中国経済新論:中国の経済改革

金融システムの安定に向けたマクロ・コントロール政策の枠組みの強化

関志雄 経済産業研究所

「二本の柱」となる金融政策とマクロ・プルーデンス政策

中国では、世界各国と同様に、中央銀行に課せられた使命は、通貨価値(物価)の安定と金融システムの安定(信用秩序の維持)にあるが、長い間、後者よりも前者が優先されていた。しかし、バブルの膨張と崩壊に象徴される資産価格の変動が銀行の不良債権の拡大などを通じて金融システムの不安定要因になることに鑑み、金融政策を策定する際、消費者物価指数(CPI)で見た物価だけでなく、株価や住宅をはじめとする不動産価格の動向にも目を配るべきであり、またマクロ・プルーデンス政策をもっと重視すべきだという認識は、2008年のリーマン・ショックを経て、国際的に主流となってきた。中国でも、模索の段階を経て、2017年10月に開催された中国共産党第19回全国代表大会における習近平総書記の報告において、「金融政策とマクロ・プルーデンス政策を二本の柱とするマクロ・コントロール政策の枠組みを強化する」という方針が明記されるようになった(図1)。

図1 中国におけるマクロ・コントロール政策の枠組み
図1 中国におけるマクロ・コントロール政策の枠組み
(出所)中国人民銀行より筆者作成

ここでいうマクロ・プルーデンスとは、金融システム全体のリスクの状況を分析・評価し、それに基づいて制度設計・政策対応を図ることを通じて、金融システム全体の安定を確保するとの考え方で、考査やオフサイト・モニタリングといった活動に代表されるミクロ・プルーデンス(個々の金融機関の健全性を確保すること)に対置される概念である。マクロ・プルーデンスでは、特に、金融システムを構成する金融機関や金融資本市場などとそれらの相互連関、実体経済と金融システムの連関がもたらす影響が重視される。マクロ・プルーデンスの考え方を実現するための具体的な政策的枠組みや手段は、マクロ・プルーデンス政策と呼ばれ、一般に、①金融システム全体の状況とシステミック・リスクの分析・評価と、②システミック・リスクの抑制を目的とした政策手段の実行やその勧告、といった機能が含まれている(注1)。

中国人民銀行による説明

「金融政策とマクロ・プルーデンス政策を二本の柱とするマクロ・コントロール政策の枠組み」について、中国人民銀行(中央銀行)は次のように説明している(注2)。

①金融システムの安定にも配慮する金融政策

世界各国の中央銀行の政策枠組みは従来、主に経済活動の拡張と縮小という循環的変動を意味する「景気サイクル」とそれを抑える手段としての金融政策に注目していた。伝統的マクロ経済学は、市場競争の下で価格の柔軟な変動が資源の最適配置を可能にし、物価の安定が概ねマクロ経済の安定の表れであると捉えている。これらを背景に、金融政策の主要目標は、景気サイクルの変動を抑え、物価を安定させることに置かれている。そのような枠組みは確かに深刻なインフレに対処する時には有効である。しかし、CPIが安定しても資産価格と金融市場が激しく変動することもしばしばあるため、CPIをアンカーとする金融政策には限界がある。例えば、米国でサブプライムローン(信用力の低い借り手に対する住宅ローン)危機が発生する前の2003年から2007年にかけて、世界経済は好調で、世界CPIの上昇率もほぼ安定していたが、同じ時期に一次産品の価格とMSCI世界株価指数は90%も上昇し、米国主要都市の不動産価格の上昇率は50%以上で、大きなリスクが潜んでいた。

2008年に起きた世界的金融危機を受けて、国際社会は、資産価格の循環的変動を意味する「金融サイクル」にも注目するようになった。各国の中央銀行は、物価の安定などだけを基準にマクロ・コントロール政策を行うのではもはや不十分で、金融政策に頼った中央銀行のマクロ・コントロール政策の枠組みが、システミック・リスクに対応できず、資産バブルと金融リスクの蓄積を許してしまいかねないなど、明らかに欠陥を抱えていることに気付いた。

