中国経済新論:中国の経済改革

効果が現れ始めた「供給側構造改革」
― 過剰生産能力の削減を受けて改善する企業業績 ―

関志雄 経済産業研究所

なぜ供給側構造改革が必要なのか

近年、中国における経済政策の軸は、従来の需要拡大を目指す景気対策から「供給側構造改革」に移ってきている。その狙いは、一部の産業において顕著である需給の不均衡の是正と、企業と産業、ひいては経済全体における生産性の向上である。

まず、ミクロの面では、一部の産業において、供給が需要の変化についていけず、両者の間にミスマッチが生じた。特に、鉄鋼や石炭など、需要が縮小している分野において、企業は過剰生産能力を抱えるようになり、収益性も悪化した。

また、マクロの面では、中国の経済成長率は、2010年を境目に、大幅に低下した。これは需要不足による景気後退よりも、生産年齢人口の減少と農村部における余剰労働力の枯渇(いわゆる「ルイス転換点の到来」)に伴う労働力不足などの供給側の制約による潜在成長率の低下を反映している。今後の経済成長は労働投入量の拡大よりも生産性の向上に頼らなければならない。

このような経済環境の変化に対して、政府は、2015年12月の中央経済工作会議において、「供給側構造改革」の五大任務として、①過剰生産能力の解消、②不動産の在庫の解消、③過剰債務の解消、④企業のコストの低減、⑤脆弱部分の補強(合わせて「三つの解消、一つの低減、一つの補強」)が示されている。その主眼は、生産性の向上よりも、一部の産業における需給不均衡の是正に置かれている。

「三つの解消、一つの低減、一つの補強」の推進

「三つの解消、一つの低減、一つの補強」の基本方針については、2016年5月9日の『人民日報』の一面に掲載された「今年の第1四半期の情勢を踏まえてトレンドについて伺う――権威筋が語る当面の中国経済」と題するインタビューにおいて、次のように説明されている。

まず、過剰生産能力の解消について、各地は、具体的な任務と目標を明確にし、環境保護・エネルギー消費・品質・基準・安全などの各種の参入条件を高め、制度建設や法執行を強化する。「ゾンビ企業」の処理を進め、補助を断つべきものは断ち、融資を断つべきものは断ち、「点滴」や「人工呼吸器」のようなものでの延命はきっぱりとやめなければならない。

第二に、不動産の在庫の解消について、戸籍制度改革の取り組みを強化し、出稼ぎ労働者の都市移住のための財政・租税・土地といった関連制度を構築・整備する。

第三に、過剰債務の解消について、マクロ面ではばらまきをせず、ミクロ面では「金融機関による損失補填を通じた金融商品の元本保証」を秩序正しく取りやめ、違法な資金調達などの状況を法にのっとって処理し、市場の秩序を確実に正す。

第四に、企業のコストの低減について、全体的な税負担を引き下げ、不合理な費用徴収を撤廃し、行政による審査認可の対象を減らす。

最後に、脆弱部分の補強について、貧困撲滅の取り組みをより照準の絞られたものとし、科学技術の革新とエコ文明の建設をしっかりと進め、インフラ建設の資金調達と運用にかかわる体制・メカニズムを完備させる。

2016年の実績

その後、これらの方針に従って、「三つの解消、一つの低減、一つの補強」への取り組みが進められ、李克強首相は2017年3月に行われた全国人民代表大会(全人代)の「政府活動報告」において、2016年の実績を振り返り、その成果として、中国経済の供給構造がある程度改善したと次のように評価した。

まず、鉄鋼業・石炭業の過剰生産能力の解消を重点的に進め、年間で鉄鋼生産能力を6,500万トン以上、石炭生産能力を2億9,000万トン以上削減し、年度目標を超過達成し、従業員の再配置・再就職にもしっかりと取り組んだ。

第二に、農民工の都市部での住宅購入を支援し、バラック区の再開発に伴って立ち退き対象となる住民への補償に関して、現金支給方式による比率を上げ、不動産在庫を解消することにおいて積極的な成果を収めた。

