中国経済新論:中国の経済改革

「新常態」における経済政策の軸となる「供給側改革」
― 五中全会と中央経済工作会議の議論を踏まえて ―

関志雄
経済産業研究所

2011年以降、中国経済は労働力不足に伴う潜在成長率の低下をきっかけに、それまでの高度成長期と異なる「新常態」に入っている。労働力と資本の投入量の拡大によって成長していくという従来の戦略が限界に来ており、一部の産業において需給のミスマッチが深刻化する中で、中高速成長を持続させるために、成長エンジンを生産性の向上に切り替えていくという「経済発展パターンの転換」と、産業構造の調整が求められている。これに対して、第13次五カ年計画(2016-2020年)を議論する2015年10月の中国共産党第18期中央委員会第五回全体会議(五中全会)に続き、2016年の経済政策を議論する12月の中央経済工作会議においても、政策対応として「供給側改革」が焦点となった。イノベーションと資源の再配分の促進がその主な内容となっている。

五中全会で提示された第13次五カ年計画の提案

2015年10月26日から29日にかけて開催された中国共産党第18期五中全会において、「第13次国民経済・社会発展五カ年計画策定に関する中国共産党中央の提案」(以下、「提案」)が検討され、可決された。これを受けて、政府(国務院)は、同計画の策定に着手した。最終案は、2016年3月の全国代表大会において審議される予定である。

「提案」によると、2020年までに「小康社会」(ややゆとりのある社会)を全面的に実現することは、共産党が決定した「二つの百年」奮闘目標のうち一つ目の目標である(注1)。第13次五カ年計画期間は「小康社会」の全面的実現の成否を決める段階であり、この目標の実現を中心に、第13次五カ年計画を制定しなければならない。

五中全会では「小康社会」の全面的実現に向けて、次のような目標が打ち出されている。

  • 経済の中高速成長を維持し、発展の均衡性、包括性、持続可能性を向上させた上で、2020年までに国内総生産(GDP)と都市・農村住民一人当たり所得を2010年比で倍増させ、ミドル・ハイエンドの産業レベルを目指し、消費の経済成長に対する貢献を著しく増大させ、戸籍人口の都市化率の向上を加速する。
  • 農業の近代化を著しく進展させ、人民の生活レベルと質をおしなべて向上させ、農村貧困人口の貧困脱出を実現し、貧困県はすべて汚名を返上し、地域全体の貧困という状況を解決する。
  • 国民の資質と社会の文明化程度を著しく向上させる。自然環境の質を全体的に改善する。
  • 各方面の制度をより成熟させ、より定型化し、国家ガバナンス体系とガバナンス能力の近代化を大きく進展させる。

中でも中高速成長の維持は最重要課題と位置づけられている。習近平総書記が五中全会で行った説明によると、今後5年間経済が中高速成長を維持するという目標を提起するに当たり、主として考慮したことは、2010年に比べてGDPを倍増するという目標を達成するには、2016-2020年の年平均経済成長率の最低ラインは6.5%以上であることだという。

「提案」は第13次五カ年計画期間の発展目標を実現し、発展の難題を解決し、発展優位性を十分に育成するには、「革新的発展」(イノベーションによる発展)、「協調的発展」、「グリーンな発展」、「開放的発展」、「分かち合える発展」という「五つの発展理念」を貫徹しなければならないと強調している(表1)。

