中国経済新論:中国の経済改革

銀監会と保監会の統合を中心とする金融行政の再編
― 監督管理体制の一元化に向けて ―

関志雄
経済産業研究所

中国では、2018年3月の全国人民代表大会(全人代)において、「国務院機構改革方案」が審議・可決された。その一環として、金融行政の再編が行われ、中国銀行業監督管理委員会(銀監会)と中国保険監督管理委員会(保監会)が統合され、中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)が新設された。それと同時に、銀監会と保監会が持っていた重要法規とプルーデンス政策の立案機能が中国人民銀行(中央銀行)に移されることになった。

これまで、中国における金融監督管理の機能は、中国人民銀行、銀監会、中国証券監督管理委員会(証監会)、保監会に分散していた。しかし、シャドーバンキングやインターネット金融の拡大に見られるように、業界の垣根を越えた金融機関の間の協力が強化される一方で、競争も激しくなっている。この新しい環境の下で、金融行政の一元化が求められている。今回の再編を経て、金融監督管理体制は、従来の「一行三会」から「一行両会」に変わり、一元化に向けて一歩前進するとともに、中国人民銀行への機能の集中が鮮明になった。証監会は再編の対象から外されており、金融監督管理体制の一元化はまだ完成していないが、それに先立って設立された「国務院金融安定発展委員会」(以下、金融安定発展委員会)は、「一行両会」の間の政策調整の場としての役割を担うとともに、金融業の発展と監督管理にかかわる政策について、強い権限を持っている(図1)。

図1 中国の金融監督管理体制の再編
図1 中国の金融監督管理体制の再編
(注)2018年4月17日現在。
(出所)新華社「国務院機構改革方案」(2018年3月17日)および各種報道より筆者作成

銀監会と保監会の統合と政策立案機能の中国人民銀行への移管

中国人民銀行研究局の徐忠局長は、改革の具体的内容について、次のように説明している(徐忠「『国務院機構改革方案』金融監督管理体制改革の解説」『財新網』、2018年3月13日)。

1)銀監会と保監会の統合
監督管理の一元化は銀行業と保険業の総合経営という発展方向に対応するために必要な改革である。まず、生命保険会社が提供する商品は従来の保障機能に加え、銀行預金と似た貯蓄機能も備え、「貯蓄型生保」になっている。また、銀行と保険会社の提携が密接になりつつある。銀行は保険商品販売の重要チャネルになっている。これを背景に、銀行業と保険業の監督管理を統合することは、監督管理機能を強化するために必要である(注1)。

銀行業と保険業の監督管理の一元化は監督管理の資源の集中と専門性の発揮に有利である。銀行業と保険業は監督管理の理念、ルール、手段などにおいて似ているため、監督管理の資源や専門的能力に同じようなことが求められる。例えば、保険会社に課せられるソルベンシー規制では、各種の業務のリスク水準に合わせて資本金の基準が制定されているが、これは銀行業の自己資本比率規制とよく似ている。また、中国では、金融監督管理の資源と人材が特に地方のレベルにおいて不足しており、一元管理のほうが品質と効率の向上につながる。

2)発展促進と監督管理機能、監督管理規制と執行の分離
近年、中国で発生している金融の混乱や一部表面化している金融リスクの主な原因は、監督管理部門が金融業の発展促進と監督管理を両方兼任していることにある。習近平総書記は2017年7月の第五回全国金融工作会議で「発展促進と監督管理機能を分離せよ」と明確に指示した。同会議では、金融管理体制の再編を行い、中国人民銀行に金融業の発展促進の機能を持たせることを決定した。

中国人民銀行が担当する金融業の発展促進にかかわる主な機能は以下の通りである。
①金融業の発展計画の作成。今後、中国人民銀行以外の金融監督管理部門は各自の関連業界の発展計画を作成しない。発展促進と監督管理機能を分離させる。
②金融業立法のとりまとめ。法律間の矛盾と立法の遅延を避けるために、金融業の立法は今後、各監督管理部門に委ねることなく、中国人民銀行の統一的企画の下で行われることになる。
③金融業のM&A案件の統一的企画と対外開放の安全審査。

中国人民銀行に金融業に関する重要な監督管理政策の作成を担当させる理由は二つある。

一つは金融業の発展促進と監督管理の機能を明確に分離させるためである。監督管理規則が外部で作成されることで、監督管理執行部門の自由裁量権が削減され、監督管理政策の透明性も高まる。