第三に、企業の合併・再編を推し進め、直接金融を発展させ、市場化・法治化の原則に基づく債務の株式化を実施し、工業部門企業の負債/資産比率をある程度低下させた。

第四に、企業のコスト低減を促進すべく、租税や料金などの引き下げ、養老・医療・失業・労災・出産保険と住宅積立金の保険料・拠出金の負担分の引き下げ、電気料金の引き下げなどの措置を実施した。

最後に、脆弱部分の補強にいっそう力を入れ、今すぐに必要で長期的にも有益な一連の重要な取り組みを行った。

2017年の重点活動

これを踏まえて、李首相は同「政府活動報告」において、「三つの解消、一つの低減、一つの補強」の更なる推進を2017年の政府の重点活動と位置づけ、次の目標を掲げている。

まず、過剰生産能力の解消に関しては、2017年は鉄鋼生産能力をさらに5,000万トン前後削減し、石炭生産能力をさらに1億5,000万トン以上削減する。同時に、石炭火力発電の生産能力5,000万キロワット以上を削減したり建設を停止・延期したりする。これは、石炭火力発電の生産能力が過剰になるリスクを防止・解消し、石炭火力発電産業の効率を向上させ、エネルギー構造を最適化し、クリーンエネルギーの発展の場を広げるためである。環境保護、エネルギー消費、質、安全などの面の関連法律法規・基準を厳格に執行し、市場化・法治化の手段をよりいっそう活用して「ゾンビ企業」を効果的に整理し、企業の合併・再編や破産清算を促す。基準を満たしていない旧式生産能力を断固として削減し、生産能力過剰産業における新規生産能力の追加を厳格に規制する必要がある。過剰生産能力の解消に当たっては、対象企業の従業員の再配置をしっかりと行い、中央財政は特別奨励・補助金を即時交付し、地方政府と対象企業は関連資金を確保して関連措置を着実に実施し、従業員の再就職と生活を確実に保障する。

第二に、不動産の在庫の解消に関しては、三・四線都市(中小都市) では今もなお不動産在庫がかなり多く、住民の自己居住用住宅の需要と都市部に移転する人々の住宅購入需要を支援する必要がある。(投機の対象ではなく)住むためのものという住宅本来の性質を堅持する。分譲と賃貸の同時発展に向けた住宅制度を充実させ、市場を中心にして多様な需要を満たし、政府が中心になって基本的保障を提供する。都市ごとの状況に応じた不動産市場のコントロールを強化し、住宅価格が高騰しがちな都市では住宅用地を合理的に増やし、開発・販売・仲介などの行為を規範化し、住宅価格の急騰を抑える。

第三に、過剰債務の解消に関しては、企業の保有資産の活用を促し、資産の証券化を進め、市場化・法治化の原則に基づく債務の株式化をサポートし、多層的資本市場を発展させ、エクイティファイナンスにさらに力を入れ、企業とりわけ国有企業の財務レバレッジ制限を強化し、企業の負債を徐々に合理的な水準に引き下げる(注1)。

第四に、企業のコストの低減に関しては、小企業・零細企業に対する企業所得税半減徴収優遇措置の適用枠を拡大し、対象となる企業の年度課税所得額の上限を30万元から50万元に引き上げる。科学技術型中小企業の研究開発費の加算控除の割合を50%から75%に引き上げ、あらゆる措置を講じて構造的減税の度合・効果がいっそう現れるようにする。多くの企業がさまざまな名目の費用徴収に耐え切れなくなっているため、税外負担を大幅に低減する必要がある。

最後に、脆弱部分の補強に関しては、公共サービス、インフラ、イノベーションの発展、資源・環境など基盤の力の向上を急ぐこととする。 貧困地区と貧困人口は小康社会を全面的に完成させる上で最も脆弱な部分である。的確な貧困救済・貧困脱却措置を踏み込んで実施することにより、今年は農村貧困人口をさらに1,000万人以上減少させる。

直近までの進展

2016年に引き続き、2017年においても「三つの解消、一つの低減、一つの補強」を中心とする「供給側構造改革」は順調に進んでいる(中国国家統計局、2017年11月14日の発表)。