表1 第13次五カ年計画策定に関する党中央の提案が掲げる五つの理念
①革新的発展 革新を国家発展全局の核心的位置に据え、理論の革新、制度の革新、科学技術の革新、文化の革新等、各方面の革新を絶えず推進し、革新を党と国の一切の活動において首尾一貫させ、革新を全社会の盛んな潮流にしなければならない。
②協調的発展 中国の特色ある社会主義事業の全体配置をしっかりと把握し、発展過程における重大な関係を正確に処理し、都市・農村地域の協調的発展を重点的に促進し、経済社会の協調的発展を促進し、新型工業化、情報化、都市化、農業現代化の足並みの揃った発展を促進し、国のハードパワーを強化すると同時に国のソフトパワーの向上を重視し、発展の全体性を絶えず増強しなければならない。
③グリーンな発展 資源節約と環境保護という基本国策を堅持し、持続可能な発展を堅持し、生産の発展、生活の富裕化、環境にやさしい文明的発展という路線を確固として堅持し、資源節約型で環境にやさしい社会の建設を加速し、人と自然の調和の取れた発展という現代化建設の新構造を形成し、美しい中国の建設を推進し、世界の環境安全に新たな貢献を行わなければならない。
④開放的発展 我が国の経済の世界経済への深い融合という趨勢に順応し、互利とウインウインの開放戦略を実行し、より高いレベルの開放型経済を発展させ、世界経済ガバナンスと公共財供給に積極的に参加し、世界経済ガバナンスにおける我が国の制度面の発言権を強め、広範な利益共同体を構築しなければならない。
⑤分かち合える発展 人民のための発展、人民をよりどころにした発展、人民が成果を分かち合える発展を堅持し、より効果的な制度配置を行い、人民全体が発展をともに成し遂げ分かち合う中でよりいっそう成果を得られたと感じられるようにし、発展の原動力を増強し、人民の団結を増進し、共に豊かになることを目指して着実に前進していかなければならない。
(出所)「中国共産党第18期中央委員会第五回全体会議公報」、2015年10月29日

注目される「供給側改革」

「提案」は、この五つの発展理念に基づき、「小康社会」の全面的実現に向けて、「供給側改革」を遂行しなければならないという認識を示している。具体的に、「労働力、資本、土地、技術、経営管理などの要素分配を最適化し、イノベーション・起業の活力を奮い立たせ、大衆による起業・万人によるイノベーションを促進し、新たな需要を引き出し、新たな供給を生み出し、新技術・新産業・新業態を大きく発展させ、原動力の転換を急ぐ」ことが焦点となっている。

これを受けて、2015年11月10日の中央財経領導小組の第11回会議において、習近平総書記は、「総需要を適度に拡大すると同時に、供給側の構造改革強化に力を入れ、供給体系の質・効率向上に力を入れ、経済の持続的成長力を増強し、わが国の社会生産力水準の全面的な飛躍の実現を推進しなければならない」と指摘した。

続いて、11月15日に習近平氏は、トルコ・アンタルヤで開催されたG20サミットにおいても「供給側と需要側の力を合わせて進むことを重視する」と語った。また、11月18日にフィリピンで開催されたAPEC・CEOサミットで講演した際、「世界経済の深いレベルの問題を解決するには、単純な金融刺激策では不十分で、供給側システムが需要側の構造変化により適応するように、経済構造改革において更なる努力が必要である」と述べた。

李克強総理も11月17日に行われた第13次五ヵ年計画の「計画綱要」の作成業務会議で、供給側と需要側の両側から産業のミドル・ハイエンドへの高度化を図ることを強調した。

12月18日から21日まで開催された、2016年の経済政策を議論する中央経済工作会議において、「供給側の構造改革は、(中国経済を)経済発展の「新常態」に適応させ、導く重大なイノベーションであり、世界的金融危機後における総合国力の競争という新しい情勢に適応するための積極的選択であり、我が国の経済発展の「新常態」に適応するための必然的要求である」と位置付けられた。

指導部が発したこの一連のメッセージは、今後の経済政策の焦点が需要側の景気対策から、供給側の構造改革に転換することを示唆している(経済分析におけるキーコンセプトとしての需要と供給については、BOX参照)。

なぜ「供給側改革」が必要なのか

中国において、「供給側改革」が重視されるようになった背景には、「新常態」への移行を象徴するように、マクロの面では潜在成長率が低下する一方で、ミクロの面では一部の産業において需要と供給の間のミスマッチが顕著になってきたことが挙げられる。

まず、マクロの面では、中国の経済成長率は、2010年を境目に、大幅に低下しているが、これは需要不足による景気後退よりも、労働力の減少など供給側の制約による潜在成長率の低下を反映している。2011年以降、成長率の低下とは対照的に求人倍率が上昇傾向をたどっていることは、このような労働市場の変化を端的に示している(図1)。

