執筆者 | 山下 一仁(上席研究員(特任)) |
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発行日/NO. | 2025年1月 25-P-003 |
研究プロジェクト | 我が国における食料安全保障の研究 |
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概要
アメリカやEUなどの穀物輸出国では国内で穀物の不足が生じるようなことはない。減反を廃止すれば輸出が可能となる。国内で消費が増加したり生産が減少したりしても、輸出量を調整(減少)することにより、令和の米騒動のような事態は容易に回避することができた。
減反を廃止すれば米の供給は増えて米価は低下する。コストの高い零細な農家は農地を規模の大きい主業農家に貸し出す。主業農家に限って直接支払いを政府から交付すれば、地代負担が軽減され、農地の流動化が促進される。主業農家の規模が拡大してコストは低下し収益が向上するので、農地の出し手の元零細農家に支払う地代も増加する。減反によって単収を増加させる品種改良は国や都道府県の研究者にとってタブーとなった。減反廃止によって日本の米の単収をカリフォルニア米並みに増加すれば、米の供給が増加するとともに、コストは大幅に減少する。
単収の向上、規模拡大によって、米価が低下すれば、国際競争力が向上し、米の輸出が拡大する。輸入が途絶する食料危機の場合でも、十分な食料を国民に供給することが可能となる。このとき、平時の輸出は無償の備蓄となる。農業の構造改革が進み、担い手の収益が増加すれば、これに農地を提供している地主が受け取る地代も上昇する。構造改革は農村振興にも必要なのである。
日本米の有力な市場となる中国は、動植物検疫(SPS)措置によって、日本からの米輸入を制限している。米に限らず日本農産物の輸出拡大のためには、関税等の伝統的な輸入制限措置のみならず、SPS措置が偽装された輸入制限とならないよう、積極的な農産物貿易交渉が期待される。
また、減反廃止と直接支払いによる米輸出の拡大、食料安全保障の確保という主張に対する批判にファクツと理論によって誤りを指摘する。さらに、かつて民主党が実施した“戸別所得補償”が構造改革を妨げるとともに逆進性を温存するものであったことを示す。