金融サイクルを分析する際に、最も重要な要素は広義の貸出と不動産価格である。不動産がローンの抵当になるため、広義の貸出と不動産価格の変動は互いに増幅し合う傾向が強い。その上、広義の貸出と不動産価格はバランスシートなどを通じて、金融と実体経済を結びつける。景気サイクルと金融サイクルが同調する場合、経済の拡張と縮小も増幅される。景気サイクルと金融サイクルが同調しない場合、経済活動と金融変数が逆方向に向かうため、中央銀行は金融政策だけに頼っていては、物価と資産価格の変動を同時に抑えることができない。

②重要性増すマクロ・プルーデンス政策

金融サイクルによってもたらされる問題に対応するために、マクロ・プルーデンス政策を導入することを通じて、従来のマクロ・コントロール政策の枠組みの弱点を補い、システミック・リスクを防がなければならない。まず、市場や経済主体によって状況が大きく異なり、低迷する市場と過熱する市場が同時に存在することに鑑みると、金融政策はあくまでも市場全体を調整する手段にすぎず、すべての市場と主体に適するわけではない。また、不動産などの資産市場は、レバレッジが高く、「買いが買いを呼び、売りが売りを呼ぶ」という傾向が強い。それゆえに、オーバーシュートになりやすく、金利などによる価格調整メカニズムが役割を発揮できない。それを補うために、マクロ・プルーデンス政策を通じて、好況時にレバレッジを抑える一方で、低迷時により高いレバレッジを認めるという逆循環的調整が必要になる。

当局はマクロ・プルーデンス政策の枠組みを強化し、それを金融政策と組み合わせることを通じて、通貨価値(物価)の安定と金融システムの安定という目標を両立させることができる。金融政策とマクロ・プルーデンス政策はいずれも逆循環的調整のために利用できるマクロ・コントロール政策の手段である。金融政策は主に経済全体と総量を対象とし、物価の安定及び経済成長と雇用の拡大を目指す一方、マクロ・プルーデンス政策は、金融の安定とシステミック・リスクの防止を目的とする。両者は互いに補完関係にある。

世界的金融危機以降、マクロ・プルーデンス政策が重視され、金融政策とマクロ・プルーデンス政策を一層緊密に融合するという傾向が見られるようになった。イングランド銀行や欧州中央銀行など、多くの中央銀行は、実質上、金融政策とマクロ・プルーデンス政策という二本の柱を組み合わせたマクロ・コントロール政策の枠組みを構築してきた。

③中国におけるマクロ・プルーデンス政策の強化

中国は早い段階から金融政策とマクロ・プルーデンス政策の融合に関する模索と実践を行い、一定の成果を上げている。積極的に金融政策の枠組みを数量調整型から価格調整型に切り替え、各種の金融政策手段の革新を行い、流動性の安定を図り、金利の調整能力と波及効果を高めてきた。それと同時に、マクロ・プルーデンス政策の枠組みの構築と強化に力を入れ、その一部は世界的に見ても革新的なものだった。

まず、2011年に「差別準備金ダイナミック調整メカニズム」が導入された(注3)。その目的は、金融機関の貸出拡大が経済成長のニーズと自身の資本規模に見合う水準の範囲内に収まるように誘導することである。金融市場と金融革新の急速な発展に対処するために、2016年に当局は、「差別準備金ダイナミック調整メカニズム」を「マクロ・プルーデンス評価システム」(Macro Prudential Assessment, MPA)に格上げし、七つの面から金融機関の行動を誘導し、逆循環的調整を行うようになった。その後、2017年に金融機関のオフバランスシート業務のリスク管理を強化するために、オフバランスシート資産運用商品はMPAの「広義の貸出」に入れられた。2018年に、譲渡性預金は、MPAの評価指標の一つである「インターバンク負債比率」を算出する際に、「インターバンク負債」の一部として見なされるようになった。

次に、クロスボーダーの資本移動がマクロ・プルーデンス政策の管理対象になった。為替市場での取引とクロスボーダーの資金調達の中で、高いレバレッジをかけた資金調達と自己資金の短期かつ投機的な資金運用を対象に、公開された、透明性の高い、市場メカニズムを生かした方法で逆循環的調整を行い、金融機関の堅実な経営を促進し、金融システムの安定を確保する。

