中国経済新論:中国の経済改革

始動する中国における第14次五ヵ年計画
― 「質の高い発展」を目指して ―

関志雄
経済産業研究所

中国では、2021年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)において、「国民経済・社会発展第14次五ヵ年計画と2035年までの長期目標要綱」(以下では「要綱」)が承認された。「要綱」では、「革新」(イノベーション)、「協調」、「グリーン」(エコ)、「開放」、「共有」からなる「新しい発展理念」に沿って「質の高い発展」を目指す中国経済の今後5年間の姿と、それを実現するための「双循環戦略」を中心とする方策が示されている。発展を脅かしかねない各種のリスクを抑えるべく、国防建設や、経済・金融、対外関係、食糧、エネルギーといった分野における「安全保障」への対応能力の強化が新たに優先課題として位置づけられている。

発展の新しい段階・理念・戦略

2021-2025年を対象とする第14次五ヵ年計画の特徴として、新しい発展段階、新しい発展理念、新しい発展戦略からなる三つの「新」が挙げられる(注1)。

まず、新しい発展段階とは、「要綱」の冒頭で述べられているように、「第14次五ヵ年計画期はわが国が小康社会(いくらかゆとりのある社会)を全面的に完成させ、第一の百年(中国共産党の建党100周年)の奮闘目標を実現した後、勢いに乗って現代社会主義国家建設の新たな征途を開き、第二の百年(中華人民共和国の建国100周年)の奮闘目標に立ち向かう最初の五年である。」

2017年の中国共産党第19回全国代表大会では、第二の百年の奮闘目標の実現に向けて、二段階で進める戦略が打ち出された。即ち2035年に「社会主義現代化」を基本的に実現し、今世紀半ばまでに中国を「現代的社会主義強国」に築き上げるというものである。「要綱」は、2035年の中国について、一人当たりの国内総生産(GDP)が中位の先進国レベルに達すると展望している。

次に、新しい発展理念とは、革新、協調、グリーン、開放、共有のことである(注2)。そのうち、革新は発展の原動力の問題、協調は発展の不均衡の問題、グリーンは人と自然の調和の問題、開放は発展の内外連動の問題、共有は社会公正の問題を解決するカギとなる。

そして、新しい発展戦略とは、「国内循環を主体とし、国内と国際の2つの循環が相互に促進する」という「双循環戦略」のことである。その本質は、労働力の減少や対米貿易摩擦の激化といった内外環境の悪化に対応して、対外開放を堅持しながらも、需要と供給の両面において、貿易を中心とする国際循環への依存を減らし、生産・分配・流通・消費からなる国内循環を強化することである。消費を中心とする内需拡大と、イノベーションを通じた生産性の向上と産業の高度化を目指す供給側改革が、その主な内容となる。

新しい発展段階を迎えた中国は、今後5年間、第14次五ヵ年計画の下で、「双循環戦略」を実施し、「革新、協調、グリーン、開放、共有」という理念を体現した「質の高い発展」を目指すことになる。

第14次五ヵ年計画の主な目標

「要綱」では、第14次五ヵ年計画に当たる期間(2021-2025年)を対象に、「経済発展」、「イノベーション」、「民生・福祉」、「生態環境」、「安全保障」の五つの分野において、8つの「拘束性目標」と12の拘束性の弱い「予期性目標」を合わせた計20の主要目標が挙げられている(図表1)。

図表1 第14次五ヵ年計画における経済社会発展の主な目標
図表1 第14次五ヵ年計画における経済社会発展の主な目標
(注)
1.〔〕は5年の累計。
2.*は2019年のデータ。
3.エネルギー総合生産能力とは、石炭、石油、天然ガス、非化石エネルギーの生産能力の合計を指す。
4.2020年、都市における空気が良質である日の割合と、地表水の飲用に適する水質の割合がコロナの影響を受けて、例年より高い。
5.2020年の労働生産率が2.5%増は予測データである。
(出所)「国民経済・社会発展第14次五ヵ年計画と2035年までの長期目標要綱」より筆者作成

「経済発展」の目標としてまずGDP成長率が挙げられている。「第12次五ヵ年計画」(2011-2015年)では年率7%、「第13次五ヵ年計画」(2016-2020年)では年率6.5%以上というGDPの成長目標が定められていたが、今回は、具体的数字が示されておらず、「合理的範囲を維持、状況に応じて毎年提出する」という表現にとどまっている。高まる不確実性に対処する余地を残すために、5年間の平均成長率の目標を設定していないのである。

