中国経済新論:実事求是

内国民待遇を求める中国の民営企業

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

近年、民営企業の成長は、生産、投資、雇用創出の面において中国の高度成長を支える要因の一つとなってきた。しかし、現在、民営企業の発展を妨げる制度上の問題が多く存在しており、中でも、(1)私的所有権を保護するための法制度の未整備、(2)市場参入の際における差別、(3)資金調達の面における制約が深刻である。

まず、従来の所有権に関する認識では、民営企業は資本主義のものであると見なされていた。実際、1949年に共産政権が成立してから、民営企業は一貫して制限され、最悪の場合、完全に禁止された時期もあった。こうした状況は改革開放以降、漸次改善され、3度にわたる憲法の修正を経て、民営企業をはじめとする非国有経済がようやく「社会主義市場経済における重要な一部分」と認められるようになった。しかし、こうした政府の方針における重大な転換にもかかわらず、法律においては、私有財産に対する権利の具体化や明白な規定を欠いたままである。所有権の保護が不十分であるため、企業家は再投資による企業規模の拡大には慎重にならざるを得ない。利潤を贅沢な消費に回したり、資産を海外に分散したりすることがよく見られるようになり、その悪影響は個別企業の経営に留まらず、国民経済全体の発展を妨げかねない。

また、民営企業は、多くの領域への参入がいまだに許可されておらず、その業務範囲が、国有企業はもとより、外資系企業と比べても、はるかに狭い。そして、民営企業の参入がようやく許可された領域についても、政策上の差別が依然として見られ、その中には既成部門の利益を保護するために設けられているものも多い。参入を審査する際に、技術、人員、そして資金に関する厳しい条件が義務付けられたりすることが一般的である。また、税制面においても、国有企業と外資企業が色々な形で優遇を受けているのに、民営企業は大きな負担を強いられている。

さらに、資金調達の面における様々な制約によって、民営経済の発展が妨げられている。計画経済体制の負の遺産として、四大国有銀行による銀行部門の支配が続いている。その融資はいまだ国有企業に集中しており、民営企業にはなかなか行き渡らない。一方、上海と深センの証券取引所においても上場企業の大半は国有企業になっている。多くの民営企業が新規株式公開を行う際、すでに上場している国有企業を買収するという形(いわゆる「殻買い上場」)を取らざるを得ず、莫大なコストがかかってしまうのである。

民営企業発展の初期では、製品を作れば何でも売れるというモノ不足の時代であったため、これらの制度上の差別待遇が必ずしも成長の制約にはならなかった。しかし、国有企業の改革が進み、外資企業の対中進出も本格化するにつれて、市場競争が激しくなり、民営企業の伸びも鈍化してきた。中国経済の更なる発展のために、所有権の改革はもとより、競争的かつ公平な市場環境の構築も欠かせない。その一環として、中国がWTOに加盟し、それを契機に外国企業に対する差別的待遇が漸次除去されつつあるが、民営企業にもできるだけ早く内国民待遇を与えるべきである。

2002年8月2日掲載

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