RIETI ポリシーディスカッション
第9回:いくら失敗しても懲りない「日本発の標準」づくりの愚:ディスカッションルーム
池田 信夫
上席研究員
「いくら失敗しても懲りない『日本発の標準』づくりの愚」について
千葉市 ITのプロフェッショナルエンジニア 多田 順一
選択を消費者にゆだねるという論拠は的外れです。
消費者ではなく働く人々が物を作り、国際競争に勝って、世界に生産物を売って稼いで収入を得て、消費に回るお金ができるのですよ。消費者は、主婦、学生、子供、高齢者が大きな部分でしょうが、働く人々が額に汗して稼いだお金が消費者に回るのです。こんなこともわからないで他の方を批判するのはおかしい。
まあ、自由にものを言える日本は素晴らしいですが、この素晴らしい日本が、最近国際競争力で遅れをとり始めています。
現代の技術開発競争は、単なる製品開発競争でなく、「標準化という仕組み作りの競争」になっているのです。国を挙げて仕組み作りの競争に勝つべきです。
政府の仕事は国民の懐(働く人々の懐)を豊かにすることです。そのためには、働く人々が技術革新に勝ってゆけるように、政府が政策でバックアップするべきです。額に汗して働く人々が政府を運営する税金を納めているのですから、納税者の懐が豊かになるような政策は税金を納めた代償でしょう。
その方法論は色々あるでしょう。1つの方法は、(1)官は、重点分野を決めて人材育成と基盤研究を「バックアップ」して仕組み作りの競争をバックアップする、(2)学は、人材育成に注力する(最近の生徒や学生の考える力と学力低下はひどいと感じます)、(3)民(産)は、製品化研究と製品を作り稼ぐ、と言う学産官の協力を進めることも、国際間の技術競争では必要と思います。
追伸:未来は若い人たちに作って欲しいですが、私も少し参加できればいいかな。お答え
上席研究員 池田 信夫
「世界に生産物を売って稼ぐ」ためには、その生産物が売れなければ話にならないのだから、まず考えるべきなのは「日本発」などという供給側の都合ではなく、世界の消費者にとって何がベストかということです。「国を挙げて」なんて何の意味もない。インターネット時代の技術標準には、国籍なんかないのです。
「お答え」について
匿名希望
技術的な側面でお話しますと、ITRONなどのリアルタイムOSは世界標準となっております。エンベデッドシステムの世界ではさまざまな部品につかわれております。
日本の製造業の新しいパラダイムはITRONと相互補完的に開発されてきています。
そして、OSに関しましては、MS-DOSとTRONとLinuxと並列に述べているのは間違いです。それぞれに開発目的が異なります。Linuxが組み込みOSで成功しているというのも、詭弁です。たしかにLinuxをリアルタイムOSにしようという動きはありますが、OSの設計の方向性が異なりますので、ITRONが未だ使用され続けております。
特に日本の製品がうまくリアルタイムOSを活用しえたからこそ、世界の電化製品は向上しえたと考えます。
物質的には世界の消費者にとって良いことだったと思います。
チップの中にふくまれているソフトですので、表面にみえないため、少し勘違いをされていると思います。
昨今、政府の失敗が多いのは理解します。産業毎にそれぞれ衰退はあります。だからこそ、長期的視野の上に立った投資も必要ではないでしょうか。その様に経済的発展を成しえたのは、文明開化、戦後日本の発展ではないでしょうか。
また、インターネット時代に技術標準はないとおっしゃりますが、国連が提示している情報格差(デジタルディバイド)の上に作られたソフトウェアや、社会システムが構築されることにより、Nationというものがさらに認識されえるのではないでしょうか。
結論としまして、国籍を解決しえるのも政府と市場ではないのでしょうか。
「お答えについて」について
匿名希望
重要なことは、真に市場のニーズに応えているか、市場はユーザーのニーズに応えているか、ユーザーを有益で健全な計算機の応用に導いているか、結果的に計算機科学の応用領域が拡大されることに寄与しているか。これら根本的な要件を複合的に考えることではじめて根本的にあるOSを正しく評価できるはずです。
TRONの主唱者は「薬箱にOSが付けば便利になる、進歩だ」と考えているようですが、本当でしょうか。薬箱や冷蔵庫に何をさせるのでしょうか? 人工衛星の軌道計算をさせるわけではないでしょう。 計算機処理が必要な装置でさえ、一般消費者向けの安価なものには、むしろ、OSが無い方が計算機資源を有効に活用でき、無駄を省け、価格を無意味に釣り上げることがありません。そして、浪費的なOSの資源しか利用しないソフトウェア技術者が作るソフトウェアの品質も向上することは難しいでしょう。それは技術の退廃でしょう(TRONが他のOSにくらべて浪費的だといっているのではありません。一般論です)。消費者の利益ではなく、製造業者の団体や規格制定者のために、「便利」な機能を付け加えたような製品開発は、決して計算機科学と技術を健全なものにすることはないでしょう。誤った応用にかける不必要な労力は、結局消費者や納税者が支払うことになるのです。
というわけで、「ユビキタス」などという幻想を吹聴するだけのために計算機科学の成果を利用するなど、愚の骨頂でしょう。本当に「ユビキタス」であるべきは、薬箱や冷蔵庫をネットワークに繋げることではなく、計算機技術の利用に対する健全な思想であるべきです。子供じみたおとぎばなしはやめましょう。また、何年かしたら、異なる、しかし同じようなおとぎばなしが再生産されるだけなのですから。
ディスカッションルーム
- 「いくら失敗しても懲りない『日本発の標準』づくりの愚」について 多田 順一 (2003年11月27日)
┗お答え 池田 信夫 (2003年12月1日)
┗「お答え」について 匿名希望 (2003年12月12日)
┗「お答えについて」について 匿名希望 (2004年2月17日)
2004年2月17日掲載
この著者の記事
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no.49: 光ファイバーに市場原理を
2004年3月17日[IT@RIETI コラムバックナンバー]
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