Special Report

鉄鋼・アルミニウム輸入に対する米国1962年通商拡大法232条の発動
-WTO体制による法の支配を揺るがす安全保障例外の濫用と報復の応酬-

川瀬 剛志
ファカルティフェロー

3月8日は国際貿易体制にとって象徴的な1日になった。この日は、アメリカを除く11カ国のTPP署名国によるTPP11(CPTPP)の署名が行われ、アジア大洋州地域における自由貿易体制の新秩序が確立した。その一方米国では、トランプ大統領が1962年通商拡大法232条に基づき、カナダ産、メキシコ産を除いて、それぞれ鉄鋼製品25%、アルミニウム製品10%の関税引き上げを実施する大統領令に署名した(共に従価ベース)。引き上げは米国東部時間3月23日に行われ、加墨両国のほか、アルゼンチン、豪州、ブラジル、EU、韓国が除外交渉中につき暫定的に適用対象から外れた(日経3月23日夕刊)。トランプ政権はこれまでも保護主義的な通商政策を掲げ、TPP交渉の枠組を脱退したが、今回の措置に加えて、今年1月の洗濯機およびソーラーパネルのセーフガード発動、そして22日の不当な技術移転要求および知的財産権侵害を理由とした対中国の1974年通商法301条制裁と、いよいよ現実に貿易制限的な措置を実施する段階に入った。

当然のことながら、3月1日のトランプ大統領による課税の意向表明直後より、鉄鋼・アルミ輸出国は強く反発し、対抗措置やWTOへの紛争付託の可能性を表明することで敏速に反応した。特にEU のユンカー欧州委員長はトランプ大統領の課税方針発表直後にリーバイスやハーレイダビッドソンなど象徴的な米国産品に言及しつつ、報復関税を課すと述べた(読売3月4日朝刊)。トランプ大統領は「貿易戦争は良いことであり楽勝だ」とうそぶいた挙げ句(CNN.co.jp 3月3日)、EUの方針に対して欧州車に課税すると応じ(読売3月5日朝刊)、一気に貿易戦争の様相を呈した。232条措置が川下産業にもたらす競争力低下や各国の対抗措置による輸出利益の逸失を嫌うマーケットでは、ここしばらく株価および為替にも悪影響が認められる。特に鉄鋼・アルミの関税引き上げ実施と対中301条制裁発表が重なった23日の東京市場は1000円近い株価下落に見舞われ、同日のニューヨーク市場でもダウ平均が今年最安値を記録している。

今回の措置に反対する声は、自動車やビールなど川下産業、ビジネスラウンドテーブルなど産業団体はもとより、ライアン下院議長やハッチ上院財政委員長をはじめ共和党内部など、国内、ひいては身内からも上がっている。通商政策の司令塔であったコーン国家経済会議委員長もこの措置に強く反対し、遂には辞任を表明した。

事態を重く見たWTOのアゼベド事務局長は、トランプ大統領の意向表明直後の3月2日に、異例ながら一国の個別措置について懸念を表明し、加えて5日、12日にも貿易戦争に対する憂慮を示している(Reuter, Mar. 3; WTO News, Mar. 5; ニューズウィーク日本版3月13日)。アゼベド事務局長の一連の懸念表明は、WTO協定による国際通商体制における法の支配に一方主義がもたらす揺らぎに対する強い憂慮の表れである。

1962年通商拡大法232条と本件調査報告

最初に今回問題となっている1962年通商拡大法232条(19 U.S.C. §1862)について簡単に触れておきたい。同条の下で商務省は、職権、他省庁の長からの要請、あるいは利害関係者からの申請により、特定の産品の輸入が米国の安全保障に影響を与えるか否かを調査し、措置発動の要否および適切な措置の内容を勧告できる。商務省は調査開始から270日以内に大統領に勧告を含む報告書を提出しなければならない。仮に商務省から輸入が米国安全保障を脅かす旨の報告があれば、大統領は報告書受領から90 日以内にその結論に同意するか否か、そして同意する場合はいかなる措置を取るかを決定する。

同条の下ではこれまで26件の調査が実施されており、大統領が措置の発動を命じた案件はうち5件にとどまる(注1)。直近の調査は2001年の鉄鋼石および鉄鋼半製品だが、この時大統領は措置の発動を認めなかった。