そして、不動産市場では、各都市のそれぞれの事情を考慮した、住宅ローンの差別化政策を中心とする住宅金融に関するマクロ・プルーデンス政策の枠組みが形成された。

④2016年に導入された「マクロ・プルーデンス評価システム」

2016年に導入された「マクロ・プルーデンス評価システム」(MPA)では、①資本とレバレッジ状況、②資産負債状況、③流動性、④価格(金利)決定行為、⑤資産の質、⑥対外債務リスク、⑦貸出政策執行という七つの項目から銀行をはじめとする金融機関を総合的に評価する。評価基準となる7項目は、さらに計17の評価指標によって構成される(表1)。MPAに基づく査定結果が点数化され、銀行は、点数の高い順でA、B、Cという三つのランクに分けられ、ランクが高いほど中国人民銀行に預ける準備預金の金利が高くなる。

表1 マクロ・プルーデンス評価システム(MPA)における評価項目と評価指標
項目 指標
1 資本とレバレッジ状況 自己資本比率、レバレッジ比率
2 資産負債状況 広義貸出増加率、委託貸付増加率、インターバンク負債比率
3 流動性 流動性カバレッジ比率、安定調達比率、準備金制度遵守状況
4 価格決定行為 金利決定行為の運営状況
5 資産の質 不良債権比率、貸倒引当金カバー率
6 対外債務リスク 対外債務リスク・ウェイトの加重残高、対外債務枠遵守状況、対外債務の期間構造
7 貸出政策執行 貸出政策評価結果、貸出執行状況、中銀資金運用状況
(出所)中国人民銀行、各種報道より筆者作成

評価指標の中で、自己資本比率が最も重視されている。資本は金融機関の損失を吸収するための重要なクッションであることから、貸出をはじめとする資産拡張がその規模によって制約されなければならない。また、各種の評価指標を算出する際に、債券、株式とその他の投資、金融資産の買戻しも含む広義の貸出が重視されるようになったことで、金融機関が資産の移動を通じて貸出規制を回避することが抑えられる。

今後の課題

このように、新しいマクロ・コントロール政策の枠組みにおいては、従来の通貨価値(物価)の安定に加え、金融システムの安定も目標として重要視されるようになった。しかし、経済学の「ティンバーゲンの定理」が主張しているように、複数の政策目標を達成するためには、同じ数の政策手段が必要である。したがって、通貨価値(物価)の安定と金融システムの安定という二つの目標を目指すならば、金融政策だけでは実現できず、マクロ・プルーデンス政策というもう一つの手段が加わることで、初めて可能になる。しかし、「二本の柱」を中心とするマクロ・コントロール政策を遂行するに当たり、まだ解決しなければならない課題が残っている。

まず、金融政策の運営に当たり、物価の変動のみならず、資産価格の変動に対しても、逆循環的調整が謳われているが、景気サイクルと金融サイクルが大きく乖離する時に、この二つの調整はどう折り合うべきかについて、まだ明確な方針が存在していない。中国では、当局は「テイラー・ルール」を参考にして、政策金利を決めていると見られ、政策金利の動きは、概ねインフレ率と経済成長率の変動によって説明される(BOX)。今後、新しい方針に従って金融政策が策定されるようになれば、資産価格が新たに説明変数に加えられることになる。その結果、インフレ率と経済成長率の変動に合わせて政策金利を調整することとは別に、資産価格が上昇する際に政策金利が引き上げられる一方で、資産価格が下がる際に政策金利が引き下げられることになる。しかし、その際、資産価格の変動を表す指標として、具体的に何を重視すべきかについては、コンセンサスができていない。その上、どのような状況がバブルに当たるのかについての判断は、さらに困難である。

また、MPAの導入により、規制の対象となる銀行は、貸出を抑えるなどを通じてバランスシートの圧縮を余儀なくされ、このことは、2016年以降のマネーサプライ(M2)の伸び率の鈍化、ひいては金利上昇の主な原因であると見られる(図2)。特に2017年12月のM2の伸び率(前年比)は8.2%と、史上最低となった。このことは、経済全体における流動性不足、ひいては実体経済の「オーバーキル」を招くのではないかと懸念されている。