「要綱」で挙げられている「経済発展」の二番目の目標は、労働生産性の伸び率がGDP成長率を上回ることである。労働生産性の伸び率は、GDP成長率と雇用者数の伸び率の差によって計られることから、同目標は、雇用者数の伸び率がマイナスになることを意味する。実際、生産年齢人口が縮小していることを背景に、雇用者数は2018年以降すでに減り始めており、この傾向は今後も続くと予想される。

「要綱」で挙げられている「経済発展」の三番目の目標は、常住人口ベースの都市化率が65%に達することである(2019年実績は60.6%)。戸籍制度による移住の制限の緩和は、農村部からの人口流入を促し、都市化の原動力となる。

「経済発展」以外の目標としては、「イノベーション」では、研究開発費の伸び率、人口万人当たり高付加価値発明・特許保有件数、デジタル産業の対GDP比、また「民生・福祉」では、都市部の調査失業率や、生産年齢人口の平均教育年数、平均寿命、さらに「生態環境」では、単位GDP当たりエネルギー消費量、単位GDP当たりCO2排出量、(国土の)森林被覆率、そして「安全保障」では、食糧の総合生産能力とエネルギー総合生産能力などが含まれている。「要綱」で挙げられている8つの拘束性目標のうち、7つは「生態環境」と「安全保障」に集中している。

イノベーションの促進

2010年頃から、中国は少子高齢化の進行と農村部における余剰労働力の枯渇を受けて、労働力過剰から不足の段階に入っている。人口の高齢化を背景に、貯蓄率も低下している。その結果、労働力と資本の投入量の拡大による従来の成長パターンが持続できなくなり、生産性の上昇による成長への転換が求められており、技術革新(イノベーション)はそのカギとなる。しかし、米中対立の激化により、海外からの技術導入が困難になってきている中で、自らの研究開発能力の強化が急務となっている。「要綱」では、「科学技術の自立自強を国の発展の戦略的支えとする」という政府の決意とその実現に向けた方策が示されている。

まず、国家イノベーション・システムを整備し、国家実験室がリードする戦略的科学技術力の構築を加速させ、核心技術における優位性の確立に注力し、基礎研究10ヵ年行動計画を策定・実施する。具体的には、人工知能、量子情報、集積回路、生命・健康、脳科学、生物育種、航空・宇宙科学技術、地底・深海などのフロンティア分野において、将来を見据えた重要な科学技術プロジェクトを実施することが提案されている。

また、企業の技術革新能力を高め、人材の育成に力を入れ、その能力が発揮できるように、イノベーションの体制を整える。

さらに、デジタル産業の発展と他の産業のデジタル・トランスフォーメーションを同時に進める。デジタルの基礎技術であるクラウドコンピューティング、ビッグデータ、IoT、インダストリアル・インターネット、ブロックチェーンや、デジタル技術を応用したスマート交通、スマート・エネルギー、スマート製造は有望な成長分野となる。

「要綱」では、イノベーションに関する具体的目標として、①社会全体の研究開発費を年平均7%以上増やす、②人口万人当たり高付加価値発明・特許保有件数を2020年の6.3件から2025年には12件に引き上げる、③デジタル産業のGDP比を2020年の7.8%から2025年には10%に引き上げる、ことが挙げられている。

産業構造の高度化

中国は、目覚ましい経済発展を経て、農業を中心とする途上国から工業とサービス業を中心とする先進国に変貌しつつある。産業の高度化は、資源を生産性の低い産業から高い産業へ移すことを意味し、技術革新とともに、経済成長を牽引するエンジンとして期待される。それに向けて、「要綱」では、次の方策が提示されている。

まず、製造業については、サプライチェーンや、重要製品と基幹技術の研究開発など、産業基礎能力を強化する。また、先進的製造クラスターを育成し、集積回路、航空宇宙、船舶と海洋工学設備、ロボット工学、先進的軌道輸送設備、先進的電力設備、建設機械、ハイエンドCNC工作機械、医薬・医療設備などの産業の革新的発展を促進する。

次に、戦略的新興産業(一部は製造業と重複)については、次世代の情報技術、バイオテクノロジー、新エネルギー、新素材、ハイエンド装置、新エネルギー自動車、環境保護、航空宇宙、海洋装置などを重点的に育てる。GDPに占める戦略的新興産業の割合(付加価値ベース)を17%以上に引き上げることを目標としている。

