中国経済新論:実事求是

対照的になる日中の銀行改革
― 国有化 Vs. 民営化 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

日本と中国の銀行は、いずれも大量の不良債権を抱えており、金融不安を解消するために、銀行を改革することが、両国にとって共通の課題である。しかし、両国が採っているアプローチが対照的になっている。日本では、銀行が国有化されないと思い切った改革ができない状況になっているのに対して、中国では、国有のままでは銀行の改革がなかなか進まないという反省から、四大国有銀行の民営化が模索され始めている。

日本では、自己資本不足に陥ったりそな銀行を支援するために、当局が2兆円に上る資金注入を決めた。これにより、同銀行は実質上国有化され、これから政府主導の下で再生を目指すことになる。りそなグループへの公的資金の注入は、1998年と99年に前身の大和銀行やあさひ銀行に行ったのに続いて三度目になる。前二回の合計で国からすでに1兆1千億円の支援を受け、経営健全化計画を策定したが、抜本的な経営改革につながらなかった。こうした反省から、今回の資金注入に当たり、外部の会長や社外取締役を入れて経営を厳格に監視する体制を確立するなど、厳しい条件がつけられている一方で、当局による検査・監督も強化されることになる。公的資金の注入という決定を受けて発表されたりそなグループの経営健全化計画には、43店舗を閉鎖することに加え、従業員1800人を削減し、給与水準を年収ベースで3割引き下げるといったリストラ策が盛り込まれている。

これらの方針はこれから具体化され、実行に移されるが、再建に成功すれば、政府所有のりそな銀行の株は値上がりし、政府はそれを市場に放出する形で注入した資金を回収することができる。その前提として、再生計画を通じて、りそな銀行は投資家が期待する利益率を上げる能力(北京大学の林毅夫教授のいう「自生能力」)を再び持つようにならなければならない。しかし、現段階では、新しいビジネスモデルがまだ見えてこない上、国内の景気回復も見込まれないことから、再生計画が最終的に収益の改善につながるかどうかはまだ不確実である。もし失敗すれば、りそな銀行が倒産という形で市場から姿を消すか、政府の更なる支援や保護を頼りにせざるを得ない。前者の場合、これまで注入した公的資金は回収不能になり、後者の場合、新たな公的資金の導入が求められることになるが、いずれの場合においても、国民の大きな負担となる。

一方、計画経済から市場経済への移行を目指す中国では、四大国有銀行(中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行、中国建設銀行)が、株式上場という目標を掲げている。現状では、これらの銀行は貸出の20%を上回る不良債権を抱えており、「自生能力」を欠いていることは明らかである。不良債権を処理するために、当局が1998年に四大銀行に対して、2700億元の資本を注入したことに続き、1999年に1.4兆元の不良債権を簿価で買い上げ新たに設立した資産管理会社(AMC)に移した。しかし、その後も不良債権は増え続け、金融危機を回避するために、もう一回の公的資金の導入が必要であるという世論が形成されつつある。このように、政府によるこのような資金支援は、過去の負の遺産を清算するためには必要だが、経営を改善し不良債権の新規発生を止めることが出来なければ、根本的な問題は解決されず、同じ事態が繰り返されるだけである。

中国の国有銀行が自生能力を持つためには、単に経営の改善だけでなく、市場経済に適するコーポレート・ガバナンスの構築をはじめとする制度変革が求められる。国有銀行を上場させることに留まらずに、最終的には、民営化を通じて、政府がその経営から完全に撤退しなければならない。民営化により、行政の介入による弊害が抑えられるようになるが、情報の非対称性などを悪用する経営者の不正行為を防ぐためには、銀行に対する金融当局の監督強化が求められる。

2003年6月13日掲載

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