執筆者 | 清水 茉莉(経済産業省) |
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発行日/NO. | 2023年2月 23-P-002 |
研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VI期) |
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概要
USMCA(2020年発効)上の二国間DSは、NAFTA時代に比して頻繁に利用されており、本件は二例目の判断にあたる。WTO上級委員会の機能停止が長期化するなか、各国は、国際通商ルールの執行を担保するためにFTADSの活用をより積極的に検討する必要が生じうるところ、本判断例もFTADSの活用可能性の検討に資する。ただし、本件は、FTA上の関税割当に関するFTA独自の規律に関する紛争であり、FTADSしか利用できなかった事案である。
本件パネルは、ウィーン条約法条約に基づき、丁寧に条文の文言解釈を行い、また、解釈の補足的手段として、政策的背景、過去の他協定における同旨規定、交渉中のコミュニケーション等を広く検討した。係争条文の文言自体が比較的明確であったところ、文言や補足的手段の丁寧な検討は、敗訴国に敗訴判断を受け入れやすくする意義があったように思われる。また、本パネルは広範に訴訟経済を行使したが、判断の約1年後には2回目のパネル設置要請に至っており、紛争の一回的解決は実現できていない。FTADSでは、迅速性を重視した手続規定を活かし、要すれば再訴すれば足りると整理して、迅速に小出しで判断する進め方をベースラインとすることも合理的だが、複雑な事案でも本質的な争点について十分に検討できるよう、手続規定について調整の余地が必要であろう。また、WTODS機能回復への示唆として、WTO加盟国各国が、自身の利用できるFTADSにおいて様々なアイデアを試行し、有用な内容をWTODSに改善点として還元しうると思われる。