もう一つは、システミックリスクの防止と解消のためである。金融リスクは部門、業界、分野の垣根を超えて、波及していくという特徴がある。システミックリスクの防止は一つの業界の監督管理部門の能力を超えている。近年、急速に発展してきた(生命保険に投資信託を組み合わせた)「万能保険」を例にとると、その資金チェーンは銀行、証券、保険など複数の業界を跨ぎ、それぞれの分野ではリスクコントロールが可能に見えても、全体から見ると、金融システム全体の安定を脅かすほど高いリスクを抱えている。したがって、金融システム全体の安定を守る視点から、金融監督管理規則の作成の一元化が求められる。

3)中国人民銀行がマクロ・プルーデンス機能と「三つの統一的企画」の担い手に
2008年の世界金融危機以降、金融の安定に向けて、世界各国の監督管理の改革の重点は、中央銀行のマクロ・プルーデンス機能の強化とマクロ・プルーデンス体制の整備に置かれるようになった。中国においても、2017年7月に開催された第五回全国金融工作会議において、「中国人民銀行のマクロ・プルーデンス機能とシステミックリスク防止能力の強化」という方針が明示された。また、習近平総書記は「第13次国民経済・社会発展五ヵ年計画の策定に関する党中央の提案」に関する説明(2015年11月)において、「監督管理体制に重要な金融機関と金融持ち株会社の統一的企画」、決済システムなどの「重要な金融インフラの統一的企画」、「金融業全体の統計の統一的企画」の必要性を提起した。今回の機構改革を経て、中国人民銀行がこの「三つの統一的企画」の機能を担うことが明確になった。

人事の面では、15年間にわたって中国人民銀行の総裁を務めた周小川氏が退任し、代わりに副総裁の易綱氏が昇格した。また、銀監会の郭樹清主席が、新設された銀保監会の初代の主席に就任した(注2)。郭氏は、中国人民銀行の共産党委員会書記と副総裁を兼任することになった。このような人事の配置により、中国人民銀行と銀保監会の間の連携が円滑に行われると期待される。また、党の序列では、中央委員会委員である郭氏は、中央委員会候補委員の易氏より格上となっており、中国人民銀行においても、総裁よりも党書記のほうが上位となることから、郭氏は銀行と保険の監督管理にとどまらず、中国人民銀行が管轄する金融政策や、マクロ・プルーデンス政策などにも強い影響力を持つようになると見られる。なお、証監会の主席には現職の劉士余氏が留任することとなった。

政策調整の機能を担う「国務院金融安定発展委員会」

今回の機構改革に先立って、2017年7月に開かれた第五回全国金融工作会議で、金融安定および改革・発展の重大問題を統一的に調整する機関として、「国務院金融安定発展委員会」の設立が決定された。同委員会は2017年11月8日に発足し、馬凱副総理(当時)がその主任を兼任した。金融安定発展委員会の主な機能は、
①党中央と国務院の金融の分野に関する政策の立案
②金融業の改革と発展にかかわる重大計画の審議
③金融業の改革と発展および監督管理の統一的企画、金融政策と監督管理の関連事項の調整、金融監督管理の重大事項の統一的な調整、金融政策と関連財政政策・産業政策などの調整
④国内外金融情勢の分析と判断、国際金融リスクへの対応、システミックリスクの予防措置と金融安定維持の重大政策の研究
⑤地方の金融業の改革と発展および監督管理の指導、金融監督管理部門と地方政府に対する業務監督と評価
などとなっている(新華社「国務院金融安定発展委員会が成立し、第一次会議を開催」、2017年11月8日」)。具体的に、金融安定発展委員会はシャドーバンキング、資産管理業界、インターネット金融、金融持ち株会社という4つの問題を重視する方針である(「中国経済の見通し」、『2017年G30国際銀行業セミナー』における周小川総裁の講演と質疑応答、中国人民銀行ウェブサイト、2017年10月15日)

金融安定発展委員会の馬凱主任は、2018年3月の全人代を経てすでに副総理を退任し、同委員会の主任からも間もなく引退すると見られる。その後任者として、習近平総書記からの信頼が厚く、副総理として任命されたばかりの劉鶴氏が有力視されている。

新体制に課せられている政策課題

今後の金融行政を任せられている劉鶴副総理、郭樹清銀保監会主席、劉士余証監会主席、易綱中国人民銀行総裁は、いずれも改革派として知られ、豊富な経験と実績を積み上げてきたテクノクラートである(表1)。3月以降、要職に就いた四人の発言を総合すると、今後、中国の金融当局は、次の優先課題に取り組もうとしている。