そして、サービス業については、産業の転換・高度化と人々の消費ニーズの高度化に合わせ、サービスの効率と品質を向上させると同時に、改革開放を深化させる。

最後に、インフラの整備については、交通、エネルギー、水利などの伝統的分野に加え、次世代情報産業などを支える新型インフラの構築を加速させる。

強大な国内市場の形成を中心とする「双循環戦略」の実施

中国は1970年代末に改革開放に転換してから、豊富な労働力と低賃金という優位性を生かして、技術・部品と市場を共に海外に大きく依存する加工貿易をテコに発展してきた。しかし、近年、労働力が過剰から不足に転じたことに加えて、海外における保護主義の台頭と米国における対中デカップリング政策の実施を受けて、加工貿易を中心とする「国際循環」に頼った発展戦略の限界が露呈されている。その対策として、政府は、「双循環戦略」を打ち出している。「要綱」では、その具体的内容について、次のように説明している。

まず、内需拡大戦略の実施を供給側構造改革の深化と有機的に結びつけ、イノベーションと質の高い供給によって新たな需要を先導・創出する。生産要素の自由な移動を促し、生産・分配・流通・消費といった領域における経済活動の円滑な循環の妨げとなる要素を取り除く。

また、国内循環に立脚して、強大な国内市場を整備しながら、双方向の貿易と投資の拡大を通じて、国内・国際双循環を促進する。

そして、内需拡大に向けて、中所得層の拡大などを通じて消費を促進し、官民連携(Public Private Partnership, PPP)を生かしながら投資の機会を増やす。消費と投資の拡大とともに、それぞれの構造の高度化を目指す。

農村振興と出稼ぎ農民の市民化

中国では、農村、農業、農民からなる「三農問題」の解決に向けて、農村振興と出稼ぎ農民の市民化を中心に対策を講じている。これについて、「要綱」では次の方針が示されている。

まず、農村振興については、2020年代半ばに満期を迎える第二次土地請負制期間を30年再延長する上、農地の所有権、請負権、経営権の三権分離改革を通じて、経営権の第三者への移転を容易にするという既定方針が確認されている。それにより、都市部に出稼ぎに行った農民が農村に残した農地が活用され、土地の集約による大規模農業が可能になる。農民は賃貸料などの収入を得ることもできる。また、食糧の自給率を一定の割合以上に保つために、耕地面積を18億畝(1億2,000万ヘクタール)以上に維持するという「レッドライン」を厳格に守る。これらの政策は、食糧安全保障の強化とともに農民の所得の向上に寄与すると期待される。

一方、「要綱」では、農村部から都市部への移住を加速し、常住人口ベースの都市化率を2025年に65%に引き上げることを目標としている。それに向けて、戸籍制度の改革を進め、一部の大型都市を除き、戸籍制度による移住の制限を緩和し、現住所に基づく戸籍登録制度を試行する。また、中央から地方への財政移転と都市部新規建設用地の規模を農村からの移住人口の市民化の度合いにリンクさせる制度を整備し、転入者を対象とする基本的公共サービス保障を強化する。さらに、都市部に移住した元農民の農地の請負権、住宅用地の使用権、集団利益の分配権を保障し、これらの権利を、市場を通じて有償で譲渡する関連制度を整備する。

地域間の調和的発展

地域間の調和的発展を実現するためには、各地域の優位性の発揮とともに、後れた地域への支援も欠かせない。それに向けて、「要綱」では、地域政策として、次の方針が示されている。

まず、京津冀(北京市・天津市・河北省)協同発展、長江経済ベルト発展、粤港澳(広東・香港・マカオ)大湾区建設、長江デルタ一体化発展、黄河流域の生態保護と質の高い発展を着実に推進し、河北省の雄安新区の建設を進める。

また、沿海地域より発展が遅れている西部地域や、東北地域、中部地域、少数民族地域を支援する。海洋経済の発展にも力を入れる。

さらに、地域間の格差を抑えるべく、中央から地方への財政移転制度を充実させ、基本的公共サービスの均等化を徐々に実現する。

更なる市場化改革の推進

中国は、計画経済から市場経済への移行過程にあるが、近年、「国進民退」(国有企業のシェア拡大と民営企業のシェア縮小)に象徴されるように、前進するどころか、むしろ後退している。第14次五ヵ年計画の実施は、市場化改革が加速するきっかけになることが期待されている。「要綱」では、主に所有制と生産要素(労働力、資本、土地、技術、データ)市場を対象に次の改革の方針が示されている。

所有制改革については、強くて大きい国有企業を育てることや、国有企業を基幹産業、公共財・サービス、有望な新興産業に集中させ、国有企業に民営資本を導入する混合所有制改革を進めるといった従来の方針は変わらない。その一方で、民営企業の財産権と民営企業家の権益を平等に保護し、参入障壁を下げるなど、民営経済の発展環境を改善することも強調されている。