図2 M2とSHIBORの推移
図2 M2とSHIBORの推移
(出所)CEICデータベース(原データは中国人民銀行)より筆者作成

さらに、マクロ・プルーデンス政策の遂行が中国人民銀行の任務とされているが、監督の内容は、「ミクロ・プルーデンス」を担当している他の部門と重なっている部分が大きく、部門間の調整が求められている。それに向けて、2017年7月に5年ぶりに開かれた全国金融工作会議で設立が決定された国務院金融安定発展委員会が、同11月に発足された(注4)。しかし、銀行、証券、保険などの垣根がますます低くなっている中で、最終的には中国人民銀行、中国銀行業監督管理委員会(銀監会)、中国証券監督管理委員会(証監会)、中国保険監督管理委員会(保監会)による「一行三会」という現行の体制を見直し、金融監督の一元化を図る必要がある。

BOX 「テイラー・ルール」によって説明される中国における政策金利の推移

テイラー・ルールとは、元米財務次官で、現在、スタンフォード大学の経済学者であるJ.テイラーが提唱する、金融政策を策定する上で、目安となるルールである。それによると、物価上昇率と長期的な目標値からの乖離幅と、景気変動を表す指標(例えば、GDPギャップ)の均衡値からの乖離幅に応じて、政策金利の水準を決めるべきである。当局は、現実のインフレ率が目標値を上回ったり、また実質GDPがその潜在水準を上回ったりする場合、政策金利を引き上げ、逆の場合、政策金利を引き下げなければならない。このようにテイラー・ルールは、元々政策金利の適正水準を求めるために開発されたものであるが、その後、米国をはじめ、多くの国において、政策金利の推移の説明にも有効であることが確認されており、当局のマクロ経済の変動に対する「政策反応関数」としての側面が強調されるようになった。

中国の場合、2005年第3四半期から2017年第4四半期を対象に、政策金利(一年満期の貸出基準金利)を被説明変数とし、インフレ率(CPIの前年比の上昇率)とGDPギャップ(代理変数として実質GDP成長率を採用)を説明変数とする回帰分析を行うと、インフレ率の1%ポイントの上昇と成長率の1%ポイントの上昇に対して、当局が政策金利をそれぞれ0.08%ポイントと0.07%ポイント引き上げる形で対応したという推計結果が得られた(図)。

図 テイラー・ルールに基づく中国における基準金利の推移
図 テイラー・ルールに基づく中国における基準金利の推移
(注1)政策金利の慣性を考慮して、推計に当たり、1期前の貸出基準金利を三つ目の説明変数として推計式に加えている。
(注2)推計値は以下の回帰分析による。

一年物貸出基準金利、四半期のデータは月次データの期末値の平均。
推計期間:2005年第3四半期〜2017年第4四半期
(出所)CEICデータベースより筆者推計・作成
脚注
  1. ^ 日本銀行「日本銀行のマクロ・プルーデンス面での取組み」、2011年10月18日、(https://www.boj.or.jp/finsys/fs_policy/fin111018a.pdf)。
  2. ^ 中国人民銀行貨幣政策分析グループ「貨幣政策執行報告」、2017年第3四半期、および中国人民銀行「人民銀行が会議を開催し、マクロ・プルーデンス政策の枠組みの強化を決定」、2015年12月29日。
  3. ^ 「差別準備金ダイナミック調整メカニズム」では、自己資本比率や貸出増加率などの指標により、金融機関によって異なる預金準備率が適用され、それぞれの水準は経済情勢の変化に応じて当局によって調整される。
  4. ^ 国務院金融安定発展委員会の当面の主要任務として、同委員会の主任を務める馬凱副総理は、①穏健な金融政策の維持、②金融の管理監督のバランスの強化、③リスク管理能力の引き上げ、④実体経済への金融サービスの促進、⑤国家の金融安全保障、⑥金融面での消費者の合法的な権益の保護強化を挙げている(新華社「国務院金融安定発展委員会が発足し、第一次全体会議を開催」、2017年11月8日)。
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2018年1月31日掲載