執筆者 | 伊藤 一頼(東京大学) |
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発行日/NO. | 2022年3月 22-P-004 |
研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期) |
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概要
2011年に豪州は、喫煙の抑制と公衆衛生の改善を目的として、タバコ製品におけるロゴマーク等の商標の使用を禁止する法令(プレイン・パッケージ措置)を導入した。これは、輸入や販売を直接制限するのではなく、消費者に対する製品の訴求力を低下させて消費の抑制を図るタイプの規制であり、タバコ以外の様々な製品・サービスにも今後広がりを見せる可能性がある。豪州の措置はWTOに提訴され、TBT協定及びTRIPS協定との整合性が争われたが、パネル・上級委員会は協定違反には当たらないとの判断を下した。特に本件では、商標使用規制を行う際の条件を定めたTRIPS協定20条が初めて争点となり、パネル・上級委は、規制の公益性と商標権制限の程度とを比較衡量するというアプローチを提示した。また、TBT協定に係る争点では、この種の規制措置が十分な実効性を持たないことを申立国が科学的に立証することの難しさが明らかになった。本稿では、パネル・上級委が示した判断枠組みの法的妥当性と政策的含意を検討するとともに、公衆衛生と知財保護という正当な価値どうしの調整が必要になる場面における協定解釈のあり方についても理論的考察を加える。