中国経済新論:中国の産業と企業

加速する中国における金融業の対外開放
― 証券業と保険業においても外資による全額出資が可能に ―

関志雄 経済産業研究所

これまで中国における対外開放は、製造業を中心に進められてきたが、近年、サービス業においても本格化している。中でも金融業の対外開放は、新たな焦点となっており、2017年11月10日に、金融機関を対象とする外資による出資比率の規制緩和が発表されたことで、大きく前進した(注1)。今回の措置は、市場の予想を超えたものであり、対外開放を通じて金融改革を加速させるという政府の決意を示している一方で、外国の金融機関が待ち望んでいる中国ビジネスの拡大のきっかけになろう。

出資比率の上限の段階的撤廃

中国における金融業の対外開放は加速している。2017年7月に開催された第五回全国金融工作会議(前回は2012年1月に開催)では、金融業の対外開放を積極的速やかに推進し、実施の順序を策定し、金融業における双方向の開放を促すという方針が示されている。また、2017年8月に国務院が発表した「外資の成長促進に向けた若干の措置に関する通知」(国発[2017]39号)において、銀行業、証券業、保険業が外資参入の規制緩和の対象として明記されている。これを受けて、金融機関を対象とする外資による出資比率の規制緩和について、具体策が発表され、その内容は次のようにまとめられる(朱光耀・財政部副部長「国務院新聞弁公室主催記者会見」、2017年11月10日)。

まず、外資による中国系の銀行と金融資産管理会社への出資比率の上限(単独の外資は20%、外資全体は25%)を撤廃する。外資全額出資による独資銀行の設立はすでに認められているが、今回の規制緩和により、外資による中国系銀行の買収も可能になる。

また、証券会社、基金管理会社(運用会社)、先物ブローカーについても、外資による出資比率の上限を、近く従来の49%から51%に引き上げ、実施から3年後に上限を撤廃する。

さらに、生命保険会社は外資による出資比率の上限を、これまでの50%から、2020年に51%に引き上げ、2022年に撤廃し、全額出資できるようにする。

今回の規制緩和は、米国のトランプ大統領が訪中した際に行われた米中首脳会談の成果の一部として発表されているが、米国だけではなく、日本を含むすべての海外投資家に適用される。その実施により、やがて大半の金融業の分野において、原則として外資による全額出資が可能になる。

存在感の薄い外資系金融機関

長い間、出資制限をはじめとする厳しい規制の下で、外資系金融機関は、中国への進出がなかなか進まず、存在感が薄いままである。

まず、銀行業に関しては、中国が2001年にWTOに加盟する前から、外資系銀行はすでに中国で支店の開設を試みていたが、業務範囲が外貨関連の商業銀行業務に制限されていた。WTO加盟以降、外資系銀行の業務範囲が拡大されたが、それでも、マーケットシェアは伸びていない。2016年末時点で、中国に進出している外資独資銀行は37行、外資系銀行の支店は145にとどまっており、総資産は2.93兆元と、中国における銀行業金融機関の1.29%に過ぎない。一方、香港上海銀行(HSBC)が交通銀行の19.9%の株式を取得(2004年)したのを皮切りに、UBS グループが中国銀行へ、シティバンクが広発銀行へ、恒生銀行(Hang Seng Bank)が興業銀行へ出資するなど、一部の外国の金融機関が戦略投資家として中国系銀行に積極的に資本参加する時期もあった。しかし、2008年の世界金融危機を受けて、中国系銀行に出資した多くの外国の金融機関は、財務状況が悪化し、自己資本金を補充するために所有した株を売却し、中国から撤退した。

証券業においても外資の進出は限定的である。銀行と違って、外国の証券会社が中国に進出する際、独資が認められておらず、中国系証券会社と共同出資して合弁証券会社を作らなければならない。2017年12月現在、香港系以外の合弁証券会社は10社ある(中国国際金融、光大証券、中銀国際証券、高盛高華証券、瑞銀証券、瑞信方正証券、中徳証券、第一創業摩根大通証券、摩根士丹利華鑫証券、東方花旗証券)。また、「中国本土-香港間の経済貿易緊密化協定」(CEPA)に基づき、申港証券、華菁証券、匯豊前海証券と東亜前海証券の4社はライセンスを取得している(注2)。中国系証券会社と比べると、合弁証券会社は中国で業務を開展する際、出資の上限規制に加え、業務の内容も、①人民元普通株(A株)の引受・スポンサー、②外資株(B株、H株など)の引受・スポンサー・ブローカレッジ、③政府債の引受・スポンサー・ブローカレッジ・トレーディング、④社債の引受・スポンサー・ブローカレッジ・トレーディングに限定されている(注3)。