図1 中国における経済成長率と都市部の求人倍率の推移
― 労働力不足に伴う潜在成長率の低下を示唆

図1 中国における経済成長率と都市部の求人倍率の推移
(注)中国の都市部の求人倍率は、約100都市の公共就業サービス機構に登録されている求人数/求職者数によって計算される。
(出所)中国国家統計局、人力資源・社会保障部の統計より筆者作成

1995~2011年の中国の平均成長率(潜在成長率と見なされる)は9.9%に達し、それを要因分解すると、労働投入量の拡大、資本投入量の拡大、全要素生産性(TFP)の上昇による寄与度は、それぞれ0.7%、5.3%、3.7%と推計される(図2)。しかし、2010年頃から、生産年齢人口が拡大傾向から縮小傾向に転じたことと、農村における余剰労働力が解消されたこと(いわゆる「ルイス転換点の到来」)により、「労働投入量の拡大」と「資本投入量の拡大」が抑えられ、これを反映して潜在成長率は大幅に低下している。

図2 潜在成長率の要因分解(1995-2011年)
図2 潜在成長率の要因分解(1995-2011年)
(注1)全要素生産性の上昇には人的資本の向上を含む。
(注2)各寄与度の合計が潜在成長率と一致していないのは四捨五入によるものである。
(出所)Kuijs, Louis, "China's Economic Growth Pattern and Strategy," Paper prepared for the Nomura Foundation Macro Research Conference on "China's Transition and the Global Economy," November 13, 2012, Tokyoより筆者作成

生産年齢人口が減少し始めることは、人口ボーナスが人口オーナス(重荷)に変わることを意味する。これまで、生産年齢人口が増え続けてきただけでなく、若者が中心の社会においては貯蓄率も高かった。生産年齢人口の増加は、労働供給量の拡大をもたらし、また、貯蓄が投資の資金源になるため、高貯蓄率は資本投入量の拡大につながった。しかし、今後生産年齢人口が減少し高齢化が進行すれば、労働供給量の減少と貯蓄率の低下を通じて、潜在成長率は抑えられることになる。

その上、ルイス転換点の到来も成長の制約となる。これまで無限と言われた労働力の供給は、中国の経済成長を支えてきた。しかし、完全雇用の達成は、工業部門とサービス部門にとって労働供給量が減ることを意味し、その結果、潜在成長率は低下せざるを得ない。

一方、ミクロの面では、一部の産業において、供給が需要の変化についていけず、両者の間にミスマッチが生じている。具体的に、鉄鋼やセメントなど、需要が縮小している分野において、企業は過剰設備を抱えており、収益性も悪化している。これに対して、海外旅行ブームと「爆買い」に象徴されるように、旅行サービスや贅沢品など、一部の産業において、消費者が国内の供給には量と質ともに満足できず、国内の需要は海外に漏れ出している。

中国が目指す「供給側改革」とは

こうした中で、成長エンジンを労働力や資本といった生産要素の投入量の拡大から生産性の向上に切り替えていくという「経済発展パターンの転換」と、産業構造の調整が求められる。「供給側改革」は、まさにこれを実現するための手段であり、イノベーションと資源の再配分の促進がその主な内容となる。

国務院発展研究センター資源・環境政策研究所の李佐軍副所長が指摘しているように、「供給側改革」の本質は新しい主体の形成、新しい原動力の育成、新しい産業の発展である(李佐軍、「供給側改革を常識に戻せ」「『経済参考報』、2015年12月17日」)。

まず、新しい主体の形成について、市場に資源配置における決定的な役割を、企業、中でも民営企業に経済発展における主導的な役割を発揮してもらうと同時に、行政機構の簡素化、権限委譲、政府機能の転換を進め、政府の「見える手」に制限をかけ、政府に本来の機能を発揮してもらわなければならない。

次に、新しい原動力の育成について、改革を通じて新しい成長エンジンを、イノベーションを通じて新しい成長分野を育成する。生産性の向上を通じて、経済の持続的発展を実現させなければならない。

