執筆者 | 伊藤 公二(コンサルティングフェロー) |
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発行日/NO. | 2022年9月 22-P-027 |
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概要
2022年2月24日にロシアがウクライナへの侵略を開始した。侵略の直後、G7、EU等がロシアに対する貿易措置を含む経済制裁を実施した。この制裁はロシア経済に深刻な影響を及ぼすと見込まれていたが、2022年のロシアの実質経済成長率は2.1%減にとどまっており、制裁の実効性に疑念が残る。
そこで、本稿では、OECD“Inter Country Input-Output Table”(ICIO) を利用してシミュレーションを行い、貿易制裁がどの程度ロシア経済に影響を及ぼすか分析した。
まず、OECD加盟国がロシアに貿易制裁を行い、ロシアも対抗措置とおして制裁実施国への貿易制限を行う場合を想定した。OECD加盟国とロシア間の貿易が2割減少した場合、ロシアの生産額は鉱業や石油・石炭製品製造業を中心に4.76%減少する。この数値は1990年代後半の混乱期にあったロシアのGDP減少率に近く、貿易制裁が一定の影響を及ぼすことを意味する。
しかし、制裁後の実際の貿易動向を踏まえて、OECD諸国がロシア向け輸出だけを削減し、ロシアは制裁国向けの輸出を制限しない場合について分析したところ、精査実施国のロシア向けの輸出が2割減少した場合でもロシアの生産額は0.02%の減少にとどまることが明らかになった。この結果は、主に原材料を輸出し、最終財を輸入するというロシアの貿易構造に起因すると考えられる。
本稿の分析に基づけば、制裁実施国が少数で、欧州や日本等がロシアからの輸入を容認している現状では、貿易制裁はほぼ機能していないと考えられる。
※本稿の英語版ポリシーディスカッション・ペーパー:23-P-004