中国経済新論:実事求是

中国に差し迫る貿易摩擦の陰

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

改革開放以来、輸出の増大は中国の高成長を支える要因となっており、その傾向はWTO加盟を受けて一層顕著になっている。しかし、世界市場における中国製品のシェアが高まり、主要国との貿易不均衡が急速に拡大するにつれて、貿易相手国との摩擦もエスカレートしている。短期的には、中国は二国間交渉やWTOの場を通じて摩擦の解消に取り組まなければならないが、長期的な展望として内需主導型の成長への転換が欠かせない。

保護主義的な貿易政策としてまず挙げられるのは、セーフガードおよびアンチダンピング措置を実行することで輸入を抑制する方法である。WTOは自由貿易を原則としているが、一時的な緊急避難措置としてアンチダンピングおよびセーフガードの2つの措置を例外的に認めている。しかしながら、現在のところ、世界共通の保護主義のツールとして使用されてしまっているのが実情である。

セーフガードは、予想されなかった事情により国内産業に重大な損害が生じた、または生じる恐れがある場合、そのような産業に対して輸入制限や関税の引き上げなどの救済措置を認める制度である。2000年6月には中国からの輸入の拡大に対応する形で韓国によってニンニクへの関税割当が、2001年4月には日本による農産物3品目(ネギ、生シイタケ、畳表)に対する暫定措置が実施された。また、2002年3月5日にアメリカが行った鉄鋼製品に対するセーフガードに関しても、中国の国内産業への影響が避けられず、その自衛手段として、中国は3月26日にWTOへの提訴を行っている。

一方、アンチダンピング措置は、通常よりも低い価格での輸出であるダンピングによって国内産業が実質的な損害を被っている、または被る恐れがある場合にアンチダンピング税の追加課税を行うことを認めている。中国は、ダンピングに関する調査開始を含め、最も多くアンチダンピング措置を発動されている国である。調査開始件数だけでも、1995年から2002年までで312件に上る。そして、実際に発動された件数も212件に上っている(表)。対象となった品目は、ニンニクやりんごといった農産物から鋼管やテレビといった電化製品まで多岐にわたっている。

また、国内の法制度を調整する形の非関税障壁も、いわば各国の保護主義のツールとして現存している。WTOは、協定に整合的であり、恣意的でなく無差別である限り、自由にその国独自の基準を設定することを認めている。2002年5月に表面化した中国産冷凍ホウレンソウの残留農薬問題に端を発して、日本では食品衛生法が改正された。違反となる恐れの強い国で製造された食品などについて、特定品を対象とした包括的な輸入を禁止させることが可能になった。このような法律のもとでは、規制の体系を調整することで、消費者保護や国内規制を名目とした輸入規制が実行可能なのである。この件に関して中国は、冷凍ホウレンソウに対する残留農薬の基準自体が不合理であると主張したが、日本側が自国の業者に対して輸入自粛を求めたこともあって輸出は実質的に止まった。

個別分野の問題に加え、全体としての貿易不均衡の拡大も、輸出相手国との摩擦を激化させている。日米欧とも、中国に対する貿易赤字が急増しており、人民元の切り上げを求める声が高まっている。しかし、日米貿易摩擦の経験からも分かるように、貿易収支は短期的には為替レートの変動にも影響を受けるが、中長期的には関係国の投資と貯蓄のバランスによって決まる。中国としては、内需の拡大を通じ、これまでの輸出依存の体質を改めなければならない。

表 アンチダンピング措置を発動された上位10カ国(1995~2002年)
表 アンチダンピング措置を発動された上位10カ国
(出所)WTO

2002年12月20日掲載

関連記事

2002年12月20日掲載