中国経済新論:実事求是

日本の景気回復に寄与する中国要因
― 交易条件の改善がもたらした生産拡大 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

2003年第4四半期の経済成長率は前期比年率7.0%と、13年ぶりの高い水準に達し、好調な対中輸出が、今回の景気回復の一因にもなっている。中国の景気変動の日本経済に与える影響について、世論が中国発デフレ論から中国発インフレ論に変わりつつあるが、いずれも絶対価格の変化に注目している。しかし、企業の業績、ひいては経済成長に影響を及ぼすのは、むしろ相対価格、中でも、交易条件の変化である。

ここでいう交易条件とは、輸出価格の輸入価格に対する比率である。原材料を輸入し製品を輸出する企業にとって、輸入価格は賃金とともに生産コストを決める要因となる。これら投入価格が上昇することは、コスト上昇を意味し、利潤の低下を通じて生産を抑える。また、輸出価格は産出価格に当たり、これが上昇すれば利潤と生産が拡大することになる。日本にとって、中国からの輸入価格の上昇は、交易条件を悪化させ、生産を抑える悪いインフレに当たるが、中国向け輸出価格の上昇は、交易条件を改善させ、生産を拡大させる良いインフレを意味する。一方、中国からの輸入価格の低下は生産を拡大させる良いデフレであるが、中国向け輸出価格の低下は生産を抑える悪いデフレである。

では、中国の躍進は、日本の交易条件に対してどのような影響を与えているのであろうか。中国は日本をはじめとする先進国からハイテク製品、途上国から一次産品を輸入し、ローテク製品を輸出する。一方、日本は、中国からローテク製品を、途上国から一次産品を輸入し、ハイテク製品を輸出する。このように、日中間では、工業製品の輸出において補完しているが、一次産品の輸入において競合している。中国の躍進は世界市場において、ローテク製品の供給と、ハイテク製品と一次産品に対する需要(いわゆる中国特需)の拡大を同時にもたらす。この需給関係の変化により、ローテク製品の価格が一次産品とハイテク製品に対して低下することになる。これは、中国自らの交易条件の悪化をもたらす。

経済の躍進に伴う中国の交易条件の悪化は、途上国からの一次産品輸入価格の上昇よりも、輸出価格の低下とハイテク製品の輸入価格の上昇という形をとっている。これは、中国の一次産品の輸入は多くの品目に分散しているのに対して、輸出とハイテク製品の輸入は、いくつかの特定分野に集中し、世界全体でも高いシェアを持っていることを反映している。実際、中国の一次産品に対する需要は増えているとはいえ、その世界輸入全体に占めるシェアは、石油の3.0%、農産品の3.5%(2002年、WTOによる)のように、まだ小さい(注)。これに対して、中国が、ハイテク製品の世界輸入に占めるシェアは、通信が7.9%、鉄鋼が8.9%と高くなっており、輸出の面では、衣料品が20.6%、繊維が13.5%といったように、さらに高いシェアを持っている。

これを反映して、昨年、中国経済が9.1%という高成長を遂げ、日本の対中輸出が実質ベースで28.4%伸びる中で、対中交易条件が6.9%も上昇している。そのうち、対中輸出価格は3.8%上昇しているのに、対中輸入価格は3.0%下落している(いずれも円ベース)。日本は、まさに中国発インフレと中国発デフレのメリットを同時に享受している。

2003年2月24日掲載

脚注
  • ^ 確かに、最近原油価格が高い水準で推移しているが、これは中国要因よりも、世界全体の景気回復と中近東情勢の不安定であることが大きいと見られる。
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2003年2月24日掲載