生産要素市場の改革の一環として、資本の有効利用を目指すべく、「高度な適応性、競争力、包摂性を持つ現代的金融システムの健全化を図り、金融による実体経済の効果的支援を行う制度・メカニズムを構築する」。それに向けて、①中央銀行による金融政策の実施能力の向上、②金融システムの構造の最適化、③多層的資本市場システムの健全化、④金融監督管理体制の改善が優先課題として挙げられている。

対外開放の一層の促進

国内循環を主体とする「双循環戦略」の推進は、決して門を閉ざして鎖国的な運営を行うことではない。更なる対外開放に向けて、「要綱」では次の方針が示されている。

まず、対外開放の水準を全面的に向上させる。貿易・投資の自由化・利便化を推進する上、対外開放のプラットフォームの機能を強化し、開放に関する安全保障体制を充実させる。ここでいう「対外開放のプラットフォーム」とは、国内各地の自由貿易区、国際輸入博覧会などを指し、「開放に関する安全保障体制」には、米国など、外国による経済制裁への対抗策として、安全保障を理由に国際貿易や投資に制限を加えるための法体制などが含まれる。

さらに、「一帯一路」の構築を引き続き推進する。「共商・共建・共享」(共に話し合い、共に建設し、共に分かち合う)の原則を守りながら、実務協力を深め、安全保障を強化し、共同の発展を促進する。

そして、グローバル経済ガバナンス体制の改革に積極的に参加する。具体的に、まず、G20などが国際経済協力の機能を発揮するよう後押しする。また、多角的貿易体制を守り、世界貿易機関(WTO)の改革に積極的に参加し、より公正で合理的なグローバル経済ガバナンス体制の構築を後押しする。それと同時に、多国間・二国間の投資・貿易協定に積極的に参加する。

現に、李克強総理が2021年3月の全人代における「政府活動報告」で指摘しているように、中国は、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定の早期発効・実施と中国・欧州連合(EU)投資協定の調印を推し進めており、また中日韓自由貿易協定(FTA)交渉のプロセスを加速させ、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への加入を前向きに検討している。このような取り組みは、米国が同盟国と組んで対中包囲網を構築することに対する中国の自衛策だと言える。

生態環境の改善

中国では、エネルギー消費の拡大とともに、大気汚染をはじめとする環境問題が深刻化しており、すでに危機的水準に達している。これまで中国は、環境を犠牲にしても経済成長を優先させてきた。しかし、所得水準が上昇するにつれて、国民の環境保護への意識が高まっており、政府も本格的に省エネルギーと環境対策に取り組むようになった。それに向けて、「要綱」では、生態系の質と安定性の向上、環境の質の持続的改善、グリーンな発展への転換を中心に、次の対策が示されている。

まず、生態系の質と安定性の向上に向けて、重点地域における生態系の保全と修復の大型プロジェクトを実施すると同時に、国立公園を主体とする自然保全地域制度を構築し、森林被覆率を24.1%(2019年には23.2%)に引き上げる。

また、環境の質の持続的改善について、汚染物質の削減と脱炭素を推進し、空気、水環境の質を絶えず改善し、効果的に土壌汚染のリスクをコントロールする。特に、気候変動への対策として、国際公約となった「2030年までにCO2排出量をピークアウト」という目標の達成に努める。それに向けて、単位GDP当たりのエネルギー消費量とCO2排出量を5年間の累計で、それぞれ13.5%、18%引き下げるとしている。現在、中国におけるエネルギーの利用効率は先進国と比べて低い上に、エネルギー構造は石炭をはじめとする化石エネルギーが中心となっている。CO2排出量削減を推進するには、エネルギーの利用効率の向上とともにエネルギー構造の調整が必要である。

さらに、グリーンな発展への転換について、以上の取り組みに加え、資源の利用効率を高め、資源の循環利用システムを構築し、グリーン経済を大いに発展させる。

民生と福祉の向上

計画経済の時代の平等主義に伴う弊害を打破すべく、改革開放以来、中国は鄧小平が提唱した「先富論」を旗印に、平等よりも成長を優先させる発展戦略を推し進めた。その結果、総じて国民生活は向上してきたが、その一方で所得格差が容認できないレベルにまで拡大してしまい、このままでは、社会が不安定化する恐れがある。これを背景に、近年、政府は、格差の是正に力を入れるようになり、共同富裕を目指すようになった。その一環として、「要綱」では、民生と福祉の向上に向けて、次の対策が挙げられている。