以来16年ぶりに昨年4月20日に鉄鋼、そして同27日にアルミの調査が開始された。商務省はそれぞれ鉄鋼については本年1月11日、アルミについては同17日に大統領に報告書を送付し、双方ともに2月16日に公表された。そのうち鉄鋼報告書の概要は以下のとおりである。

  • 「安全保障」の概念は、戦闘能力の全世界的展開及び重要インフラを含む。安全保障利用のための鉄鋼製品の国内生産は不可欠であり、健全かつ競争的な米国鉄鋼産業に依存する。鉄鋼の国内需要はここ数年著しく増加している。
  • 他方、米国は世界最大の鉄鋼輸入国である。2017年10月までの鉄鋼輸入は増加しており、米国消費量の30%に相当する。これらは広範囲の生産段階にある産品に及ぶ。米国は自国の鉄鋼輸出量の4倍を輸入しており、輸入品の価格は国産品より相当低い。
  • 2000年以降、過剰な輸入が国産品に代替し、米国鉄鋼産業の稼働率低下、失業、赤字操業などをもたらした。
  • 国際鉄鋼市場は中国の過剰生産能力により悪影響を受けている。米国の生産能力が横ばいであるにもかかわらず他国は能力を増加しており、近い将来米国鉄鋼産業はいっそう激しい競争に直面する。
  • 以上のことから鉄鋼輸入は米国鉄鋼産業を弱体化させ、米国の安全保障を脅かす。よって、稼働率80%を可能ならしめる水準で鉄鋼輸入を制限することを勧告する。措置としては、数量制限、一律・無差別の関税引き上げ、または一定の輸入国グループ毎の関税引き上げを提案する。

アルミ報告書についても、論理の展開は鉄鋼報告書と概ね共通している。やはり資材としての安全保障への重要性を前提として、近年の輸入増加傾向と特に中国を中心とした過剰生産能力により米国アルミ産業が被害を受けており、米国の安全保障を脅かすことから、国内産業の稼働率80%を可能ならしめる水準での輸入制限を提言している。措置の提案も類似している。

WTOは安全保障例外の濫用を防げるか

今回の米国の措置はWTOにおいて約束した関税の水準(譲許税率)を超える一方的な関税引き上げであり、GATT2条1項違反であることには疑いはない。しかし、米国は今回の措置を安全保障目的のものとして位置付けているので、GATT21条(英文はこちら)の安全保障例外、特に「…軍事施設に供給するため直接又は間接に行なわれるその他の貨物及び原料の取引に関する措置」(同(b)(ii))に該当すると主張のうえ、これを正当化すると予想される。鉄鋼やアルミの輸入が増加したからといって、国家安全保障が脅かされるという議論はいかにも極論であって、鉄鋼輸出国はこれに全く納得していないのは、冒頭のEUの反応からも明らかであろう。

では、WTOはGATT 21条例外の濫用を防げるだろうか。GATT21条(b)柱書は、自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要と「締約国が…認める(it considers)」措置として同(ii)に言及している。このかぎりでは(b)(ii)の要件に該当するか否かは、もっぱら当該措置発動国の自己判断(self-judging)に拠るように見え、そうであれば米国の主張を丸呑みせざるを得なくなる。

GATT21条のような安全保障例外は伝統的な二国間友好通商航海条約、FTA、そして投資協定にも含まれ、これまでも国際司法裁判所(ICJ)や投資仲裁でこうした自己判断的な文言の解釈が問題となってきた(注2)。これらの判例の全てが、自己判断的な文言を有する例外条項はすべからくその援用について事後の第三者による審査を一切許さない、としてきたわけではない。いくつかの事案では、こうした例外条項では条約当事国に広い裁量がある一方、条約の誠実遵守義務(ウィーン条約法条約26条)に基づき、その援用が誠実な意図に基づくものであるか否かを検討すること(誠実審査-good faith review)を許すと判断されている(注3)。

