RIETI ポリシーディスカッション

第6回:デフレ脱却には政府・日銀間で政策協定を結ぶ必要がある:ディスカッションルーム

植杉 威一郎
研究員

「デフレ脱却には政府・日銀間で政策協定を結ぶ必要がある」について

和歌山県農林水産総務課長 渡部 康人

デフレ脱却のための政策対応への立場には以下の(1)から(4)の考え方がある。

(1)「日銀単独の政策で可能」
(2)「政府単独の政策で可能」
(3)「政府、日銀の両方の政策を必要とし、これによりデフレ脱却可能」
(4)「政府、日銀の政策では脱却不可能」

デフレ脱却が容易ではないという認識が広まるなか、「政府、日銀単独でのデフレ脱却は不可能」という考えが強まっている。

(3)の具体化の1つである「政策協定」の導入は、政府・日銀間に政策選択肢の発見、実施方法等の検討についての相互干渉をもたらす。植杉論文ではこの点を積極的評価しており、さらに、政策協定の具体的な試案が示されている。政府、日銀は、デフレ対策の文中等で「政府、日銀一体」を頻用しており、(3)の立場にも見えるが、各機関は自らの政策実施、その有効性にのみ責任を持つという制度的な問題から、それぞれ「(2)ではない」、「(1)ではない」という以上のコミットは避ける傾向にあり、政策協調は容易ではない。さらに、「政策協定」の実効性をどう担保するか、日銀の独立性をどう保証するか、といった高いハードルもある。

現実を見ると、政策協定の「煩わしさ」を考えてか、総裁人事を手段とした「政策協調」に代替する効果を引き出そうとする試みにも見える。政府、日銀の2者をプレーヤーとして、ゲーム論的に俯瞰すれば、「政策協調」という仕組みを作り出す協調ゲームがいいのか、プレーヤーの打つ「手」を誘導する他の方法(総裁人事のほか、メディア論調、国会同意等)を活用し同様の結果を引き出しうるのか検討の余地がある。

他方、そもそもデフレ克服が可能であるかどうかの検証も必要である。「単独では不可能」という同様の認識が出発点であっても、(4)では、「デフレは不可避。デフレ対策ではなくデフレ適応策が必要」という全く異なる結論となる。

2003年2月19日

渡部康人さんのご意見へのコメント

研究員 植杉 威一郎

ご意見ありがとうございます。渡部さんのご意見以下の2点に集約できるのではないでしょうか。

(1)現状のデフレは克服可能か、可能であれば誰ができるのか。(文面からすると渡部さんは、デフレは当面克服可能ではないのではとお考えになっているのかもしれません)

(2)仮に、政府・日銀双方の政策が必要ということであれば、どのような枠組みでそれが可能か。「協定」を結ぶという方策と他の手段とを比較して、何がいいのか検討する余地があるのではないか。

(1)について
構造的な要因としてよく挙げられる中国からの輸入が日本経済に占める割合は、他の先進国と比較してそれほど高くありません。一方、日本における消費者物価指数のマイナスは他の先進国と比較しても顕著です。こういった理由から、現在の日本のデフレは日本経済の特殊事情によっている面が多く、政策のやり方で脱却可能だと考えています(本当はもっと色々と議論があるとは思いますが)。

現在、更なる金融政策として提言されていることのいくつかについては、誰がやるかという仕切りがないように見えます。まずはその仕切りをはっきりさせることでしょう。その過程で誰がやるのかが見えてくると思いますし、その結果として、私は政府・日銀双方が役割を果たすことができると思っています。

(2)について
私の示した「協定」を結ぶという案では、政府・日銀間で何をやるべきかについてお互いの納得が必要です。現在、どの程度両者間で意思疎通が行われているか分かりませんが、現在、政策についての突っ込んだ意見交換がどのレベルでも存在しないということであれば、調整コストは相当なものになると思います(とはいえ、協定を結ぶか否かにかかわらず、何をやるべきかについての意見交換は必要ではないでしょうか)。その一方で、意見交換の過程で見えてくるものもあるように思います。

一方、渡部さんの指摘されている代替的な手段、総裁人事、メディア論調、国会同意といった手段で、政府が思っている直接的に日銀がやるべきことがどこまで実現するのか。私は、非常に間接的かつ徐々にしか物事を変えられないように思います。「時間の経過と共に構造改革が進展して需要が増大、デフレ解消」というストーリーが実現すればそれも1つのやり方だとは思いますが、今はそのような状況にはないと思います。

2003年2月21日

ディスカッションルーム

2003年2月21日掲載

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