まず、雇用優先戦略を実施し、雇用吸収力を拡大する。低所得層の所得の向上に力を入れ、中間所得層を拡大し、住民一人当たりの可処分所得の伸び率がGDP成長率とほぼ一致するようにする。

また、質の高い教育制度を築き、教育改革を深化させ、生産年齢人口の平均教育年数を11.3年に引き上げる(2020年の実績は10.8年)。

さらに、公衆衛生制度を強化し、国民の平均寿命を1歳延ばす(2019年には77.3歳)。高齢者向けサービスと子育て支援を充実させると同時に、適正な出生率の実現を促し、法定定年年齢を段階的に引き上げる(BOX参照)。その上、多層的社会保障制度を充実させ、基本養老保険(年金)の加入率を95%に引き上げる(2020年には91%)。

安全保障の強化

中国では、新型コロナウイルスの流行を受けて、2020年の成長率は1970年代末に改革開放に転じてから最も低い2.3%に落ち込んだ。これをきっかけに、政府は、中国が直面している様々なリスクを重く見るようになり、「安全」を発展の前提条件として捉えるようになった。「要綱」では、「安全保障」が優先課題として位置づけられており、「安全」という言葉は177回も使われている。従来の「革新」、「協調」、「グリーン」、「開放」、「共有」に加え、「安全」は今回の五ヵ年計画を策定する際の六つ目の理念になっていると言っても過言ではない。

ここでいう「安全保障」は、国防を超えて、経済・金融、対外関係、食糧(量と質とも)、エネルギー・資源、サイバー空間、公共衛生・医薬、自然災害、原子力の利用など、広範囲を対象としている。中でも、食糧の総合生産能力が6.5億トン以上、エネルギー総合生産能力が標準炭換算46億トン以上という具体的目標が定められている。

当面、中国が直面している様々なリスクの中で、特に「新冷戦」に発展しかねない米中対立の激化を警戒すべきであろう。これを回避しながら、「双循環戦略」を着実に実施していくことは、中国が目指している質の高い発展を実現するカギとなる。

BOX なぜ定年延長が必要か

高齢化が急速に進む中で、定年年齢を遅らせることは、人的資源の十分な利用に役立つだけでなく、社会保障制度の持続可能性を高めることにも有利である。この点について、当局は次のように説明している(人力資源社会保障部游鈞副部長、国務院新聞弁公室が主催する「雇用と社会保障の状況に関する記者会見」での発言、2021年2月26日)。

中国の現行の定年は、男性は60歳、女性幹部は55歳、女性労働者は50歳となっているが、これは新中国の設立当初、一人当たりの平均寿命や労働条件、雇用方式など様々な要因によって決められたものである。その後の中国の経済・社会において起きた大きな変化を受けて、次のような問題が浮上している。

まず、定年年齢と人口の平均寿命との差が開いている。中国における平均寿命は、中華人民共和国が建国した1949年頃40歳前後だったのが、2019年には77.3歳まで延びた。都市住民の平均寿命はさらに高く、すでに80歳を超えている。

次に、労働力不足が顕著になってきている。2019年末現在、中国では60歳以上の人口の占める割合が18.1%に達しており、第14次五ヵ年計画の期間には高齢者人口が3億人を超え、高齢化はさらに進むとみられる。中国の生産年齢人口は2012年から減少し始め、減少幅が年々拡大している。第14次五ヵ年計画の期間には3,500万人減少になる見込みである。

最後に、人的資源が浪費されている。中国の新規労働人口のうち高等教育を受けた人の割合はすでに半分を超え、平均教育年数は13.7年に延び、働き始める平均年齢がどんどん遅くなっている。定年年齢が変わっていないため、平均生涯勤続年数が短くなり、人材が十分に生かされていない。特に高学歴人員が集中している大学、病院、科学研究機関といった分野において、状況は深刻であるという。

定年延長に合わせて、年金保険料納付期間が延長される一方で、年金給付開始年齢が引き上げられると予想される。これにより、年金財政の収支バランスは改善されるだろう。

脚注
  1. ^ 国家発展改革委員会胡祖才副主任、国務院新聞弁公室主催「新しい発展理念を貫き、第14次五ヵ年計画の好スタートを確実なものにする状況に関する記者会見」での発言、2021年3月8日。
  2. ^ 「革新、協調、グリーン、開放、共有」という発展理念は、「国民経済・社会発展第13次五ヵ年計画策定に関する中国共産党中央の提案」が審議された2015年10月の中国共産党第18期中央委員会第5回全体会議で初めて提出された。
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2021年4月15日掲載