まず、過剰生産能力の解消について、鉄鋼、石炭の分野において、10月の時点ですでに年間削減目標を達成した。

第二に、不動産の在庫の解消について、10月末の商品住宅の在庫ストック面積は、前年比13.3%減少した。

第三に、過剰債務の解消について、9月末の一定規模以上の工業企業の資産負債比率(負債/資産)は55.7%と、前年同期より0.6%ポイント低下した。

第四に、企業のコストの低減について、第3四半期までの一定規模以上の工業企業の主営業務収入100元に占めるコストは85.56元と、前年同期より0.23元低下した。

最後に、脆弱部分の補強について、1-10月の環境保護業、公共施設管理業、農業の投資は、それぞれ前年比24.1%、23.4%、17.6%増加した。

企業収益の改善に寄与

需給不均衡の是正、中でも供給の抑制に重点を置いた「供給側構造改革」は、主に産出価格の上昇を通じて、一部の産業における企業の業績の改善に寄与している。

具体的に、2016年以降、これらの政策の実施を受けて、それまでマイナスだった生産者物価指数(PPI)の伸び率(前年比)は急上昇し、2016年9月にプラスになり、2017年10月に6.9%に達している。中でも、石炭が19.5%、鉄鋼を中心とする鉄金属精錬圧延加工が30.9%と、全体を押し上げている(図1)。

図1 中国における生産者物価指数(PPI)の推移
-全体 Vs. 過剰生産能力を抱える業種-
図1 中国における生産者物価指数(PPI)の推移
(注)統計の分類は鉄金属精錬圧延加工。
(出所)CEICデータベース(原データは中国国家統計局)より筆者作成

生産者物価に象徴される産出価格の上昇によって、企業の主業務収入は拡大し、ひいては利潤も大きく伸びている(図2、図3)。この傾向は、特に石炭と鉄鋼といった産業において顕著である。業績の改善により、これらの産業における資産負債比率も下がり始めている(図4)。

図2 中国における工業企業の主業務収入の推移
― 全体 Vs. 過剰生産能力を抱える業種 ―
図2 中国における工業企業の主業務収入の推移
(注1)統計の分類は鉄金属精錬圧延加工。
(注2)2017年は1-9月のみ。
(出所)CEICデータベース(原データは国家統計局)より筆者作成
図3 中国における工業企業の利潤の推移
― 全体 Vs. 過剰生産能力を抱える業種 ―
図3 中国における工業企業の利潤の推移
(注1)統計の分類は鉄金属精錬圧延加工。
(注2)2017年は1-9月のみ。
(出所)CEICデータベース(原データは国家統計局)より筆者作成
図4 中国における工業企業の資産負債比率の推移
― 全体 Vs. 過剰生産能力を抱える業種 ―
図4 中国における工業企業の資産負債比率の推移
(注1)統計の分類は鉄金属精錬圧延加工。
(注2)年末値、ただし、2017年は9月。
(出所)CEICデータベース(原データは国家統計局)より筆者作成

残された課題

このように、「三つの解消、一つの低減、一つの補強」は一定の成果を上げている。しかし、これはあくまでも「供給側構造改革」の第一歩に過ぎない。中高速成長を持続させるために、生産性を高めるべく、市場化を中心とする制度改革を通じて、イノベーションに加え、労働力、資本、土地といった生産要素の再配分を意味する産業の高度化と所有制改革を促進しなければならない。これこそ、「供給側構造改革」が今後目指すべき方向である。

脚注
  1. ^ 企業を中心とする民間非金融部門の債務の抑制を目指し、国務院は2016年10月10日に、「企業のレバレッジ比率を積極的かつ着実に引き下げることに関する意見」を発表した。その中で、企業のレバレッジ比率を下げる手段として、①企業の合併と再編、②コーポレート・ガバナンスの強化、③企業の資産の活用、④企業の財務構造の最適化、⑤市場ルールに基づいた銀行債権の株式化の推進、⑥法に基づいた企業倒産の実施、⑦エクイティファイナンスの推進という七つが挙げられている。
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2017年12月6日掲載