中国経済新論:中国の経済改革

改革を迫られる中国の国有銀行
― 分割による再編の薦め ―

何帆
中国社会科学院世界経済・政治研究所

トラクターが高速道路へ

中国の銀行が抱えている不良債権の総額は一体どのぐらいあるのだろうか。中国政府に発表された数字がはっきりとせず、しかも常に変動しているため、政府あるいは銀行自体もその正確な総額を把握していないのではないかという印象をわれわれに与える。おおまかに言うと、中国の銀行の不良債権比率は少なくても30%以上である。回収できるのはその中の20-30%以下であろう。もし回収できない不良債権が結局、全部政府に回されるとしたら、大雑把に言うと、中国の不良債権を処理するコストがおよそGDPの25%ほどを占めることになる。国際的水準から見ると、これは相当高い比率である。中国の銀行体制が対外開放される前にすでに深刻な状態であり、WTO加盟を実現後、中国の銀行体制が外資系銀行との競争を強いられると、ますます危機的な立場に追い込まれるのは必至である。トラクターを高速道路で走らせているように、中国の銀行業界は無事にその道のりを走り切ることができるだろうか。

WTO加盟は中国の金融界に二つの面において挑戦をもたらすことになる

第一に、もともと閉鎖的な条件の下で保たれていたマクロ的な安定は金融開放が進むにつれて危機に陥るようになる。金融の開放によって、資本管理のコストが絶えず上昇すると同時に、資本管理の収益を低下させている。こうした収益とコストの対照的変化によって、ある日、当局は外貨管制のコストがすでにその収益を超えていることに気が付くはずである。その日こそ中国における外貨管理を開放する記念日になるだろう。

第二に、中国の金融業界は外国資本の金融機関との競争に直面することになる。慎重な予測によると、外資系銀行が求めるのは市場シェアよりも、高額な利潤であるため、中国の現在の金融リスクを考えると、外資系銀行が直ちに中国の市場へ参入することはないだろうと考えられている。これに対して、より急激な見方ではWTO加盟後、中国の銀行が相当な市場シェアを失うだけではなく、その利潤の金額も大幅に縮小するだろうとされている。例えば、アジア開発銀行の駐中国首席代表Bruce Murrayが、WTO加盟後の10年―15年、外資系銀行が中国の金融市場シェアの30%を獲得すると予測している。また中間的な予測によると、WTO加盟後の10年―15年、外資系銀行がおよそ10%の市場シェアを獲得するという。

市場シェアだけを考えるのは問題を誤った方向に導く恐れがあるかもしれない。しかし、われわれを心配させているのは、中国の銀行体制が先進諸国のそれに比べ、格段に立ち遅れていることである。まるで槍とライフル銃との戦いのように、その差は一目瞭然である。外資系銀行はすでに伝統な銀行業務より現代的な業務へと転換し、債券、先物とオプション、基金管理、M&A、株上場、プロジェクト・ファイナンスなど、非常に多くの分野にその業務を拡大している。これに対して、中国の銀行は伝統な業務サービスに留まっており、その利潤が次第に縮小している。これまでの中国の銀行は、主に預金と融資業務を通じた金利差による利潤を頼りにしてきた。しかし、預金の増加率の低下及び他の金融機関からの競争によって、この道の前方は狭くなる一方である。さらに都合の悪いことに、今年になって利子の引き下げが実行され、銀行の利子収入の大幅な減益が予想されている。

われわれは中国銀行体系の中身を観察すると、それがあくまでもちっぽけな巨大モンスターに過ぎないという実態に戸惑いを感じざるを得ない。巨大とは、その雇用している人数がその競争相手をはるかに超えていることを指しており、またその営業ネットワークが全国に展開していることも指している。しかし、われわれはこれを単純に自慢することはできない。なぜなら、1人当たり預金額や資産収益率などは世界トップレベルにはほど遠いからである。

このように、中国の金融業界はWTO加盟後、以下の深刻な問題に直面することになる。まず、中国金融業界はいまだに伝統的な業務に留まっており、金融現代化まではほど遠く、現代金融業としての機能に必要な組織と手段を持っていないため、WTO加盟後、外国金融機関との競争能力が様々な面において著しく欠けている。また、所有権があいまいであるため、中国の金融業界はリスク分散の機能を持たず、金融リスクが非常に高く、金融危機の可能性が解消されないままとなっている。さらに、金利に対する厳格な管制、情報公開の機能が不完全といった状況の下で、金融市場が経済当事者に正確かつ有効な判断の情報を提供するどころか、逆に市場情報そのものの信憑性が著しく低下し、限られた金融資源が十分機能していない。こうした情報の非対称性、非均衡的状況の下で、金融市場におけるインセンティブと制限のメカニズムが働いていない。その結果、優秀な金融人材の大量流失がもたらされる一方、金融監督が十分にできず、違法や規定に違犯する行為が頻繁に発生し、金融犯罪の状況も深刻である。