表1:金融行政を任せられている四人のキーパーソンの略歴
劉鶴(りゅう かく)
1952年北京生まれ。北京101中学にて習近平氏と同窓だった。 1983年、中国人民大学産業経済学研究科卒業。1995年にハーバード大学ケネディスクールで公共経営修士(MPA)取得。国家計画委員会(国家発展改革委員会の前身)などを経て、2003年より中央財経領導小組弁公室副主任(うち、2011年から2013年まで国務院発展研究センター副主任を兼任)。2013年より国家発展改革委員会副主任、中央財経領導小組弁公室主任、習近平総書記が最も信頼する経済政策ブレーンとして内外の注目を浴びている。2017年に中国共産党第19期中央政治局委員に選出。2018年3月、国務院副総理に就任。
郭樹清(かく じゅせい)
1956年内モンゴル生まれ。南開大学卒業、中国社会科学院法学博士。国家経済体制委員会、国務院経済体制改革弁公室などを経て、1998年7月に貴州省副省長。2001年3月、中国人民銀行副総裁・国家外為管理局局長、2005年3月、中国建設銀行董事長、2011年10月、証監会主席、2013年3月、山東省省長(省長代理の期間を含む)、2017年2月-2018年3月、銀監会主席を歴任。現在、中国銀保監会主席(同党委書記)、中国人民銀行党委書記(同副総裁)。
劉士余(りゅう しよ)
1961年江蘇省生まれ、清華大学水利工学部卒、上海市経済体制改革弁公室、国家経済体制改革委員会、中国建設銀行を経て、1996年に中国人民銀行へ。2006年に同副総裁。2014年に中国農業銀行董事長。2016年2月より証監会主席。
易綱(い こう)
1958年北京生まれ。北京大学経済学部を経て、1980年に米国に留学し、1986年にイリノイ大学で経済学博士号を取得。1986年から1994年にかけてインディアナ大学で准教授を務めた後、中国に帰国。1994年に林毅夫氏(元世界銀行チーフエコノミスト)らと北京大学に「中国経済研究センター」を設立し、同大学の教授となる。1997年に中国人民銀行に移り、2007年から副総裁を務め、2018年に総裁に就任。
(出所)各種報道より筆者作成

劉鶴副総理は金融監督当局者との会合で、次のように述べている(「劉鶴:四つの意識を強化し、当面の金融の任務に着実に取り組もう」新華網、2018年3月27日)。まず、システミックリスクの回避に向けて、金融安定発展委員会の機能を強化すべきである。また、供給側改革という方針に沿って、金融が実体経済に奉仕する度合いを強めなければならない。さらに、金融政策については、慎重かつ中立的政策を続けるべきである。そして、新設した銀保監会が一刻も早く新たな責務に適応しなければならない。最後に、市場原理に基づいて、資本市場の健全な発展を促し、金融の改革開放を進めなければならない。

より具体的に、郭樹清銀保監会主席は、2018年の銀行業と保険業が取り組むべき重要課題として、次の三つを挙げている。(「郭樹清が会議を主宰:中国銀行保険監督管理委員会の構築を着実に進めよう」新華社、2018年3月29日)。

まず、金融リスクの防止と解消に努める。徐々に企業のレバレッジ率の引き下げ、シャドーバンキングの規制、違法金融活動の取締り強化、不動産バブルの抑制、地方政府の隠れ債務の整理、各種リスクの防止と解消を行う。

第二に、「現代化した経済システム」の構築を支援する(注3)。供給側構造改革をめぐって、地方や企業との連携を強化し、構造調整とM&Aを推進し、市場化・法治化という方針に沿って債務の株式化を支援する。金融機関の差別化したサービスを提供する能力を引き上げ、農村の活性化、地域間の協調、イノベーションによる成長牽引といった重要な国家戦略の実施を支持する。金融包摂を確実に進め、銀行と保険会社の本業への回帰を促し、中小零細企業と「三農」への金融サービスを向上させる。

第三に、銀行と保険業の改革開放を一層進める。銀行と保険会社のコーポレート・ガバナンスを強化し、積極的に中国的特色のある現代金融企業制度を構築し、全力で銀行と保険業の質の高い発展を目指す。改革開放のさらなる拡大、対外開放新政策の研究・実施を行い、開放をもって改革を促進することによって、市場の活性化をはかり、銀行と保険業の全面開放という新局面を形成させる。

また、劉士余証監会主席は、資本市場を中心に次の課題を挙げている(「中国証監会は中央全面深化改革委員会第一次会議と中央財経委員会第一次会議の精神を伝達・学習する」、証監会ウェブサイト、2018年4月3日)。
①資本市場の安定的運行とシステミックリスクの回避
②多層的資本市場システムの整備
③企業の新規上場の正常状態の維持(注4
④新規上場制度の改革
⑤上場企業の質の改善
⑥上場廃止制度の着実な実施
⑦資本市場における法治化の推進
⑧資本市場の対外開放の推進
⑨国際競争力のある資本市場の構築

