【WTOパネル・上級委員会報告書解説㊵】トルコ-医薬品に関する措置(DS583)-上級委員会の機能不全を背景としたDSU25条上訴仲裁の活用-

執筆者 平見 健太(長崎県立大学)
発行日/NO. 2022年12月  22-P-030
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VI期)
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概要

本件は、2019年12月以来の上級委員会の機能不全を背景に、アドホックな代替的上訴手続としてDSU25条仲裁が活用された初のケースである。本件上訴仲裁手続は、今後活用が予定される多国間暫定上訴仲裁アレンジメント(MPIA)に酷似したものとなっており、その意味で、今後のMPIAの運用を占ううえでも一つの試金石となりうる。問題は、本件上訴仲裁手続が従来の上級委員会手続の単なる複製にすぎないか、あるいは同手続の問題点を修正した新たな上訴メカニズムかという点であるが、本件に関する限り、その仲裁判断は総じて抑制的なものとなっており、上級委員会手続の単なる複製ではないという印象を受ける。とはいえ、本件仲裁判断のみから代替的な上訴手続の行方を占うことは早計である。こうした新たな紛争処理メカニズムにおいては、初期の実践がその後従われる作業上の模範(working paradigm)や法文化を大きく規定することになるところ、初期の案件において審理者たる仲裁人とユーザーたる紛争当事国の双方が、MPIA等をいかに誠実に利用してゆくかが、今後の上訴仲裁メカニズムの在り方を左右するだろう。