国有銀行分割の薦め

現在の状況に関して、国有銀行改革には基本的に三つの発想がある。第一に、現在の国有銀行の政府による100%保有という局面を破壊し、改革及び銀行の株式化改革を行うことである。しかしこの方法にはイデオロギー的な障碍があるゆえに難しく、短期間において大きな突破は見込まれない。第二に、現有の銀行の管理経営体制を改善し、銀行内部の組織化とリーダシップを強化することである。言い換えれば、企業家のような役割を果たせる銀行の頭取をいかに見つけ出すかということである。この方法が現在最も望ましく思われている。なぜなら、この方法には、イデオロギー的な障害も無ければ、既得利益に触れること事もない。しかし、この方法は、古い体制の根幹まで触れないゆえに、従来の古い体制の弊害を取り除くことができない。さらに、改革の希望を良いリーダシップに託すことから、あくまでも「人治」という対応に留まっており、体制そのものの制度化ではないがゆえに、その成功の可能性も非常に低い。第三の発想は、監事会、審計などの手段で資金の貸し出しなどに対する監督の強化を通じて、国有銀行のコーポレートガバナンスそのものを改善することである。これが先進諸国の市場メカニズムの下での運営方式を取り入れた理想的な考え方である。しかし、この方法は先進諸国という制度環境の下で成功したが、中国現在の制度環境の中で果たして成功することが出来るかどうかは不確実である。

このように、上述の国有銀行の改革方案のいずれも成功する可能性はきわめて低い。なぜなら、こうした発想が基本的に伝統的な金融業の枠組みを超えることなく、現在の銀行業を一つ一つ機関や組織の集合と見なしているからである。このような改革方案は、こうした機関あるいは組織に様々な法律的な整備を提供し、異なるルールや規定を設定することに留まっている。国有銀行改革は、決して現有の金融体制、組織、市場そして商品をすでに与えられた前提と見なすものではなければ、単に現在の金融制度、法定と機構の不足に対して改善をするものでもない。むしろ、金融組織、手段及び商品などの革新によって金融メカニズムそのものの機能の効率化をはかるべきである。

過去の20年、先進諸国の銀行業では重大な買収や、合併が繰り返されることによって再編が進んできた。アメリカでは、1975年から1997年までの間、商業銀行の数が35%も減少し、毎年に行われる合併は400件にも上る。こうした大量な銀行間の合併はまさしく銀行業の各機能の効率化の上昇を目指すものである。では、こうした買収と合併が果たして国有銀行業の改革にも適用するのだろうか。コースの理論によれば、企業の限界は取引コストによって決められる。取引が市場より企業内で行われるほうがより効率的である場合、企業が拡張になりがちである。逆の場合、企業がその限界を縮小し、市場取引を好むようになる。資産の性質を見ると、仮に異なる資産の間に補完性がある場合、同じ組織内での資産の取引コストは低い。逆に、もし異なる資産の間に補完性がない場合、同じ組織内での資産の収益が次第に減少する。従って、資産運用の効率を上昇させるには、資産の分散使用が避けられない。

この理論に基づき、国有銀行が一種の商業企業として考えると、その規模と範囲はどこにあるのだろうか。その買収と合併は小から大にすべきか、それとも大から小にすべきか、その答えはもはや自明である。なぜなら、国有銀行の現状から見ると、中国銀行業の改革が20年間を経ても、いまだに問題が山積し、効率が非常に低下している。その原因は、銀行業そのものが完全に政府の独占管制の下に置かれたからである。国有銀行の中国銀行業に対する完全な独占こそ、中国の金融資源の分配における著しい非効率をもたらしている。言い換えれば、国有銀行改革は現状維持にしろ、小から大への拡張的な再編にしろ、いずれも正解ではない。分割による再編こそ国有銀行改革の新たな発想かもしれない。

ここでいう分割による再編とは従来の小から大への拡張的な再編ではなく、むしろ四大国有銀行が実際の状況に基づいた、大から小への再編である。それは、現有の規模の大きすぎる、あるいは独占の度合いが高すぎる銀行の体制に対して、有機的分解と再編を行い、大あるいは全体的なものを小あるいはバラバラなものへと転換させることである。要するに、一連の改革政策によって、従来の国有銀行に対して、所有権構造を変えるための再編を行い、分散的な非国有資本が国有銀行に入り、銀行をコントロールする。その代わりに、国有持ち株を次第に国有銀行から退出させることである。このような分割による再編は基本的には、国有の代わりに、経営者を中心とした従業員による持ち株制度という新しいモデルを採用することになる。これによって、国有銀行の体制改革における所有権のボトルネックの問題とイデオロギーの障碍を破壊することができる。国有銀行の新たな再編によって、政府による国有銀行改革に対する根本的な制約を突破し、銀行業内部での市場競争を形成させ、銀行業の発展に本当な動力源を提供することになるはずである。

2002年7月8日掲載

出所

中評網

2002年7月8日掲載