そして、易綱中国人民銀行総裁は、当面の金融当局の優先課題として、重大な金融リスクの予防と金融業の安定、穏健な金融政策の実施、金融業の改革開放の推進という三つの項目を挙げている(「安定を保ちながら前進し、積極的に成長を目指し、実体経済のために奉仕する」、『2018年中国発展高層論壇』における易鋼総裁の発言、中国人民銀行ウェブサイト、2018年3月25日)。

まず、重大な金融リスクの予防と金融業の安定に向けて、
①債務の対GDP比を抑えること
②金融をはじめとする重要分野の改革を深化させること
③金融業の監督管理を強化・改善すること
④違法な金融活動を断固取り締まること
に取り組まなければならない。

第二に、穏健な金融政策の実施については、資金の総量を適切にコントロールする上、その構造の改善と実体経済への貢献を重視する。特に、貧困地域、零細企業、「三農」、「大衆創業、万衆創新」(大衆による起業・万人によるイノベーション)など、金融包摂とグリーン金融を重点的に支援する。

第三に、金融業の改革開放の推進については、改革の面では、①金利市場の改革を推進、②為替市場の改革を推進、③マクロ・プルーデンス政策の枠組みの構築が最優先課題となる。また、次の三つの方針に沿って、金融業の対外開放を進める。
①参入前国民待遇(内資に劣らない待遇を外資に適用する)とネガティブリスト制度の実施(ネガティブリストに入っていない業界や分野では外資を制限してはならない)という原則を守る。
②為替レート形成メカニズム改革と資本勘定自由化の歩調に合わせて金融業の対外開放を進める。
③金融業の対外開放と金融リスクの防止をともに重視し、金融の開放度は監督管理能力に見合わなければならない。

金融業の対外開放に向けて、具体的に、証券会社、資産運用会社、商品先物会社、生命保険会社に適用されている最大50%という外資出資比率は2018年4月から数ヶ月以内に最大51%に引き上げられ、3年後には外資による全額出資も可能になる(「易鋼総裁がボアオアジアフォーラムにおいて金融業の更なる対外開放の拡大の具体的措置とタイムテーブルを発表」中国人民銀行ウェブサイト、2018年4月11日)。

今回の金融行政の再編と人事布陣は、システミックリスクの回避や金融業の改革開放の加速と監督管理の強化を目指すこれらの政策の実施に堅実な土台を与えていると言えよう。

脚注
  1. ^ 保監会が実質上銀監会に吸収合併される背景には、前者が与えられた使命を十分に果たせなかったこともある。中国金融四十人論壇常務理事会副主席の謝平氏は、保険業において有効な監督管理が行き届かない事例として、次の7つを挙げている。
    ①多くの不動産会社が保険会社を作り、それを通じて、資金調達をしている。
    ②虚偽申告などもあり、株主の構成が不透明である。その典型例は安邦保険である。(2018年2月に、同社は、「経営に違法性が存在し、保険金の支払い能力に懸念がある」ことを理由に、当局によって接収され、公的管理下に置かれるようになった。創業者である呉小暉前会長も詐欺的な資金集めと業務上横領などで起訴された。)
    ③(生命保険に投資信託を組み合わせた)「万能保険」が大量に発行されている。
    ④ソルベンシー規制の基準となる指標の信憑性が低い。
    ⑤保険会社の資金運用が規範化されていない。
    ⑥監督管理する側からされる側に天下りしている。
    ⑦保険会社が銀行などを傘下に収める金融持ち株会社と化している。
    (謝平「金融監督管理の新体制」、中国金融四十人論壇ウェブサイト、2018年3月28日)。なお、謝平氏は中国人民銀行研究局局長、中央滙金投資有限責任公司の初代総経理、中国投資有限責任公司副総経理などを歴任した中国を代表する金融学者の一人である。
  2. ^ 廃止となった保監会の主席のポストは、項俊波前主席が2017年4月に「重大な規律違反」で調査を受けたことをきっかけに空席となっていた。
  3. ^ 「「現代化した経済システム」という概念は、2017年10月の中国共産党第19回全国代表大会で初めて提示された。その具体的内容として、習近平総書記は、2018年1月30日に行われた党中央政治局集団学習会において、次の七項目を挙げている。
    ①イノベーションがリードし、協同発展する産業システム
    ②統一・開放され、競争が秩序立った市場システム
    ③効率を体現し、公平を促進する所得分配システム
    ④優位性が顕著で、協調して連動する都市・農村と地域の発展システム
    ⑤資源が節約され、環境にやさしいグリーン発展システム
    ⑥多元的でバランスの取れた、安全で効率が高い全面的な開放システム
    ⑦市場の役割が十分発揮され、政府の役割がよりよく発揮された経済体制
  4. ^ 中国では、株価の下落などを理由に、新規株式上場が一時的に停止されたりすることが繰り返されている。当局はこのような状態の是正を目指している。
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2018年4月24日掲載