保険業では2016年の外資系生命保険会社と損害保険会社の保険料収入は、中国全体の6.0%と2.0%にとどまっている。生保のほうは近年マーケットシェアが徐々に増えているが、損保はむしろ低下している。出資比率や販売網などに制約されて、外資系保険会社は、商品開発などにおける優位性が発揮できていない。

政策転換の狙い

出資制限をはじめとする、外資に対する規制は、競争相手を排除することを通じて、中国系金融機関の安定的経営をもたらしているが、多くの中国系金融機関が従来と変わらぬ経営手法を固守し、変革を求めず、国際競争力が欠けているという副作用も招いている。一方では、中国市場に進出した外資系金融機関は、多くの規制の下で、業務の拡大が進まず、中国から撤退するケースさえあった。こうした状況を改善しなければ、金融業における外資導入の政策效果は望めなくなる。

中国系金融機関が力をつけるまで、金融業の対外開放を先延ばしすべきだという主張がある。これに対して、周小川・中国人民銀行総裁は、「海外及び中国自身の経験から、保護策は怠惰と競争力の低下を招き、産業の発展を阻むことになる。金融市場と金融機関が不健全であることは、市場不安定の要因になり、危機を招く恐れがある。」と反論している(周小川「拡大すべき金融サービス業の開放」『人民日報』、2017年6月21日)。

金融業の対外開放は、金融機関の効率の向上に寄与すると期待される。具体的に、まず外資系金融機関の進出は、中国系金融機関の商品設計、市場構築、ビジネスモデル、管理経験などのレベルアップを促進できる。また、市場競争と淘汰メカニズムは金融機関にリスク管理の重要性を喚起する効果を果たすことができる。さらに、十分な競争は一部の金融機関が「大きすぎて潰せない」というモラルハザードを緩和し、システミック・リスクを防ぐことができる。

今後の課題

今回の金融機関を対象とする外資による出資比率の規制緩和に加え、今後、その業務の内容に関する制限も徐々に緩和されると予想される。それにより、外資系金融機関の中国市場への参入が加速し、期待されている金融業の対外開放のメリットも顕著になってくるだろう。

その一方で、①国内の優良顧客が外資系金融機関に奪われること、②外資系金融機関を経由する内外の資金移動は金融・為替の不安定化要因になりかねないこと、③外資系金融機関に対する監督が困難であること、などが新しい課題として浮上している。これらの課題に対処するために、朱隽・中国人民銀行国際司司長は、金融業の対外開放に向けて、①参入前の内国民待遇とネガティブリスト方式の実施、②為替レートの決定メカニズムの改革と資本移動の自由化の同時進行、③リスクの予防、という三原則を提示している(朱隽「中国における金融業の更なる対外開放に向けて」『中国金融』、2017年第19期)。今後、それに沿った形で、金融業の更なる対外開放が進められるだろう。

脚注
  1. ^ 金融業の対外開放と資本移動の自由化を混同してはいけない。中国が金融業を開放した結果、外資系金融機関は、中国系金融機関と同じ条件で金融サービスを提供することができるようになったとしても、自由に人民元を外貨に両替して海外に持ち出したり、もしくは外貨を中国に持ってきて人民元に両替したりすることができる訳ではない。
  2. ^ 「中国本土-香港間の経済貿易緊密化協定」(Mainland and Hong Kong Closer Economic Partnership Arrangement, CEPA)の枠組みの下で、一定条件を満たす香港系金融機関は、合弁証券会社を、上海市、広東省、深圳市でそれぞれ一社まで設立することができる上、持株比率が51%まで認められ、フル・ライセンスの取得も可能になる(2013年8月に締結された第10次補充協定)。
  3. ^ これらの規定は、中国のWTO加盟(2001年)を経て、2002年10月に発効した「外資による合弁証券会社の設立に関する規則」(中国証券監督管理委員会)に定められている。それ以前に認可された中国国際金融、光大証券、中銀国際証券は、例外として中国系証券会社と同様に、A株のブローカレッジ業務とトレーディング業務も認められる証券業務のフル・ライセンスを持っている。
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2018年1月9日掲載