ではWTOではどうだろうか。これまでGATT21条が援用された紛争事案はいくつか確認できるが(注4)、唯一パネルの判断に至った案件は、旧GATT時代の米国・ニカラグア製品事件(1986)のみである。もっとも本件においても、米国の対ニカラグア禁輸措置のGATT21条適合性判断は、その自己判断的な文言ゆえにパネルの付託事項から外された。しかしそれでも同パネルは、全く事後的な第三者による審査が行われないとすればいかに本条の濫用を防ぐかにつき、傍論で警鐘を発している(注5)。WTO設立後は、唯一中国・原材料事件パネルが、やはり傍論でGATT21条におけるパネルの事後的審査の権限が限定的であることを示唆した例があるに過ぎない(注6)。

この点については、目下係争中のロシア・貨物通過禁止措置事件(DS512)は既にパネルの審理が行われており、初めての判断が見込まれる(旧GATT時代と異なり、現行手続では一方当事国の拒否でGATT21条問題を付託事項から外せない)。本件はクリミア侵攻およびウクライナ東部紛争に伴うロシアの対ウクライナ禁輸措置を争うもので、GATT21条(b)(ただし(iii))に基づく個別加盟国の政策決定にパネルの審査がどこまで及ぶか、つまりパネルの審査基準(standard of review)のあり方が重要な争点になっている。第三国として本件に参加する米国は、GATT21条がパネルの審査に服さないことを、自己判断的な文言のみならず、同条が置かれた文脈や歴史的経緯にも言及しながら主張する(注7)。これに対して、同じく第三国参加のEUは、柱書の「重大な利益」の判断については加盟国に広い裁量を認めつつ、措置の(b)(i)〜(iii)への適合性についてはパネル・上級委員会にその責務に鑑みて客観的な評価の権限を認める(注8)。他方カナダは、両者の中間的な意見として、同条の援用に上記の誠実審査に基づく低いハードルを課すことを主張する(注9)。

本件パネル判断まではおそらくあと1年程度の時間を要するものと思われるが、その結果は今回の米国の措置に決定的に影響を与える点で注目される。また、本件に続いて、テロ支援を理由とした対カタール断交に伴う、アラブ首長国連邦、サウジアラビアおよびバーレーンによる対カタール禁輸措置(DS526; DS527; DS528)でも被申立国はGATT21条を援用することが予想され、本件同様その趨勢が注目される。

なお、米国が主張するような完全な事後的審査の排除でなければ、程度の差こそあれ、どの審査基準も問題の措置に関する政府の判断の説明力や、根拠となる事実や証拠との合理的関係が問われることになる。この点で、米国の措置はいくつかの点で疑わしい。まず、米国は極めて包括的に鉄鋼製品、アルミ製品を定義し、具体的にどの軍事施設にどういった品目が間接・直接に供給されるのかを説明していない。また、仮に輸入過剰による設備稼働率の低下が安全保障を脅かすなら、鉄鋼・アルミ共に輸入シェア1位のカナダをはじめ多くの主要輸出国を除外することに合理的な説明はつかない。更に、232条措置からの除外をNAFTA交渉やEUの貿易障壁削減と関連づけるトランプ大統領の発言は、そもそも本件措置を安全保障目的とする論拠を揺るがすことが懸念されており(Inside U.S. Trade, Mar. 16)、その意味では互恵的な公正貿易と当該措置を結びつけるG20後記者会見のムニューシン財務長官のコメント(Bloomberg 3月21日)や後述のように韓国や中国と行われている協議・交渉も、同様の懸念を抱かせるものといえる。

仕切り直されるWTO体制と安全保障貿易レジームの関係

しかし本件のより深刻な影響は、こうした例外濫用の結果、WTOパネルが安全保障例外の外延を明らかにしなければならなくなったことにある。安全保障貿易管理についてはワッセナー協約に代表される国際安保貿易管理レジームがWTO体制とは別に確立されているが、これらが規制する物資は、武器・兵器自体だけでなく、軍事転用可能だが武器・兵器ではない先端素材、コンピュータ、半導体などの民生品を多く含む。その点でこれらの物資も鉄やアルミも同じであるにもかかわらず国際社会から今回のようなGATT21条適合性に強い疑義が示されないのは、WTO加盟国が国際安保貿易管理レジームの下で安全保障例外の範囲に一定の相場観を形成しているからに他ならない。この相場観から著しく外れる措置―古い例だが、1975年のスウェーデンの履物に対するGATT21条援用など―は「万座の嘲笑(collective laughter)」を浴びることになり、この同調圧力こそが濫用への抑止力として作用してきた(注10)。これまで各国はこの相場観の範囲内でGATT21条例外を慎重に運用してきたが、これは各国のデリケートな安全保障上の意思決定を第三者による法律上の審査に服させないための知恵でもあった(注11)。