そして、新しい産業の発展について、市場原理に基づき、早急に生産過剰企業とゾンビ企業等を淘汰し、市場の整理整頓を行う。資源の浪費を防ぎ、資産バブルの解消を急ぎながら、新しい産業、新しい技術、新しい業態を大いに発展させなければならないという。

「供給側改革」と需要側の対策は、次の三点において大きく異なっている。まず、「供給側改革」は市場の主体としての企業と企業家の役割発揮を強調するのに対して、需要側の対策は政府のマクロ調整機能を強調する。次に、「供給側改革」は中長期にわたる健全かつ持続可能な成長に対応する手段であるのに対して、需要側の対策は短期的景気変動に対応する手段である。そして、「供給側改革」は制度の改革と整備を通じて行われるのに対して、需要側の対策は政策調整を通じて行われる。

なお、「供給側改革」は、そのネーミングから、1980年代に米国のレーガン政権が実施した大規模な減税やイギリスのサッチャー政権が実施した国有企業の民営化に理論の根拠を与えたサプライサイド経済学を連想させるものである。確かに、供給側の対策を重視するという点において両者は共通しているが、現在の中国は当時の英米とは経済発展段階や政治経済体制が大きく異なっていることから、改革の具体的内容も違う。特に、中国が目指している「供給側改革」には、大規模な減税や国有企業の民営化は含まれていないようである。

五中全会の提案に盛り込まれた「供給側改革」

五中全会の「提案」には、イノベーションを中心に、次のような「供給側改革」が盛り込まれている。

  1. 科学技術面のイノベーションの促進
    • 「インターネットプラス」行動計画を実施し、モノのインターネット(IoT)の技術と応用を発展させ、シェアリングエコノミー(共有型経済)を発展させ、インターネットと経済・社会の融合した発展を促進する。国家ビッグデータ戦略を実施し、データ資源の開放・共有を推し進める。
    • 国による一連の重要な科学技術プロジェクトを実施し、イノベーションの重点分野で一群の国家実験室を作る。国際的ビッグサイエンス計画やビッグサイエンスプログラムを積極的に提起すると共に、先頭に立って推進する。
    • イノベーションにおける企業の主体的地位と主導的役割を強化する。
  2. 産業面のイノベーションの促進
    • 産業の新体系を構築する。製造強国の建設を加速し、「メイド・イン・チャイナ2025」計画を実施する。
    • 工業の基礎強化プロジェクトを実施する。
    • 戦略的新興産業の発展を支援する。
    • 近代的サービス業の発展を加速させ、市場参入制限を緩和し、サービス業の高品質、高効率な発展を促進する。
    • 農業の近代化を強力に推進し、高効率の生産、生産物の安全、資源の節約、環境にやさしい農業の近代化の道を歩む。
  3. 重要な公共財を提供する産業(都市部における水道、ガス、公共交通および、港、空港、水利施設、重要な防護林工事など)
    • 発展の新体制を構築する。革新的発展にプラスとなる市場環境、財産権制度、投融資体制、分配制度、人材育成導入使用メカニズムの形成を急ぐ。
    • 行政管理体制改革を深化させ、政府機能の転換を一層進め、引き続き行政の簡素化・権限移譲、自由化と管理の結合、サービスの最適化を推進し、政府機能を向上させ、市場の活力と社会の創造力を引き出す。
    • 企業の意思決定への政府の関与を制限し、行政審査・認可事項を減らす。
    • 国有資産管理体制を整備する。
    • 開放され、競争、秩序がある市場体系の形成を加速し、公平な競争を保証する仕組みを構築し、地域分割と業界独占を打破する。
    • 健全な近代的財政制度、課税制度、近代的金融市場の発展に適した金融監督・管理システムを構築する。
    • マクロコントロール方式を改善する。
    • 価格形成に対する政府の関与を減らし、競争分野の商品価格とサービス価格を全面的に自由化する。
  4. 成長に対する投資の決定的役割の発揮
    • 投融資体制改革を深化させる。
    • 財政資金の呼び水機能を発揮させ、より多くの社会資本(民間資本)を投資に参加させる。
    • 官民連携事業(PPP)を推し進める。
  5. 人口政策の転換
    • 一人っ子政策を緩和し、二人目の出産を可能にする政策を全面的に実施する。

