて、8月下旬から9月上旬にかけて、すべての上場企業を対象とする非流通株改革に関するガイドラインとそれを具体化する一連の措置が相次いで発表された。これに沿って、9月12日に新たに40社が非流通株改革案を公告し、それ以来、週に20社ほどが追随している。このように、非流通株改革は、実験の段階から全面展開の段階に入っており、1~2年程度という比較的短期間で、その対象がすべての上場企業に及ぶという形で完成する見込みになっている。
当局は、非流通株改革の目的はあくまでも非流通株と流通株に平等な権利を与えることを通じて上場企業のコーポレートガバナンスと証券市場の資金仲介機能を改善させることにあり、国有株を市場に放出すること(「減持」)ではないと説明している。このような慎重なスタンスを取らざるを得ない背景には、株式市場における需給悪化への懸念を払拭する意図があろう。しかし、非流通株が流通株に転換されてからも従来通り国によって保有されたままでは、企業のコーポレートガバナンスと証券市場の資金仲介機能の向上はとうてい無理である。所期の効果を上げるためには、国有株を放出することを通じて国有企業の民営化を進めていかなければならない。これは、市場経済への移行を目指す中国にとって、避けて通れない道でもある。
2005年12月7日掲載