今回の米国の措置は公然とこの平穏かつ合理的に定められてきた均衡を崩し、GATT21 条の限界を試すものである。もしWTO パネル・上級委員会が例外を広く認めれば保護主義への扉を開くことになり、他方で厳格な審査を行えば、上記のように本来緊張関係にある国際安保貿易レジームとWTO協定の齟齬が浮き彫りにされかねない。いずれに向かうにせよ、米国の行動は正に「パンドラの箱」を開いたと評さざるを得ない。

「砲艦外交」が蝕む多国間通商体制における法の支配

更に今回の米国の措置は、安全保障例外の濫用を超えて、多国間通商システムにおける法の支配の根本を揺るがす。米国は今回の措置からの除外を交渉カードに使い、NAFTA再交渉やEUの貿易障壁撤廃と結びつける意向を明らかにしている(Inside U.S. Trade, Mar. 16)。また、ライトハイザー通商代表は、議会公聴会で日本は除外国として言及しない一方、FTA交渉相手国として重視すると発言をしており、両者のリンケージが懸念される(日経3月22日夕刊、同24日朝刊)。遂に韓国とは、この232条措置の圧力の下で自動車市場アクセスを米国に有利に改定し、更に拘束力はないものの米国が長年要求してきた為替操作禁止条項を挿入することで米韓FTA再交渉が妥結し、加えて、明らかにセーフガード協定11条1項(b)違反を構成する鉄鋼製品の輸出自主規制を飲ませた(日経3月28日電子版)。また、中国に対しても、232条措置による関税引き上げ実施および301条措置発動の発表と並行して自動車および金融サービスの市場アクセス改善要求の書簡を送り、貿易赤字削減策についてムニューシン財務長官が中国と協議を継続している(WSJ, Mar. 25; Bloomberg 3月26日)。

こうした米国の措置は、正に砲艦外交(gunboat diplomacy)に他ならず、断じて看過できない。かつて、特に1980年代からWTO設立までは、米国の1974 年通商法301条を中心とした一方的措置の圧力により、わが国も自動車、半導体、あるいは工作機械の輸出自主規制(VER)、および半導体や一部農産物の市場開放を強いられた歴史があった。こうした経験に鑑み、WTOでは紛争解決了解(DSU)が一方的措置を禁止する一方、紛争解決手続の司法化・自動化を図り、着実に通商紛争が法的に解決される仕組みを備えた。今回の米国の措置は国際通商体制をWTO協定による法の支配が確立される以前のパワーゲームの時代に引き戻す極めて危険な行動に他ならない。

冒頭に述べたEUをはじめ、主要貿易相手国は米国に対して本件措置に対する対抗措置の準備を表明している。米国の暴挙にそのような強い姿勢で臨むことは適切だが、WTO体制の下であからさまな貿易戦争は許されない。DSU23条は個別の加盟国による一方的なWTO協定違反の認定や対抗措置の発動を禁止している。これはWTO協定違反の是正を目的とするかぎり、WTO協定不整合な措置はもちろん、おそらくは協定整合的な、あるいは協定の範囲外の措置(たとえば商用ビザの発給停止、航空機の離発着枠制限など、中国が検討する米国国債購入減(日経3月26日朝刊)も?)を取ることも許されないと解されている(注12)。世耕経産相はこの点につき、3月9日の閣議後記者会見で報復措置の応酬はどの国の利益にもならない、WTOのルールに則った解決を図ることが最も適切である、と述べているが、極めて当を得た方針であろう。

もっとも、WTO手続を経た場合、対抗措置発動により米国に是正を求めるまでの道のりは長い。パネル・上訴審、その後履行期間(通常は最長15カ月)を経て、対抗措置発動に至るまで、通常2年半〜3年程度、更に履行確認手続がある場合、これも上訴に至ればもう2年程度が見込まれる(注13)。更に、上訴案件の増加および事務局のマンパワーの不足に加えて、米国自身が上級委員会委員の欠員補充を阻止していることから、昨今は上訴審の遅れが著しい。原則上訴後判断まで90日の上訴審理は、現状では大きく1年を超えるようになりつつある。こうして米国はこのまま2020年のトランプ大統領2期目の大統領選まで、十分に時間を稼げる。ある現職上級委員はこうした審理の遅れによる協定違反の横行を懸念したが(注14)、今回の米国の措置は正にその通りとなった。こうした紛争解決手続が直面する困難を承知し、またこの事態を引き起こしていることの原因の(少なくとも)一端があることからして、米国の責任は極めて重い。