中央経済工作会議で示されている「供給側改革」の優先課題

「供給側改革」を重視するスタンスは、中央経済工作会議においても貫かれている。同会議において、取り組むべき優先課題として、①過剰な生産能力の解消、②企業のコスト削減、③不動産在庫の解消、④需要に見合った供給(有効供給)の拡大、⑤金融リスクの予防・解消が挙げられ、資源の再配分を中心に次の対策が打ち出されている。

  1. 過剰な生産能力の解消
    • 法に基づき、市場化された破産プロセスの実施に向けて条件を整え、破産・清算案件の審査処理を加速させる。
    • 財政・税制面での支援、不良債権の処理、失業者の再就職と生活保障、特定項目の奨励金・補助金などの政策を提起・実施し、資本市場は企業の合併再編において役割を果たす。
    • できるだけ合併再編を多くして破産・清算を少なくし、従業員人事をしっかりと行う。
    • 生産量の増加を厳格に抑制し、新たな生産能力の過剰の発生を防ぐ。
  2. 企業コストの削減
    • 企業の税負担を軽減させ、税金や各種費用の整理・最適化をさらに進め、各種の不合理な費用の徴収を見直し、公平な税負担環境を創出し、製造業の付加価値税率の引き下げを検討する。
    • 社会保険料を引き下げ、社会保険を精査して「5険1金」(養老保険年金、医療保険、失業保険、傷害保険、出産保険、住宅積立金)に絞り込む。
    • 企業の財務コストを削減する。
    • 電気料金を引き下げ、電気料金の市場化改革を推進し、石炭価格と電気料金が連動するメカニズムを整える。
    • 物流コストを引き下げ、流通体制改革を推進する。
  3. 不動産在庫の解消
    • 農業からの移転人口をはじめとする非戸籍人口(戸籍地以外に居住する人口)の就業地での定住を認める。
    • 購入と賃貸が併存する住宅制度の構築を主な方向性とし、公的賃貸住宅の利用を非戸籍人口へと拡大する。
    • 自然人と各種機関投資家による住宅賃貸市場への参入と、住宅賃貸を主業務とする専門化された企業の発展を奨励する。
    • 不動産デベロッパーが販売用住宅価格を適切に引き下げることを奨励し、不動産業における企業の合併再編を促進する。
    • 不必要となった制限措置を撤廃する。
  4. 需要に見合った供給の拡大
    • 企業の技術改良と設備更新を支援し、企業の債務負担を削減させ、金融面での支援方式を刷新し、企業の技術改良や投資の能力を向上させる。
    • 農産品の需要に見合った供給を保障し、食糧の安全を保障し、農民の収入の安定的増加を保障し、農業の近代化のための基礎建設を強化する。
  5. 金融リスクの予防・解消
    • 地方政府の債務リスクを効果的に解消し、(融資プラットフォーム会社の債務の一部を含む)地方政府の債務の(地方債への)転換を確実に遂行し、政府債務管理を厳格化し、地方政府の債券発行の規定を改善する。
    • 全方位的な監督管理を強化し、各種の資金調達を規範化し、金融リスクに対する対策をしっかりと展開し、違法な資金集めの広がりを断固としてくい止め、リスクのモニタリングと警戒を強化し、リスク案件を適切に処理し、システミックリスクおよび地域的リスクの発生を最小限に抑える。

カギとなる市場化改革の深化

「供給側改革」は、中国にとって、決して新しいものではなく、1970年代末以降に進められてきた市場化を軸とする「改革開放」は、まさにそれに当たる。その内容は、世界銀行などの国際開発金融機関が途上国に推奨し、「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる政策パッケージに沿ったものである(姚洋、「中国における経済の高成長の由来」(その一)、『南方周末』、2008年9月11日)(注2)。