「無理筋」のリバランス論がもたらす更なる事態の悪化

他方、こうした事態を打開するため、EUはWTO手続の完了を待たずに対抗措置の発動を検討する「奇策」に打って出ている。3月16日に欧州委員会は対抗措置の対象産品リストおよび利害関係者向けの概要説明を公表したが、EUは今回の米国の措置をGATT19条に基づくセーフガードと位置づけ、俗に「リバランス」といわれるセーフガード協定8条に基づく対抗措置を発動する可能性を示唆している。セーフガード協定8条3項の下では、絶対的輸入増加でなく相対的増加を理由に発動されたセーフガードについてのみ、即時に対抗措置を発動できる(それ以外は紛争解決手続による協定違反の認定を待つか、3年間のモラトリアムに服する)と解されている(注15)。2002年の鉄鋼セーフガード事件では、EUは日本や豪州、韓国などと共にこの特別な対抗措置を援用し、比較的早期に米国による措置撤回に成功した(注16)。今回EUがセーフガード協定8条に言及するのは、広範囲にわたる232条措置の対象製品のうち、絶対的輸入増加がない品目に対する関税引き上げの貿易額に相当する対抗措置を、措置発動後除外の様子を見ながら即時に実施することを窺わせる。中国商務省も232条措置への対抗措置として貿易額30億ドル分の関税引き上げ(最高税率25%)(2018年3月29日)を発表しており、これも米国の説明にかかわらず、当該措置をセーフガードと見做す前提に基づいている(注17)。

このEUおよび中国の方針については、これをセーフガードへの対抗措置として法的に「世界貿易機関(WTO)協定でも認められている」とする報道があるが(日経3月23日夕刊)、必ずしもそうではない。第1に、米国の措置は、その動機と実質は別としても、セーフガードとは断定できない。もちろんある加盟国が取った措置の性質決定については当該加盟国の主張どおりに理解する必要はなく、これを争う余地はある。しかし、問題の措置がセーフガードであるためには、セーフガード協定1条の定義(「セーフガード措置とは、千九百九十四年のガット第十九条に規定する措置をいう」)に適合する必要がある(注18)。今回の米国の措置は、たとえば、本件では輸入増加の理由を「事情の予見されなかった発展」を求めていない点など、GATT19条に規定されるセーフガードの条件に適合しない。

第2に、米国が安保目的の措置として位置付け、またそのための国内法の手続に従って発動した措置を、第三国が一方的に米国の措置をセーフガードであると性格づけることは許されるだろうか。その結果、部分的とはいえ、紛争解決手続を待たずにセーフガード協定8条による対抗措置を課すことは、一方的措置を禁止したDSU23条の潜脱になる。

第3に、そもそもセーフガード協定8条3項の解釈はEUや中国の主張を許すだろうか。米国は今回広範な対象製品を一括して輸入の増加傾向を認定した(正確にはアルミは合計だけでなく6つの分類ごとの輸入量も検討したが、いずれも米国は絶対量増加を認定した)。しかしEUは米国が認定した輸入増加に基づいて対抗措置の発動を判断するのではなく、(特に鉄鋼については)個別品目に分割してそれぞれの増加傾向を検討し、独自に絶対的増加の有無を判断することになる。セーフガード協定8条3項には「セーフガード措置が輸入の絶対量の増加の結果としてとられた」とあるので、この「輸入の絶対量の増加」は当該セーフガード措置発動の根拠となった輸入増加である。同項はこの「輸入の絶対量の増加」は「神の目」で見た客観的事実を指し、輸出国が対抗措置の援用にあたりその有無を改めて独自に認定できるのか、あるいは輸入国が調査で認定した事実を指し、輸出国はそのままそれを受け入れて輸入の絶対的増加の有無を判断しなければならないのか、その点は明らかではない。筆者は前者の解釈の可能性を否定するものではないが(注19)、本件のように実質的にDSU23条の迂回として8条3項に依拠するケースでは、パネル・上級委員会の解釈も保守的な後者の解釈に傾くこともあり得る。

こうしたEU、ひいては中国の方針については、「せいぜい創造的でしかない解釈(at best a creative interpretation)」であって、「違反の応酬(tit-for-tat violations)」のおそれを産むことが懸念されている(FT, Mar. 6)。トランプ大統領はEUが対抗措置に踏み切れば、欧州車への課税を示唆しており、もし実現すれば、これも数年かけて紛争解決手続で解決を図らなければならなくなる。もしこれが実施されるとして、この状況は、世界経済にとってもちろんのこと、EUにとっても、単に米国の措置を粛々とWTOで争うよりも望ましいとはいえない。

* * *

米国の今回の調査報告書から明らかなように、問題の根底は中国の鉄鋼過剰生産能力にある。3月10日の日米EUの三極貿易大臣会合では、補助金規律の強化、WTOルールの執行、WTOの監視機能強化、市場歪曲的措置の情報共有などを取り進めることで合意した(共同サマリーを参照)。また、昨年の鉄鋼グローバルフォーラムの政策ガイドラインについても今後実施に向けて協力が必要だ。今なすべきは、日米EUが相互の訴訟合戦や一方的措置の応酬ではなく、WTO、G20、OECDなど共通の制度枠組みの中で、協力してこの問題に取り組むことにあることを忘れてはならない。

脚注
  1. ^ リストはUSDOC (2007) pp.13–20を参照。
  2. ^ 川瀬 (2009); Schell & Breise (2009).
  3. ^ Certain Questions of Mutual Assistance in Criminal Matters (Djib. v. Fr.), Judgment, 2008 ICJ Rep. 177, 225, ¶145 (June 4, 2008); LG&E v. Argentine Republic, Liability, ¶214, ICSID Case No. ARB/02/1(Oct. 3, 2006)).
  4. ^ リストはYoo & Ahn (2016) pp.431, 434参照。
  5. ^ GATT Panel Report, US–Nicaragua Embargo, ¶ 5.17, L/6053 (Oct. 13, 1986, unadopted)
  6. ^ WTO Panel Report, China–Raw Materials, ¶7.276, WT/DS394/R (July 5, 2011); Mavroidis (2015) p.487.
  7. ^ Russia – Measures Concerning Traffic in Transit (DS512): Third Party Executive Summary of the United States of America (Feb. 27, 2018)
  8. ^ Russia — Measures Concerning Traffic in Transit (DS512): European Union Third Party Written Submission (Nov. 8, 2017).
  9. ^ "Daily News: U.S., EU Preview Arguments in Potential 232 Showdown at WTO." Mar. 20, 2018, World Trade Online, available at https://insidetrade.com/ (subscriber only).
  10. ^ Hudec (1996) p.148.
  11. ^ 安保レジームとWTO体制の関係については風木(2016)を参照。
  12. ^ WTO Panel Report, EC–Commercial Vessels, ¶¶7.184–7.222, WT/DS301/R (Apr. 22, 2005).
  13. ^ 今回の対抗措置のプロセスについてはBown(2018)参照。
  14. ^ "Daily News: Appellate Body Chair Expects Mounting Delays as Systemic Issues Persist." World Trade Online, June 8, 2017, available at https://insidetrade.com/ (subscriber only).
  15. ^ 詳しくは川瀬 (2004)を参照。
  16. ^ 詳しくは川瀬 (2003/2004)を参照。
  17. ^ "China Claims U.S. 232 Tariffs Are Safeguards, Requests WTO Consultations." World Trade Online, Mar, 26, 2018, available at https://insidetrade.com/ (subscriber only).
  18. ^ WTO Panel Report, Indonesia–Iron or Steel, ¶¶7.12-7.41, WT/DS490/R, WT/DS496/R (Aug. 18, 2017).
  19. ^ 川瀬 (2004) pp.167–69を参照。
参考文献
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  • 川瀬剛志(2003/2004)「米国鉄鋼セーフガード紛争が残した課題-リバランスの成功とセーフガード協定の限界-()・()」RIETIコラムNo.110/111. 経済産業研究所.
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2018年3月29日掲載