むろん、内外の政治経済情勢の変化を反映して、改革のペースと重点は時代とともに変化している。中国の現状を踏まえた習近平政権による市場化改革案は、すでに2013年11月に開催された中国共産党第18期三中全会において採択された「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」という形で発表されている。その中には、「市場に資源配分における決定的役割を担わせる」ことをはじめ、市場化改革を積極的に進めるという強い決意が込められており、海外からも一定の評価を得ている(「市場化改革の青写真を示した三中全会の『決定』」『中国情勢レポート』No. 13-11参照)。しかし、既得権益集団の抵抗もあり、実行の段階における進展のテンポが極めて遅かったと言わざるを得ない。「供給側改革」が強調されるようになったことで、今後改革が加速するかに注目したい。

BOX 経済分析におけるキーコンセプトとしての需要と供給

需要と供給は経済学の最も基本的概念である。ある商品の需要は価格の上昇(低下)とともに縮小(拡大)する一方で、供給は価格の上昇(低下)とともに拡大(縮小)する。縦の軸を価格、横の軸を需要または供給の量を表す座標において、前者は右下がりの需要曲線、後者は右上がりの供給曲線によって表される。均衡価格と産出量は需要と供給が一致する水準(需要曲線と供給曲線の交差点)で決まる。価格以外の要因による需要と供給の変化は、需要曲線と供給曲線のそれぞれのシフトによって表すことができる(図1)。この枠組みは、個別の商品だけでなく、GDPに代表される国全体の財とサービスへの総需要と総供給の変動を対象にしても分析手法として有効である。

図1 需要拡大Vs.供給拡大
図1 需要拡大Vs.供給拡大
(出所)筆者作成

GDPを拡大する方法は、需要拡大と供給拡大という二つに大別される。需要拡大の主な手段は金融緩和(利下げなど)と政府支出の拡大である。リーマンショック後に中国が実施した4兆元に上る景気対策はそれに当たる。需要拡大により、需要曲線が右にシフトし、新しい均衡点においてGDPが拡大するとともに、価格(物価)も上昇する。一方、供給拡大のためには、労働力と資本といった投入量の拡大や、イノベーションなどを通じた生産性の向上が求められる。これらにより、供給曲線が右にシフトし、新しい均衡点においてGDPが拡大する一方で、価格(物価)は逆に低下する。

このように需要側の要因も供給側の要因も、GDP、ひいては経済成長の水準に影響を与えるが、前者は短期的景気変動、後者は中長期的に持続可能な潜在成長率の変動という形を取る。実際の成長率は、景気の変動を反映して潜在成長率を中心に上下変動するもので、潜在成長率が低下すれば、実際の成長率も抑えられることになる(図2)。

図2 景気変動Vs.潜在成長率の変化
図2 景気変動Vs.潜在成長率の変化
(出所)筆者作成

したがって、景気変動(成長率の潜在成長率からの乖離)を分析する際は、GDPを構成する需要項目である消費、投資、外需(純輸出)の動向が焦点となることに対して、潜在成長率の変動を分析する際は、労働力、資本、生産性といった供給側の要因に着目しなければならない。

2016年1月8日掲載

脚注
  1. ^ 2012年11月に開催された中国共産党第18回全国代表大会において、「二つの100年」の努力目標が提起された。すなわち、中国共産党創立百周年(2021年)を迎えた際には、小康社会を全面的に実現すること、新中国成立百周年(2049年)を迎えた際には、中国を富強、民主、文明、調和のとれた社会主義の近代化を遂げた国家に築き上げることである。
  2. ^ 「ワシントン・コンセンサス」は、米ピーターソン国際経済研究所のジョン・ウィリアムソン・シニアフェローによって次の10ヵ条にまとめられている(Williamson, J. (1990) "What Washington Means by Policy Reform," In J. Williamson ed., Latin American Adjustment: how much has happened? (pp. 5-20). Washington DC: Institute of International Economics)。
    ①財産権に対する保護
    ②企業の参入と退出に対する規制緩和
    ③国有企業の民営化
    ④直接投資の自由化
    ⑤貿易の自由化
    ⑥金利の自由化
    ⑦競争力のある為替レートの維持
    ⑧規律的な財政運営
    ⑨純粋な所得再分配支出の抑制と公共サービス支出の増加
    ⑩タックスベースの拡大
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